世界記録保持者ハーバート・ニッチ氏×日本代表・太田陽子氏トークセッション!~自由も達成感も実現する。フリーダイビングの魅力とは~
フリーダイビングの魅力と読者へのメッセージ
――まだフリーダイビングをしたことがない方に、フリーダイビングの魅力を教えていただけますか?
ニッチ氏
フリーダイビングを始めると、日常とはかけ離れた、見たことのない水中世界を見ることができます。スキューバダイビングもいいですが、休憩しながら行わなければなりませんよね。その点、フリーダイビングは何度でもできます。私は一日12時間、海の中で過ごしたこともあります(笑)。またスキューバは自分の呼吸音がしますが、フリーダイビングは静かでじっくり海の生き物たちを観察できます。
――ニッチさんが好きな海はどこですか?
ニッチ氏
パラオがとても気に入っています。あとフレンチポリネシア(タヒチ)の離島、昔はエジプトの紅海にもよく行きました。ギリシャは透明度は高いけれど、魚は少ないですね。ミクロネシアのチュークでは、たくさんの沈没船を見るのがおもしろかったです。メキシコのセノーテも好きですね。狭い場所に入るのが好きです(笑)。

フレンチポリネシア(タヒチ)の海がお気に入りのニッチ氏
――ニッチさんは2012年6月6日に自己最高記録の253m(830ft)に挑まれた際に、重度の減圧症に罹患されました。その後、歩行や会話も困難な後遺症に悩まされながらも、フリーダイビングを再開されるまでに見事にご回復されました。この試練をどのように克服されたのか、教えていただけますか?
ニッチ氏
私はパイロットだったので、仕事中は常に危機を想定して行動してきました。事故後の後遺症を乗り越えられたのは、パイロットのキャリアが役立ったと思っています。例えば「歩けるようになりたい」と思ったら、歩けるようになると何がいいのか、どうして歩きたいと思うのかなど、自分の中の理由づけを書き出して、その実現のためにはどうすればいいのかを考えて実行するのです。そうしたことの積み重ねで、身体も自分がしたいと思うフリーダイビングができるまで回復できたと思います。
また、自分に必要なことを知ることが重要です。入院中、医師から説明もなく薬を飲むように言われたことがあり、私は不要な薬は飲みたくないと訴えました。しかし聞いてくれないので、入院中にも関わらずそのまま自転車で家に帰ってしまいました(笑)。私は本当に自分に必要なものは、自分で見極めたいと考えているので。
――自転車で退院されたというのは、ちょっと衝撃的ですね(笑)。「自分に必要なものを知る」ということは確かにとても大切なことですが、なかなか難しいことでもあります。では陽子さん、フリーダイビングの魅力はひと言でいうとどんなことでしょうか?
陽子氏
「フリーダイビングは私を自由にしてくれるもの」だと思っています。 フリーダイビングを始める前は、私は会社員だったこともあり「大好きな海に入ることを仕事にできたらいいな」と憧れはありましたが、自分にはできないと思っていました。
でも、フリーダイビングで達成したい目標や夢がどんどん広がっていく中で、自分ができない理由は何かを考えてみました。「お金がないから?」、「それとも時間がないからできない?」。こうして自分と向き合うことで、このような固定概念を取っ払っていかないと、やりたいことがありすぎて追いつかないことに気づいたんです。 だから仕事や住む場所を変えたりもしました。「フリーダイビングが与えてくれる夢が、自分の人生をどんどん自由にしてくれている」。これがフリーダイビングの一番の魅力だと思います。

――オーシャナの読者の中には、フリーダイバー、これからフリーダイビングを始めてみたい方もたくさんいらっしゃいます。最後に、そんな方たちへのメッセージをお二人からお願いできますか?
ニッチ氏
まずはフリーダイビングのスクールでどんなことをやるかをよく聞いて、よく学び、その後自分に合ったやり方を見つけ出すことが大事です。これはビジネスでもプライベートでも同様で、「このゴールにたどり着きたい」と思ったら、どうすればゴールにたどり着くのか、どのようなステップを踏めばたどり着けるのかを考えて、実行すること、「listen, learn and innovate 」が大事です。迷っている時間はもったいないですよ。
陽子氏
フリーダイビングは、まだ経験したことがない方にはすごくハードルが高いものというイメージがあるかもしれませんが、全然そんなことはありません。誰でも一度は水の中で息を止めたことがあって、それはお母さんの子宮の中での体験なんです。なので、フリーダイビングは何かトレーニングをして、スキルや知識を学ばないとできないものではなくて、私たちがもともと持っている感覚に戻る。そんな感じなんです。だから難しく考えずに、リラックスしてトライしていただけたらと思います。
また、フリーダイビングをすでに始めている方には、日本以外の海外のフリーダイビングも見てほしいと思います。日本のフリーダイビングも素晴らしいのですが、もっと広い世界も見ていただけたらと思います。

日本潜水機株式会社の社員・関係者の皆さんと記念撮影