人魚ジャパンの歴史的快挙! フリーダイビング国際大会「VerticalBlue2016」総評と選手インタビュー

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人魚ジャパン

2016年4月22日(金)からバハマ・ロングアイランドで開催されていた「Vertical Blue2016」が5月2(月)に閉幕しました。

11日間に及ぶ長丁場のこの大会。
フリーダイビング史上、歴史的といっても良いほど日本女子の活躍が目立った大会となりました。

「世界記録」の木下選手に続き、大会最終日、花形種目であるCWT(コンスタントウェイト・ウィズフィン:フィンを履いて垂直に潜る競技)で、廣瀬花子選手がなんと-99mという日本・アジア新記録を達成!
この記録は世界2位でもあります。

-99mからのタグを持ち帰り、浮上する廣瀬選手

-99mからのタグを持ち帰り、浮上する廣瀬選手

現状この種目の女子の世界記録は、故ナタリア・モルチャノバ選手の-101m。
世界記録まで、あとわずか2mに迫りました!!

しかも、周囲から見ても廣瀬選手の-99mダイブには余裕が見られたようで「世界記録が塗り替えられる日も近い」と、大会公式ページでもコメントされました。

-99mからのタグを持ち帰り、浮上する廣瀬選手

廣瀬選手はこの11日間の大会で、なんと自己ベストを10m以上も伸ばしています。

-90mを越える大深度で6本のダイビングがすべて余裕のホワイトカード、日本記録を連続3回も更新し続けるという驚異的な成長を遂げました。

今更ながら恐ろしいほどのポテンシャル。
野生のイルカが棲む御蔵島出身の彼女、やはり身体の中に流れる血の半分はイルカなのではないでしょうか?

そんな彼女は一体何を思い、考えているのか、大会終了直後に遠隔インタビューです。

廣瀬選手

次に狙うは世界記録!
廣瀬花子選手インタビュー

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今回のバハマ大会では日本記録更新を狙っていましたか?

廣瀬選手

今回は、昨年秋のキプロス世界大会で達成できなかった-90mの成功がひとつの目標でした。日本記録更新を狙っていったのは-90m達成した後、3回目の競技からです。

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今回の記録更新に向けてこれまでどんな準備をしてきましたか?

廣瀬選手

昨年の秋以降、海洋練習はほとんどできませんでした。その代わり、浅いプールで浮上と潜降で使うフィンワークのインターバルトレーニングなどをしていました。

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―99mのダイビングはどんな感触でしたか?

廣瀬選手

今大会最後のダイブになるので、前の晩から楽しみより寂しさが強かったです。成功するイメージがとても強かったので、緊張もほとんどせずに目の前のことに集中して挑めました。ボトムについたときは-100mの世界が見られてとても嬉しかった。 

帰りは、ここでのこれまでのダイブやバハマでの思い出を振り返ったり、水面で待っていてくれるみんなのことを考えながら、とても良い時間を過ごせて、心強く、気持ちよく浮上できました。

この前に潜った-97mよりも道のりは長く、身体的には今までに感じたことのない疲れでダメージも大きかったけど、最初から最後までイメージどおりなすごく幸せなダイブでした。

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次の目標は?

廣瀬選手

世界記録です。

ちなみにこちらはシリアスな深度を潜る直前の花子。
このリラックス度、本当に凄いです・・・。

花子

日本人選手が大活躍!
大会結果と歴史的な快挙

日本人選手の大会最終結果

女子
総合 木下紗佑里選手(準優勝、銀メダル)
種目別CWT 廣瀬花子選手(優勝、金メダル)日本・アジア記録
福田朋夏選手(準優勝、銀メダル)
種目別CNF 木下紗佑里選手(優勝、金メダル)世界記録
男子
種目別FIM 篠宮龍三選手(第三位、銅メダル)
左から、福田朋夏選手、廣瀬花子選手、木下紗佑里選手、岡本美鈴選手

