「1本目より2本目を浅く」のウソ・ホント

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ダイビング歴45年。やどかり仙人のぶつぶつ多事総論

「2回目は1回目より深いダイビングをしちゃならんの本当の根拠はなんだろう?」
といまさら素朴な疑問。

家の中にこもって、細々と翻訳なんぞをしてる隠居爺なんだが、
時折気になるニュースが聞こえてきます。

先月の小田原での潜水医学シンポジュームで、わが敬愛するA氏
(といってもお会いしたことはないのですが、メールのやり取りや、
ブログを読ませていて、共感多々あるインデペンデントの
インストラクターさんであります)が、専門家の講師の先生に、
「リバースプロファイル(編注:1本目より2本目を深く潜る)の禁止の理論的根拠は?」と質問したところ、
「ダイブテーブルを引けばわかる」とえらくそっけないお答えだったとか。
まだまだ、リバースプロファイルは理屈抜きで絶対禁止の風潮のようです。

この講師先生、最近では、ダイビング後の高所移動の危険性を訴えておられたので、
皆さんのなかには、ご存知の方も多かろう。

たぶん質問者のA氏は大変な勉強家ですから、ダイブコンピューター全盛の今日、
現実には1回目より2回目が深いダイブーリバースプロファイルーが
当たり前に行なわれているわけで、
そのリスクを潜水医学の専門家にたずねたのだろうと思っております。

困ったのは、このA氏の質問の意味というか、
真意があまり理解されておらないところですな。

確かに講師先生のダイブテーブルを引けば、言われるとおり一目瞭然であります。
例えば、25m25分と16m60分のダイビングを、どちらを先にやるかで、
トータルのダイビング可能時間は、月とすっぽんの違いがあります。
えらく効率が悪いんですな。当たり前です。

コンピューターを使っての1回のダイビングの中で、浮上するにつれて、
ダイビング可能時間が大幅延びるのは、だれもがご存知。
その逆をすればダイビング可能時間が大幅に短くなってしまう。
これが基本の理屈です。
リバースプロファイルというのは、これを水面休息をはさんで、
時間差をつけてやっているわけです。

しかしながらであります。
わざわざやれば、大きくダイビング時間が短くなるということと、
だから絶対禁止ということは違うのであります。

もっとも40年間も、反復潜水の深度は浅くしろ、浅くしろって、
黄金ルールがごとく、はたまた、呪文のごとく唱えられてきたのですから、
誰もがそう思い込んでいてもしかたないってことかもしれません。

実際には、リバースプロファイルにリスクには科学的根拠がみつからないというのは、
10年以上も前、1999年にアメリカでの潜水医学界の専門家、
指導団体などが出席したワークショップで、結論が出ているのですな。
つまり、やっちゃいけない理由はないよということであります。
当然、指導団体も、その情報は流しているはずです。

実際にDAN(DAN JAPANじゃありません、総本山の)のホームページでも
2001年に会長のピーター・ベネット大先生が
12mぐらいの深度差なら、ほとんど問題ない“と書いておられます。
当然、支店のDAN JAPANだって情報を会員に提供しているはずなんですが、
10年経っても、日本では理屈抜きで絶対禁止だとしたら、
どうも日本はダイビング情報の鎖国状態かって、ヤドカリ爺は心配しております。

もっとも、DAN JAPANの緊急ホットラインをご担当いただいていたY先生などは、
リバースプロファイルは危険とあちこちで書かれる、
あるいは発言されておられるので、
これまた現実に減圧症の治療にあたられる臨床医のご意見です。
臨床医のご発言は尊重せねばなりません。

ただし、何人のダイバーが、どのようなリバースプロファイルで減圧症にかかったのか、
リバースプロファイル・ダイビングをすると大幅にリスクが高まるという、
発症率がわからんと、素直には、ああそーかと納得できません。
爺は疑り深いのです。

オイオイ、これじゃどっちが本当か分からんぞい。
やらんほうがいいのは、我らがごとき、末端ダイバーでもわかっとるわい。
でも、専門家がやって悪い理由はない、やっちゃいかんと意見が分かれるとなると、
それぞれの根拠が聞きたいと思うじゃありませんか。

一応潜水医学講座に参加するレベルのダイバーの質問に、
ダイブテーブル引けば分かるってご返事は、やや、寂しい心持がいたしますな。
なんとなく上から目線。

例えば、リバースプロファイルやダイビング後の高所移動というのは、
専門家たちの間でもいろいろな意見があるこれは学問である以上仕方がありません。
しかし、このようなすべてのダイバーにとって身近な問題は、
専門家たちがシンポジュームやワークショップ意見を出し合って、
ある程度の合理的な活動基準の結論を出してもらわんと、
私らダイバーはどうすりゃいいの?であります。

どうも私らを含めて、日本のダイビング社会は、
どうも本当の意味のシンポジュームとかワークショップといった、
全体の合意を組み立てるシステムを置き忘れておりますな。

ダイビングの医学ってのは、こうすりゃ危ないというのも、大事なんですが、
こうすりゃダイビングができるって考え方が、大事なんだと思うのであります。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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