「沖縄伝統工芸×サトウキビの搾りかす」から生まれる循環型アパレルサービス[前編]

アパレル産業が環境汚染に大きく関わっていることを皆さんご存知だろうか。
生産途中で生まれる大量の「裁断くず」。生産するも販売されないまま在庫処分される大量のアパレル商品。
これらを破棄・焼却するために、大量のCO2が排出され環境汚染に繋がっていて問題視されている。

オーシャナでもこれまでに、アパレル産業における環境問題についての記事を掲載してきた。
>モノづくりから社会貢献。より良い未来へつながるプロダクトを。
>赤字になれば閉店。新業態・信頼ベースに販売する無人古着店とは

今回は、そんなアパレル業界の悪循環を変えるべく、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」に観点を置いた沖縄発のバガス(サトウキビの搾りかす)から作られる“かりゆしウェア”のシェアリングサービスを行なっている「Bagasse UPCYCLE(バガスアップサイクル)」について、共同創業者の小渡氏に話を伺った。

“かりゆしウェア”のシェアリングサービスとは?

かりゆしウェアとは、沖縄県などで主に夏のあいだ着用される半袖のシャツ。シェアリングサービスでは、沖縄県内のホテルとシェアオフィス、SHIMA DENIM WORKSの店舗を拠点に、観光客やワーケーションの方へ1日1,500円~で貸し出しを行なっている。
公式サイト:https://bagasse-upcycle.com/cms/

「沖縄」を深く知るきっかけに。
未利用資源であるサトウキビの搾りかす「バガス」をアパレル生地に活用

ーかりゆしウェアを取り扱う事業「Bagasse UPCYCLE(バガスアップサイクル)」ついて教えてください。

小渡氏

3月31日に登記したばかりなのですが、バガス(サトウキビの搾りかす)で作られたかりゆしウェアのシェアリングサービスをメインに行う事業です。私が取締役常務を務めるIT企業の株式会社okicomSHIMA DENIM WORKSをやっている株式会社Rinnovationとの合弁会社です。

元々は、株式会社okicomが事務局を行なっている沖縄の伝統工芸「琉球びんがた」の一般社団法人 琉球びんがた普及伝承コンソーシアムに、商品開発に“沖縄らしさ”を取り込みたいとのことでRinnovationさんに入会いただいたのがきっかけ。Rinnovationが行なっている事業「SHIMA DENIM WORKS」は、サトウキビ由来の生地などいろいろな商品作りに取り組んでおり、私は琉球びんがた活用のプロデュースとIT企業の経営を兼務していました。話していく中で「一緒に何かできたら」という流れになり、この後お話しする「サーキュラーエコノミー」をアパレル業界で行なっていくことになりました。

ーなぜ、バガスからアパレル商品を作ろうと思ったのですか?

小渡氏

サトウキビは、世界で一番作られている農作物であり、その搾りかすであるバガスは、有効に使われていない大量な未利用資源。沖縄でも、サトウキビは最大規模の農作物ですが、現在は農家さんの後継者問題などの課題も無視できないものになっています。
Rinnovation創業者の山本さんは、元々沖縄に限らず日本各地の地方創生事業を行なっていたのですが、「沖縄にサトウキビ畑の風景をちゃんと残していくこと」「アパレル産業自体が世界で2番目に環境負荷が高い産業」という2つの課題を、このサトウキビの絞りかす=バガスが解決できるのでは、と考え「SHIMA DENIM WORKS」をスタートしました。

SHIMA DENIM WORKSは、デニムがメインの商材になっていて、バガスというエシカルなサトウキビの未利用資源で作った商品を販売するのが事業内容。デニム以外にもバガス活用を軸にして、バイオプラスチックを作ったり、金平糖を作ったりしています。人々の生活の基本的な部分である衣食住すべての分野に関連する事業を進めて行こうとしています。
今は、JTA(日本トランスオーシャン航空)の機内販売で金平糖を売ったり、バガスを配合しているバイオプラスチック(生分解性)を使ってコースターなどの商品開発を行ったりしています。

ー小渡さんが環境問題のことを事業にするきっかけとは何だったのですか?

小渡氏

きっかけというほどではないのですが、沖縄に帰郷する前は、米系投資銀行で債券の引受の仕事をしていて、その商品の一つに“資金の使用用途を環境に配慮した投資に限定”した「グリーンボンド」があり、2010年ぐらいからその営業を担当していました。あまり自分で意識はしていなかったですが、結果として20代の頃から環境に関わる仕事にずっと携わってきていたんです。

また、今5歳の娘がいるんですが、幼稚園で“水の循環について”や“プラスチック問題について”を習ってきて、かたっぱしから「プラスチックの製品を買っちゃだめ」と言い出しています。自分の子供世代のことを考えると「今のままではいけない」というのはみんな分かっているはずです。この問題に対して何か具体的なアクションを起こすことは必要だと思うし、それを自分が取り組めていることに対しやりがいを感じています。「どうせやるなら環境破壊につながることより、環境負荷がかからない、地球環境が良くなる取り組みをしていきたいな」という思いがありました。
今までは、特に意識をせずに環境に配慮した何らかの取組みを行ってきたのですが、現在は、環境配慮をコンセプトの中心に据えたプロジェクトに取り組めているので、毎日が楽しいですね。

