【新型コロナ】パンデミック時代のダイビング。ダイバー的「新しい行動様式」を考える
2020年のゴールデンウィークは、あらゆる意味で、今までに経験したことのないものとなりました。
目に見えない新しいウイルスとの戦いは、今後も私たちの生活様式に大きな影響を与えそうです。
今後、私たちダイバーは、どのようにダイビングという素晴らしい遊びを続けていけるのでしょうか?
この連載で何度もお伝えしているように、現在の状況は永遠には続きません。
遠くない将来、政府や地方自治体からの自粛要請が解かれ、ダイバーは再び海に入ることができる日が来ると信じます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行の収束とともに、各ダイバーにダイビング活動復帰への判断が迫られる時を迎えることとなるでしょう。
その一助となるべく、今回は以下の事項についてまとめました。
●行動自粛の目的の再確認
●ダイバー的「新しい行動様式」の考察
●ウィズコロナ時代におけるダイビング再開の考え方
長い原稿となりますが、未来への準備として、まずは知識を身につけていただければ幸いです。
行動自粛は爆発的感染拡大防止の手段
限られた医療資源の保持が目的
新たなフェーズに入った「緊急事態宣言」
全国民に求められる県外への移動自粛
5月4日、政府は対象地域を全国としたまま、5月31日までの緊急事態宣言延長を決定しました。
「特別警戒都道府県」に指定されている13都道府県においては、今までと同様の「接触機会の8割減」などの自粛が求められています。
その一方、その他34県においては、「3つの密」を避け、手洗いや人と人の距離の確保といった基本的な対策の継続など「新しい生活様式」を徹底することを前提に、制限の一部を緩和する方針が打ち出されました。
しかし、不要不急の帰省や旅行をはじめとした県外への移動に加え、繁華街の接待を伴う飲食店など、これまでにクラスターが発生した場所への外出は引き続き、自粛を促すとしています。
行動自粛の目的は爆発的な感染拡大を防ぐこと
体制を維持できなくなった先にあるものは何か
これらの行動制限の重要な目的は、「爆発的な感染拡大を防ぐ」ことによる、医療資源の保持です。
現状、日本における新型コロナ感染症による死者数は、他国と比較した場合、低く抑えることが出来ています。
その理由は分かっていませんが、1つの因子として「重症化した患者に集中的なケアができる体制を(なんとか)保てている」ことが考えられます。
しかし、この状態は非常に危ういものです。
日本中の各地域で、多くの医療従事者が目に見えない新型コロナウイルスへの対応に当たっています。
医療従事者は感染者への治療のみならず、院内感染予防および感染拡大防止対策のために多くの労力が割かれています。
現状、日々の新規感染者は減少傾向ですが、いまだに多くの感染症患者が病床にいることを、私たちは決して忘れてはいけません。
医療現場では、新型コロナ患者以外の新規患者受け入れ制限や手術の延期、そして、一刻を争うべき脳梗塞や心筋梗塞などの救急患者の受け入れにも影響を及ぼしています。
爆発的な感染者増加は、新型コロナウイルス感染症のみならず、多くの「救えたはずの命」まで奪う可能性を秘めています。
さらに、離島や人口の少ない地域など、医療資源の少ない「医療過疎地」と呼ばれる地域では、わずかな患者数増加であっても医療システムを崩壊させる致命傷となりえます。
今、私たち国民が求められているのは「感染拡大防止」であることを再確認するべきでしょう。「行動自粛」はそのための手段です。
そして、緊急事態宣言の解除後も、今までと同様、新型コロナウイルスは非常に感染しやすく、約2割の方が重症化すること、油断すると第2波、第3波がくる可能性があることを常に警戒する必要があります。
オーストリアの医療機関からは、少数の症例報告ではありますが、新型コロウイルスが肺に感染したダイバーは、将来にわたってダイビングが出来なくなる可能性も指摘されています。
このため、将来もダイビングを楽しみたいのであれば、「感染しないこと」自体に大きな価値があります。
