フリーダイビングのおかげで自分自身と向き合えるようになりました。 〜フリーダイビング世界記録保持者・木下紗佑里さんインタビュー【後編】〜
2018年7月にバハマで開催されたフリーダイビングの世界大会「Vertical Blue 2018」で、FIM種目(フリーイマージョン)で世界新記録97mを樹立した木下紗佑里選手にインタビュー。
前回はフリーダイビングを始めたキッカケから、選手としてデビュー後、ブラックアウトを乗り越えたお話までをお聞きしました。
今回は、そんな木下選手がフリーダイビングの選手としてどのように変わっていったか、また、大事にしていることやこれからの目標などをお話いただきました!
海外の選手とも仲良くなれる
応援し合う大会の雰囲気が好き
ーー
「Vertical Blue2018」では、見事FIMで97mという世界新記録を樹立されました。今回の大会は、どのような雰囲気でしたか?
木下
とても雰囲気がいい大会で、次々みんなが記録を更新していき、「私もできる」という気持ちになりパワーがもらえました。実力+αのものが出せたと思います。実際その大会では、女子が4人で8回、男子が2回、計10回の記録更新がありました。
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海外の選手とも親しくなったり、交流されたりしているんですか?
木下
はい。私は日本人どうしだけでいるより、海外の選手とも仲良くなりたいので、コミュニケーションを積極的にとります。海外の選手は潜るスタイルも違うし、魅力的な選手がたくさんいます。大会では実際に潜る姿を見たいし、その人の息づかいを感じたり、泣いたり笑ったり感動を一緒に味わうことが好きなので、出番が終わると、ほかの人が潜るのをしっかり近くで見ています。
フリーダイビングは競技ですが、誰かと戦っているわけでもないし、自分自身と戦っているわけでもありません。その時「自分が気持ちいい状態で、一番気持ちいい深度まで行ける」ことが大事で、それをみんなでシェアする。そんな大会の雰囲気が好きですね。
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ライバルや気になる選手はいますか?
木下
圧倒的に強いのは、イタリアのアレシア選手ですね。彼女はフィジカルが強く、才能がすごくあります。アスリート系で「勝ちたい!」という気持ちが強いですね。去年は「負けたくない」という気持ちが悪い方向に出てしまいましたが、今年はいい方向に出て、世界記録を2種目で更新しました。
またスロバキアのアレンカ選手は、練習してきた深度しか申告しないんです。自分が今、「最高に気持ちよく潜れる深度」しか申告しないという姿も、かっこいいと思います。選手によっていろんなスタイルがあって、それを見ていると「じゃあ自分はどんなふうに潜りたいのか?」ということが改めて実感できます。
日本にも強い選手がたくさんいますし、負けたくないと思っています。この間のバハマの大会では、美鈴さんご夫妻と花ちゃんと4人で部屋をシェアして、1カ月くらい生活を共にしました。練習がうまくいかなくて落ち込んだりすることもありますが、アドバイスをしてもらったり、緊張しているときは笑わせて和ませてくれたり、仲間がいるって本当にいいなと思いました。
フリーダイビングを続けてきて
自分と向き合えるようになった
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木下選手がフリーダイビングを始めたころは、まだあまりフリーダイビングの認知度は高くありませんでしたよね?
木下
そうですね。私が始めたころは、ちょこちょこ知られるくらいでしたね。家族も知りませんでしたし、地元の長崎県でも知っている人はほとんどいませんでした。始めてから1~2年で認知度が少しずつ上がってきましたね。
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ここ2~3年で、フリーダイビングの女子選手のみなさんがメディアやイベントに登場される機会が増えてきたと思います。女子選手のみなさんは美しい方が多いので、それもフリーダイビングの認知度アップに関係しているような気がします。その美しさは、フリーダイビングの呼吸法だったり、ストイックに自分を律するトレーニングだったり、そういったものが作り上げているように思います。
木下
そうかもしれないですね。アスリートはみんな一緒だと思うのですが、まず体が健康であること、そして精神状態も整っていることが大事です。
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大会の前などは、プレッシャーを感じることもありますよね。精神のコントロールはどのようにされているのでしょうか?
