プレッシャーをパワーに。フリーダイビングをはじめたきっかけと木下紗佑里さんへの思い〜フリーダイバー・HANAKOさんインタビュー【後編】〜
2017年と2018年にフリーダイビング世界記録を樹立したトップダイバーであるHANAKO(廣瀬花子)さん。
前回は、2020年の目標とそこに寄せる思いを聞きました。
▶︎2020年の目標はバーティカルブルーで世界記録を更新すること!〜フリーダイバー・HANAKOさんインタビュー【前編】〜
引き続き、昨年の世界大会でも共に選手として競技生活を送ったフリーダイバーの武藤由紀さんがインタビュアーとなり、HANAKOさんがフリーダイビングをはじめたきっかけから、2019年に他界されたフリーダイバー・木下紗佑里さんへの思い、また、潜っている際の気持ちについて伺いました。
フリーダイビングを始めた
きっかけとは?
武藤由紀(以下武藤)
そもそも、HANAKOがフリーダイビングを始めたきっかけは何だったのか、教えてください。
HANAKO
高校生の時に「フリーダイビング」というものに興味を持ち、ネットでいろいろと検索をしていました。最初は《BIGBLUE》の松元恵(めぐみ)さんを高校2年生のときに訪ねました。
映画『グランブルー』の再放送を見て、こういうスポーツがあるんだ!やってみたい!と強烈に思いましたね。
武藤
HANAKOのお父様が御蔵島の出身で、イルカと小さいころから泳いでいたことも、関係していると思うんですが。
HANAKO
そうですね。
幼少期から御蔵島の祖父母の家に行って、春休み、夏休みなど休みのたびにイルカと潜っていました。
でも潜り方を教わったことはなくて、イルカウオッチングの船に乗ってお客さんと一緒に遊んでいて、見様見まねで潜っていました。そのことも、フリーダイビングに興味をもつひとつのきっかけになったかもしれません。
武藤
一番好きな海は、やっぱり御蔵島ですか?
HANAKO
今でも年に1回、お祭りがある時期にみんなで遊びに行ったりしてます。
イルカはいるのが当たり前の存在……という感じですが、御蔵島の荒っぽい海が好きですね。バハマの透き通った海もいいですけれど、御蔵島のような黒潮の海もいいですね。
武藤
そんな御蔵島で潜り始めて、その後本格的にフリーダイビングにのめり込んでいったのは、どんな経緯でしたか?
HANAKO
高校卒業で進路を考えなくてはいけなくなり、恵さんに「世界記録を取りたい。フリーダイビングのプロになりたい」と相談しました。
恵さんは「日本ではフリーダイビングを練習する環境はまだ整っていないから、英語の学校なんかいいんじゃないかしら?」と言ってくれました。恵さんが海外での大会で、英語で苦労したことがあったからと言われていました。
その後、英語の学校ではありませんが専門学校に通い、フリーダイビングの練習をするようになりました。本格的にフリーダイビングを始めたのは、この頃からですね。
私は今でも英語はペラペラではないのですが、台湾、韓国、フィリピンなどから講習をしてほしいと呼んでいただくこともあります。今後はさらにワールドワイドに活動していけたらいいなと思っています。
武藤
台湾ではフリーダイビングが流行っていますね。
今後さらにフリーダイビングを広めていく、伝えていくために、どんな活動をしたいですか?
HANAKO
私は人に教えることはあまり得意ではなかったんですが、、昨年は奄美大島など国内での講習会などの機会も多く、教えていくうちに皆さんの姿を見ていて、「こんな気づき方があったんだ」と新たな発見がありました。見ていて、初心に帰れます。
フリーダイビングを始めたいという方は増えてきていると思うので、教えることにも力を入れたいと思っています。
木下紗佑里さんとおそろいの
《ファーブル・ルーバ》の時計への思い
武藤
昨年は、私たちの仲間のフリーダイバー・木下紗佑里さんが他界するというつらい出来事もありましたね。
HANAKO
紗佑里とは大会に出たり、練習したり、いつも一緒に過ごしていました。
フリーダイビングをやっていくうえでの自分との向き合い方、感じ方などで、彼女と私は似ているところがありました。
紗佑里の言葉で覚えているのは「マイナスなこと、マイナスなイメージも、全部自分の感情として大事に受け止める。ネガティブな感情も排除しない。大事な気持ちとして受け止める」という言葉です。
期待には不安がついてくる。成功には失敗もついてくる。そんな気持ちを常に持っています。
紗佑里がいないという悲しい感情、つらい状況も、その後ろには彼女と過ごした時間など、大きなものがくっついてきてくれているんです。だから今の気持ちを受け入れなければいけない、大事にしたいと思っています。
武藤
「バーティカル・ブルー」の大会中はずっと一緒に過ごしていましたよね。
大会に出るときに、「今、紗佑里がいれば……」と思うときはありますか?
HANAKO
潜ると、自分の感情が濃くなるんですよね。深くたくさんいろんなことを感じます。
紗佑里のことを考えると、つらくもあるし、嬉しくもあるし……。私はその感情と、向き合わなくてはいけないなと思います。
武藤
HANAKOは紗佑里の時計、ファーブル・ルーバのレイダー・ディープブルーも着けていますよね?
