今や常識!海洋プラスチックごみ問題の現状とその影響・解決策をわかりやすく解説

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広大な自然の美しさと生態系の宝庫である海。しかし、今日、プラスチック汚染によってその存続が脅かされているのは言うまでもないだろう。今や海洋生態系のバランスを根底から揺るがすだけでなく、私たち人間の健康にまで被害を及ぼすとされている。
そこでこの記事では、海洋プラスチックごみ問題について、わかりやすく紹介。海洋プラスチック汚染の現状、主要な原因、環境への影響解決策について解説していく。

海洋プラスチックごみとは

海洋プラスチックごみとは、河川や陸地から海へ流出したプラスチック廃棄物のことで、漁具やペットボトル、レジ袋など大きなプラスチック片や、その大きなプラスチック片が波などによって砕かれたり、紫外線で分解されたりしてできる微細なマイクロプラスチック(※)までさまざまなものがある。この海洋プラスチックによる汚染は海洋生態系に深刻な影響を与え、動物の誤食や健康被害を引き起こし、食物連鎖を通じて人間にも影響を及ぼす可能性も強く指摘され、一刻も早い対策が必要とされている。

マイクロプラスチックの例

マイクロプラスチックの例

※マイクロプラスチック
マイクロプラスチックは直径5mm以下の極小のプラスチック片のことを言い、日本でも洗顔料や歯磨き粉に使われているスクラブ剤やフリースなどの合成繊維の衣類から洗濯時に出る微細な繊維、大きなプラスチック製品が分解されてできる断片などがある。極小であるために、微生物から魚類まで多くの生物に摂取されやすいのが特徴。

海に流れるプラスチックごみの量に関しては現在、海洋ごみの中で最も多く、毎年約800万トンものプラスチックが海に流入していると言われている。これは、ジャンボジェット機にして5万機相当に及ぶ量。2050年には海洋ごみの量が魚の量を上回るというのは有名な話だ。

これらの海洋プラスチックごみの大半は、陸上からの流出によるもの。不適切な廃棄物管理、都市化や産業活動、観光業からのごみの流出が主な原因として挙げられる。特に、雨水による排水システムを通じて街中にあるごみが河川や海に流れ出したり、または直接的に河川や海に投棄されることで、知らぬ間に大量のプラスチックが海に流出しているのだ。加えて、漁業活動も海洋プラスチックごみの重要な要因となっている。漁に使用された漁網やロープ(※)などだ。

※こういった海に流出した漁網やロープ、釣り糸、浮きなど、海で使われているプラスチック製の漁具が、海に廃棄されたり、流出したりすることで、ウミガメや魚、海鳥など、さまざまな海洋生物を絡め取り、命を奪う原因となっている。こういった海洋環境に放置されている漁具はゴーストギアと呼ばれ、人の手を離れた後も海洋生物の命を奪っている。これらのゴーストギアは、世界の海では、毎年50万~100万トンにのぼるゴーストギアが流出しているといわれ、海洋生態系への深刻な影響を与えている。

海中から回収されたごみは、ペットボトルなどが目立つ(写真:ふるさと納税で屋久島の海をきれいに! ダイバーたちが世界遺産の海を次世代に繋ぐより)

海中から回収されたごみは、ペットボトルなどが目立つ(写真:ふるさと納税で屋久島の海をきれいに! ダイバーたちが世界遺産の海を次世代に繋ぐより)

また、プラスチックごみは海洋ごみの中でも、自然分解にかなりの年月を要する。たとえば、ペットボトルの分解には450年、釣り糸に至っては600年以上もの長い時間が必要だ。一方で、紙製品の分解は数週間から数ヶ月程度と比較的早く、鉄製品は数年で錆びて分解される。この事実からも、特にプラスチックごみの問題がどれほど深刻で長期的なものであるかがわかる。

日本のプラスチックごみの現状

2017年のデータでは、日本は世界でも有数のプラスチック生産国で、国民一人当たりの容器包装プラスチック廃棄物の量は世界で二番目に多いとされている。コンビニエンスストアが全国各地に点在し、便利である一方で、レジ袋の使用は年間約400億枚にものぼると推測されている。さらに、ペットボトルの年間出荷数は227億本を超えるというデータもある。

日本のプラスチックごみのリサイクル率は84%と高い数字を示しはているが、その大半はサーマルリサイクルと呼ばれる燃焼によるエネルギー回収の方法。このプロセスでは、化石燃料を燃やすことになるため、二酸化炭素の排出が伴い、地球温暖化の問題に対するさらなる対策を必要としている。プラスチック生産量の多い日本の場合、重要となるのは生産・使用を「リデュース=減らすこと」が必要だ。

