ゼロからわかる潜水医学Q&A(第3回)

減圧症はレジャーダイバーより職業ダイバーの方が発症率が高い?

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前回は、減圧症の基礎的な知識をご紹介しましたが、今回は、もう少し掘り下げて減圧症のメカニズムについて説明したいと思います。

「Q、減圧症って何?」の続きです。

セブ島のサンゴ(撮影:越智隆治)

身体には、気泡化しやすいところと症状が出やすいところがある

まず、おさえておきたいのは、身体には、気泡ができやすい箇所と、気泡はわずかでも症状が出現しやすい箇所があるということです。

関節は気泡ができやすい部位であり、脊髄は気泡が少なくても症状のでやすい組織の代表といえます。

関節にできた気泡は、痛みや違和感を起こし、脊髄にできた気泡は、知覚障害(手足のしびれ感など)、運動障害(手足の力が入りにくいなど)、自律神経症状(おしっこや便の出が悪いなど)を発症させます。
気泡が生じた部位によって症状は大きく異なるのです。

また、身体の組織には窒素が溶けやすく(拡散しやすく)排泄されやすいところと、溶けにくく排泄されにくいところがあります。

脊髄は、血流がよいため、溶けやすく排泄されやすい組織であり、半飽和時間(最大溶解量の半分まで溶ける時間 ※窒素の吸排出の目安に使われる)は非常に短く、平均12.5分といわれています(吸収と排泄が同じ時間と仮定した場合)。

一方、骨や関節の半飽和時間は非常に長く304分~635分といわれており、溶けにくく排泄されにくい組織といえます。

筋肉は、安静にしているときと運動しているときでは、血流が10倍以上も違うため、その状況に応じて半飽和時間は大きく異なります。

“浅くて長い”より“深くて短い”ダイビングによる減圧症が多い

深度が浅く潜水時間が長いダイビングでは、少々減圧(浮上)時間をかけても十分窒素が排出されないため関節周囲に気泡を生じやすい傾向があります(職業ダイバーなど)。

一方、潜水時間が短くても深い潜水をした場合は、少し浮上速度を超過しただけで脊髄に気泡が形成されてしまいます(レジャーダイバー)。

減圧症は、職業ダイバーに発生頻度が高く重症なケースが多いと思われがちですが、現在外来を受診される減圧症のほとんどはレジャーダイバーです。
そして、受診されるほとんどの方に脊髄障害が見られます。

レジャーダイバーは、一般的な職業ダイバーに比して潜水深度が深く(最大深度が20~30m以上)、浮上速度が速い(浅場の浮上速度が毎分18m以上)ことが原因と考えられます。

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PROFILE
宮崎県日南市生まれ。
幼少より海で遊びことが好きで、高校時代に沖縄に釣りに行き、潜水をする漁師と出会ったのがスクーバダイビングを始めたきっかけ。

以後、大学は医学部に進学するも、休みの日には当時西荻窪にあったダイビングショップを手伝い、伊豆などでガイドをし、22歳でインストラクター資格を取得。

 大学卒業後、研修医時代にマスターインストラクターになり、現在も、昼は診療、夜は研究・実験の毎日で休みがほとんどない中、時間があれば海に行って、ダイビングや魚釣りをしている。
 
学生時代よりダイビングのルールの多くが医学に基づいたものであることに関心があり、主な専門医を取得した後28歳で上京。

 東京医科歯科大学等で研究に携わり、39歳で同大学院准教授、現在は故郷の宮崎に戻リ、医療法人「信愛会山見医院」で副院長となる。
 
■月刊マリンダイビング(減圧症何でも相談室)、月刊ダイバー(ドクター山見のダイバーズクリニック)で連載中。
 
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杏林大学医学部卒業
宮崎医科大学附属病院小児科、
宮崎県立宮崎病院小児科、
関東病院内科、
埼玉回生病院内科、
東京医科歯科大学大学院健康教育学分野准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)
等を経て現職
 
資格
●医学関係
 日本小児科学会専門医
 日本臨床内科医会臨床内科専門医
 日本高気圧環境・潜水医学会専門医
 日本プライマリ・ケア学会研修指導医
 日本プライマリ・ケア学会認定医
 日本体育協会公認スポーツドクター
 日本医師会認定健康スポーツ医
 
●海関係
 ・ダイビング関係
   CMAS TSSコースディレクター
   CMAS UHAコースディレクター
   NDAコースディレクター
   CMAS ADSマスターインストラクター
   CMAS JCSマスターインストラクター
  潜水士免許(国家資格)
 ・船舶
   一級小型船舶操縦免許
  第一級海上特殊無線技士免許
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