決定的瞬間を狙え! パラオ・マダラハタ大産卵リサーチ ~前半3日間レポート~
綿密なリサーチスケジュールで、大産卵の決定的瞬間を突き止める
2016年6月のリサーチを元に、今回のリサーチ取材のスケジュールを決定した。
生物の産卵の瞬間を突き止めるために行っていくことは、ある特定の条件下で産卵が行われることを予測できているだけでなく、その特定の条件下の中で、さらにベストなタイミングがいつなのかを絞り込んでいくという作業だ。
〈デイドリームパラオ〉のスタッフが、6月に行ったリサーチスケジュールを見せてもらった。
産卵の可能性のある6日間の日程。
かつ下げ潮の時間帯に絞って、2人組3チーム編成になり、目星をつけたポイントに45分間交代で潜り続ける。
下げ潮が、午後から夜遅くまで約8時間続き、上げ潮になったら、停泊してある船で仮眠。
また夜中2時過ぎから下げ始めるタイミングで同じように交代で潜り続け、朝7時頃終了。
そんなパターンを繰りかえし、産卵の瞬間を突き止めた。
今回のリサーチ取材では、スタッフがこれと同じパターンを繰り返し、自分は好きなタイミングで潜るが、可能性の高そうなときには、少し前にエキジットしておく。
水中から、ライトを使って、産卵が始まったというサインを受けてからエントリーした方が、ピーク時を過ぎるまでエアも持つだろうという算段で、待機する。
事前リサーチと同じ方法で行われたリサーチ取材
このスタイルで3日間が経過した。
【1日目】パラオ・マダラハタ大産卵リサーチ
チャネルにはオスのマダラハタが集まり始め、縄張り争いをする姿や、あぶれたオスが砂地に集結しているシーンが見られた。
下げ潮がピークになり、かなり激しい流れになったが、お腹の大きなメスも見当たらないし、サメも姿を見せず終了した。
【2日目】パラオ・マダラハタ大産卵リサーチ
初日よりハタの個体数は増えていた。
日没前には、パラパラとだが、お腹の大きなメスの姿を確認。
暗くなり、下げ潮が激しくなってからは、レモンシャーク、カマストガリザメなどの姿を目撃。
サンゴの根の下でペアになって身を寄せるマダラハタなどもいたが、この日も産卵は行われなかった。
今回の指揮をとるデイドリームパラオの片岡祥子さんの話では、「前回同様4日目くらいからではないかと思います」とのこと。
それでも100%確証があるわけではないので、今回も同じように交代で潜り続けた。
休息中には船上で、スタッフが作ってくれた美味しいカレーライスやラーメンを食べて、仮眠を取り、体力の消耗を押さえた。
夢の予算・デイドリームのリサーチ費
デイドリームには、年間予算の中に「リサーチ費」という項目があるのだそうだ。
無駄骨になる可能性の方が高いかもしれないが、そこには、ガイドとして海を開拓しくための生きがい、ゲストに新しいパラオの海を知ってもらいたいという思い、ガイドたちの、そんな思いを満たしてくれる重要な予算だ。
そのおかげで、海に対する夢と情熱を、思う存分注ぎ込むことができる。
このリサーチに関わった若いガイドたちに、ちょっと意地悪な質問をしてみた。
「面倒くさいとか、やりたくないとか思わない? もしかしたら、無駄骨になる可能性もあったわけだし」
「いや、楽しいですよ。興味もあるし、もっとやりたいです」、「生物のリサーチもですけど、夏場のポイント開拓とかも、もっとやりたいです」と、至極当然のように、前向きな回答をするガイドばかりだった。
天気予報は風強し!
問題なのは、この時期のパラオは天候が不安定。
満天の星が見られたのは、初日だけ。
リサーチ2日目以降は、空に雨雲が垂れ込めていた。
西風が強くなり始め、西に口を開けるチャネルはストレートに風の影響を受けた。
潮の流れと、風向きが真逆だったので、外洋側のチャネル入り口のブイを取って停泊していた大型スピードボートは、前後に激しく揺れた。
パラオの東に熱低が停滞していて、産卵のピークのときの風が一番強く吹くとの天気予報。
せっかくリサーチ取材が決定したのに、悪天候に阻まれるのか……。
そんな不安が広がった。
【3日目】パラオ・マダラハタ大産卵リサーチ
しかし、3日目、もしかしたらこの日がギリギリ潜れるかも、ということで覚悟をしてポイントに向かったが、2日目よりも穏やかだった。
どうやら風が少し北に回り、波の直撃は免れることができたようだ。
明日も風が少し北か南に振れてくれれば、潜れなくはないのかもしれない。
3日目は、2日目よりもお腹の大きなメスが多く目撃された。
すでにペアリングして、サンゴや岩陰に身を寄せ合って潜んでいる姿も。
激しく身体を揺さぶる“バイブレーションディスプレー”という求愛行動をとって、産卵を促す気の早いオスや、中には2匹のメスをキープしているオスもいた。
一方で、身体中傷だらけで、物陰に隠れることもできず、海底にへばりついて、ストーキングのチャンスを狙っているオスもたくさんいた。
しかし、6月に比べて、捕食者であるサメたちは、まだそんなに姿を見せていなかった。
リサーチに参加したガイドの話では、「多いときには、10匹以上のサメたちが、周囲で捕食を行っていて、どこから飛び出してくるかわからなくてビビりました」というくらいだから、それに比べれば、この日も穏やかな感じだった。
この日、下げ潮のピーク時に、5〜6組が産卵したのを目撃したが、大産卵という感じではなく、「やはりピークは明日、明後日みたいですね」と片岡さん。
いよいよ、明日撮影の本番が始まる。
帰路についた大型スピードボート上の暗闇の中では、ウエットスーツを着たまま、床に泥のように眠る若いスタッフたちの姿。
その姿に、一人感動しながらいつしか自分も深い眠りについていた。