軽石の海を潜るとそこには暗闇と謎の生物が 〜沖縄本島北部の軽石状況レポート〜
8月に発生した小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」の噴火。明治以降で国内最大規模ともいわれ、排出された大量の軽石が10月上旬以降、沖縄県や鹿児島県奄美地方に漂着するようになった。
沖縄本島に住んでいる私も、ビーチに流れ着いた大量の軽石や船から見える海面に広がるグレーの帯を見て、「何やら異常なことが起きている」と感じる日々だ。
漁港や観光で使用されるビーチに溜まる軽石に対しては、撤去作業が継続的に行われているが、風向きによって漂着流が繰り返され、フェリーの欠航、養殖魚の死亡、ダイビング客のキャンセルといった問題が発生している。
一方で海の中では何が起きているのだろうか。水中探検家・水中カメラマンの広部俊明氏と、沖縄本島北部の軽石が漂着する港やビーチを潜ってきたのでレポートしていきたい。
北部のビーチや港の様子
恩納村から国道58号線を北上し、最北端の辺戸岬を通って東海岸の安田漁港を最終地点に、漁港やビーチの様子を見て周った。移動距離は片道でざっと100km程度。
はじめに驚いたのは名護市北部の道の駅「羽地の駅」付近。羽地漁協を越えたあたりのビーチが一面グレーになり、通りすがりの多くの人が車を停めてその様子を眺めていた。
「羽地の駅」目の前のマングローブ林も、軽石で埋め尽くされている。
そのまま大宜見村、国頭村を通り辺戸岬へ。左手の海にはいつ見ても、どこかしらに軽石が浮いている。
辺戸岬の東側のビーチにも軽石が漂着している。ウミガメが産卵をしにくるビーチらしいが…。
また、辺土名漁港や安田漁港ではパワーショベルによる撤去作業や、これ以上軽石が入ってこないようにするためのネットの設置が行われていた。
一方で大宜見村の塩屋漁港には、透き通ってきれいなままの場所も。風向きや地形で漂着の仕方が大きく変わることを実感できる。
灰色になった漁港に潜る
水中の様子を撮影するために潜ったのは、国頭村の東海岸に位置する奥漁港と恩納村のダイヤモンドビーチ。最初に潜ったのは奥漁港。
奥漁港にはほとんど船は停泊していなかった。撤去作業が行われていないのか、広範囲に軽石が漂着していた。
エントリーすると透視度は1mほどで、広部氏のフィンを見ながらロストしないようについていくので精一杯だった。「ここまで透視度が悪いことはあまりないので、軽石の影響なのではないでしょうか」と広部氏は言う。
外から見ていると軽石は水面に浮いているだけかと思っていたが、水中にも無数の軽石が漂っている。泳いでいると顔に軽石が当たるのがわかる。
水面の軽石の層が厚いところへいくと真っ暗。まるでナイトダイビングだ。水底にはサンゴもあり、このまま光が当たらないことを考えると、光合成ができなくなり、成長に影響がでるのではないだろうか。
ダイヤモンドビーチは、旧瀬良垣漁港の隣からエントリー。この日はぱっと見軽石がそこまで浮いていないように見えたが、近づくと少なからず軽石が浮いているのがわかる。
ここで、軽石と同程度の大きさの、見たことのない魚が軽石と一緒に水面を漂っていることに気がついた。広部氏によると「おそらくアミモンガラの幼魚です。軽石と一緒に流れ着いて来たのでしょう」とのこと。「新しい生態系が生まれるでしょう」という広部氏だが、あまりの数に、私は不気味さを感じずにはいられなかった。
このポイントは透視度も悪くなく、サンゴやクマノミを探しながらファンダイビングも楽しむことができた。しかし、小さな軽石は至る所で見られる。このポイントを熟知する広部氏は「いつもより魚が少なかったですね。暗かったので夜と勘違いしているのでしょうか」と言っていた。
旧漁港の方まで行くと、奥漁港と同じく軽石の層が太陽をさえぎり真っ暗になっていた。
漁港やビーチ、水中の様子をお伝えさせていただいたが、実際のところ海の生き物や海洋環境にどういった影響が起こるのかはわからない。一方で見たことのない生き物が現れたり、サンゴへの太陽光が遮断されたりしているのは事実だ。最近では死んだ子ウミガメから大量の軽石が発見されたというニュースも。
自然の脅威に対しできることも限られ、もどかしさを感じるが、まずは多くの方に現状を知っていただけたらと思う。詳しくは広部氏の動画を観ていただき、少しでも多くの人に状況が伝わるようシェアをしていただけたら幸いだ。
▶︎水中探検家広部俊明のWater world
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