アパレル産業の環境負荷の課題を解決する
「サーキュラーエコノミーサービス」

ー“トレーサビリティシステム”について、日本ではまだあまり浸透していない循環システムかと思います。詳しくお聞きしたいです。

小渡氏

トレーサビリティとは、追跡可能性のことです。BAGASSE UPCYCLEの場合、商品の製造から消費、回収、循環させるバリューチェーンの情報を追跡することを意味します。「Bagasse UPCYCLE」が販売しているかりゆしウェアは、第2ボタンと第3ボタンの間にICタグを入れ、ウェア一着一着をIoT(Internet of things)化して、商品の動きを見える化することにより、環境に対するアクションが可視化されるようにデザインしました。今までは商品が完成品としてしか消費者と接触していなかったのが、サプライチェーン(商品や製品が消費者に届くまでの一連の生産・流通プロセス)を見える化することで、農家さんや職人さんと繋がるルートができます。(=トレーサビリティシステム

そうすることで、これまではかりゆしウェアをただ着ているだけだった観光客が、商品を通して農家さんの所に行ってみる、サトウキビをかじってみる、伝統工芸を体験してみる、製糖工場に行ってサトウキビについて学んでみるなど、今流行りの体験型のツアーに参加することができる。かりゆしウェアを起点として、沖縄県とより深くつながる、知ってもらう観光体験がプロデュースされるー。
この様に、ITを活用してサプライチェーンを見える化し、製造工程のストーリーを消費者側に届けることで、新たなツナガリや経済活動の活性化を引き起こそうしているのが「Bagasse UPCYCLE」の取り組みです。

ー「Bagasse UPCYCLE」が行なっている“サーキュラーエコノミーサービス”とはどんな取り組みですか?

小渡氏

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、大量生産・大量消費・大量廃棄の構造をもつリニアエコノミー(線形経済)に対応する言葉です。循環構造を作ることで、廃棄物を少なくし、リペアやリユースをすることで、製品寿命を延ばすと共に、新たな資源活用の最小化を目指す経済を指します。 「Bagasse UPCYCLE」は、シェアリングサービスがメインの事業です。サーキュラーエコノミー(循環型経済)を実践していく中では、物がちゃんと循環していくように作り込まないといけない。売りっぱなしで商品を提供してしまうと、回収できる確率がかなり低くなってしまいます。
沖縄にいらっしゃる観光客やワーケーションをするビジネス客の皆さんは、地元に帰るとかりゆしウェアを着ないんですよね(笑)。かりゆしウェアが思い出としてクローゼットに眠ったままになってしまうのはもったいない。だったら、シェアリングで提供して、必要な時に必要な分だけ使ってもらって、それをいろんな人が使っていくことで無駄なアパレルが出てこないようにする。そうすることで、提供する側も循環経済を流れにもっていける、と考えたのです。
また、かりゆしウェアの販売もしているのですが、今後は販売する際に10%で買い取る保証をつけて販売していこうかと検討しています。なるべくちゃんと物が戻ってくるように仕組みを作り込みながら事業を進めています。

農家から工場にサトウキビが運ばれてきて、砂糖ができる部分と、絞りかす=バガスがでる。このバガスを利用し、繊維にして生地を作っていくのがアパレルラインです。主に、バガスを乾かし、パウダーにして活用を進めていく流れ。その後、岐阜県美濃市に持っていき、マニラ麻と言う日本のお札にも使われている強度の強い素材の麻と結合して和紙にしていきます。そして和紙を細く裂いて撚ることで和紙糸を作り、和紙糸を横糸に、コットンを縦糸にして生地を織ることで、バガス由来の生地が完成します。この際に使用するコットンは、コットンUSAという環境に配慮した認証を取っているものを使っています。

最終的にシェアリングで提供&回収しながら、リペアや染め直しをしていくー。そのようになるべく製品寿命を長くし、無駄を極力削減していくのが循環経済の発想です。
作ったものは使い切り、誰も着れない状態になったら炭に加工し、土壌改良材として農地に還元します。こうして、サトウキビ由来のものが炭になり、サトウキビの畑に戻すことで循環するということになります。

また炭化する事で、焼却処理と比べ9割ほどCO2の排出量が減ると言われています。世の中のアパレルは、作られたうちの85%以上がゴミになっているというデータがあり、世界が排出しているCO2の10%がゴミとなった服を燃やすために出ている、というアパレル産業のショッキングなリアリティもあります。
炭化する事でCO2を可能な限り出さないようにして、できた炭をさとうきび畑に還元したり、石鹸を作ったり、なるべく循環するような構造に持っていきたいと全体の事業スキームを作っている段階です。

