ダイビングに行ったら観光もしようヨ!豊岡の魅力-Enjoy with all five senses-
「山手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした、その後養生に、一人で但馬の城崎温泉へ出掛けた。」
読んだことのある人はもちろん、ない人も知っているであろう文豪・志賀直哉の短編小説『城の崎にて』の、冒頭である。山手線に跳ね飛ばされただなんて、一見ミステリー小説か、ホラーなのかと疑ってしまう。
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この作品は、文豪・谷崎潤一郎に称されたものとしても有名であった。なるべく多くの人々に本を読んでもらうことが目的で書いた「文章読本(ぶんしょうどくほん)」という本の中で、「城の崎にて」のある箇所を差してこのように記している。
「華を去り実に就く」とはかう云う書き方のことであって、簡にして要を得てゐるのですから、此のくらゐ実用的な文章はありません。
「文章読本」より
*ここで言う「華を去り実に就く」とは、余計な飾り気を除いて実際に必要な言葉だけで書く、という意味で、最も実用的なものが最も優れた文章だと言っている。
以前、わたしが城崎を訪れることを決めた際に購入した「城の崎にて」。その時から本棚に飾られた状態だったが、先日城崎から帰ってきて、改めて読むことにした。約8年ぶり。旅と文化がつながる不思議な時間である。
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「城の崎にて」は、何か特別なことが起こるわけではなく、ただただ城崎温泉で過ごした日々と心情が書かれている短編小説。体にけがを負ったことで、心の傷も受けていた主人子が、「生きている」ことを見つめる機会に直面。
この時代の人たちには既に、体だけでなく心の湯治として温泉を求める気持ちがあったのかもしれない。志賀直哉が跳ね飛ばされた山手線といえば、東京である。そこから城崎温泉(兵庫県)まで、相当な道のり。しかし、志賀直哉は生涯で十数回も城崎温泉に訪れていたようだ。
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城崎温泉
城崎温泉の始まりには2つの説がある。特に有名なのは、720年に僧侶の道智上人(どうちしょうにん)によって、開かれたという説である。
難病の人々を救う為に、当所鎮守・四所明神の神託により、 千日間の修行を行った末、 720年に温泉が湧出し城崎温泉が開かれました。
城崎温泉に訪れて知った面白い特徴といえば、旅館のお風呂(内湯)は、温泉ではないということだ。そこにはちゃんとした理由があり、「温泉はみんなのもの」という意識があるので、外湯として共有しているのだと聞いた。地元の方々も、外湯を自身の家のお風呂のように利用しているのを目の当たりにすると、そのような認識がここには根付いていることを実感する。地域の交流が生まれるきっかけにもなっているのだとか。
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城崎温泉に訪れた著名人は、志賀直哉だけではない。調べてみると、白樺派のメンバーや、島崎藤村、与謝野晶子なども訪れていたという記録があった。多くの文人に愛された街だった故に、時が経ってもなお、芸術に結びついた地域だというのがよく分かる。
そんな芸術との結びつきを象徴しているのが、城崎国際アートセンターではないだろうか。
城崎国際アートセンター
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主に舞台芸術の創造活動を滞在型で支援している施設。舞台装備だけでなく、住居も完備されており、共同でつかえるキッチンやランドリーも併設。お風呂はなく、こちらも温泉街の温泉を利用してもらうシステムとなっている。
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驚くべきことに、この施設と住居は無料で借りることができる!そのかわりに、創作活動中もしくは終了時に、地元の方に城崎で作り上げた芸術作品を表現する場を設けることが条件となっている。演劇やミュージカルの発表が行われたり、ワークショップが開催されたりすることは、地元の方々にとっては嬉しい企画であろう。芸術で還元するというコンセプト、すてき!
毎年世界から利用団体を公募しており、年々高倍率になっているそうだ。
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豊岡市の食文化
豊岡といえば、カニ!という印象が強い方が多いと思うが、実は、日本海に面した豊岡市の一番の水揚げ量は「ひらめ・かれい類」なのだ。次いで「いか類」。
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《農林水産省「兵庫県豊岡市」海面漁業の魚種別漁獲量より》
見た目が似ている「ひらめとかれい」は、味と旬が大きく異なる。本州でのヒラメは、
秋から冬にかけて、カレイはというと、食べ方によって異なるため1年中と言われている。
そして、イカ。ひとえに「イカ」といってもその種類は豊富で、スルメイカ、アカイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、ホタルイカ。そして、マニアックなところで言うと、沖合いイカ釣りと、沿岸イカ釣り、沖合底びき網という異なる漁法で漁獲されている。
ひらめもかれいも、イカも美味しいけれどちょっとだけ地味な印象。しかし、このアカイカ(ソデイカ)をみたのなら、衝撃をうけるに違いない!
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《食用としては衝撃的な大きさのアカイカ「たけの観光協会」より》
中には全長1m、重さ30kgを超えるものもあり、食用としては最大級のイカ。
これを目の当たりにしたら、生臭さなど忘れ抱きかかえてみたいという衝動にかられいてしまいそうだ。。
竹野
竹野は、江戸時代中期から明治時代後期にかけて、北海道から大阪までの日本海側の港を廻る「動く海のマーケット」として活躍していた「北前船(総称)」の寄港地として栄えた街である。
今では「竹野海岸」といえば、関西地区では人気の海水浴場。日本の渚100選、日本の水浴場55選にも登録されているほど。「竹野ブルー」なんて呼ばれているとかいないとか。
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《竹野の景色。奥には兵庫県最北端の猫崎半島》
「竹野海岸」は、日本海の山陰海岸ジオパークの一部でもある。
ジオパークは、地質学的重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・持続可能な開発が一体となった概念によって管理された、単一の、統合された地理的領域です。
そんな美しい竹野海岸沿いにお店を構えているのがダイビングサービス「Dive Resort T-style」。
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日本海というと、荒波のイメージがある。そして、美味しい海産物が捕れるところは水温が低い印象である。ダイバーのわたしにとってはどんな海なのか気になるところ。早速T-style の田中陽介さんにお話を伺った。
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4月ごろの海の様子:ダンゴウオの子供たちがいっぱいです!。
ダンゴウオの幼魚は、目の上に白い輪(通称「天使の輪」)があるのが特徴です。体長は、5mmから1cm。ダイバーのアイドル的存在。
これは、東北でのわたしの話ですが、ダンゴウオを見つけて観察し船に上がった後、ともに潜っていた仲間と「かわいかったね」と嬉しい気持ちをワイワイ共有していたら、
「なにさ、そんなちーせーくえねぇサガナみて、おもしれーんだ。」
と漁師さんに言われたことがあった。漁師さんとダイバーとの魚への見方が違うことなど、当たり前ではあるが特に考えたこともなかったので、大変印象的な出来事だった。そして、面白い思い出として残っている。
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春(2月~4月):サクラダンゴウオの卵保護を観察することができ、運が良ければハッチアウト(卵から生まれること)も見れます!!
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夏:海況も透明度も安定し、青い海で気持ちよく潜れます!
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初夏から夏にかけて:ホシギンポのペア&卵。かわいらしい表情が人気です。
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1年を通し:「淀の洞門」というポイント。ウミウシが多く、一番の人気ポイントです。
想像以上に彩りのある海だったと思ったのは、わたしだけではないでしょう。きっと、自分の目で見たのなら、色彩はより脳に印象付く。潜らないとわからない海の世界。ダイビングの魅力であり、その魅力の効力が強いところが、ダイビングの怖いところでもある。
文化に触れながら、学びながら、食しながら、泊まりながら。
五感で楽しむダイビング旅行にお勧めしたい豊岡市。
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