サメを食べるのと見るのではどっちがお得か?漁獲と観光のバランスを考える

前回、フカヒレのために生きたままサメを投棄するフィンニングについての記事を書きましたが、今回は、サメのツーリズムの可能性についてのお話しです。

バハマのタイガーシャーククルーズ(撮影:越智隆治)

ある自然保護雑誌のレポートによれば、サメツーリズム、つまり、サメ見物の経済効果は年間31,400万ドル(約314億円)、新たな研究から今後20年間で78,000万ドル(780億円)まで伸びる予測がされております。

ただ、サメの保護の大合唱の中での1レポートでありますから、かなり漁獲反対見物賛成のスタンスであることは勘定に入れてお読みいただきたい。

世界のサメの漁獲は年間63,000万ドル(650億円、ずいぶん少ないな!?)で急激に減っております。
そのような現状の中で、「サメツーリズムは伸びている」、この数字をそのまま信じれば、20年足らずのうちに、漁業より観光のほうが大きな産業になるという勘定であります。

モルディブ、パラオ、バハマなど、観光で食べているお国は、近年はサメの保護区を設けて、サメの漁獲を禁止しているようであります。
そのほかにもサメの保護に補助金を出す国も多いとか。

ハンマーヘッドシャークからホオジロザメまで、サメツーリズム、サメ見物に参加する人は、年間60万人、29カ国で1万の産業を支えております。

近頃話題のフィリピン、オスロブのジンベエザメも、伊豆の神子元島のハンマーヘッドとのエンカウンターも、この新たなサメの人間様への貢献であります。

ハワイのあるダイビングショップはサメを売りものにして、年間数億円を売り上げているとか、話八分でありますが、まさにサメ大明神様であります。

やどかり仙人コラム

しかしながら、この産業の地位の逆転、一見よいことばかりでありますが、ツーリズムが伸びるには、あくまでもサメのバイオマス生存数が少なくとも今より減らないことが条件であります。

このヤドカリ爺ならずとも、このままサメを獲って食ってしまえば、サメで観光万々歳などということはまさに絵に画いた餅。
見物どころではなく、絶滅動物図で「これがホホジロザメで50年前までは世界中の海にいたのだ」と見るばかりになるのは間違いないと思われます。

食べなければ、「漁業よりサメは大きな観光資源になる」、それどころか「経済的には取って代わる可能性がある」という、人間にとってもサメにとってもよい話でありますが、そうは問屋がおろすまいと思われるのは、読者のみなさまも同じかと。

蛇足ながら、我らがダイバーの憧れの恋人、あのマンタもインドネシア、マレーシアといった海域では、やはり激減しているといわれております。

石垣島のマンタは、うざいダイバーに悩まされることを除けば、その意味では幸福ものであります。
中国世界の療法薬として高価に取引されていたのが、その理由とか。
そのお話はいずれまた。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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