HANAKO
そうです。
この時計を身に着けていることで、紗佑里のことを思い浮かべながら、彼女とのつながりの中で私は生きているんだなと実感しています。
武藤
HANAKOは時計と一緒に指輪などのアクセサリーも身に着けて潜りますが、どんな思いがあるんですか?
HANAKO
潜るときも時計やアクセサリーは、外したくないですね。
それぞれにそのアクセサリーをくださった方の気持ちや、いろいろな思い出がこもっているので、一緒に潜ることが自然なことだと思っています。
「応援してくれる方たちと潜っている」、そんな気持ちです。
武藤
紗佑里とお揃いのファーブル・ルーバのダイバーズウォッチには、いろんな思い出がありますよね。
HANAKO
私たちは、ファーブル・ルーバのアンバサダーを務めさせていただいていて、紗佑里とは色違いをつけようということになって(笑)。
試合のときはもちろん、ご飯を食べに行ったときなども、こうやって(腕を顔の前に出してポーズ)、一緒に写真を撮っていました(笑)。
武藤
HANAKOはファーブル・ルーバのアンバサダーですが、このブランドにどんな思いがありますか?
HANAKO
新しい世界への挑戦。限界を超えていく。
そんな私の気持ちを支えてくれるバディのような存在です。
自分がフリーダイバーとして進化することで、その思いをいろんな人に届けられると思っています。常にフリーダイビングへの挑戦の思いを強くしてくれる時計です。
武藤
HANAKOは時計に限らず、提供されている器材をとても大事にしているなと思っています。
道具への愛情がすごくあるな、と。でも忘れ物も多いけど(笑)。
常に張りつめているのではなく、パーンとはじけているところもあるのが、HANAKOの魅力ですよね。
HANAKO
そうですか(笑)。
プレッシャーをパワーに変えて
新しい挑戦を続けていきたい
武藤
ところで、潜っていて怖くなることってありませんか?
HANAKO
怖いというよりは、潜っているときはいろんなことが浮かんできて、ちょっと夢みたいな感じがします。
最近浮上するときに、自分の一番本能的な部分が出てくる感じがします。「自分は陸の生物だから、陸に帰らなくちゃいけない。待っていてくれる人がいることがありがたい」と。
逆に潜っていくときは「私は海の中でも生きていける生物なんだな」という感覚(笑)。
行き帰りに自分の違った本能が感じられて、おもしろいですね。
ダウンとアップで、自分の生命体としての本能を感じますね。
武藤
メンタルトレーニングはしていますか?
HANAKO
瞑想とかはやったことはないです。
もちろん潜る前は緊張しています。緊張はしていたり、しなかったり、度合いも違いますが、緊張しているときのほうが、いいなと思います。
「ヨシッ」と思えますね。
武藤
HANAKOがめちゃめちゃいい記録を出すのは、大舞台のときですね。
どうしてそういうとき、爆発的な力が出せるんでしょうか?
HANAKO
「これだけのプレッシャーを背負っている」ということが、自分にとってプラスに働くと受け入れられています。
期待されていて、これだけ不安もあって緊張しているということは、「成功する確率が高い」「パワーにできる」と思えるんです。
武藤
それはHANAKOが持って生まれたものなんでしょうが、世界を目指すレベルまでいけているのは、そこなんでしょうね。
HANAKO
確実に、プレッシャーをうまく使えるようになってきました。
武藤
やっぱり、HANAKOは本当に天才だと思います!
今日はいろいろな話が聞けて、よかったです。
これから本格的シーズンがスタートしますので、頑張っていきましょう!
HANAKO
「バーティカル・ブルー2020」での世界記録更新、そして「人魚ジャパン」での4度目の金メダルを目指して頑張ります。
本年度も、応援をよろしくお願いいたします!
前編はこちら↓
▶︎2020年の目標はバーティカルブルーで世界記録を更新すること!〜フリーダイバー・HANAKOさんインタビュー【前編】〜
Profile
HANAKO(廣瀬花子)
フリーダイビング日本代表選手。幼少期から御蔵島でイルカと泳ぎ育った原体験から、フリーダイビングの世界へ。ダイビングインストラクターとして働きながら、フリーダイバーとしての競技活動をはじめる。
2017年に世界大会(バハマ)でCWT103mに成功し、世界記録樹立。2018年には、世界大会(バハマ)にてCWT106m、2度目の世界記録を樹立。2019年の世界大会(ニース)では、CWT101mを記録し金メダルに輝いた。
Interviewer Profile
武藤由紀
Apnea AcademyAsiaフリーダイビングインストラクター。2011年から2019年までフリーダイビング日本代表選手として世界大会出場。HANAKO選手と共に競技生活を送った昨年のニース世界大会ではCWT水深62mを記録。フリーダイビング&スキンダイビングスクール「リトルブルー」を主催。オーシャナでは、フリーダイビング、スキンダイビングを通して、海の素晴らしさを伝える記事を発信している。
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1737年創業、長い歴史をもつスイスの高級時計ブランド。「英雄のための実用計器」がコンセプト。
HANAKOさんは、「レイダー・ディープブルー」を愛用している。「レイダー・ディープブルー」は、1963年に登場したダイバーズウォッチ「ディープブルー」の現行モデル。スイス時計産業の中で継承されてきた「未来のデザイン」が特徴。高い実用性を誇り、HANAKOさんの深海での挑戦をサポートしている。
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