左から、福田朋夏選手、廣瀬花子選手、木下紗佑里選手、岡本美鈴選手

今年も見事なメダルラッシュとなりました。
今回の大会が「歴史的」と言える点が二つあります。

1.ひとつは何と言っても、木下選手のCNF「世界記録」樹立。

10年以上、ロシアの故・女王ナタリアが独占していた世界記録に日本女子が風穴を空けたこと。

2.もうひとつは、CWT。日本女子チームに3名もの-90mダイバーが誕生したこと。

これまで長年、CWT日本記録は岡本美鈴選手がトップを保持していましたが、今大会では岡本選手の-92mを二人の選手がついに越え、福田朋夏選手が-94m、廣瀬選手が-99mを達成しました。3人もの女子選手が、男子でも難しい-90mを越える記録を持つ国は世界中でも日本だけ。この選手層の厚さは世界でも随一でしょう。

日本人選手が世界で勝てる理由は
パイオニアの存在とチームワーク

そして、ある一人の選手だけが突出しているのではなく、これほどの強い選手が何名も揃っていることこそ、日本が世界に誇れることなのではないかと思います。

人魚ジャパン

日本女子チームは本当に仲が良く、お互いを高め合える素晴らしいチームワークを持っています。
このチームワークが強さの源になっていることは間違いないでしょう。

また、パイオニアの存在を忘れてはいけません。

フリーダイビングは人間の身体の限界にチャレンジするスポーツ。
それは肉体的なもの以上に、精神的な部分が大きいのです。
最初のひとりが突破するときはとてつもない壁が、一度誰かが越えると一気に多くの人がそれを安々と越えられるようになる。

私は今回の歴史的な結果を見て、改めてこれまで常に女子選手トップを走って来た岡本美鈴選手、日本人で唯一-100mを超える深度に到達し、-115mを潜った篠宮龍三選手、そして大先輩達へのリスペクトの念を新たにしました。

かつては-30mでも、誰も行ったことが無い深度でした。

松元恵選手、高木沙耶選手(現在は「益戸育江」)と、諸先輩達が、それぞれ誰も超えたことの無い壁を突破。
それがあるからこそ今の選手達が世界の頂点にまで近づけているのです。

トップを走り続ける岡本美鈴選手は語る
「人魚ジャパンは全種目で世界記録を更新できる」

人魚ジャパン

2006年からほぼ毎年CWT日本記録を更新しトップを走り続け、昨年のこの大会では-92mの日本記録を樹立した岡本美鈴選手からのコメント。

「私個人としては残念ながら今回の大会成績は不調に終りました。ただこの10年間の中で後輩達が無類の努力を重ね、私の記録突破を目指してくれた事がこのような歴史的な記録につながったとすれば心から嬉しく、人魚ジャパン、日本人として誇らしく思いました。

また、今回の大会では日本人選手同士の雰囲気もよく話題となりました。メンタルが重要とされるこの競技で、お互いを高め合うチームワーク力の効果はとても大きかったと思います。

今回の選手達の活躍により、私だけでなく、日本のフリーダイバーの更なるモチベーションにつながったと思います。そして近い将来、海洋全種目で世界記録を日本人が更新できるはずです。ぜひ今後も日本女子に注目頂きたいと思います」

高まる期待
9月のギリシア大会

さて、今年の9月にはフリーダイビングの団体戦がギリシアで開催されます。日本女子チーム「人魚ジャパン」の個人の実力・チーム力が発揮される大会になることは間違いなく、期待が高まります。

フリーダイビングはまだまだマイナーなスポーツですが、こんな素晴らしい選手たちを、チームを、競技の美しさを、ぜひもっと多くの人に知ってもらいたいと願っています。

そして、選手のみなさん、本当にお疲れさまでした!
早く日本で元気な顔を見せて下さいね!

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PROFILE
Apnea AcademyAsiaフリーダイビングインストラクター。 2015年フリーダイビング日本代表選手。CWT(フィンをつけて潜る競技)では水深-60mの公式記録を有する。オーシャナ主催のスキンダイビング講習会ではメイン・インストラクターをつとめる。また、自ら主催するフリーダイビング&スキンダイビングサークル「リトル・ブルー」や地元葉山での素潜りを通じ、素潜りや水の世界の素晴らしさを伝える活動をしている。
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