写真家・細田健太郎がタイの魅力・ベストな潜り方をレポート!(第5回)

「成績は良くないけど、何か特技がある子」みたいな存在 ~タイ歴20年のダイビングガイドが語るサムイ・タオの魅力~

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増子均さん 写真家・細田健太郎がタイの魅力・ベストな潜り方をレポート!
Photo Hitoshi Masuko

Photo Hitoshi Masuko

今回の取材でガイドをしてくれた、サムイダイビングサービスのチーフインストラクターが増子均さん。

タオ島、サムイ島でのガイド歴20年を数える超ベテランで、現地日本人ショップの先駆けとして、このエリア発展の一翼を担ってきた人物だ。
そんな増子さんにタオ島のダイビングの魅力について語ってもらった。

増子均さん

増子均さん
サムイダイビングサービスのチーフインストラクター、増子均さん。タオ島だけでなく、姉妹店「カタダイビングサービス」のあるプーケットでガイドをすることもある。生物に関する豊富な知識を持ち、フィッシュウオッチングから水中写真の撮り方まで幅広くサポートしてくれる。

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増子さんがこの海にハマった理由を聞かせてください。

増子

元々他の海でのガイド経験があったわけでもなく、どちらかといえば“浮いているのが楽しく”て、この道に入ったので、最初の頃は海の特徴もよくわからずに潜っていました。

ただ、そのうちに『ここはちょっと普通と違うのかも』という気がなんとなくしてきて、そんな頃に取材に来るカメラマンや編集者にお話を聞いて、なんだかとても変わった海だと認識するようになりました。

それまでは、『熱帯だけどあまり色が無い』とか『固有種やレア物も多くない』と、ちょっと引け目を感じていた部分もあったのですが、世界中を潜っている人が「こんな海は他に無い」と異口同音に言うのを聞いて、かなり自信を持てるようになりました。

例えば、クラスの中で成績は良くないんだけれど、何か特技が有ったり、運動や音楽はできる子、みたいな存在なのかと。

タイ湾という特殊な環境にマッチした生物が異常(?)に増え、その偏りがハンパではなく、しかも水深が浅くて流れないという条件下で、他の海では見られない水中景観もあり、『なんか変だよね』という魅力にハマってしまいます。

特に島の東側では、ハープコーラルの群生や、他の海では見られないパステルカラーのウミトサカなど、タオの特徴満載のポイントがたくさんあります。

生物も、ヘビギンポの仲間のセラトブレグマsp. やリボンリーフゴビー、テングハギなど、西ではあまり見られない、変わったものがいます。
ジンベエは狙えないけれど(笑)、タオらしさを楽しむなら東がお勧めですね。

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タオの海の楽しさとは?

増子

タオの魚影の濃さは、手前味噌かも知れませんがワールドクラスだと思っています。

中でも密度の濃いのはテルメアジやキンセンフエダイで、ギッシリと玉のように固まっています。その群れを撮影したいと、日本テレビ「世界の果てまでイッテQ!」から取材協力の打診が有りました。

ディレクターに企画書を見せられたら、トップに使われているのが私の撮ったキンセンフエダイの写真(笑)。
WEBからでも引用したのでしょう。

タイトルが「幻のゴールデンウォールを探せ!」といった感じでしたが、実際のロケの時には乾期真っ最中なのに何故か海況が悪く、思ったほどの群れは撮影できませんでした。
スタッフの中に誰か行いの悪い人がいたのかも知れませんが…。

でも確かに、このシーズンのキンセンフエダイの群れの密度は凄くて、人気番組で紹介されるだけのことはあります。

キンセンフエダイの群れ

Photo Hitoshi Masuko

増子

キンセンフエダイ以外にも、オオカマスや中層のタカサゴの仲間、セイルロックではギンガメアジなど、同種の魚が極端に増えるタオならではの群れが見られます。

年によって数が増えたり減ったりして、群れの規模は変わりますが、魚にまみれたかったら、タオの海がお勧めです。

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ジンベエザメには会えますか?

