海の写真家・吉野雄輔さんインタビュー 〜キャンピングカーのわけ、吉野雄輔のわけ、ヒトスジギンポのわけ〜(2/2)
前編はこちらからご覧ください。
吉野雄輔のわけ
―――――――雄輔さんにとって、写真を撮るってどういうことですか?
写真を撮ることは仕事だとはあまり思っていない。
どちらかと言えば、写真を撮るのは趣味で、写真を売るのが俺の仕事かな……。
もともと、「とにかく潜り続けるには?」と考えたら、
ガイドになるか水中写真家になるしかないじゃない〜!?
それで、結局は写真が売れた方が楽だなと思った(笑)。
だから、今でも潜っていると楽しいし、新鮮な発見はいつだってあって、
そこでおもしろいと思ったのをじっくり撮るとまたおもしろくてね。
――――――そうすると、あまりテーマを持って潜るということはないのでしょうか?
まあ、テーマといえば“海”ってことぐらい。
あまり先に勉強し過ぎないことが大事だと思うんだよ。
あらかじめ頭の中で絵を描かずに、現場で見て、そこでまず感じたことを大事にしたい。
結局、今までも「おースゲー」とか「カッコいいや」と思って撮った写真が一番いい写真になっている。
もちろん、プロとして冷静な部分も必要だけどさ。
今の時代、写真があふれているだろ?
その中で俺に求められているのは、やっぱり臨場感。
現場で新しいことを見つけて、感じられるからプロでやっていけている。
逆にいえば、いつまでも新しいことを感じられるようでいたいよね。
ヒトスジギンポのわけ
――――――今回、発売の「ヒトスジギンポンポ 笑う魚」(福音館)も、
そうした新しい発見の中から生まれたものなのでしょうか?
そうだね。最初は気まぐれのようなもの。
ある日潜ったら、あまりにも海況が悪くて、
ふと目に入ったヒトスジギンポについていくことにしたんだ。
ヒトスジギンポは、それこそ数え切れないくらい撮影してきた魚だけど、気まぐれで1時間ずっと付き合ってみた。
すると、見たこともない表情が撮れて「これはおもしろいな」と。
被写体だと思ってパッと撮った写真と、しつこく付き合って撮った写真では全然違うんだよね。
極端な話をしちゃえば、俺にとってはクジラもイルカもヒトスジギンポも同じ。
そういう「出た、出ない」「大きい、小さい」とは別の、新しい発見、夢中になれるテーマが見つかったときがやっぱり楽しんだよね。
―――――――それからはずっとヒトスジギンポばかり?
ばかり(笑)。ヒトスジギンを来る日も来る日も撮り続けて、周りから見たら何が楽しいんだろうと思っただろうな。
でも、これがおもしろくてね。
あるとき、巣穴に行ってみると、穴の上にウミウシがいてヒトスジギンポが困っている。
口を開けて、怒ったような、とまどっているような顔をしてウロウロしている。
「こんな顔するんだ!」とあまりにもおかしくて、撮影しながら海底で笑い転げてしまったよ。
―――――そんなヒトスジギンポな日々を1冊にまとめた「ヒトスジギンポ 笑う魚」。どんなところを見て欲しいでしょうか?
やっぱりヒトスジギンポの表情とストーリーかな。
これはじっくり撮影することでしか撮れないものだからね。
南の島の海も大物も好きだしこれまでずっと撮ってきたけど、近くの海で普通の魚をじっくり撮ることのおもしろさも感じてもらえたら嬉しいよ。
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絶賛、発売中!
インタビューが終わり、雑談をしている中で、
「うらやましい生活ですね。
でも、実際問題、なかなかできることじゃないですね」と言うと、
「いや、やれば誰だってできるよ。捨てるものもあるけどさ。
動く家、便利だぜ〜〜〜」と電話の向こうで
おそらく悪戯っぽく笑っているであろう雄輔さん。
「じゃあ、今度、東京で飯でも食おうぜ〜」と電話を切ってから数日経った今も
キャンピングカーで奥さまと愛犬2匹と日本の海を旅している。