フカヒレスープのためにサメが絶滅の危機!?~オバマ大統領、サメのフィンニング禁止法案に署名~

80%も減少!? 高まりを見せるサメの保護活動

バハマのタイガーシャーククルーズ(撮影:越智隆治)

アメリカではサメの保護運動が大きな高まりを見せているのは、皆さんご存知でしょう。

その保護の背景には、すでにサメの国際自然保護連合によれば、39種が絶滅の危機にあるとされており、この50年間でサメの種の80%が減少したという科学者の主張があります。
もちろんこの主張には統計の取り方で大きな違いがありますが、年間2600万尾から7300万尾が捕獲されているといわれます。

サメという魚類は、硬骨魚類に比べて繁殖力が低く、いわゆる漁業の対象にすれば、あっという間に激減するというというのが基本的な保護運動の論拠であります。
現実はマグロの延縄などでの混獲などを含む、獲り過ぎが原因なのは、誰も知っているのに、その保護運動の最先端というか、象徴的な運動がサメのフィンニング(編注: フカヒレなどの食材のため、ヒレだけを取るためにサメを殺し、その他の部分は海上で投棄する)であります。

”一皿100ドルのフカヒレスープのためにサメが殺される”というかなりセンセーショナルキャンペーンが行われています。

サメのヒレを天日干しして作るフカヒレ

サメのヒレを天日干しして作るフカヒレ


finning | No Fish Leftより

このヤドカリ爺も フカヒレ用に漁獲されるサメの数など、全体からみれば、たかが知れてと思っていたのですが、なんとこれが54,000万ドル(540億円)の市場なのだそうであります。
しかも国際的フカヒレマフィアも暗躍するという、状況もあるそうな。

フカヒレのためのサメの捕獲というと、太平洋の西部アジア的なイメージがありますが、フカヒレ市場の50~80%を牛耳る香港の、その輸入の1/3はスペインをはじめとしたヨーロッパ各国が供給源であるとされています。
漁獲の方法はいろいろですが、ヨーロッパの多くの国は、どの国も漁業大国で、いわば合法的に獲ったサメであります。
いやそうだというのが建前であります。

やどかり仙人コラム

2000年に成立したフィンニング禁止法は、いわゆる“ザル法”!?

現実はサメを獲ることすべてを禁止するなど、それとは行きません。
そこで、サメ保護の矛先は、フィンニングに向かうことになります。
 
フカヒレ料理用にサメのヒレだけを獲るためにサメが乱獲され、ヒレを切り取られたサメを生きたまま海に投棄する、これが、いわゆるフィンニングで、特に問題視されています。

ヒレを切り取られ、海に捨てられたサメ

ヒレを切り取られ、海に捨てられたサメ


GLOBAL OCEAN Finning Factsより

■youtubeにも動画があふれている

もちろんすべてのサメが フィンニングの目的で漁獲されているわけではなく、マグロの延縄漁などで混獲されたものがフカヒレに加工されるものもあります。

しかし、サメの魚体は1kgあたり数十セントなのに対して、フカヒレになると1kgで400ドル、しかも輸送費もかからず、保存のための冷凍設備もいりません。
なんとジンベイザメやウバザメのヒレは、1枚が1万ドルなどという、法外な値段がつくという話もあります(本当においしいの!?)。

ヒレを切り取られて海底にゴロゴロと並ぶ残酷なシーンがテレビで報じられ、フィンニング禁止の大合唱が世界中で起きたのが10年ほど前からであります。

そのような気運を受け、2000年にクリントン大統領がフィンニング禁止法案に署名をして、アメリカではフィンニングが禁止されました。

といっても、サメからフカヒレを切り取るのがすべて禁止されたかというとそうではなく、フィンニング、つまり生きたサメからヒレを切り取って、海に捨ててはいけないという法律であります。
もっといえば、網に入った、延縄にかかったサメのヒレを海の上で切り取って、サメの本体を捨ててはいけない。

つまり、合法的に獲ったサメのヒレを切り取るなら、いったん陸にもってこいという法律であります。獲っちゃいかんのではなく、フカヒレだけのために残酷なことはしてはいかんというのが、その趣旨であります。

実際には、このフィンニングによって、つまり非合法に作られたフカヒレかどうかは、市場では区別がつかないので、保護論者からいえば、典型的なザル法ということになります。

