浮遊系生物だけじゃない!山口県青海島の秋の海は、フォト派にうれしいマクロ生物たちの宝庫だった

こんにちは。水中カメラマンの堀口和重です。

富士山も初雪が観測され、秋も後半に差し掛かり、冬を迎えようとしていますね。朝が急に寒くなったりと、気温差が激しくなってきましたので、皆さん風邪をひかないようにお気を付けください。

さて、話は変わり、私が今年の5月に伺った山口県・青海島(おうみしま)ですが、今月もまた撮影に行ってきました。

5月に潜ったときは珍しい浮遊系生物が次から次へと現れ、盛り上がりが絶頂を迎えていましたが、シーズンが変わり、今回撮影で伺ったときは浮遊系生物もかなり落ち着いていました。

キアンコウの幼魚

2019年5月には珍しいキアンコウの幼魚が現れて、盛り上がりを見せた(撮影/堀口和重)

▶<G.W速報>山口県青海島でキアンコウの稚魚&幼魚に多数遭遇!珍しい浮遊系生物に会うなら今がチャンス?

それならばと、「この時期、普通に見られる生き物は何がいますか?」と青海島で20年以上ガイドを続けているシーアゲインの笹川さんに尋ねたところ、「普通に見られる生き物は、太平洋側に比べると少し少ないかもね……」とのこと。

そんなお話なら、「まぁ少しでも被写体がいて、何かいいシーンが撮れたらラッキーかな」と、正直少々低いテンションのまま、青海島のメインポイントのひとつ「船越ビーチ」へと向かいました。

船越ビーチで
秋の海に舞うホシササノハベラ

すすきが揺れて秋の景色となった船越(撮影/堀口和重)

すすきが揺れて秋の景色となった船越(撮影/堀口和重)

「船越ビーチ」の春は、一面に海藻が生え乱れ、その美しさに感動したのですが、秋に入るとちぎれた海藻がほんの少し残り、剥げてしまったような感じ。当たり前ですが、秋の海は少し寂しい感じがします。

しかし、海中の光景を見ながら移動していくと、おもしろいシーンにたくさん遭遇することができました。

まず、遠くに魚がいたのですが、見たことないような色合いなのです。近寄ってみると、普通種であるホシササノハベラだと気が付きました。

どうやら繁殖期のようで、婚姻色が強く出ています。

山口県青海島_堀口和重_アカササノハベラ

婚姻色が出ているホシササノハベラのオスと小柄のメス(撮影/堀口和重)

しかも動きがとても活発。
よーく見ると、自分の縄張りがエリアが決まっているようで、そこに入っているメスに嚙みつくような求愛を繰り返しています。

これはシャッターチャンスだと思い、カメラを向けようとした次の瞬間に2匹が猛スピードで上昇。

なんと産卵を始めたのです。

あまりの急展開に呆気にとられた自分でした。

その後、もうワンチャンスあるかなと気を取り直し、求愛を何カットか撮影しました。しかし大抵のメスはオスの求愛に対してOKサインをなかなか出してくれないので、産卵までは撮影することはできなかったのです。

山口県青海島_堀口和重

メスをかじりアピール中(撮影/堀口和重)

産卵もいいシーンですが、ホシササノハベラの婚姻色は色合いが美しいので、それだけでも観察していて楽しいですし、撮影してもらえたらなと思います。

船越ビーチで見た、
自由奔放なコウイカの仲間

「船越ビーチ」ではホシササノハベラだけではなく、こちら生き物の生態行動にも目が離せませんでした。

その生き物小型のコウイカの仲間。

小型のコウイカの仲間は最初、3匹でした。

警戒が解けるまでゆったりと観察を始めると、イカも外敵ではないと思ったようで、オスがメスに向かって腕を上げ、求愛行動を始めたのです。

青海島のコウイカ

メスにアピール中のオス(撮影/堀口和重)

このときにもう1匹いた個体は離れていきました。そのままペアになったところをジッと見つめていると、体を斜めにして何かを探すような仕草を始めたのです。

オスを無視して何か餌を探しているのかなぁと思った瞬間、メスが変わった行動に出ました。

岩の間のくっついているサンゴの仲間に、数ミリの穴が開いていたのですが、そこに腕を入れています。この行動、なんと小型のコウイカの仲間が産卵をしているところなのです。

コウイカの仲間の産卵

小型コウイカの仲間の産卵シーン(撮影/堀口和重)

メスを見守っている感動的な場面に遭遇できた……と観察していたのですが、この数分後、その気持ちを裏切られるような行動をこのオスがとり始めました。

しばらく見ていると、卵を産み終わったようで、メスは一休みに入ります。するとこのオスは頑張ったメスに見向きもせず、最初に離れていったもう1匹のイカの後を追いかけ始めました。