海洋プラスチックごみの影響

海洋プラスチックごみが、いかに海洋生態系に多大な影響を及ぼしているかはお分かりいただけただろう。ここからは、海洋プラスチックごみがどのような影響があるのかさらに詳しく各分野に分けて見ていこうと思う。

海洋生態系への影響

プラスチックごみは水中で分解されず、長期間にわたって海洋環境に残る。これが繊細で複雑な関係で結ばれている生態系のバランスを崩し、海洋生物の個体数や種の多様性に影響を与える可能性がある。そうすると漁業・養殖業や観光業など、海洋資源に依存する経済活動に悪影響が及ぶ可能性へと繋がる。プラスチックごみにおけるアジア太平洋地域での年間の損失は、漁業・養殖業では年間約3億ドル、観光業で年間約6億ドルという膨大な額になると言われている。
また、マイクロプラスチックは海洋微生物から大型動物まで、幅広い生物に摂取され、食物連鎖を通じて生態系全体にさまざまな健康リスクを引き起こす可能性が指摘されている。

海洋生物への影響

海洋ごみによって魚類、海鳥、アザラシなどの海洋哺乳動物、ウミガメを含む少なくとも約700種もの生物が傷つけられたり死んだりしており、このうち92%がプラスチックごみの影響と言われている。
たとえば漁網などに絡まり自由に動けなくなってしまったり、ビニール袋を餌と間違えて食べてしまい消化管の塞がりや栄養吸収の妨げによる餓死などの健康被害が深刻化。プラスチックごみの摂取率に関しては、ウミガメで52%、海鳥の90%とも推定され、実際にクジラのような大型海洋生物の胃から大量のビニール袋が発見されたり、カメの鼻にストローが刺さっていたりする事例が確認されている。
またプラスチックによる物理的な損傷や化学物質の放出により、生殖率の低下や成長の阻害が起こることもある。

クジラの胃から発見された衝撃的な量のプラスチックごみ(写真:【衝撃】クジラの胃から見つかる大量のプラごみ。海獣学者が危惧する生態系破壊より)

クジラの胃から発見された衝撃的な量のプラスチックごみ(写真:【衝撃】クジラの胃から見つかる大量のプラごみ。海獣学者が危惧する生態系破壊より)

人間への影響

魚介類を通じて、私たち人間の体内にもマイクロプラスチックが混入。1週間に食べているプラスチックの量は1週間でクレジットカード1枚分(約5g)、1ヶ月でレゴブロック1個分(約21g)、1年でヘルメット1個分(約248g)とも言われ、健康リスクを引き起こす可能性があると懸念されている。
具体的には、ホルモン系の乱れや生殖機能の障害、消化器系の炎症や組織の損傷、がんリスクの上昇、与え感染症の抵抗力の低下、発達障害や学習障害の原因になることなどが考えられている。

地球環境への影響

マイクロプラスチックは土壌や水源にも影響を及ぼし、陸上環境にも悪影響を与えることが明らかになっている。さらに、経済的な観点から見てみると、プラスチック汚染は海岸線の美観を損ね、観光業に悪影響を及ぼすのは言うまでもないだろう。

世界的な対処の現状

海洋プラスチックごみに対する世界的な対処は、国際的な合意と国内政策によって徐々にではあるが進展している。国連環境計画(UNEP)は、加盟国間での協議を通じて海洋プラスチックごみ削減のためのガイドラインを設け、他国間での取り組みを促進。欧州連合(EU)では、使い捨てプラスチックの使用禁止を含む厳しい規制を導入し、海洋プラスチックごみの削減に向けた具体的な行動計画を実施している。

また個々の国も、プラスチック製造の減量、リサイクルの強化、持続可能な代替素材への移行を促す国内法を改正。企業レベルでは、CSR活動としてのプラスチック削減イニシアチブや、製品のライフサイクル全体での環境影響を評価する動きが見られる。
しかし、実際の海洋へのプラスチック流出は依然として高水準にあり、これらの取り組みが具体的な改善につながるか、引き続き注視が必要である。

新しいリサイクル技術の取り組み

新しいリサイクル技術の取り組みには、化学リサイクルやバイオリサイクルなど、従来の物理的な方法を超える革新的なプロセスが含まれる。化学リサイクルでは、プラスチックを原料レベルまで分解し、新たなプラスチック製品の製造に再利用。バイオリサイクルでは、特定の微生物を利用してプラスチックを分解し、環境への影響を最小限に。これらの技術は、リサイクルの効率を高め、廃棄物の減量に貢献。

リサイクルされたら何になる?回収されたゴミのその後とは?

