カメラマン視点から見るバディダイブ(セルフダイビング)の価値 ~「黄金崎ビーチ」ドキュメント~
1本目ガイド、2本目バディ(セルフ)ダイビング
が理想の撮影スタイル
大学生時代は、お金が無いけどダイビングがやりたいから、ダイバーでもあるバイトの先輩に連れられて、よく伊豆に車で潜りに出かけた。
もちろん、ガイドを頼むお金も無いので、海中マップを見ながら、ショップの人に今日はどこにどんな生物がいるとか教えてもらって、タンクだけ借りて先輩と二人で潜った。
まずは、コースを決めて、マップの目標物を目印に、コンパスナビゲーションをしながらのダイビング。
結果的に生物が見つからなかったり、予定したコースを外れてしまったりしても、潜っていられるだけで楽しかった。
それに、自分たちで潜っていると人任せにはできないから、おのずと慎重になり、謙虚な気持ちで海に接するようになった。
水中カメラマンとして、仕事で潜るようになってからは、ガイドが被写体を探してくれて、コース取りもガイド任せ。
その方が効率が良いから当然のことだ。
その海を知り尽くしているガイドと潜った方が断然いろいろな生物の居場所を知っていたり、新たに変わったものを見つけてくれるチャンスも多いわけだから。
しかし、それはあくまで「取材」という特殊な状況であるからでもある。
通常のファンダイブで潜った場合には、他のゲストとの兼ね合いもあるから、自分が気に入った被写体の前でじっくり時間をかけるなんてこともできない場合が多い。
できたとしても、何名かでその被写体を譲り合わないといけない場合も多いから、100%満足いく撮影ができるかどうかもわからない。
取材でもそう。
まず1〜2本は、ガイドが撮影して欲しいものを矢継ぎ早に撮影して回ることが多いから、いろいろ教えてもらえるけど、腰を据えて撮影する時間はそんなに無い。
一通りガイドと一緒に撮影して回って、「押さえ」の撮影をしてから、「やっぱり今の旬の生物は、これ。この生物は個人的に、もう少し時間かけて撮影したい」と再度潜るチャンスがある場合に、狙いとなる生物のいる場所でじっくり時間をかけて、写真のクオリティーを上げていくというのが通常の自分の取材時の撮影パターンだ。
だから、1本目はガイドに案内してもらって、被写体の場所を確認。
2本目はじっくり時間をかけたいから、撮影仲間とスケジュールを組んで、バディダイブでじっくり同じ場所で撮影を楽しめるパターンは理想的だったりする。
理想のバディダイビング・フィールドで
撮影した生物たち
黄金崎ビーチは、エントリー口からしばらくはゴロタが続き、そのあとは平坦な砂地が広がっている。
単調な地形ではあるけど、目標になるものが無い砂地では、撮影に夢中になって方位を見失うと、完全に自分のいる位置をロストしてしまうことも多い。
しかし、黄金崎ビーチには、海中にガイドロープが縦横に張り巡らされていて、目印となるケーソンなどが、ところどころに設置してあるから、海中マップをしっかり頭に入れて潜っておけば、安全にバディダイビングを楽しむことができる。
しかも、生物たちも、このガイドロープやケーソンを住処にしている生物も多いのだ。
以下はロープについていた、生物たち。
以下は、ケーソンに住んでいた、生物たち。
ハナハゼを狙え!