これらのことを念頭に置きつつ、私たちダイバーも新型コロナウイルスと共生する行動様式への移行が必要なのだと考えます。
ダイバー的「新しい行動様式」を考察
一般ダイバーが気をつけるべきこと
感染拡大を防ぐ最初で最大の1歩は
自身が感染しないこと
さて、極めて単純な話ですが、感染拡大させないためには、まず自身が新型コロナウイルスに感染しないことが大前提です。
首相官邸や厚生労働省などの公的機関のWebサイトなどにも、予防法に関して多くの情報があるので、目にした方も多いでしょう。
■新型コロナウイルスに感染しないようにするために
まずは、一般的な感染症対策や健康管理を心がけてください。
具体的には、石けんによる手洗いや手指消毒用アルコールによる消毒などを行い、できる限り混雑した場所を避けてください。また、十分な睡眠をとっていただくことも重要です。
また、人込みの多い場所は避けてください。屋内でお互いの距離が十分に確保できない状況で一定時間を過ごすときはご注意下さい。首相官邸HP「2.一人ひとりができる新型コロナウイルス感染症対策は?」より引用
▶首相官邸HP「2.一人ひとりができる新型コロナウイルス感染症対策は?」
また、一定数の無症状感染者が存在することがわかっています。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によれば、無症状感染者であっても感染を拡大することが示唆されています。
さらに、医療現場から、発症前であっても感染を拡大させることも最近指摘されています。
このため、濃厚接触者の定義が「感染者、および発症2日前にさかのぼって患者に接触した者」に変更されたことも記憶に新しいところです。
現在、目の前の方が無症状だから感染の可能性なし、とはなりません。
「新しい行動様式」とダイビング
ダイバーもスタッフも感染しないために
では、ダイビングする際、ダイバーはどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
大前提として、ウイルスは常に身近にあると考えることが、感染拡大防止の大きな助けとなります。
Divers Alert Network(DAN)ヨーロッパは、DANアメリカおよびRSTCヨーロッパと共に、ダイビング活動再開におけるダイビング事業者が注意すべき点をまとめた文書を発表しています。
この文書、および両団体の発表している今までの新型コロナウイルス感染症に関連する英文記事などをもとに、「パンデミック下、ないしはパンデミック後にダイビング活動を再開する際、私たちダイバー側が知っておくべきこと」をまとめました。
▶DANヨーロッパHP「COVID-19 and Diving Activities: 10 Safety Recommendations」(2020年5月4日版)PDFダウンロードページ
なお、ここに示すのはよくあるシーンです。
ここに記載されていない状況や、スタッフから指示がない場合でも、常に各ダイバーが自覚を持ち、柔軟に行動することをおすすめします。
【全般】
■日常生活と同様、頻繁な手洗いによる消毒(石けんと水)、目や鼻や口を触らない、咳エチケット、マスクの着用、人と人との距離を取るなどの注意をしましょう。
■利用する施設で、どのような感染症対策が定められているかスタッフに確認し、不明な点や不安な点があれば質問するようにしてください。
■指定されている施設内の人数、消毒済みエリアへの立ち入り、距離を守るためのルール(目印テープや、座らないように定められた場所など)は、必ず守るようにしましょう。
【ダイビング活動に参加する前に】
■体調管理をしよう:毎日最低1回は体温を測り、異常がある場合には参加しないようにしましょう。
また、発熱・咳・疲労感や筋肉痛・呼吸困難・喉の痛み・肺の感染症・頭痛・味覚の喪失・下痢などの新型コロナウイルス感染症を疑う症状がある場合や、感染者と接触した履歴がある場合には、自宅を出る前にスタッフに申告しましょう。これは、感染拡大させないために重要です。