そのイカはメスだったようで、なんと求愛を始めたのです。

産卵を終えたメスが疲れて休憩中に入った矢先、別のメスのところに行くと考えると「まったくこの男は…」と思ってしまいますね(笑)

ちなみに新たに求愛されたメスですが、オスの求愛はどうでもいいかのように相手にせず、別の場所で産卵し始めたのでした。

コウイカの仲間の産卵

別の小型コウイカの仲間の産卵もスタート(撮影/堀口和重)

人間の世界でこんなことがあったら大変なことになってしましますが、そこはイカの世界。ハーレムを上手く作り、次の世代を効率良く増やしていくようですね。

そんなおもしろい生態行動が見られるのが「船越ビーチ」です。

マクロが尽きない
紫津浦ビーチ

また、外洋に面した「船越ビーチ」とは逆側の内湾の海、「紫津浦ビーチ(しつうら)」はマクロ生物が予想以上に多かったです。

カクレエビなどクリーニングをするエビたちは、スナイソギンチャクの周りに住み着き、体を掃除して欲しい生き物たちが寄ってくるとクリーニングをしてあげます。

今年は個体数が多いと言われる、透明でキレイなボディのオドリカクレエビを少し距離を保ちながら観察していると、警戒していない魚たちが寄ってきて、クリーニングをしている場面に遭遇しました。

オドリカクレエビ

クリーニング待機中?のオドリカクレエビ(撮影/堀口和重)

オドリカクレエビ

クツワハゼをクリーニング中(撮影/堀口和重)

また、「紫津浦ビーチ」ではアイドルの魚も多く、砂地に出れば、こんなにも個体数が多いのかと驚かされるほどのミジンベニハゼに出会えます。

人への警戒心も少ないようで、近くまで寄ることができました。

ミジンベニハゼ

隠れ場所はさまざま。ブンブクの殻や瓶、板など(撮影/堀口和重)

さらに、少し赤みのかかった個体や、中には透明な個体もいるとのことで、ミジンベニハゼだけを観察していても飽きることがありません。

ミジンベニハゼ

少し赤みのかかった個体が元気よく泳ぐところも見ることができる(撮影/堀口和重)

このほかにも、砂地にはクロイシモチの幼魚やビードロカクレエビ、浅場に戻るとヒメタツなどの生き物がおり、マクロ好きなフォト派ダイバーにとっては被写体の宝庫となっています。

今年の紫津浦ビーチは
ハナハゼもいっぱい

ブリーフィング中に「ハナハゼが今年は多いですよ」とお話をしていただきました。

ハナハゼと言われても、正直、私自身も伊豆ではたくさん見ている普通種なので「なんだハナハゼか…」っと思ってしまいましたが……。

群れに会った瞬間、そんなふうに思っていた自分が恥ずかしくなりました。

群れの規模は大きく、最低でも50匹以上はいそうな群れが、いくつもあるです。個体も成長しきっているような感じで、それぞれが大きく、ヒレをキレイに広げる個体も多いので、とても撮影がしやすかったです。

もちろん、ハナハゼには心の中で謝りましたよ(笑)

ハナハゼ

ハナハゼに申し訳ない気分になりました(撮影/堀口和重)

いかがでしたでしょうか? 魚たちの生態行動や、マクロ生物の魅力が満載の秋の青海島。
潜ってみた結果、予想以上に生き物も多くとても楽しい海でした。

「浮遊系生物がすごい青海島」というイメージが強いですが、それだけではない、「マクロ生物がすごい青海島!!」にも、ぜひ遊びに行ってみてくださいね。

■撮影協力/シーアゲイン

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堀口和重さん
プロフィール

horiguchi_profile

伊豆の大瀬崎にある大瀬館マリンサービスにチーフインストラクターガイドとして勤務後、2018年4月にプロのカメラマンに転向。
現在は伊豆を拠点に水中撮影から漁風景や海産物の加工まで海に関わる物の撮影を行っている。
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PROFILE
日本を拠点に活動している⽔中カメラマン。カメラマンになる以前はダイビングガイドをしながら数々のフォトコンテストで⼊賞。現在はダイビング・アウトドア・アクアリストなどに関連する雑誌やウェブサイト、新聞などに記事や写真を掲載、水中生物の図鑑や教書にも写真提供している。2019年に日本政府観光局(JNTO)主催の“「⽇本の海」⽔中フォトコンテスト 2019”にて審査委員、2020年には“第28回 大瀬崎カレンダーフォトコンテスト”の特別審査員も務める。近年は訪⽇ダイビングツーリズム促進を⽬的として“NPO 法⼈ Japan Diving Experience”としての活動も⾏っている。
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