バディダイビングの撮影のコツとは
今回の取材でも、まずは黄金崎ダイブセンターのガイド、山中康司さんと一緒に潜って被写体を探してもらった。
要するに、ガイドの山中さんについて回った。
その時に、気に入った被写体がいる場所は、目標物となる地形などを撮影しておく。
これは、他の取材でもよくやる対応策なんだけど、別に撮りたい風景でもなんでも無いのだけど、その場の目印になる海底地形を撮影しておくと、ガイドにもう一度潜りたい場所がここ、と説明したり、自分が記憶にとどめる上で、役に立つことも多い。
枚数の限られたフィルム時代にはできなかったことだけど、デジタルカメラになってからは、結構当たり前のように利用している。
例えば、あまり伊豆に潜らない僕が一番気になったのは、ハナハゼ。
「普通のダイバーは当然のようにスルーしますよ」と山中さんは言うのだけど、ガイドもあまり重要視していないからなんじゃないかなと思う。
あの妖艶な姿を初めて見て「うわ!綺麗!」と思わないダイバーはいないと思うんだけど。
たまにある伊豆ロケでも、「あ、ハナハゼ!」と思うけど、伊豆では、どこの海でも基本スルーなので、じっくり撮影できたことがなかった。
今回は、撮影して欲しいものを撮影し終えたら、バディダイブスタイルで、あとは好きに潜ってもらっていいって感じだったので、「あのハナハゼのところで1ダイブ潜っててもいいですか?」と尋ねると、「どうぞ、どうぞ」と山中さん。
その間、山中さんもカメラを持って近くで好きなものを撮影していた。
黄金崎のハナハゼは、エントリーポイントからすぐの所のゴロタとの界の水深10m~16m程度の砂地にたくさんいて、いくら引っ込んでも、次の被写体となる個体がいくらでもいる。
臆病な個体、尾びれの美しい個体、根性があって逃げない個体、とにかく、一通り観察して、このペアが一番狙いやすい!というのまで決めて、撮影に挑んだ。
目標はペアでヒレ全開であの妖艶な尾ビレがしなやかさを醸し出しているシーン。
なんならテールだけ撮影してもいいかもとか、いろいろ考えながらじっくり1ダイブ時間をかけて撮影させてもらった。
その時に撮影したナハナゼの写真がこんな感じ。
他にも幼魚がやたらたくさんいる巣穴があったのだけど、山中さんと回っていた時には、引っ込んでしまったので、巣穴の近くの目印になる岩だけ撮影しておいて、この自由に撮影していいダイビングの時に、撮影した。
あとは、ウツボ系。
これも日本ではスルーしてしまいがちな生き物だけど、海外のダイバーはサメと同じくらいに人気がある生物。
自分も案外好きなんだけど、これも日本人ダイバーの趣向?からすると、特に撮影しなくてもって感じ。
でも、最近「シン・ゴジラ」を観た僕にとっては、あの気持ち悪いゴジラの第二形態の顔が、ウツボそっくりなので、ちょっとマイブーム的な生き物なっている。
それが、砂地を泳いでようものなら「でたな〜!!シン・ゴジラ第二形態〜〜〜!!」と一人興奮していた撮影していたのでした。
黄金崎の砂地の定番の人気者は、サービスのキャラクターとしてTシャツにもなっている、ネジリンボウ。
でも、南の海では案外小さめなオニハゼの巨大さにも驚いた。
伊豆ではよく見かける大物のカスザメも登場。
ロープに身を寄せて、砂地に隠れていることも多い。
黄金崎ビーチは、この時期透明度も上がり、ロープが張り巡らされた海底は、バディダイブでのナビゲーションの練習には持ってこい。
バディダイブを奨励しているので、リサーチで潜ったばかりのガイドに、生物の最新情報を聞いて潜ることも可能な黄金崎。
ダイバーの数も減ってじっくり生物を撮影するには、いいなと感じたのでした。
「いつでも来ていいよ」と山中さんが言うので、究極のハナハゼ写真撮影するために、また通って見ようかな。
山中さんも、僕があまりに「ハナハゼ、ハナハゼ」と言うので、「ハナハゼフォトコンでもして見ようかな」とか言い出していた。
要するに、ブームを作るのもガイドの力量。
ゲストにいかに、一般種の魚が価値のあるものかと再認識させれるかは、ガイドのプレゼンテーションにかかっているということだろう。
もしかしたら、黄金崎ビーチのエントリーポイントからすぐの砂地で、ほとんど動かないでハナハゼ撮影してる僕をたまに見かけるようになるかもしれないですよ。