2年目は約24トンのごみを回収!ふるさと納税による屋久島の海底・海岸清掃

今年、ユネスコ世界自然遺産登録30周年を迎えた屋久島。そんな屋久島では、昨年度(2022年4月1日から2023年3月31日)より「海・川・山の繋がりで豊かな屋久島の自然を守る!プロジェクト」という地元のダイビング事業者を中心とした海底・海岸の清掃が行われている。ocean+αでも、この活動に密着し、紹介してきた。

2年目となった今年度(2023年4月1日から2024年3月31日)は、昨年度よりも多くの場所で実施し、より多くのごみを回収した。今回の記事では、年間通してすべての活動に同行したオーシャナ編集部が前回の記事よりもさらに深く、海底・海岸清掃の舞台裏を紹介していこうと思う。

海底・海岸清掃に参加する地元のダイビング事業者

海底・海岸清掃に参加する地元のダイビング事業者

「海・川・山の繋がりで豊かな屋久島の自然を守る!プロジェクト」とは?

「ひと月に35日雨が降る」と比喩されるほど降水量が多く、「水の島」と言われている屋久島。海の水が蒸発し雲となり、雨が山に降り注ぐ。その雨は、川を伝って、再び海へと流れ込んでいく。まさに海・川・山が繋がることで、水の循環を生み出している。また、屋久島の海は、日本で唯一海域がユネスコエコパーク(※)に登録されていて、魚種日本一(※)になったことがあるほど豊か。一方で昨今は、人間の経済活動による海の環境汚染が叫ばれているが、この屋久島の海にも脅威が存在しているのも事実。

屋久島の海岸に散乱する、どこからともなく流れ着いた大量のごみ

屋久島の海岸に散乱する、どこからともなく流れ着いた大量のごみ

※ユネスコエコパーク:豊かな生態系を有し、地域の自然資源を活用した持続可能な経済活動を進めるモデル地域。自然保護と地域の人々の生活とが両立した持続的な発展を目指すもので、2022年6月現在134か国738地域、うち国内は10地域が認定されている。
※全国一斉にダイバーが海に潜り、カメラで確認した魚の種類の数を競うコンテスト「フォトデゥポアソン」(日本水中活動協会、水中映像委員会主催)で、過去3年連続日本一になった実績がある

「屋久島ダイビングの基本情報 亜熱帯と温帯の生き物が混在する豊饒の海」

そこで昨年度より、屋久島町にふるさと納税で集まった寄付金を用いて、水の循環の起源である海から環境保全を目的とした海底・海岸清掃を中心とする「海・川・山の繋がりで豊かな屋久島の自然を守る!プロジェクト」が発足。屋久島スキューバダイビング事業者組合に所属するプロのダイバーを中心に海底と海側からしか上陸できない海岸(陸路からはごみ搬送車で近くに行けない海岸)で清掃活動を実施している。

昨年度は、屋久島のダイビングの拠点ともなっている島の北側に位置する一湊漁港の周辺で、海底清掃を2回、海岸清掃を1回実施。海底清掃では、ペットボトルやビン、カンなどの生活ごみ、そして海岸清掃ではブイや魚網などの漁具をたくさんのごみを回収することができた。本活動の内容や参加したダイビング事業者の声は、下記の動画をぜひチェックしていただきたい。

屋久島町としては、海の環境保全を単発で終わらすことなく、継続する考えで、2年目の実施も決まり、今年度は海底清掃を8回、海岸清掃を3回実施した。

社会の現状を映し出す海のごみ

では、実際に今年度の海底海岸清掃の様子を見てみよう。今年度の海岸清掃に関しては、昨年度に引き続き一湊漁港周辺の海岸と口永良部島の海岸、海底清掃に関しては一湊漁港周辺に加え地元のダイビング事業者でさえほとんど潜らない屋久島の西に位置する吉田漁港や南西に位置する栗生漁港、北東に位置する志戸子漁港、そして口永良部島などで行なった。

