マダラハタ暗闇での大産卵の現場を激写!突っ込んでくるサメたちに大興奮
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ライトに向かって突っ込んできた、カマストガリザメ
マダラハタ大産卵当日、台風1号発生!
いよいよ、マダラハタ大産卵当日。徐々に午後の下げ潮の時間帯は、遅くずれ込んでいく。初日は14時に出航していたが、この日は、16時30分過ぎにスタートした。
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船上では、撮影してもらえる環境を、どうやって作るかという打ち合わせが入念に行われた
パラオの東に停滞していた熱低は、台風1号へと勢力を強めた。この時期の台風1号発生は、観測史上2番目に遅い台風なのだそうだ。産卵本番は潜りに来れないかもしれないと一時は覚悟も決めていた。
しかし、いつ風が上がるかもわからない中、真っ暗闇の海で、最後までリサーチ取材は続けられた。
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パラオの北東で台風1号が発生した
ここまで頑張った成果を何も残さずに終わらすわけにはいかない。そんな思いが伝わったのか、ギリギリ天候が持って、最終日まで潜りに行けたことは奇跡に近かったかもしれない。普通のファンダイビングであれば、絶対に潜りに来るコンディションでは無かった。
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あぶれたオスのマダラハタたちは、浮上してストーキングのチャンスをうかがう
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お腹を膨らませたメスたちが、サンゴの下などに潜んでそのときを待っていた
決定的瞬間撮影のための、入念な準備が進む
海中のあちこちに、今までと同じようにライトをセッティングした。自分は予備のタンクを沈めておいてもらい、撮影で激しく動き回ってエアが無くなっても、船まで戻らずに、海中で交換できる体勢を整えておいた。側には、予備のカメラも置いておいた。
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船に戻らなくても良いように、産卵エリアに予備タンクを沈めておいた
まだ明るい内にどこにお腹の大きなメスのハタがいるかをある程度下見して、そのときが来るまで、自分は船上で仮眠してそのときを待った。大産卵の始まる時間の目処は立っていたが、その間もデイドリームのガイドたちは、スケジュールに合わせて交代で潜り、変わった様子がないかを確認し続けていた。船上に残るガイドも、片時も水中ライトが光る海から目をそらすことなく、サインが送られてくるのを待っていた。
交代で上がってくる度に「どうだった?」と尋ねる。「まだ若干潮上げてます」。「サメはチャネルの奥の方にいる感じです」。「オスのディスプレーが激しくなってて、あともうちょっとって感じです」と報告を聞く。始まったらライトを点滅してサインを送ると言われていたのだけど、予備タンクを沈めてあることだし、始まってからエントリーして右往左往するのも、と思ったので、予測された時間より、15分ほど早めにエントリーして現場を目指した。
暗闇を蠢き回るサメは、ホラー映画のワンシーンを見ているよう
下げ潮に逆らって、チャネルの内側へと進む。前方で待機していた、ガイドが、ターゲットライトでサメの姿を映し出していた。産卵撮影用にライトを設置した付近よりさらに奥。暗闇の中でサメたちが激しく蠢き回る。動き回る、というより、蠢き回るって表現がぴったりくる。潮の流れに乗って、先にチャネルの奥から始まった産卵によって流れてきた卵で海中が濁り始めた。
サメたちの蠢きがさらに加速していくのがわかった。暗闇の中、激しく蠢き回るサメが突然ライトに向かって突進してきた。その様子は、ホラー映画のワンシーンのようでもある。バハマでのタイガーシャーククルーズでサメの大接近に慣れていなかったら、その度にひるんでいたかもしれない。あのクルーズのおかげで、サメへの過度な恐怖心は無くなっていたせいなのか、暗闇からの突然のサメの襲撃?にも、冷静に反応して、カメラでその姿を追うことができた。
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ライトに照らされた暗闇に、マダラハタたちは身を潜め、その上をサメが獲物を求めて蠢いていた
それと当時に、あちこちでハタたちが海底から上へと飛び出して、産卵を開始した。サメか、産卵か、どちらを狙うのがいいか迷いながら、まずはサメをメインに撮影し続けた。チャンスは約1時間。
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周囲をぐるぐると旋回したグレーリーフシャーク。完全にこちらを見ているのがわかる
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レモンシャークは地をはうように徘徊していた
片岡さんが6月のリサーチから得た情報を教えてくれていたので、ライトを設置した辺りがピークになる頃まではサメ、そしてサメの捕食シーンにターゲットを絞って撮影することにした。