増子

サムイに来た当初から、セイルロックやチュンポンピナクルなどでは、ジンベエザメがちょこちょこ出ていました。
特に夏場になるとセイルロックに居着く傾向があって、毎年『今年も来たか』という感じでした。

その後ダイバーが増えたせいか、あまり一ヶ所に長期間居着くことはなくなりましたが、それでも“当たり年”には複数個体が違うポイントで同時に出たり、数が多ければ当然目撃頻度も上がりますから、2、3日おきに現れたりして、かなりの確率で会えたこともあります。

タイ・サムイのジンベイザメ

Photo Hitoshi Masuko

増子

面白いのは、日本人のお休みに当たるGWとお盆に出てくれるジンクスがあり、ゲストが多い時に当たってくれて、喜んでもらえるので助かりました。

去年、その記録が10年ぶりぐらいに途絶えたのですが、果たして今年のGWやお盆はどうなることでしょうか。

正直な話、「ジンベエが出ます」と言われるほど出るわけではありませんが、餌付けしているわけでもなく自然のものですから、出たり出なかったりは時の運で仕方がありません。

サムイ・タオは元々潮汐の影響が少ない海なので、潮回りによって出るとか、そういう理由が全くわからないのも、『いつ出るかわからない』という期待感にも繋がります。

ジンベエが出るのは、隠れ根や岩礁のポイントが多いのですが、その根の周りを何度も回るため、いなくなってもまた戻って来ることが多く、長い時には1ダイブ中ずーっとジンベエと泳ぐということもあります。

回っている時には、追っても追いつけないので(ゆっくりに見えてかなり速い)、見える範囲で付いて行き、戻って来るコースを見極めて待つと、泳いでくるのを正面からジックリ観察できます。

下手に追うとエアが無くなったり、アップダウンも激しいので急浮上したりと、危険ですから夢中になって追わないで下さい。

特にカメラの液晶画面だけに集中していると、周りが見えなくなります。
ガイドが一番効率の良いコース取りをしますから、ガイドに付いて行くのが、楽にジンベエウォッチできる秘訣です。

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「セイルロック」ってスゴイんですか?

増子

パンガン島とタオ島のちょうど中間ぐらい、何も無い海の真ん中にポコンと頭を出した岩礁がセイルロックです。

タオ島

増子

近くに行って岩を見ただけでも、「水中はどうなっているのだろう?」と期待感がうずくこと間違いなしです。

潜ってみると、ダイナミックなドロップオフの壁や、所々張り出した岩の根、チムニーと呼ばれる縦穴など、地形も魅力的ですが、やはり特筆すべきはその魚影の濃さでしょう。

潮の当る側の中層にはタカサゴの仲間のユメウメイロ、ササムロなどが撒いたように群れ、根の周辺にはオオカマスやテルメアジの凝縮した玉と渦、やや深場にはクロホシフエダイやキンセンフエダイなども密集しています。

そこまでならば、タオ島周辺のチュンポンピナクルとも共通しているのですが、さらに“飛び根”と呼ばれる隠れ根に行ってみると、そこはギンガメアジの楽園。

根を覆うように群れが行き交い、その外を見るともう一つ根が有るのかと思うほどのギンガメの集団が浮いています。

ギンガメアジの楽園

Photo Hitoshi Masuko

増子

その他、ツバメウオも多い時には100匹単位で群れ、ややバラけていますが、大型で迫力のあるピックハンドルバラクーダも群れ、クリーニングステーションを中心にマブタシマアジも小ぢんまりと群れ、と様々な種類の魚が集まっています。

その群れを狙ってコガネアジやオオクチイケカツオのようなヒカリモノがグルグル回り、根では巨大なヤイトハタやアカマダラハタなどが捕食の隙をうかがっている、大型魚にとっても天国です。

おそらくアジアでも屈指、ワールドクラスの魚影ポイントといって良いでしょう。
ジンベエザメも出るポイントですが、ジンベエ抜きでも充分魅力的です。

濁るのがたまにきずとはいえ、だからこそ魚が集まると思えば我慢するしかないですね。

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撮影していて思ったのですが、タオ島のハゼはホントに逃げませんね。ハゼの魅力はなんでしょう?

増子

サムイに来た頃、ファンダイブはヨーロピアンゲストがメインだったので、あまり細かいものを見るとか、止まってジックリ観察、という潜り方はしていませんでした。

が、やはり目に付くのは黄色いギンガハゼ。

最初にツインズで見た時は『へ~、こんなハゼがいるのかー』と思ったのを覚えています。
そしたら、ちょっと気を付けて見たらその多いこと。

浅場ではレッドマージンシュリンプゴビーやヒメダテハゼ、水深が深くなるとメタリックシュリンプゴビーやフタホシタカノハハゼ、ちなみに、フタホシとギンガハゼの黄化個体は、最初違いがわかりませんでした…。

しかも、どうやらここのハゼは逃げないらしい。

同じタイでもアンダマン海側に行くと、ちょっとレンズを向けただけで引っ込んでしまうのもいるので、逆に驚きました(笑)。

そうなると、もうこれでもかというアップの写真を撮りたくなるのですが、顔一杯まで寄ってみると、実は単色に見えていた地肌に、蛍光色のまだら模様があったり、透き通っているヒレに細かい金色の点がちりばめられていたりと、ディテールの美しさが見えてきます。