■キャンセルする場合の確認をしよう:上記の症状が出た場合に、延期や返金が可能か事前に確認しておくことで、無理をせず様子を見ることが出来ます。
■感染者は?:症状があった場合には、最低3か月の期間をおき、ダイビング再開前には医師による心肺機能の検査を受けるようにしましょう。無症状だった場合でも、飛沫にウイルスが含まれる可能性があるため、1か月は待機するようにしましょう。(以上は現時点でのベルギー潜水医学会の推奨であり、今後変更される可能性もあります。)
【ショップやサービスなどの施設内】
■施設内の3密を避けよう:コース・ツアーの問い合わせや書類の提出は、可能な限りオンラインで行うようにしましょう。講習はできる限り自習ベースやeラーニングを利用し、料金の支払いはキャッシュレス決裁することを検討してください。また、家族や友人などの付き添いや、施設内に長時間留まることは、今はなるべく避けるようにしましょう。
■感染の可能性を低くしよう:器材購入やレンタル器材を借りる際のフィッティングは、触った部分を消毒するようにしましょう。ドアや窓の取手や照明のスイッチ、キーパッドや筆記具などの複数の人が触れる可能性があるものにはなるべく触らないようにし、触った後は手洗いをしましょう。
【海やプールなどへの移動】
■移動中も注意しよう:車内は3密になりやすいため、感染予防策をしたうえでなるべく離れて座り、頻繁に換気をするように心がけましょう。また、公共交通機関を使用する場合には、混雑を避ける時間帯を選びましょう。車を利用した現地集合という選択肢もあるかもしれません。
【海やプールなどの施設内】
■レンタル器材を使用するときは?:指示された器材以外は触らないようにしましょう。メッシュバックやかごなどでまとめ、他の器材と少し離しておくように心がけましょう。レンタル器材は複数の人が使用するため、マスクやスノーケルなどの体液がつく可能性のある器材だけでも、購入をおすすめします。
■施設の共用部分にも注意しよう:特に更衣室は多くの人が利用するため、注意が必要です。なるべく共用部分に触れないようにし、触れた後には必ず手を洗いましょう。気になったらスタッフに消毒を依頼したり、自身で拭いたりすることで清潔に保つことができます。
■プールの水でも感染する?:適切に処理されたプールはウイルスが不活性化される、というCDCによる報告があります。ただし、器材や自身の消毒には十分ではないことを知っておきましょう。
【ダイビング中】
■器材を通じた感染に注意しよう:
・マスクは必ずくもり止めを使用し、マスク洗浄用のバケツは使用しないようにしましょう。自分のマスクを持つことが推奨されています。
・レンタル器材の場合、マウスピースのみ購入して使用しても、レギュレーターやスノーケル内にウイルスが残存する可能性があります。
・レンタル器材でも、マイ器材でも、自分の器材のみ接触するようにしましょう。レンタル器材を複数日使用する場合には、マークを付けて同じ器材を使用するようにしましょう。
・器材セッティング:シリンダーとレギュレーターを取り付ける部分に触らないようにしましょう。セッティング前に石けんと水で手を洗うようにし、やむを得ない場合のみアルコール消毒液などで消毒してください(ナイトロックスや酸素器材を取り扱う場合には、アルコール消毒液の使用に注意)。
■バディチェックにも注意しよう:バディの器材に触れないようにし、目で見て確認します。器材の動作確認は、本人が実際に触る(インフレーターや、エアの確認など)ことでチェックできます。
■エントリー・エキジットでも密?:ビーチでもボートでも、ダイバー同士が接近しすぎないように注意してください。ボートで流れや波がある場合には、水面用のガイドロープを利用し、一定間隔でつかまるようにします。
また、BCD内部は、ウイルスで汚染されるかどうか現時点では不明なため、レンタル器材の場合にはオーラル(口で息を吹き込む)を避けるようにしましょう。
■ボート特有のリスクを理解しよう:ボートダイビングは、限られたスペースです。以下に注意しましょう。