グレーリーフシャーク、カマストガリザメ、レモンシャークが暗闇から飛び出してきては、僕のカメラのライトの周囲をぐるぐると激しく旋回して、また暗闇へと姿を隠す。潮に逆らって追いかけては見るのだが、なかなか捕食シーンに遭遇できない。
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ライトが当たり近距離を何度も移動していったカマストガリザメ
マダラハタ捕食の決定的瞬間!・・・・
一匹のカマストガリザメが、右から左へと通過したのを撮影していると、その背後で、もう一匹のカマストガリザメが左から右へと交差して泳いで行くのが見えた。と、その直後、サメの動きが変わり、のんびり浮遊していたハタに大きな口を開けてかぶりついた。「あ!!」と思わず声を上げる。バキバキ!と音が聞こえる近さ、しかし、それに気づきダッシュするのが遅かった。ライトが十分に届く距離ではなかったのだ。明るい海であったなら、当然撮影できている距離。しかし、かすかに届くライトの光で、肉眼でははっきり捕食しているシーンを確認はできていたけど、撮影は・・・、まるで亡霊サメがエクトプラズムでも出しているかのような捕食シーンに。それは一瞬の出来事だった。
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もう少し接近できていれば・・・。カマストガリザメのハタ捕食の瞬間。なんだかエクトプラズム吐き出してるみたいにみえるけど・・・
捕食シーンとサメの撮影では、潮に逆らって激しく泳ぎ回った。当然、激しくエアを消費し、タンクを交換しなければならなくなった。そのタイミングでサメの撮影から、産卵メインの撮影へとスイッチした。
いよいよマダラハタの大産卵撮影開始・・・しかし、暗闇に苦戦
視界には、ライトに照らされたマダラハタたちの産卵が、あちこちで見受けられたが、いざ撮影となると、自分のライトが当たる距離でなければ撮ることが不可能だ。今まで撮影経験のある、イレズミフエダイ、バラフエダイ、カンムリブダイの産卵のように、少しでも明るさがあれば、産卵を開始してから、カメラをそっちに振るだけでも撮影できたが、この暗闇では十分な光量を得られないために、ガイドたちがタンクを鳴らして産卵を知らせてくれた後では、間に合わない。
このまま右往左往していては、一度も撮影するこができないと判断し、すぐにでも飛び上がりそうな、お腹がパンパンのメスに的を絞って、動かない作戦に即座に変更した。その直後、バイブレーションディスプレーを続けていたオスと一緒にサンゴの下から飛び出して、卵を撒き散らし、これまた精子を撒き散らすオスと絡み合いながら浮上していった。その後をストーキングする別のオスが数匹ついていき、卵に精子をふりかける。その瞬間を間近で撮影することに成功した。
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卵を撒き散らしながら浮上するメス(左)と絡み合いながら浮上するオス。その下にはストーカーのオスの姿が
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産卵を終えると、メスは即座に下降を開始。左にいる2匹は、産卵した卵に、精子をふりかけるストーカーのオスたち
この瞬間がサメに一番狙われやすいため、産卵を終えたメスのハタは誰よりも先に、サンゴの下へと戻って行った。
大興奮のうちに、大産卵のピークは終了した。初めて見る暗闇での産卵。サメの襲撃。個人的に100%満足行く撮影はできなかったが、初めてで、なんの対策も考えられない状況下であったにしては、成果は残せた。
翌日は、前日の反省をもとに、さらに撮影方法を変えて挑んだ。台風の影響がさらに強まる中、撮影は続いた。
サメの捕食>産卵>思いの他撮影できたサメ単体、と優先順位を決めて挑んだ。しかし、昨日より潮の流れが早く、岩につかまり、体を固定しているのがやっとの状況。(これでは、サメの捕食狙いは難しい)と判断して、産卵メインの撮影に切り替えた。
頭上に何かが激突!どん!っと衝撃が走る
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この日は、4〜5組の産卵シーンの撮影ができた
的を絞って撮影するスタイルに切り替えたため、前日より多くの産卵シーンを撮影することができた。撮影中、ライト向かってサメがすごいスピードで突っ込んでくるのは前日と変わらなかった。
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頭上で威嚇するように激しく旋回したグレーリーフシャーク
撮影中、何かがどん!と僕の後頭部にぶち当たった。(いって!サメか!)と思い後ろを振り返ると、近くにいた片岡さんがこっちを見て笑っている。(この状況でいたずらかよ)と、ちょっとムっとしながらも、またハタの産卵撮影に集中した。
産卵が終了して、船に戻ると、片岡さんに、「あちこちで産卵しているのに、いくら呼んでもふり向かない僕に業をにやして、(こっちでやってるわよ!)って頭叩いてきたのかと思いました」と伝えると、「ちがうわよ〜、産卵終えて戻ってきたハタが、越智さんの頭にぶつかってきたんですよ〜。もうおかしくて、普通そんなことありえないと思うのに」と大笑い。ハタかよ・・・あの衝撃は。片岡さんが頭叩いてきたんじゃなかったのか・・・・。いっそサメなら良かったのに。
マダラハタ大産卵リサーチ撮影を終えて。同じメスが2日続けて産卵?
