水中に金銀財宝が……!? 石垣島の屋良部沖海底遺跡・国内初の水中ミュージアム構想
水深20mの海底に、巨大なアンカーが沈んでいる。いつの時代に沈んだものなのか。
よく周囲を見渡すと、観賞用に作られたような大きな壺がゴロゴロと転がっているのに気がついた。
石垣島ダイビングサービス15選の取材で、大崎エリアを潜った。
深場のナカモトイロワケハゼや、浅場のイシガキカエルウオ、ハナゴイリーフ、アカククリの根など、定番のポイントや生物を撮影。
そしてこの日潜ったのが、大崎の屋良部沖に沈む、300年ほど前のものだという、船のアンカーや壺が沈むポイント。
ガイドとして案内してくれた石垣島ダイビングスクールの竹内友哉さんの話では、「当時、中国との交易で使われていた船のアンカーや壺らしいのですが、詳しいことはまだはっきりしていないそうです。東海大学の調査チームが何回か調査に来ているので、その関係者に聞いた方が詳しい情報が得られると思います」とのことだった。
水中に金銀財宝が!?
膨らむよこしまな妄想……
「もしや、あの周辺の土壌を掘り起こせば、カリブ海に沈んだスペインの船みたいに金銀財宝とか出てくるのか!!!」とよこしまな妄想を働かせながら船上でさらに話を聞く。
すると、友人でもある三保のダイビングサービス、ダイバーズプロ・アイアンのオーナーで、今では東海大学海洋学部 海洋フロンティア教育センターの講師も務めている鉄多加志さんが、この調査に参加していたと聞いたので、早速話を聞いてみた。
鉄多加志さん
周辺に9つのアンカーが沈んでいて、壺が集積している場所もあります。
時代は、1時代ではなく、複数年代に渡っているようです。
いくつかの4爪のアンカーに関しては、時代の特定がされているようですが、今、詳細な資料が手元にないので即答ができませんが、基本的には中国との貿易に関係していた船のものだと考えられています。
今のところ、船体の発見がないことから、(船が沈んだというよりは)時化の時に(投錨していた船の)アンカーロープが切れたのではと考えられています。
そのときに、積み荷で捨てやすい壺を捨てて、船体を軽くしたのではないかと考察されています。
つまり、はっきりはしないが、金銀財宝が出てくる可能性はかなり低そう……。
「そうか〜、金銀出ないのか〜」と少々意気消沈。
新聞社に勤務していたころ、伊豆諸島の神津島で、江戸時代に沈んだ輸送船の調査を取材したことを思い出した。
たくさんの壺や皿が沈んでいて、「うお〜! 小判とかないかな」と取材しながら、目を皿のようにして探した記憶がある。
しかし文献では、当時の太平洋側を通る輸送船は「南廻り船」、日本海側を通る船を「北廻り船」と呼び、「南廻り船」は基本的に、商業用品を運ぶルート。
あまり価値のあるものを運んでいたわけではないと聞いた記憶がある。
しかし「北廻り船」は、佐渡の金山などがあり、金塊を運んでいて海に沈んだ可能性もあるのだとか。
夢のような話になる可能性があるかどうかは、今後も継続する調査ではっきりしてくると思うのだが、今のところ、ダイバーが目にすることができるのは、大きなアンカーと大きな壺のみ。
しかもかなり広範囲に散在していて、「調査も3回に分けて潜らないといけません」と鉄さん。
確かに、ポイントとして解放するにはちょっと……と言う感じもするのだけど、それでも「学術調査を終えた遺跡が、一般ダイバーに解放されること自体珍しいんですよ」とのこと。
国内初となる
水中ミュージアム構想
また、鉄さんはこうも話す。
鉄多加志さん
この場所、日本の海底遺跡の中では非常に特殊で、2つのトピックスがあります。1つは、ここまでアンカーが集まって見つかっている場所は他にないんです。
もう1つは、水中ミュージアム構想の中の最初の場所になります。つまり、ダイバーに解放される(すでにされちゃってますが)遺跡なのです。
なるほど。それだけでも学術的には貴重な場所だと言うことだ。
それにしても、水中ミュージアム構想ってなんだろう?
鉄多加志さん
水中ミュージアム構想は、海中に没している遺跡で、学術的研究が終わったあとに一般公開(この場合ダイバーだけですが)することで、海底遺跡を原資として教育や観光を目的とするものです。単なる公開ではなく、研究者が継続的に観察できない状況を、レジャーダイバーの力を借りて、モニターし続けるという発想です。海外では、すでにアレキサンドリアやいくつかの海底遺跡で行われていますが、国内ではまだここだけです。
なるほど! アレクサンドリアの海底遺跡に比べて規模は小さいし、万が一にも、金銀財宝は出なくても、そうやって聞いてると、価値あるものに感じてくる。
水中ミュージアム構想に関して、地元ダイバーには賛否あるようだが、石垣島ダイビングサービス15選にも所属しているサーフダイブの鈴木達也さんは、この水中ミュージアム構想の重要性について注目する地元ダイバーの1人。
鈴木達也さん
地元ダイバーとして、調査や海底遺跡の維持などに関して、協力できるところはしていきたいと思っています。
ゲストには、歴史的背景や海底遺跡の重要性をお話ししてみて、興味を持ってくれる人を連れていくことが多いのですが、個人的には、生物も豊富なので、あそこだけで3本潜っても楽しめると思っています。
例えば、30mの砂地にもアンカーがあるのですが、そこにはカシワハナダイが群れていたり、砂地のナンヨウキサンゴにスカシテンジクダイが群れていて綺麗。
浅場のケーブも安全停止を兼ねて楽しめます。
この調査は、八重山水中文化遺産プロジェクトとして2012年にスタート。
2016年11月までに第6次調査が行われ、今年も11月中旬に7回目の調査が行われる予定になっている。
調査チームの代表は、東海大学海洋学部 海洋文明学の小野林太郎准教授。
鉄さんは、第5次、第6次に、潜水指揮者として関わったが、今年11月の第7次調査には都合がつかず、参加しない予定。
なにはともあれ、日本では珍しい、アンカーが沢山沈んでいる海底遺跡であり、日本初の水中ミュージアム構想の候補地。
歴史的意義や学術的意義に興味のないダイバーにはあまりオススメできないかもしれないけど、興味ある人は是非1度は潜ってみては。
Supported by 石垣島ダイビングススクール
オーナーガイドの竹内友哉さんは、マクロ大好き。マクロ生物の知識も豊富だが、基本、マンタや地形などダイビング全般を網羅。また、取材を通じて、水中カメラマンとの付き合いも多く、フォト派に特化したガイドやアドヴァイスを提供している。自身でのフォトセミナーを開催することも。フォトレクチャーは居酒屋で飲みながらの気楽なスタイルがウケているとか。新聞や雑誌などに写真を提供することも多い。竹内さん自らがこだわって作る、船上でのランチの味は保証付。パスタや味噌そば、まぐろ漬け丼などのリクエストが多い。奥さんの裕美さんとの二人三脚で、石垣島でのダイビングの魅力を提供してくれる。
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