海中ジオパークを潜る
Tajiri / 田後
日本海のもうひとつの顔と、そこに棲む生物たち
Tajiri / 田後
日本海のもうひとつの顔と、そこに棲む生物たち
- Photo&Text
- 中村卓哉
- Special Thanks
- ブルーライン田後
- Design
- Panari Design
田後の珍客を紹介
菜種島の洞窟内でアジの群れを撮影中、突然ダッシュでこちらに向かってくる山崎さんが視界に入った。おもむろに水中ノートをこちらに向けると、瞬く間に洞窟の出口の方へ消えていく。
頭の中で一瞬見えた水中ノートの文字を復唱してみる。
「ムラサキダコ……。え!? あの激レアなムラサキダコが出現!?」
慌てて山崎さんが消えていった洞窟の出口方向へダッシュすると、ダイバーたちが群がる先にまぎれもなくムラサキダコの姿が。特徴である長いマントは岩肌に絡みちぎれていたが、マントを囮として懸命に生きようとする健気な姿に思わず目頭が熱くなった。
その後、ダイバーたちが洞窟を去り、ムラサキダコは洞窟の中を抜けると外洋の明るい海へと泳いでいった。しばらくその勇姿を見届けたが、光の中に消えていく珍客のシルエットに「ありがとう」と心の中で手を振った。
撮影で訪れるたびに田後の海はたくさんのサプライズな贈り物をしてくれる。エチゼンクラゲを初めて見たのもここだった。
そんな珍客との出会いはもちろん毎度興奮するが、小さなプランクトンや真っ青な笑いボヤ、ジオパークの地形も自分にとってはまったく初めての体験だった。普段潜っているこの海が大好きな山崎さんは、毎回一緒になって興奮して必死に伝えてくれる。