木下
大会の前は気持ちも上下しますし、大会が大きければ大きいほどプレッシャーを感じたりすることもあります。でも私はあまり精神をコントロールしようとは思っていません。「ありのままの自分の感情や思ったこと」を受け止め、「なぜそう思ってしまったのか」を冷静に見るようにしています。
例えば落ち込んでネガティブになってしまっても、それは別に悪いことではないと思います。その感情を排除する必要はありません。「何のためにそんな感情になっているのか?」「自分が何をしたいのか?」を冷静に考えていくと、「自分はフリーダイビングの大会に出て、一瞬一瞬の感情を味わいたいだけ」ということに気づくことができるんです。
ーー
体のコンディションは一緒でも、なかなか思うように潜れないということはありませんか?
木下
ありますね。でも私は「潜りたくない」と思うことはないんです(笑)。ただ練習すればするだけ、結果が出るだろうと思ってしまいがちなので、「今これ以上練習したら、その後気持ちよく潜れなくなる」と自分の気持ちを察知するようにしています。「今はこれくらい練習しよう」、「今は休憩が必要」など、自分自身に相談しながら決めるようにしています。
フリーダイビングをするようになって、気持ちと体を落ち着かせて海の中へ潜っていくという行為で、自分自身と向き合えるようになりました。そこから日常の中でも自分の感情に向き合うことって、こんなにいいことだと気づくようになりました。
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「自分自身と向き合えるようになる」って、すごいことですね。フリーダイビングは、奥が深いですね。
木下
競技としては深く潜ることに価値がありますが、「潜ることで何に気づくのか?」が大事なんだと思います。
私は潜ることで「自分は今どんな状態なのか?」「何がうれしいと思って、何が悲しいと思うのか?」など、その瞬間に自分が思っていることに、気づけるようになりました。
精神的に強いとよく言われますが、実はそんなことはないんです。理想の自分と現実の自分のギャップに悩むこともあります。でも「理想の自分がある」ということは、「もっと自分に期待していいんだ」ということなんだと思います。そういうものがクリアに見えてくると、「今のままでいいんだよ」と自分に言えるようになり、生きていくのが楽になりますよ。
「レイダー・ディープブルー」は
一緒に潜る相棒のような存在
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木下選手は2016年からスイス高級時計ブランド《ファーブル・ルーバ》のアンバサダーとなり、競技中もいつも300mの防水性を誇るダイバーズウォッチ「レイダー・ディープブルー」を身に着けられていますね。
木下
そうなんです。《ファーブル・ルーバ》には2016年に日本再上陸されたときから、ずっとサポートしていただいています。こちらの時計は2年前から身に着けていて、世界の海を一緒に旅して、潜っています。とても頑丈で、ハードに使っていますが故障することもありません。
ーー
頑丈さに加えて、見た目もとてもきれいですね。
木下
文字盤の青色が気に入っているんですが、これが海の中で見るとさらにキレイなんです。またフリーダイビングの大会では、自分の味方、大切に思っているものを身に着けたいと思います。「レイダー・ディープブルー」は、私のお守りのような存在です。
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最後に今後の目標を教えてください。
木下
世界記録に3種目でチャレンジしたいと思います。世界記録にチャレンジできる大会は限られているので「Vertical Blue」に照準を合わせていきたいと思います。あと5年間やってきて、「フリーダイビングが大好き」だということがわかったので、これからもフリーダイビングにしっかりと向き合っていきたいと思います。私は好き勝手にやりたいことをやらせてもらっていますが、その姿がいろんな人にいい影響を与えられたらと思っています。
またこれからアジアでは、フリーダイビングを始める方が増えていくと思います。始める方への安全管理の啓蒙もしていきたいと思います。深い海へ潜ることで体にどんな影響があるのかなどをわかっていただいて、安全にフリーダイビングを楽しんでいただけたらと思います。
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今日はありがとうございました。
《ファーブル・ルーバ》
「フロンティアへの挑戦」をコンセプトとしている時計ブランド。世界記録の挑戦し続ける木下紗佑里さんは、「レイダー・ディープブルー」を愛用。この時計とともに世界記録に挑戦し続けている。機械式のため、電池切れの心配がなく、競技中も安心して使える。
お問い合わせ
スイスプライムブランズ TEL:03-4360-8669
Profile
木下紗佑里
Sayuri Kinoshita
1988年長崎県生まれ。幼少期から競泳に励み、日本女子体育大学へ進学。その後、スイミングスクールのインストラクターを経て、2013年にフリーダイビングと出会い、選手として活動を始める。2015年に世界選手権でアジア人初の優勝、2016年にはCNF種目でアジア人初の世界記録72m(当時)、2018年にFIM種目(フリーイマージョン)で世界新記録97mを樹立している。
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