もう絶対に逃れられない魅力ですね。
「ジンベエが見たくて来ました」というお客様をハゼ好きにして帰すのが、密かな喜びだったりします。

そのうちに流行りだしたのが、いわゆる「水中虫の目レンズ」。

特にINON製のものはレンズが細長く、被写体にギリギリまで寄れることから、『このレンズは、タオのハゼを撮るには最強のアイテムに違いない!』と勝手に考えて、購入を決めました。

カメラはそれまでNikonだったのに、このレンズを使うためにCanonに鞍替え、そしてフィンダーを覗いたら、その臨場感に驚きました。

ギンガハゼ

Photo Hitoshi Masuko

増子

本当に目の前でハゼが動いているように感じます。
そして『これを動画で撮れたら』と、動画撮影できるカメラを1台買ってしまいました。

もう同じ種類のハゼを数え切れないほど撮っていますが、それでもカメラを持ったら、またハゼとニラメッコ。
いつまで経ってもやめられそうにありません。

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新しいポイントが見つかったそうですね。どんなところですか?

増子

私がサムイに来た頃は、リゾートエリアのチャウエンビーチでも良く潜ったのですが、そこのリーフ沿いにオイランハゼがいて、潜る度に観察を楽しむことができました。

数年は居着いていましたが、その後いなくなってしまい、またチャウエンも開発が進んでなかなか潜れなくなったため、しばらくオイランハゼは見ていませんでした。

そうこうしているうちに、弊社でもタオ島に支店を構えることになり、支店の入っているコタオコテージのビーチ前も、非常に浅い砂地なので『もしかしたら』と思って潜ってみたら、案の定相当数のオイランハゼが確認されました。

コタオコテージのビーチ前にいるオイランハゼ

Photo Hitoshi Masuko

増子

ただ、このビーチはリーフで囲まれた水溜りのような地形で、底質がやや泥っぽいせいもあって透明度が悪く、またハゼも人慣れしていないのか、タオにしては珍しく過敏で、写真を撮るフィールドとしてゲストに紹介するのは難しい状況でした。

ところが、先々シーズンの終わりに、うちのスタッフが「あそこにオイランがいますよ」と見つけて来たのが、これから売り出そうという超浅場のポイントです。

同じ湾内でも、リーフの外側に位置するため、濁りもそれほどではありません。
潜ってみたら、オイランハゼがポコポコいるだけではなく、普通潜る深度にはいないタカノハハゼやバイノゴビー、イチモンスズメダイの幼魚などもいて、マクロ派にはメチャクチャ魅力的な場所になりそうです。

タオの海で上手に水中写真を撮るコツ

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タオの海で上手に写真を撮るコツはありますか?

増子

ワイドもマクロも、被写体に事欠かないのがタオの海です。
ワイドならばやはり群れですが、良く群れを見たらそのままストレートに突っ込んでしまう方がいます。
突っ込むと魚も当然逃げますし、結果せっかくの群れを割ってしまうことになってしまいます。

群れがいたら、やや大回りをするように前方に出て、そこからゆっくり近付くと、群れを凝縮して行くような感じで寄ることが出来ます。
また、魚は流れの上を向くことが多いので、流れに乗って動かずに近付くと、比較的警戒されずに近付けます。

マクロで避けて通れないのは(笑)共生ハゼですが、まあ、何も考えなくても平気で近寄れます。
タオのハゼ、無警戒ですから。

ただ、さすがのタオのハゼも上を通るものには敏感です。

なので、ストロボをカメラの上に伸ばしたり、自分自身が高い位置から見下ろすようにすると、警戒されます。基本は地べたに這いつくばって、となりますね。

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サムイダイビングサービスの自社ボート

今回の取材でお世話になったサムイダイビングサービスの自社ボート。2Fに広々としたスペースがあって快適! タオ島でのダイビングはこの船を使ってダイビングを使う。

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PROFILE
1970年、東京生まれ。写真家。ダイビング雑誌で、スタッフフォトグラファーと編集者の仕事を並行して携わる。その後、写真一本で活動するため2008年独立し、細田健太郎写真事務所を設立する。
独立後は、水中撮影だけでなく、ライフスタイルマガジンや建築系、広告系等、幅広く撮影活動を行なっている。現在は世界遺産と絶景を求めて全世界を撮影中。今までに訪問した国は約70カ国。
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