第1回日本水中フォトコンテスト受賞者インタビュー(第4回)

関戸紀倫賞 朝比奈燦氏「表現したい想いを表現できることが大切」

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2023年にスタートした「日本水中フォトコンテスト」。昨年の上位入賞者の皆さんにフォトコンへの思いや写真上達のコツなどをインタビューさせていただいている本連載。この記事を参考に、ぜひ多くの方にフォトコンに興味を持っていただきたいと思う。受賞者インタビュー第四弾は、関戸紀倫賞に輝いた朝比奈燦氏が登場!

関戸紀倫賞「なんと表現するんだっけ。あどけない、この喜びを。」 撮影/朝比奈燦

「撮影した当時の状況や表現の意図を、審査員の先生方に汲み取っていただけた」

オーシャナ編集部(以下――)

2023年に行われた第1回「日本水中フォトコンテスト(以下、JUPC)」で見事、関戸紀倫賞を受賞されました。受賞の一報を受けたとき、どのように感じられましたか?

朝比奈燦氏(以下、朝比奈氏)

素直に嬉しかったです。審査員の先生たちに自分の想いが伝わっただけで満足でした。

――受賞作品は、黒く引き締まった画面の中に、マンタとロウニンアジが浮き上がるように写されたインパクトのある作品ですよね。

朝比奈氏

このマンタは急にUターンしてきて、私の目の前で宙返りをしたんです。この瞬間を収めないと、一生後悔するかもしれない…。そのとき、ロウニンアジも完璧なポジションで重なって回ってきました。マンタのきれいなお腹の部分も、黒ずんだロウニンアジもばっちり撮れて嬉しかったです。

――この作品への審査員からの講評を聞かれて、いかがでしたか?

朝比奈氏

何も言わずとも、その写真を撮った当時の状況や表現の意図などを汲み取ってくださり、やはり流石だなと思いました。

――ところで朝比奈さんは、普段からフォトコンテストにはよく作品を出されているのですか? また第1回のJUPCに応募しようと思ったきっかけはどんなことですか?

朝比奈氏

写真歴が浅いので、答えるのも難しいのですが…、しいて言えば比較的大きなフォトコンテストのみに作品を出しています。以前、キヤノンのフォトコンテストに応募しましたが、残念ながら落選してしまいました。私が撮った写真では想いや物語が伝わらなかったのかなと、かなり落ち込んでしまいました。その中で、JUPCという大規模な水中フォトコンテストが開催されることを知り、もう一度チャレンジしようと思ったんです。

――JUPCでは見事入賞されましたが、「フォトコン入賞の秘訣」と思われることは何かありますか?

朝比奈氏

私が偉そうに言えることでもないのですが…、今回受賞して感じたことは、自分自身の個性、つまり味が出ていることが何より大事かと思いました。他の作品とのギャップですかね。それは良い写真、だれが見てもきれいな写真といった意味ではなく、そのままのギャップです。

特に私はそもそも水中写真歴が浅すぎて勝手にいろいろと撮っていたので、良くも悪くも味が出ていたかも知れません。ただ、その自己流もしっかりとした基礎の上で成り立つものだと思っています。

清水淳氏の写真展に行き、フルサイズのカメラを使わなくてもいいんだと確信した

――朝比奈さんが水中写真を始められたきっかけを教えていただけますか?

朝比奈氏

そもそもダイビング歴も1年半くらいと浅いので、ダイバーになったところからお話ししますね。当時は釣り人だった私が長年付き合った彼女と別れ、何もかもリセットしたいなあと傷心旅行で小笠原を訪ねました。そこで、ダイバーの女性と出会いました。そして、彼女が私にGoProで撮った動画を見せてくれました。生まれて初めて目にした、その美しい海のリアルな光景に深く感動して、小笠原から戻るや否やダイビングのライセンスを取得したのです。ちなみにそのダイバーになるきっかけを与えてくれた方は、JUPCの授賞式に一緒に来てくださいました。

――それは運命的な出会いでしたね。その後、水中写真はすぐに始められたんですか?

朝比奈氏

大きくて重たそうなカメラを持ってダイビングされている方々を見ながら、最初はGoProで充分だと思っていました。しかし、写真に興味があったので、GoProではなかなか思ったような色味が出ないことに気づき、撮影機材を探すことにしました。しかし、一眼レフカメラとハウジングのセットなどは、どれも高額…。素人の私には、とても手の届かないものばかりでした。

ちょうどその時、同じポイントを潜っていたダイバーさんから、フルサイズのカメラに負けない威力を発揮してくれる、コスパ最強のオリンパスの「OM-D E-M1 Mark II」を紹介していただいたのが水中写真の始まりです。

――そこから本格的に水中写真に取り組まれていったんですね。

朝比奈氏

清水淳さんの写真展で、マイクロフォーサーズの「OM-D E-M1 Mark II」で撮影された作品を見て「フルサイズのカメラを使わなくていいんだ!」と思いました。そして、清水さんのフォトセミナーを受けて、水中写真の基礎を学びました。カメラの設定などいろいろなことを教えていただきました。

これからは、人が主人公の写真をたくさん撮ってみたいそうだ(写真/朝比奈燦氏)

ストーリーやいろんな感情を共有できる、人を被写体にした写真も撮っていきたい

――朝比奈さんがよく撮影に行かれる海はありますか?