微生物による分解

微生物によるプラスチック分解は、特定のバクテリアや菌類がプラスチックをエネルギー源として利用し、自然に分解する能力を活用する技術。これらの微生物は、特にポリエチレンテレフタラート(PET)やポリウレタンなどの特定のプラスチックに対して効果的とされている。研究者はこれらの生物を利用して、環境に優しい分解方法を開発し、持続可能な廃棄物管理への応用を目指している。このアプローチは、廃棄されるプラスチックの量を減らし、海洋汚染を削減する新たな可能性となりそうだ。

微生物による分解の実例

1.イデオネラ・サカイエンシス: 2016年に発見されたバクテリアで、ポリエチレンテレフタラートを二酸化炭素と水にまで分解できる能力があると確認。
2.ペクチン分解酵素: 英国の研究者が、ペクチンから分離した酵素がポリエチレンテレフタラートを分解することを発見。
3.プラスチック食べるミールワーム: ミールワームというゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫の腸内に存在するバクテリアが発泡スチロールを分解できることが明らかになっている。

ボランティア活動や政策の提言

ボランティア活動や政策の提言は、海洋プラスチックごみ問題に取り組むための草の根的アプローチ。ボランティアによるビーチクリーンアップや教育キャンペーンは、地域コミュニティの意識を高め、実際のプラスチック廃棄物の量を削減した例もあるほど。また、市民団体や非政府組織(NGO)が政策提言を行い、持続可能な消費と生産に向けた法律や規制の改正を促すことで、より大きな社会的変化を推進。こうした活動は、一般市民が環境問題に積極的に関与し、政策立案者に影響を与えるための重要な手段である。

大量の漂着ごみを地元住民が主体となり回収(写真:999日石垣島でごみ拾いを続ける田中さんとビーチクリーンby日焼け止め「NEXTA®」より)

大量の漂着ごみを地元住民が主体となり回収(写真:999日石垣島でごみ拾いを続ける田中さんとビーチクリーンby日焼け止め「NEXTA®」より)

PADI AWARE・水中クリーンナップin平沢。ocean+α編集部も参戦して、タイヤ・釣り竿・懐中電灯など回収

国際的に見た日本の取り組み

世界有数のプラスチック生産国で、国民一人当たりの容器包装プラスチック廃棄物の量は世界で二番目に多いと言われる日本。プラスチックごみに対するさまざまな対処や取り組みが行われる中、日本ではどのような取り組みを行なっているのだろう?
2019年のG20大阪サミットで日本は、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提案したことは、日本の確かな目標を国際社会に提示した画期的な事例。

また、途上国への経済的支援やキャパシティビルディングの面でも、日本は積極的に関与。資金提供、技術移転、人材育成を通じて、これらの国々の廃棄物管理能力の向上をサポートしており、海洋プラスチック問題の根本的な解決に向けた国際的な努力を強化している。

日常生活でできる海洋プラスチック削減の取り組み

リユースとリサイクルの推進

プラスチック製品の使用を避け、代わりにガラスや金属、布製の再利用可能なアイテムを選ぼう。水筒やエコバッグ、布製のストローなど、日常的に使えるリユース可能な製品を活用することで、使い捨てプラスチックの使用量を減らすことができる。

買い物時の意識改革

買い物をする際は、できるかぎり過剰包装されていない商品を選び、プラスチックの使用量を削減。また、自分で容器を持参して、量り売りの商品を購入することも効果的。

正しい廃棄方法の実践

プラスチック製品を使用する場合は、正しい分別とリサイクルに努めよう。自治体のルールに従い、プラスチックごみを適切に分別し、リサイクルのサイクルに貢献。

ビーチクリーンへの参加

海岸や川辺でのクリーンアップ活動に参加し、海に流出する前にプラスチックごみを回収。これは地域社会への貢献だけでなく、海洋プラスチック問題に対する自身の意識を高める機会にもなる。

啓発活動への参加と情報拡散

SNSやブログなどを通じて、海洋プラスチック問題や上記で上回してきた日常生活でできる削減策について情報を共有し、周囲の人々の意識改革を促してみよう。

まとめ

海洋プラスチックごみ問題は現代社会が抱える最も深刻な環境問題の一つ。この問題への対応として、プラスチックの使用削減、リサイクルの促進、持続可能な代替素材への移行、厳格かつ迅速な政策と規制の施行が求められている。
また、教育と啓発活動を通じて市民の意識を高めると同時に、ボランティア活動や政策提言を促進することが重要だ。国内外での連携と国際的な取り組みは、持続可能な海洋環境を守るために不可欠だ。
私たちも、ポイ捨てをしないのは当たり前で、加えてマイボトルやエコバッグを使って使い捨てプラスチックの利用回数を減らしたり、ビーチクリーンイベントに参加するなど、身近な取り組みからまずは始めてみよう。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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