バディシステムの向こう側
水深計、あるいは水深計が組み込まれたダイブコンピューターは、言うまでもなく、最大水深や減圧停止不要潜水のためのデータのチェック、ナビゲーションのお供等、ダイビングを管理するための重要な器材だ。
しかし、この水深計やダイブコンピューターも、いわゆる標準的な装備では、残圧計と同じく、1つで済まされることが多い。
例えば、万一、水深計の数値が狂っていて、減圧停止が必要ないと思って楽しんでいたダイビングが、実はバリバリの減圧停止が必要なダイビングだったら..。
例えば、水深計上はまだ大丈夫と思って深度を下げたらガッツリ窒素酔い深度に突入、なんてハメになったら..。
そう考えると、この水深計やダイブコンピューターも、重要な器材にはバックアップを、の法則がお似合いの器材のひとつっぽい。
付け加えるなら、特にデジタルの水深表示の元となる圧力センサーはそのお仕事の重要度から考えると、壊れる可能性が低くない。
にも関わらず、水深関係のゲージはひとつでもいいよ、が、まかり通っていることには、実はある前提条件がある。
その条件のひとつが、ダイビング前のオリエンテーション。
「ダイビングの前にはこれから潜るポイントのオリエンテーションを受けましょう」というお話はエントリー講習で必ず語られる定番話だが、実は、ここに器材のトラブルのチェックに関するアイディアも含まれているのだ。
オリエンテーションには、通常「潜降地点は●mで、●mの根の岩を経由して、ボトムの最大水深は●m」的な要素が含まれている。
ということは、このすでに明かされている水深部分で自分の水深計やダイブコンピューターが表示する深度をチェックし、そこに大きな誤差がなければ、とりあえずその水深表示は信じるに足る、ということになる。
そこに水深に関するマージンを加えると、それで、とりあえず水深計がひとつでも危険な器材構成とはならない理由が出来上がる。
逆に、こうしたチェックの意識ない状態での水深計がひとつの機材構成は、危険をはらんだ器材構成、ということになるワケだ。
また、ある時点で突然水深計に信頼がおけなくなったような場合は、やはりバディの存在が重要。
これがもうひとつの必要条件だ。
さらに、ダイビング前には、ある程度の潜水計画が不可欠、という主張も、器材のトラブルの可能性を考えると正当性を帯びてくる。
今回はこの先のお話は省略。
もし、お時間と興味があって、ご自身でこのお話の続きを考えてみると、それはリスクマネージメントに関する発想の発展性につながると思います。
それはともかく、ということで、ここでも登場してくるのはバディの存在。
つまり、現状のレクリエーショナルダイビングにおけるリスクマネージメントは、バディに深く深く依存しているのだ。
しかし、同時にこれはバディの能力がリスクマネージメントの絶対値を大きく左右することを意味する。
バディ自身のダイバーとしての能力、バディシステムがリスクマネージメントの要となっているという意識、それらが低いバディとのバディシステムは、ぶっちゃけ、個人で潜る以上の危険な状況を生む可能性を持っているのだ。
そこに今までお話させていただいてきた類の、マニュアル化の弊害を重ね合わせると、現状のレクリエーショナルダイビングのリスクマネージメントのレベルに対して楽観的に考えることが出来るのは、かなり本格的な楽観主義者なんじゃない、と私は思う。
こうした印象を抱く一般ダイバーも、世界的には少なくないようだ。
日本では全く一般的ではないが、世界を見渡すと、バディへの依存に過度な期待を抱かないこうしたダイバーに対するカリキュラムも、ちゃんと用意されている。
例えば、テックダイブの指導団体が母体のレクリエーショナルダイビングの指導団体であるSDIは、こうした発想の元、「ソロダイビングプログラム」を用意している。
同じくテックダイブの指導団体であるIANTDには、インストタクターがダイビングのクオリティをUPするために必要と思う要素を加えてゆける「エッセンシャルダイバー」というプログラムがある。
こうしたプロブラムの内容を文字で紹介するのは身に余る大仕事なので、表向き不可能ということにしておくが、例えば、フィリピンかメキシコかタイが指定のロケ地で、さらに、寺山編集長をモルモットにしていじり倒してもいいよ、という前提で、具体的なコース内容の紹介を紹介する企画をもちかけられたら、私は思い切り喜んで協力させていただきます。。。。