2日間の大産卵で気づいたのは、初日に産卵を終えて、お腹がぺちゃんこになっていたはずのメスが、またお腹を大きく膨らませて、同じ場所にいたことだ。「これって、1日で卵がこんなに増えたの?」と撮影を終えてからデイドリームの皆に伝える。
最初は別のメスじゃないかと言う意見が多かったが、初日と2日目の写真を調べると完全に同じメス。しかも初日に産卵してお腹をぺちゃんこにしているのも確認していた。
研究者の見解からすると、1日で卵を作ることは不可能なのだそうだ。
では、どういうことなのか?
「そもそもふぐ提灯みたいにお腹がパンパンになっているあの中身は卵ではなくて、卵をほぐしてばら撒きやすくするために卵管を通じて卵巣内に取り込んだ海水です。もし2日くらいに分けて彼女らが産卵するとすれば、2日目の残り半分の卵巣であっても空いたスペースにその分海水を取り込むのでやっぱりお腹はパンパンになります」とはデイドリームの遠藤学さんの見解。
つまり、1日では、全部の卵を出し切れず、2日に渡って産卵をするのが、マダラハタの通常の産卵方法である可能性が高いというわけだ。それが正しいかどうかは、今後のリサーチと研究者の研究に委ねるとして、マダラハタが同じ個体だとわかっちゃうくらいに、この数日間でハタたちを観察し続けた。メスとオスが一緒にいれば、顔の表情を見て、どちらがオスでどちらがメスかもわかるようになっていた。地味なマダラハタをこんなに愛おしいと思うようになるとは思ってもみなかった。
他の魚たちの産卵と違い、マダラハタは、産卵までオスが守る縄張りからじっと動かない。だから特定の個体を観察しやすいわけだ。そういう意味では、一組のペアに的を絞れるから、それだけその個体に愛着もわくのは当然のことだ。
これからもデイドリームパラオのリサーチは続く
とにかく、台風が発生したにもかかわらず、奇跡的にマダラハタ産卵の最終日までリサーチ取材を行うことができた。これもデイドリームパラオのガイドたちの探究心の強さの賜物だと感じる。
マダラハタ産卵シーズンの6月、7月パラオでは、昔からハタは禁漁とされている。当然この時期にマダラハタがウーロンチャネルに集まり、産卵が行われるであろうことは昔から知られている事実であった。しかし、では実際にピンポイントでどの時間に大産卵が行われるのかを解明したこと、同じメスが2日続けて産卵をしていることを突き止めたのは、今回が初めてのことだろう。
デイドリームでも、このマダラハタの他にも、大産卵のリサーチを続けている魚がいる。今後も大いなる探究心を持って、それらの魚たちのリサーチを続けていくに違いない。またいつか、こうしたリサーチに関わって取材ができる日が来ることを楽しみにして、マダラハタ大産卵の決定的瞬間の取材を終了した。
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デイドリームパラオでは、来年のマダラハタ大産卵に合わせて、龍馬でマダラハタ大産卵ダイブツアーを2017年5月6月に企画中
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マダラハタの大産卵だけでなく、激しいサメの襲撃、自分が叶わなかった捕食シーンを是非激写してほしい。