海岸・海底清掃を実施したエリア(令和5年度)

海岸・海底清掃を実施したエリア(令和5年度)

海岸清掃の様子

島の一部が世界自然遺産に登録されている屋久島。しかしその海岸には、目を疑うほどの大量のごみが漂着している。陸路から搬送車で近づけない海岸は、ごみが漂着しても放置されている状況だ。

ブイなどの漁具やペットボトルなどの生活ごみで海岸は埋め尽くされている(2024年1月28日の一湊漁港周辺の海岸)

ブイなどの漁具やペットボトルなどの生活ごみで海岸は埋め尽くされている(2024年1月28日の一湊漁港周辺の海岸)

海岸清掃を行う場所には、船で海岸の近くまで行き、そこから泳いで海岸に渡る。海岸は岩場となっており、ただでさえ滑りやすい足元。日によっては波が高い場合もあり、細心の注意が必要だ。海や波の知識がなく慣れていない素人では非常に危険な場所。上陸したら、トン袋にごみを集めていく。雨風が吹き荒れる厳しい環境下でもダイバーたちは必死にごみを集める。

ごみを回収する袋などを一緒に運んで上陸

ごみを回収する袋などを一緒に運んで上陸

ダイバー同士で連携をとりながらトン袋にごみを集める

ダイバー同士で連携をとりながらトン袋にごみを集める

岩肌には太いロープや魚網が引っかかり、美しい自然が無惨な姿に

岩肌には太いロープや魚網が引っかかり、美しい自然が無惨な姿に

トン袋がごみでいっぱいになったら、それを船まで再び泳いで運ぶ。トン袋はかなりの重さになっているため、この作業は体力をかなり消耗する。船に到達後、待ち構える船長らが掛け声と共に息を合わせて引き揚げる。

トン袋と一緒に泳いで船まで戻る

トン袋と一緒に泳いで船まで戻る

タイミングを合わせてトン袋を船に引き揚げる

タイミングを合わせてトン袋を船に引き揚げる

作業時間は、船に積み込めるごみの量やダイバーの体力、海況の変化を見ながら、1時間から1時間半。船にたくさんのごみを積み込み、寄港する。

船がごみで沈むのではないかと思うほどいっぱいになる日もあった

船がごみで沈むのではないかと思うほどいっぱいになる日もあった

寄港したら、船から陸にごみを搬送。2024年1月28日に実施した際はダイバー7名でトン袋約6個分のごみを回収した。

海底清掃の様子

水中は陸や船からでは目視できないため、ダイバーなどによる潜水作業が必要不可欠だ。屋久島での海底清掃は昨年度から始まったばかりで、どこにどのようなごみがあるか、まだ未知な部分もある。今年度は15つのポイント(1回の実施で基本的には2つのポイントに潜る)で実施。ダイビングポイントになっているところもあれば、ほぼ誰も水中を見たことがないポイントもあるため調査も兼ねて実施する。

1回の実施で参加するダイバーは約4名

どのポイントでも目立ったのは、サンゴに絡まる多くの漁網や釣り糸だ。サンゴが傷つかないように、複雑に絡みついた糸をハサミやナイフで切りながら丁寧に取り除いた。取り除いた箇所が、白化していたり成長が止まっているように見えるものもあった。

サンゴに複雑に絡まる漁網

サンゴに複雑に絡まる漁網

漁網や釣り糸は一瞬では取れない。根気のいる作業だ

漁網や釣り糸は一瞬では取れない。根気のいる作業だ

海底清掃では、シリンダーに入っている空気の残量や体内に溜まる窒素の量により、1つのポイントでの作業時間が約40分(水深にもよる)と限られているため、すべての漁網や釣り糸を取り切れないこともあった。2024年1月30日に実施した際はダイバー4名でトン袋0.3個分のごみを回収した。