朝比奈氏

ワイド機材しか持っていないので、近場では伊豆半島の伊東が多いですね。沖縄も結構行っていますが、そもそもダイビング歴が浅いので……。昨年ベトナムで潜ったのですが、日本と違う海の風景にとても惹かれましたし、海外のダイバーさんとの出会いもすごく楽しかったです。これからはいろいろな海外の海にも潜りたいですね。あまりメジャーではないポイントも狙ってみたいと思っています。

――好きな被写体や、こだわって撮影されている生物や水中景観などはあるのでしょうか?

朝比奈氏

ワイド撮影なので大物や群れ、そして地形など、俯瞰して眺められるシーンが好きです。また最近は、人を撮りたいなと思っています。魚や風景などを撮ると、主に自分だけの思い出になりがちですが、人を撮ると、その場のストーリー、喜び、いろんな感情を共有できて、これもまた素敵だなあと思います。想いが数倍になる感じがします。

――ストーリーが感じられる人物の写真、素敵ですね。ところで「自分らしい写真」に仕上げるレシピがあれば教えていただけますか?

朝比奈氏

コントラストが効いていて、必要な情報だけを引き立てる暗めの写真が好きです。カメラを水中モードにしておくのも、カメラを通した現像だと思っていて、なるべくフラットな状態で現像したいので、基本モードはナチュラルかフラットにしています。人の目って慣れてしまうと騙されやすいので…。ただストロボ調整、特に発光量などには結構気をつけています。

RAW現像ではコントラストを調整したいものの、ディテールのメリハリを上手く表現しようと心がけています。何か現像の公式が特にあるのではなく、撮った時の環境などに応じて、写真によっては逆にコントラストを下げたり、明るめにしたりする場合もあります。もちろん、天気やその海の状況によって明度、彩度の調整をすることも大事ですね。

波照間島で撮影。「初心者でも海を楽しむ、自然な姿を収めていきたいと思います」と語る朝比奈さん(写真/朝比奈燦氏)

――最後にスバリ、「水中写真がうまくなるコツ」があれば教えてください。

朝比奈氏

簡単に上手い、下手なんて私が判断できるものでもありませんが…。あえて言わせていただきますと「表現したい想いを表現できたかどうか」ですかね。実は私は絵を描いていまして、写真撮影も自分自身を表現する一つのツールであると思っています。ただただ海に恋をして、見たいもの、撮りたいものに向かってシャッターを切れば良いと思います。強いて言えば、迷わず勇気を出してたくさんシャッターを切ることですかね。

写真も絵も、作者の想いやストーリーが感じられるものがいい作品だと思うんです。最近ではAIがきれいな写真を作り出すことをよく見ますが、そこには想いやストーリーはきっとあまりありませんよね。

今はTGシリーズなど、気軽に始められるコンデジを使い、たくさんの人に水中写真の楽しさと想いを伝えていきたいなあと思うようになりました。

関戸紀倫賞受賞
朝比奈 燦氏 Akira Asahina
2021年の夏、訪ねていた小笠原で、ある女性に声をかけていたらなんとダイバーさん。見せてもらった小笠原の美しい海に魅了され、ダイビングを始める。デカいカメラはいらないと公言していたが、結局誰よりもデカいカメラで潜るようになる。ダイビング歴1年半、約250本、水中写真歴約半年。(インタビュー時)

第1回JUPCで関戸紀倫賞を受賞した朝比奈氏のインタビュー、いかがだったろうか? 「表現したい想いを表現できたかどうか」という言葉には、写真はもちろん絵も描いてきた表現者としての朝比奈氏の目線を感じる。自分が表現したいものにどん欲になることで、人の心を動かす水中写真が撮れるのかもしれない。

第2回日本水中フォトコンテストの入賞作品は、
2024年4月6日に発表!

日本を代表する水中写真コンテストを目指し、昨年始まった「日本水中フォトコンテスト」。第2回目はすでに作品応募が終わり、これから審査が進められる。第2回の入賞作品は、4月6日(土)に「マリンダイビングフェア2024会場内特設ステージ」にて発表予定。今回はどんな作品が選ばれるのか、とても楽しみだ。

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PROFILE
大学時代に慶良間諸島でキャンプを行い、沖縄の海に魅せられる。卒業後、(株)水中造形センター入社。『マリンダイビング』、『海と島の旅』、『マリンフォト』編集部所属。モルディブ、タヒチ、セイシェル、ニューカレドニア、メキシコ、タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、オーストラリアなどの海と島を取材。独立後はフリーランスの編集者・ライターとして、幅広いジャンルで活動を続けている。
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