第1回日本水中フォトコンテスト受賞者インタビュー(第5回)

古見きゅう賞 田中香織氏「北海道の海の生きものを、楽しく撮り続けていきたい」

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2023年にスタートした「日本水中フォトコンテスト」。この連載では第1回の上位入賞者の皆さんに、フォトコンへの思いや水中写真上達の秘訣などをインタビュー。第五弾は、古見きゅう賞に輝いた田中香織氏をご紹介。

古見きゅう賞「ここにいるよ」 撮影/田中香織氏

「何とか生き残ってほしいという思いで、シャッターを切った」

オーシャナ編集部(以下――)

第1回「日本水中フォトコンテスト(以下、JUPC)」にて古見きゅう賞を見事受賞されましたが、受賞を知ったとき、どのように感じられましたか?

田中香織氏(以下、田中氏)

入賞の連絡メールを見たときには、まずびっくりしました。そのあと最終選考の連絡かもしれない、入賞の知らせだと勘違いしてはいけないと思ったり、またメールを見返して入賞ということでいいんだよねと思ったり、プチパニックでした。

――受賞作品は、ハッチアウト寸前の稚魚の目がとても印象的な作品ですね。

田中氏

このごっこ(ホテイウオ。現地では「ごっこ」と呼ばれている)の卵塊はハッチ間近で、親がミズダコに襲われて死んでしまったものでした。死卵が多い中、まだ生きている個体もいたので何とかこの姿を残したいと思って撮影しました。審査員の古見きゅうさんには「卵の中の子と目が合ったんですよ。不安と期待と入り混じったような気持ちでいるのではないかと、いろいろなことを連想させてくれる写真ですね」と言っていただきました。

撮影中は死卵が目に入り、悲しい気分になりましたが、その後まだ生きている子には頑張ってほしいと思いながら撮っていました。この子の生きようとする力が、いろんな感じ方に見せてくれたんだなと思います。

印象深い水中写真に出会い、自分も撮ってみたいと思うようになった

――田中さんが水中写真を始められたきっかけがあれば、教えてください。

田中氏

Cカードを取ってから、コンデジで水中写真を撮っていました。その後、函館のダイビングショップ「グラントスカルピン」に初めて行った時に、そこで撮られた写真を見て衝撃を受けました。ごっこの写真やエビの眼のアップなどの写真だったと思うんですが「こんなにも印象深い水中写真が撮れるんだ。私も撮ってみたい!」と思ったのが本格的に写真に取り組むことになったきっかけです。

――田中さんは北海道にお住まいですが、よく撮影に行かれる海はどのあたりですか?

田中氏

函館の臼尻(うすじり)です。車で1時間くらいで行けるので通いやすく、一年を通していつでも魅力的な被写体がいます。真冬もダンゴウオが撮れます。また「グラントスカルピン」の佐藤長明さんが生態などを詳しく説明してくださり、撮影のアドバイスもいただけるので、助かっています。

――臼尻の海では、どんな生きものが撮影できるんですか? 中でも好きな被写体がいたら教えてください。

田中氏

好きな被写体はごっこです。ハッチ後の稚魚が海藻に乗っているシーンがかわいくて好きです。大きさはハッチ直後2~3㎜くらいで、成長しても1cmはないくらいです。函館の海には海藻もいろいろあって、透明感のあるアオサの中にいるごっこや、赤やピンクの海藻に乗っているシーン、メカブでかくれんぼしているシーンなどが見られて、飽きることがありません。

以前、昆布をめくるとごっこが8、9匹一列に並んでいたことがありました。すぐに撮影しましたが時間とともに1匹、また1匹と離れてバラバラに。年によって海藻の状況も違うので同じシーンにはまだ出会えていませんが、あのシーンはもう一度見たいな、撮りたいなと思っています。

マリンダイビング主催「地球の海フォトコンテスト2020」ショップ部門入選作品。一列に並ぶごっこが可愛らしい(写真/田中香織氏)

――グラントスカルピンのお客さんには水中写真を撮られる方が多いと思いますが、まわりにたくさん仲間がいらっしゃるのは、良い環境ですよね。

田中氏

そうですね。SNSでつながっているので、みんながSNSにアップした写真を見て「この時一緒に潜っていたけれど、こんな写真が撮れていたんだ!」と新たな発見があったりします。

楽しく潜って、楽しく写真を撮り続けたい

――フォトコンテストに作品を出されたことは、今まで何度かあったのでしょうか?

