自然環境危機下の今こそ取り組むべき「ネイチャーポジティブ」なビジネスにチャンスあり!?
自然環境と気候変動の状況が、もう後戻りできないほどの転換点に差し掛かっている昨今。世界経済フォーラム(WEF)は、自然に良い影響をもたらす「ネイチャーポジティブ」なビジネスによって、2030年までに3億9500万人の雇用創出と年間10.1兆ドル(約1070兆円)規模のビジネスチャンスが見込めることを報告書『自然とビジネスの未来』にて発表した。
発表の背景には、自然を喪失することで世界のGDPの半分以上にあたる44兆ドル(約4700兆円)の経済価値を損失する可能性があるということと、経済再建・復興の過程で私たちが選択する社会や経済のあり方が、これからの数十年を決める可能性が高いという予測があるよう。だからこそ、自然環境危機下の今、読む必要があるというわけだ。
報告書の内容は、ソーシャルエコロジー的観点に基づく施策の成功事例や、社会経済システムの変革によりどのようにビジネスチャンスが創出されるのかという、「ネイチャーポジティブ」なビジネスが利益をもたらすことを証明するものになっている。
本記事では、報告書を編集・翻訳した「サステナブル・ブランド ジャパン」に掲載されている記事内容を一部編集してご紹介させていただく。
報告書の内容
その1:ビジネスの成果が上がった具体的事例
“「ネイチャーポジティブ」なビジネス”と聞いても、理念や哲学は素晴らしいのだが、ビジネスとしては、どう成り立つのかイメージできない方も多くいるだろう。その疑問を紐解くべく、この報告書では、ビジネスとして成果が上がった具体的事例が以下のように紹介されている。
●インドネシアではセンサーと衛星画像を活用したスマート農業により、作物の平均収穫量が60%上がった。
●イタリアでは、2015年に開催されたミラノ万博で使用した100ヘクタール規模の土地が「ヨーロッパ・イノベーション・ハブ」に生まれ変わった。現在では科学的なハブ、そして高機能で自然と共生するインフラを備えたコミュニティの拠点として、約1000人の雇用を生み出している。
●ベトナムでは、危機的状況だったマングローブが回復したことで、沿岸部の住人らの貝やカキなどの養殖による収入が2倍以上になった。
このように、「ネイチャーポジティブ」なビジネスで利益をしっかりと上げられれば、必ずしもエコロジカルに基づいた考え方でなくとも、積極的に自然環境の視点をビジネスに導入する人が増えるだろう。そうなれば、自然と共生する社会の実現により近づけるかもしれない。
その2:経済システムの変革提案とその見込み
また、1「食料、土地・海の利用」、2「インフラと建築環境」、3「エネルギーと抽出物」という3つの社会経済システムを変革することで、自然に良い影響をもたらしながら冒頭に述べたようなビジネス価値や雇用がどのように創出されるのかも説明されている。1~3までの変革の一例が以下の通りだ。
●1「食料」にフォーカスした例:
世界の食糧の約75%は12種の植物と5種の動物からできていると言われており、より幅広い種類の野菜や果物を食べる、植物ベースの生活にシフトするなど多様な食生活へ移行することで、2030年までに年間3100億ドル(約32兆円)のビジネスチャンスを創出できるという。
●2の「インフラ」にフォーカスした例:
大規模なスマートビルの建設とスマートセンサーの利用といった、スマートインフラのさらなる整備や再生可能エネルギーの普及が進めば、2030年までに約9400億ドル(約100兆円)節約できる可能性があるそう。
●3の「エネルギー」にフォーカスした例:
再生可能エネルギー分野への投資は、2030年までに6500億ドル(約69兆円)に達し、ROI(投資利益率)は10%以上となることが予想されている。数百万人の新規雇用も見込まれ、太陽光発電に関していえば、30カ国以上で化石燃料と変わらない価格で実現できるようになるという。
ネイチャーポジティブな考え方には、利益を生み出しながら持続可能なビジネスとして成り立たせるヒントがたくさんありそうだ。「資本主義体制における環境問題の解決は不可能」と言われていた時代はもう過去のことなのだろう。そんなことを頭の片隅に置きながら、是非、報告書原文と、報告書を編集・翻訳した「サステナブル・ブランド ジャパン」の記事をチェックしてみてほしい。
報告書:『自然とビジネスの未来』
参考:自然を優先するビジネス、2030年までに4億人弱の雇用創出(サステナブル・ブランド ジャパン)
■サステナブル・ブランド ジャパンについて
株式会社博展(本社:東京都中央区)が運営する「サステナブル(持続可能性)」をテーマとした、日本のビジネスパーソン向けの情報サイト。主に内外のESG※情報をニュースとして配信している。これからのビジネスや企業のあり方への提言を様々な角度から発信することで「サステナブル」を継続的に討議するコミュニティの醸成を目指している。
※ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの。今日、企業の長期的な成長のためには、ESGが示す3つの観点が必要だという考え方が世界的に広まっている。