世界最北のサンゴ礁がなぜ日本近海にできたのか

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グレートバリアリーフのサンゴ(撮影:越智隆治)

世界最北のサンゴ礁!?
黒潮の影響が色濃い日本の海

造礁サンゴ類は、体内に共生している藻類の光合成によって、多くのエネルギーを得ているため、海水温や光の強さによってサンゴの成長速度は大きく変わってきます。

サンゴの骨格が積み重なって、サンゴ礁地形を形成するためには、それだけ多くのサンゴの骨格が必要で、成長速度が十分に速い地域にしかサンゴ礁は形成されません。

そのため一般的に、サンゴ礁は最寒月の平均水温が18℃以上の地域に形成されると言われています。

造礁サンゴの分布域

造礁サンゴの分布域(黄色)。CoralGeography – coraldigest より

黄色い部分がサンゴ礁の分布域で、熱帯地域(緑色の帯)によく分布しています。

しかし、日本周辺の分布域を見てみて下さい。
日本周辺では世界最北までサンゴ礁が分布しています。

どうしてでしょうか?

その答えは黒潮の存在です。

これは2011年に一番寒かった1週間の海水温を示した図です。

衛星から観測された冬の海水温

衛星から観測された冬の海水温。海上の黒い斑点は雲で観測されなかった部分

日本の太平洋沿岸を、暖流「黒潮」が暖かい海水を運んできているのが分かります。

黒潮はルートを変えながら流れているため、常に海水温18℃以上が保たれている地域=つまり日本のサンゴ礁の北限は、長らく種子島であると言われてきました。

しかし2012年に壱岐と対馬にもサンゴ礁地形が形成されていることが明らかになり、世界で一番北(低緯度)にあるサンゴ礁として、国立環境研究所の山野博士らによって報告されました。

サンゴ礁とサンゴ群集の違い

さて、太平洋側の種子島以北にもたくさんのサンゴが見られることをご存知でしょうか?

この海域ではサンゴの成長速度が、サンゴ礁を形成するほど速くないため、サンゴ礁地形はありません。

しかし場所によっては海底がほぼ見えないほどにサンゴが元気なところもあります。

和歌山県串本海中公園のクシハダミドリイシ群集(撮影:座安佑奈)

和歌山県串本海中公園の見事なクシハダミドリイシ群集

「サンゴ礁域」と区別するために、サンゴ礁が形成されない種子島周辺以北の、サンゴの生息域は「サンゴ群集域」と呼ばれています。

実際に現地に見に行ったことはないですが、造礁サンゴ自体は能登半島や佐渡島まで分布しているという記録があり驚きました。

サンゴ群集域では海藻もよく育つので、春から初夏にかけては温帯域独特の光景、海藻に埋もれるサンゴ群集を見る事ができます。

和歌山県田辺市沖の同じ場所の3月と9月のサンゴ群集(撮影:座安佑奈)

和歌山県田辺市沖のサンゴ群集の同じ場所の写真。左)3月、右)9月

温帯域の浅瀬で生い茂るホンダワラの仲間(撮影:座安佑奈)

温帯域の水深が浅い所では、春には海底から水面までホンダワラの仲間が森のように生い茂る

この光も届かない森の下で、どうやってサンゴは数ヶ月間耐え忍んでいるのか、いつか調べてみたいです。

皆さんも、亜熱帯域にひけをとらない見事なサンゴ群集、温帯域ならではの海藻とサンゴのコラボレーション(時に戦い?!)をぜひ見に行ってみて下さいね。

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PROFILE
沖縄出身の父に連れられ海に通い、水中にいることが大好きで、中高は水泳部。

大学入学と同時に始めたスキューバダイビングに夢中になり、海中世界を知って欲しいとダイビング雑誌で読者モデルをする傍ら、キラキラした南国の海で、いつも中心にいるサンゴという生物に強く惹かれていく。

大学院は京都大学理学研究科に進学し、サンゴについて学び始める。
英領バミューダにあるバミューダ海洋研究所に留学後、2013年度、京都大学瀬戸臨海実験所にて博士号取得。

現在は沖縄科学技術大学院大学でサンゴの研究に取組んでいる。
趣味でも仕事でもよく潜る。
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