世界の多くの国が、このフィンニングを禁止しているのですが、大体がサメを獲ること自体、また、フカヒレを作ることを禁止しているわけではありません。
香港のフカヒレの大きな供給源であるEUも、ヒレのついたサメだけが陸揚げできるルールになっているのですが、そんなルールを守らせるのは実際にはかなり困難です。

当然これではサメの保護の声はおさまるはずはありません。

オバマ大統領が署名したフィンニング禁止法

さらにその後の10年でサメ保護の大合唱はどんどん喧しくなり、その一方で、中国のアジアでの台頭で、中華料理の文化圏もさらに広がり、フカヒレの需要も高まるという、ますます困った状況になるわけであります。

ハワイのようにフカヒレの輸出入、さらにはフカヒレ製品を持っているだけでも、法律違反という州も出てきます。
当然、この州では中国料理のメニューにはフカヒレはないことになります。

カリフォルニアのモンタレー・ベイ水族館は、Sea Food Watchという、海の魚、何を食べたらよいのかという魚類保護運動で有名ですが、もちろんサメはAvoid(食べてはいけない)リストの上位に常に入っています。 

そして、2012年。
昨年のことですが、今度はザル法の抜け穴を閉じるために、オバマ大統領が合法的に獲られたサメでもフィンニングを禁止する法案に署名します。
つまり、どんな獲り方をしても、アメリカ国内ではフカヒレを作ってはいけないという法律であります。

ヒレを切られたサメ
AntiSharkFinning.comより)

もっともアメリカがフィンニングを禁じたからといって、世界中でフカヒレを生産しているので、世界中でフィンニングを禁止し、フカヒレの国際貿易を禁じなければ、どうにもなりません。

枯渇寸前の資源。消える食文化も止むなし

なんとなく、この“一皿100ドルのフカヒレスープ”反対運動”は、“チョコバーサイズの黒マグロの大トロ一切れが10ドル”の日本バッシングとよく似ております。

世界的にツナ全体の重要はうなぎ昇りで、アメリカなどはツナの缶詰の最大消費国の1つといわれております。
そして一切れ10ドルの黒マグロの日本への輸出国であります。

ボストン沖で獲られた黒マグロは、即日日本に送られて、翌日には築地市場でせりにかけられるというのですから、アメリカもそう簡単には、マグロの禁漁に賛成をするはずもありません。

マグロはさておき、いくら大統領がサメのフィンニング禁止令に署名したからといっても、アメリカは連邦制のお国柄。
すべての州が、右へ倣えというわけにはいかないようであります。

テキサス州では、合法的に作られたフカヒレの販売も禁止する法案が否決されております。
ハワイ州のようにフカヒレ製品を持つことも許されない、つまり食べられない州もあれば、まだフカヒレは作れるよ、という州もあるわけです。

フカヒレのスープも、マグロの大トロのすしも、それぞれのお国の代表的な食文化であります。
このヤドカリ爺もある日突然それをやめろといわれても、やはり、わかっちゃいるけどやめられないといった気分ですが、しかし今や事態はそれどころでなく、海の無尽蔵と思われた資源も、気がついたら枯渇寸前というわけであります。

そんなフカヒレ・バッシングの大合唱の中で、中国が政府の公式のバンケット(晩餐会)で、フカヒレはサーブしないという発表をしております。
フカヒレ流通の本拠の香港をほうっておいて、よく言うよという感じもしますが、世界的なサメ保護の声への配慮のポーズであることは間違いありません。

どちらにしても、サメの危機は事実であるわけで、少なくともフカヒレに関して、それほど遠くない将来、国際的な取引が禁止されることになるかもしれません。

うなぎが不漁で、蒲焼は庶民の手の届かないご馳走になってしまいましたが、まるでうなぎの稚魚が取れないということは、日本のうなぎは不漁どころの騒ぎじゃなくて、絶滅寸前を意味しております。

こんなことにならぬ前に、不本意ながらフカヒレラーメンをあきらめることをおすすめしたい。

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PROFILE
1964年にダイビングを始め、インストラクター制度の導入に務めるなど、PADIナンバー“伝説の2桁”を誇るダイビング界の生き字引。
インストラクターをやめ、マスコミを定年退職した今は、ギターとB級グルメが楽しみの日々。
つねづね自由に住居を脱ぎかえるヤドカリの地味・自由さにあこがれる。
ダイコンよりテーブル、マンタよりホンダワラの中のメバルが好き。
本名の唐沢嘉昭で、ダイビングマニュアルをはじめ、ダイビング関連の訳書多数。
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