回収したごみをボートに引き揚げる

回収したごみをボートに引き揚げる

引き上げたごみは種類ごとに分別し、写真で記録

引き上げたごみは種類ごとに分別し、写真で記録

海底清掃では、潜れる時間は限られているが、海況を考慮した実施場所の検討や海底清掃作業用の道具や器材の準備、ごみの引き揚げ、ごみの収集まで行うと全工程で半日以上を要する作業(屋久島での体験ダイビングの全行程は1〜2時間ほど)。海岸清掃と同様に海底清掃も、雨風が吹き荒れる厳しい環境下で出航することもある、自然相手のハードな現場だ。

今年度回収したごみの総量は、海底清掃8回でトン袋4.9個分、海岸清掃3回で19.2個分。参加したダイビング事業者数は15名となった。

さらに今年度の「海・川・山の繋がりで豊かな屋久島の自然を守る!プロジェクト」ではここで紹介した海底海岸清掃以外にも、ダイビングを行う拠点である一湊集落の地元住民と屋久島スキューバダイビング事業者組合のダイバーによる合同でビーチクリーンも実施したり、ダイビング事業者に向けた環境に優しいダイビングの国際的なガイドライン「Green Fins」の勉強会実施、屋久島の将来を担う次世代に向けた環境教育プログラムの作成などあらゆる角度から、持続可能な海を目指す動きを加速させていった。

ビーチクリーンでは21名が参加し、トン袋8個分を回収

ビーチクリーンでは21名が参加し、トン袋8個分を回収

「Green Fins」の勉強会でダイビング事業者のスキルアップや意識醸成を図り、持続可能な観光産業を目指す

「Green Fins」の勉強会でダイビング事業者のスキルアップや意識醸成を図り、持続可能な観光産業を目指す

持続可能な屋久島の海を目指して

今まで、屋久島町での環境保全に関する予算は、山や森に充てられ、なかなか海に充てられることはなく、地元住民がボランティアでビーチクリーンを行うに留まっていた。それが、地元のダイビング事業者が増え、海底・海岸清掃への協力体制が整ったことなどが要因となり、昨年度より初めて海の環境保全に予算が充てられ、本プロジェクトが実現。“町の予算が海の環境保全に充てられた”、これは町が海の重要性や価値の高さを再認識し始めたということともいえる。これは屋久島にとって非常に大きなターニングポイントかもしれない。

また、屋久島の海の中は、屋久島の海を誰よりも潜っている地元のダイバーが、誰よりも知っている。水中は陸から見えない場所であるからこそ、環境の変化に気付きづらい。経済活動によって、知らぬ間に海の環境破壊が進んでしまうことは、なんとしても避けなければならない。特に屋久島にとって、水の循環の起源である海の現状を常に把握し、働きかけを継続することは島全体の環境を左右することにもなり得るのではないだろうか。

そのためにも、海底・海岸清掃をただ行うだけではなく、同時に活動内容や屋久島の海の価値(ブランド)を広く発信することで、より多くの人が屋久島の海に対して意識を持ち始め、なんらかの行動を起こすきっかけになる。実際に参加したダイバーも口を揃えて、「この活動をもっと多くの人に知ってもらい、持続的な活動にしていきたい」、と話していた。情報発信は直接的には環境保全に寄与するわけではないが、関係人口を増やし協力者を一人でも多く募るため、そして本プロジェクトを持続的なものにするため、間接的に環境保全へと寄与していくに違いない。

屋久島の豊かな海、そして自然を未来に繋いでいこう。

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悠久の流れの中で、自然と共に生きる知恵と多様な集落の文化がとけあい、人々の営みが循環・持続させていくことを「まちづくり基本理念」とする屋久島町。住民・集落と行政がこの基本理念を共有しながら、「対話」と「協働」により、それぞれの役割・責任を分担しあう『屋久島スタイル』のまちづくり形態を創りあげ、新しいまちの姿(将来ビジョン)の実現を目指している。
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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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