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安全にダイビングするため、絶対に必要な知識 “ハーフタイム”と“M 値”閲覧無制限

カテゴリ:
徒然コラム

減圧症とダイブコンピュータ連載用(提供:今村)

減圧理論とダイブコンピュータの
メカニズムを知ることが、
減圧症予防への第一歩

「ハーフタイムとM値」なんて言葉を聞くと、「そんな専門的な内容は知らなくてもいいよ」と、きっと多くのダイバーの方が思われるのではないかと思います。

しかし、その意味を理解する事は、実は一般ダイバーにとっても大切なことです。
それなくしては、本当の意味でダイブコンピュータを安全に使いこなす事はできないからです。
言い換えれば、“安全に潜ること”自体に、必要不可欠な知識といっても過言ではないのです。

今回はその二つに絞って、できるだけ分かりやすく解説をしたいと思います。

ハーフタイムって何?

前回の記事に書きましたが、ダイブコンピュータも人間の身体と同じように窒素の吸排出の速度の「速い組織」から「遅い組織」まで、大体は9~16のコンパートメント(仮想組織)に分けて無減圧潜水時間などの計算を行っています。
※古い物だと5~8といった機種もあります。

各コンパートメントによって異なるハーフタイムは、M 値と並んでダイブコンピュータの減圧計算の基本となる数値で、体内組織によって異なる窒素の吸排出のスピードを表すものです。

減圧症とダイブコンピュータ連載用(提供:今村)

上はTUSAダイビングコンピュータIQ1203(青)と旧製品のIQ-850(紫)のハーフタイムとM値の表です。

一番窒素の吸排出が速いコンパートメントのハーフタイムはそれぞれ4分と5分で、市場のレジャー用ダイブコンピュータは大体これくらいの設定になっています。

減圧症とダイブコンピュータ連載用(提供:今村)

逆に、一番窒素の吸排出が遅いコンパートメントのハーフタイムはそれぞれ480分と635分です。
IQ1203はベースがビュールマンのZHL-16という16コンパートメントなので635分と非常に長いですが、速いコンパートメントと比較して、いかに吸排出のスピードが違うかをご理解いただければと思います。

前回の記事でご説明しましたが、「ヘンリーの法則」通り、ダイビングを開始すると体内に窒素が急激に取り込まれて、その時いる場所の周囲圧(水圧)に飽和平衡しようとします。

ハーフタイムとは、ある水深にいる時に、その水深(水圧)に対して各組織(コンパートメント)に取り込まれる窒素量の半分が溶け込む時間を指します。

ダイブコンピュータの各コンパートメントの計算上では、例えば、ハーフタイム5分の組織であれば、5分後にその時いる水深(水圧)に対する飽和窒素量の半分が組織内に溶け込みます。

しかし、注意していただきたいのは、10分で飽和するという計算ではありません。

100年以上前にホールデン博士が考えた「窒素飽和までの時間は、ハーフタイムの経過毎にその組織区画の飽和までの半分が溶け込むことの繰り返しにより、指数関数的に決まる」というダイブコンピュータの減圧計算の基本的な考え方によって、10 分後には(残りの50%の半分の25%が溶け込むので)計75%、同様に15 分後には計87.5%、・・・・、30 分後には98.4%というように飽和曲線は漸近線を描きます。

減圧症とダイブコンピュータ連載用(提供:今村)

※縦軸は窒素飽和量(%)、横軸は経過時間(ハーフタイム5分の倍数)

よって、計算上の完全飽和点(100%)はありませんが、一般的にはハーフタイムの6倍の時間が経過すると事実上の飽和点が来るとみなされています。

このハーフタイムの概念は水深が深いところでも浅いところでも基本的に変わらないので、水深が深いほど、窒素の吸収スピードは速くなり、水深が浅いところでは窒素の吸収スピードは遅なります。

ですから、最大水深に注意を払う事はセオリーだとは言えますが、ダイブコンピュータを使っている上では、実は最も注意を払うべき要素は平均水深と潜水時間です。

この意味は、次回以降の記事で皆さんに分かりやすく解説して行きます。

M値って何?

ハーフタイムとともにダイブコンピュータの減圧計算の基本となるのが、ワークマン博士が考えたM値です。

博士は体内組織を9つのコンパートメントに分け、ある体内組織に限度を越えて窒素が蓄積した場合には、組織内の過剰な窒素が排出されるまで、一定の浅い水深に留まっている必要がある(すなわち、減圧停止が必要)と考えました。

この限度の体内組織圧がいわゆるM 値(Maximum allowable pressure value= 最大許容圧値)です。

M値を飽和点のことと勘違いされている方がよくいらっしゃいますが、そうではありません。

組織ごとに異なる飽和曲線上において、そのまま浮上して行っても体内組織に気泡を生じないと考えられる限界圧力値、すなわち減圧停止不要限界点のことを指しています。

M 値は体内組織の窒素分圧のことなので、一般的には圧力単位で表されますが、(許容)水深に置き換えることもできます。

減圧症とダイブコンピュータ連載用(提供:今村)

例えば、TUSAのIQ1203ダイブコンピュータの窒素の吸排出の最も速いハーフタイム4分のコンパートメントのM値は水深31.6m相当なので、31mちょうどの場合は許容限界圧力には達しません。

よって、ハーフタイム8分のコンパートメントが無減圧潜水時間を決定することになります。

同様にTUSAの旧製品ダイブコンピュータIQ-850のハーフタイム10分のコンパートメントのM値は水深19.1m相当なので、18mの場合には5分コンパートメントと10分コンパートメントは許容限界圧力には達しないので、無減圧潜水時間には関わりません。

よって、ハーフタイム20分のコンパートメントが無減圧潜水時間を決定することになるのです。

窒素の吸排出の速いコンパートメントはM値が高く、深い水深(水圧)まで減圧停止をしなくても耐えられますが、遅いコンパートメントはM値が低く、浅い水深までしか耐えられません。

しかし、速いコンパートメントは窒素の吸収が速いので、M値に短時間で到達してしまいますが、遅いコンパートメントは許容限界点に到達するのに時間がかかります。

また逆に、速いコンパートメントは窒素の排出も速いので、浮上して行けば早く安全な領域に体内窒素量(圧)が落ち着きますが、遅いコンパートメントは排出が遅いので危険な状態が長く続きます。

この深い水深と浅い水深とで異なるダイブコンピュータの自転車のギアのような減圧計算の仕組みが、実はダイブテーブル時代には予想もしなかった危険性を生み出していることになるのですが、これは次回以降にゆっくりと解説をします。

減圧症とダイブコンピュータ連載用(提供:今村)

さて、現在の市場に出回っているダイブコンピュータのアルゴリズムは、すべてこのホールデン博士とワークマン博士の考え方がベースとなっているものだと言えます。

代表的なものには、ビュールマン博士、ハミルトン博士、ボーラー博士、USネイビーなどのアルゴリズムや、カナダのDCIEM、ウィンケ博士のRGBMアルゴリズムなどがあり、メーカー別(機種別)に複数のアルゴリズムが取り入れられています。

以上、今回はダイブコンピュータの減圧計算の基本となるハーフタイムとM値について解説をしました。

とっつきにくい話かもしれませんが、ゆっくりと読んで行けば、決して難しくはないと思います。

安全なダイビングのためにもぜひ、理解できるまで前回の記事も含めて読み返してみてくださいね。

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