田中氏

以前「地球の海フォトコンテスト」のショップ部門に、グラントスカルピンの仲間と一緒に作品を出したことはありましたが、個人で応募したのはこのフォトコンテストが初めてでした。

――日本水中フォトコンテストに応募しようと思ったのは、なぜですか?

田中氏

以前からグラントスカルピンの佐藤さんから「フォトコンに写真を出してみるといいよ」と言われていました。しかし、どんな写真を出せばいいかもわかりませんでした。昨年は第1回ということだったので、記念になればいいなと思って応募しました。フォトコンに作品を出すことで、自分の写真を見返す良い機会にもなりました。また、これからは仕上がりをもっと意識して撮影したほうがいいなと思う、きっかけになりました。

――今後、撮ってみたい被写体があれば教えてください。

田中氏

ごっこのハッチです。オスが岩陰で抱卵するので奥の卵を近くで撮れる機会が少ないのですが、いつかチャンスがあれば撮影したいと思っています。

あとホッケの卵も撮りたいです。金色のキラキラした卵なんです。臼尻にもホッケはいるんですが、産卵場所はダイビングポイントから離れているので見られません。積丹に行って狙いたいです。積丹は同じ道内とはいえ車で4~5時間かかるので、気楽に行ける距離ではありませんが、行く機会を作れるといいなと思っています。愛媛県の愛南もSNSで素敵な写真を見かけて、興味があるのですが、北海道からの移動を考えるとなかなか…。

ベロという魚は、毎年5~6月頃に青い卵塊を岩の間に産み付ける。手前に写っているのは、親魚のヒレ。きれいな卵なので、田中氏は毎年撮影の機会を狙っているそうだ(撮影/田中香織氏)

――田中さんの作品はとても色がきれいだなと感じますが、撮影後の現像でこだわっていることなどありますか?

田中氏

撮影した時の印象を、現像で表現できればと思っています。色や明るさなどの調整はしますが、あまりやり過ぎないようにしています。佐藤さんからも、一晩寝かせて考えたほうがいいよとアドバイスをいただいているので、じっくり考えてから現像しています。

――スバリ、「水中写真がうまくなるコツ」はどんなことだと思われますか?

田中氏

いろんな角度から撮ることと、同じ被写体でも毎回違うので何回も撮ることでしょうか。ほかの方のコツを知りたいです。

――今後、どのように撮影に取り組まれていきたいですか?

田中氏

フォトコンでの受賞が偶然で終わらないように、写真を撮り続けていきたいと思います。楽しく潜って、楽しく写真を撮り続けたいですね。

古見きゅう賞受賞
田中 香織氏 Kaori Tanaka
田中香織
北海道在住。初めて函館のダイビングショップ「グラントスカルピン」に行ったとき、そこで撮影された水中写真に衝撃を受けて、本格的に水中写真を始める。函館・臼尻の海をメインに、撮影を続けている。ダイビング歴18年、500本、水中写真歴8年。(インタビュー時)

第1回JUPCで古見きゅう賞を受賞した田中氏のインタビュー、いかがだったろうか? 地元・函館の海で撮影を続けている田中氏の作品からは、北の海で健気に生きる生き物たちの生命のドラマが感じられる。ホームグラウンドの海で、じっくりと被写体と向き合っているからこそ撮れる作品なのだと、お話を聞いて改めて感じた。

第2回日本水中フォトコンテストの入賞作品は、
2024年4月6日に発表!

今年で2回目を迎える「日本水中フォトコンテスト」。すでに審査も終わり、いよいよ4月6日(土)に「マリンダイビングフェア2024」で入賞作品が発表される。今回はどんな作品が選ばれるのか、とても楽しみだ。

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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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