ー「Bagasse UPCYCLE」を作るまでにどれくらい期間がかかったのですか?また、その過程や苦労したポイントについてもお聞きしたいです。

小渡氏

「Bagasse UPCYCLE」は、SHIMA DENIM WORKSが作っているサプライチェーンを活用し、サーキュラーエコノミーの発想で県内にて新しいサービス展開をさせているもの。構想期間に2年ぐらいかかりました。

最初は、デニムのリースを行おうかとディスカッションしていたのですが、沖縄という文脈を考えかりゆしウェアにたどり着きました。かりゆしウェアは、コロナ前は年間42万着程度作られていたのですが、先述したように世のアパレルの85%以上がゴミになっているという話を考えると、大量のかりゆしウェアが無駄になっている可能性があります。アパレルの環境問題、沖縄県内のかりゆしウェアが抱えている問題をディスカッションしていたら、たまたま沖縄県の補助事業に採択をしてもらい、これが一つの事業化するきっかけになりました。

サーキュラーエコノミーという世界的なトレンドに対するアクションが、日本はだいぶ遅れていると思います。グローバル基準で見たとき、サーキュラーエコノミーは次のスタンダードになる経済モデルと考えており、その先行事例を作ることに今取り組んでいます。
また、日本においてサトウキビ由来の生地を作っている我々だけのはずなので、そのユニークさをサーキュラーエコノミーの発想でビジネスモデル化し、かつ沖縄をPRしていく。楽しいトピックでありながら、沖縄のためになる取り組みにしていきたいと考えています。

また、循環経済の一つの考え方で、Product as a Service ― サービスとしての商品、というものがあります。物作りをする会社のジレンマで「良いモノを作ればつくるほど買い替え需要が先延ばしになってしまう」ということがあります。例えば、“すごく性能のいい冷蔵庫を作ってしまい、一回買ったら50年買い替えません”となると、いいものを作れば作るほどマーケットが小さくなってしまう。そこで、サーキュラーエコノミーの発想だと、モノの所有権(かりゆしウェア)を会社側が持ち続けた状態で、モノをサービスとして提供すること=シェアリングすることで「買い替え需要が先延ばしになってしまう」というジレンマを解決するアプローチになっています。

ー「Bagasse UPCYCLE」の取り組みは、沖縄の海洋汚染問題の改善へも繋がっているのですか?

小渡氏

もちろんです。何も生えていない農作地だと土が雨に流され、やがて海に流出してしまいますが、サトウキビが栽培されていることで土の流出を防げます。

 

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また、現在のペースでプラスチック製品を使い続けると2050年には、海には魚よりプラスチックの方が多くなるという統計が出ています。アパレル業界では、ポリエステルなどの化学繊維は、洗うたびにマイクロやナノレベルのプラスチックが流出しています。これを海中で漂っているミジンコが食べ、小さい魚が食べ、マグロが食べ、食物連鎖を経てプラスチックの含有量が高まったマグロを最終的に人が食べ、因果応報ですが人類が環境汚染の犠牲になることも考えられるのです。そういった問題を防ぐために、私たちはポリエステル代替のアパレルを展開できるのであれば、マイクロプラスチック問題に対してもアプローチできるのでは、と思っています。

後編では、かりゆしウェアの商品やサービスについてお伺いしていきます。
後編へ続く

小渡 晋治氏
株式会社okicom常務取締役


1982年、沖縄生まれ・沖縄育ちの38歳。大学進学時に東京へ出て、その後は米系投資銀行 で10年間キャリアを積む。2016年にシンガポール経営大学にてMBAを取得したのちに、 2017年から沖縄へ帰郷。父が創業したIT企業であるokicomにて経営及び新規事業の立ち上げを行いつつ、沖縄の地域資源・地元産業のアップデート、DX、商品・サービスプロデュースに取り組む。2021年より、okicomと(株)Rinnovationの合弁会社である(株)BAGASSE UPCYCLEを設立、共同創業者/CEOに着任。その他、琉球びんがた普及伝承コンソーシアム事務局長、琉球びんがた事業協同組合特別顧問、SHIMA DENIM WORKS CSO(Strategy / Sustainability)、中小機構沖縄事務所 国際化支援アドバイザーなど務める。

Bagasse UPCYCLE


かりゆしウェアのシェアリングサービスをメインにサーキュラーエコノミーを生かし、沖縄の伝統工芸などを広めていく取り組みを行なっている。
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SHIMA DENIM WORKS


沖縄の原風景を残していきたいと思いからスタートし、バガスを活用した商品を生み出している。アパレル製品だけにとどまらず、金平糖やバイオプラスチックを使ったコースターなど、「衣食住」にフォーカスした商品を展開してく予定だ。
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PROFILE
奄美在住。高校生の時にブラジル留学を経験。泳ぐのが苦手で海とは縁がない人生だと思っていたが、オーシャナとの出会いを通じてOWD(BSAC)を取得。オーシャナを通じ、環境問題や海のことについて勉強中。
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