ダイバーにも密接に関係する「前線」ってなに?

ローシン&コ・クラクルーズ、日の出の雲

気象予報士くま呑みの“ダイバーのためのお天気講座”

みなさん、こんにちは!
突然ですが、こんな話を聞いたことがありませんでしょうか?

ボートダイビングの時、比較的静かな南西よりの風が吹いている状況でダイビングを開始して、エキジットしてみたら強い北よりの風に替わっており、3m以上の大波で海面が大荒れだった。
ボートはあるべきところに無く、綱が引きちぎられてボートははるか風下に流されて座礁していた…。

前回の特集で、集中豪雨の原因の一つとして、秋雨前線を上げました。
たしかに、「前線を刺激して大雨」とか「前線が通過するから海が荒れる」なんて聞きますけど、前線っていまひとつどんなものか分かりにくいかもしれません。

そこで、これから何回かにわけて、前線のお話をしたいと思います。

天気の急変を伴う前線

前述の話は、まさに、寒冷前線が通過したことによって、天気が急変して起きたものです。

ここまでのことでなくても、比較的天気が穏やかだったのに突然天気が急に悪くなって、干していたダイビング器材が濡れたり、突風で飛ばされそうになったなんて経験はあるかもしれません。

そんな時、南の島であればただのスコールのこともありますが、温帯低気圧の近くなどで、風向きが変わったり気温が急に寒くなったりしたら、寒冷前線の通過だったのかもしれません。

寒冷前線の通過とは、このように、実は、低気圧本体の通過よりはるかに大きな被害をもたらす場合があるのです。

前線とは、空気中にできる潮目のようなもの?

さて、そもそも、前線とはどんなものなのでしょうか?

…という話の前に、ダイバーの皆さんでしたら、水中で突然ある場所を境に水温が変わるという経験をしたことはないでしょうか。

だいたいそこには、ゆらゆらと向こう側がぼけて見えるような「サーモクライン」があったりして、そのむこうとこちらで、急に水温が冷たくなったり生ぬるくなったりするほかに、透明度が極端に違ったり、潮の流れの向きが違ったりすることがあるでしょう。

本来なら海水は液体なのだからすぐに混ざり合ってしまいそうなのに、性質の違う海水は意外に混ざり合わないものなので、境目がはっきりしているものなのです。
時に、その境目が水面まで行っていると、水上から見たときには潮目に見えるわけです。

ちょうど、前線というのは、その潮目に相当するものと思うと理解がしやすいかもしれません。

海水と同様、空気も、性質の違う空気はなかなか簡単には混ざりあわないのです。
ですから、空気の塊と別の種類の空気の塊には境目の面ができます。ちょうど、サーモクラインの場所のようにです。
ここを「前線面(前面)」と言います。

そして、性質の違う海水の境目が海面に当たる場所が「潮目」であったように、性質の違う空気の境目が地面に当たる場所が「前線」となるのです。

日本は前線ができやすい?

ところで、前線というのは「性質の違う空気がぶつかり合うところ」ですが、その性質の違う空気はどこから来るのでしょうか。

本来、温帯域は暖かな空気がながれていて「常春の国」であるようなところであるべきでしょう。
しかし、日本上空を流れる偏西風の風上には、ヒマラヤ山脈があります。

大体、天気は対流圏の中で変わりますが、対流圏の高さはおおまかに1万メートル程度です。
そこに8千メートル級の山々があるということは、大きな壁になっているわけで、どうしても、日本に来る偏西風はヒマラヤの北か南のいずれかを通ってくることが多くなります。

そうすると、北を回ってきた冷たい空気と、南を回ってきた暖かい空気が日本上空でぶつかり合って前線を形成しやすくなります。
言わば日本は、偏西風の中にある「ヒマラヤ」という隠れ根の後ろにできた潮目のあたりにあるようなものなのです。

ですから、日本は、世界の温帯域の中で非常に独特な気候を持っています。海が近い場所としてはめずらしく、夏暑くて、冬が寒く、春・秋が短いすみにくいところとも言えます。
まぁ、良く言えば四季がはっきりした美しい国でもあるわけですが。

また、(土砂災害の特集でも書きましたが)天気が安定せず、雨が降りやすい気候で、そのために日本と韓国の天気予報の技術は世界でもトップクラスなのです。

前線のところで天気が崩れやすい理由

では、前線ができると、なぜ天気が安定しないのでしょうか。

これは、雲は上昇気流があるところに出来るという性質があるためです。

一定以上の水蒸気がある場合に、上昇気流があると、雲が発生します。上昇気流の発生要因は、暖められた海面や地面、風が島や山に当たった場合などがありえます。
そして、前線の場所で暖かな空気の方が、冷たい空気より軽いので上に昇ってそこにも上昇気流が発生することになり、雲が発生するのです。

だから、前線のあたりでは天気が崩れやすくなるのです。
日本は世界平均のほぼ倍の降水量がありますが、その大きな要因として前線ができやすい場所にあるということがあるのです。

このように、日本に住んでいる以上、前線はつき物です。
次回以降は、もうちょっと細かく前線との付き合い方のお話をします。
前線の種類や、そこで発生する温帯低気圧について、私達ダイバーのとしてどのように対処すればいいかを、ご一緒に考えてみましょう。

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PROFILE
日本気象予報士会会員。
国際基督教大学(ICU) 理学科物理卒。
1995 年 よりダイビングを始める。
外見が「熊」なダイバーなので、魚の名前に因んで「くま呑み」を名乗る。

中学の理科の授業で、先生が教卓で雲を作る実験をしてくれたのを見て以来、気象学、天文学、地学に興味を持つ。
ダイビングを始めてからも海と空を眺めるのが好きで、2002年、気象予報士を取得。

ダイビングのスタイルは、「地形派」。
ドロップオフやカバーン、アーチや地層の割れ目などを眺めるのが好き。
特に、頭上のアーチなどをくぐった先で、水面からの光が見える瞬間に萌えてしまう。

ダイビング以外の趣味は、オーガナイズド(組織)・キャンプ、合唱、キャリア
・カウンセリング。
現在は、国際基督教大学にて学生や子ども向けの組織キャンプのディレクターも
努める。
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