・スタッフの指示に従い、ダイバー同士の距離を取れる場所にいるようにしましょう。陸上よりも風で飛沫が遠くまで飛ぶ可能性があるので、屋外であっても陸上用のマスクを着用するようにしましょう。
・器材を各自セッティングする場合は陸上で行い、スタッフにボートに積むように依頼しましょう。スタッフがセッティングしてくれる場合には、ボート上でセッティングが完了してから乗り込むようにしましょう。
・必要のない器材は、持ち込まないようにしましょう。
・消毒されたマスク、スノーケル、マウスピースは、飛沫がかからないようにビニール袋で保護しましょう。
・消毒剤のある場所を確認し、必要に応じて使用しましょう。
■水中にも感染リスク?:エア切れ対応の際に、同じセカンドステージを使用することによる感染リスクが指摘されています。オクトパスを利用し、ダイバーが呼吸しているレギュレーターを提供しないようにしましょう。
講習も同様の注意が必要ですが、潜水指導団体によって対応が異なるため、インストラクターの指示に従うようにしましょう。
■緊急時対応に変化があることに留意しよう:
・日本蘇生協議会(JRC)より、新型コロナウイルス感染症のパンデミック対応として、市民救助者も含む心肺停止者へのCPR(心肺蘇生法)についての勧告が発表されています。
①胸骨圧迫のみの場合も含めCPRはエアロゾルを発生させる可能性があることには、わが国においても留意する必要がある。
②COVID-19パンデミックの状況では、市民救助者(人工呼吸の訓練を受けており、それを行う意思がある救助者も含む)は、成人の心停止に対して、胸骨圧迫のみのCPRとAEDによる電気ショックを検討することを提案する。日本蘇生協議会HP「JRCからの勧告」(2020年4月14日)より引用
▶日本蘇生協議会HP「JRCからの勧告」(2020年4月14日)
心肺停止者に対しては、感染リスクを考慮し、胸骨圧迫のみのCPRとAEDが推奨されています。しかし、胸骨圧迫のみでも感染するリスクがあることから、DANアメリカでは「手袋・目の保護具、フェイスマスクに加え、あればガウンの使用」や「目視による呼吸の確認」、および「フェイスマスクや布(バンダナ、Tシャツ、タオルなど)を事故者の鼻と口の上にかぶせる」ことが推奨されています。
・緊急行動計画:各地の感染流行の状況により、救急(重症)患者のみ受け入れ可能、など医療機関の対応が通常時とは異なることが考えられます。ツアーや講習を受講する際には担当スタッフがいますが、バディ潜水する際などには注意が必要でしょう。
【ダイビング後】
■器材の洗い方に注意しよう:パンデミック下では、洗い場に特別ルールが設けられている場合があります。消毒用の溶剤と洗浄用のきれいな水が入った桶が別に準備されているかもしれません。スタッフに手順を確認し、ウイルスが洗い桶から器材に付着しないよう、注意をしましょう。
マイ器材の方は、溶剤が器材に残っている場合にゴムやプラスチックを劣化させる可能性があるため、自宅でさらによくすすぎ、完全に乾かすようにしましょう。
●WHOによると、物の表面の素材や温度、環境の湿度によっては数時間から数日の間ウイルスか残存する可能性があることがわかっています。レギュレーターのセカンドステージ、BCDインフレーター、スノーケル、マスクなどの体液が付着する部分は特に注意が必要です。
●イソプロピルアルコールは繰り返し使用するとゴムやプラスチックを劣化させる可能性があります。製造元に確認して使用するようにしましょう。
■レンタル器材の返却に気を付けよう:指示された場所に置くようにしましょう。スタッフが、消毒前の器材に不用意に触るリスクを減らすことが出来ます。
■アフターダイビングも密に注意!:対面でのログ付けや、打ち上げ飲み会などは、今はなるべく避けるようにしましょう。最近はやりのオンラインでやってみる、などの工夫も案外楽しいかもしれません。
ウィズコロナ時代に
ダイビング再開をどう考える?
今は県外移動を控える
ダイバーとしての自覚をもって行動することが重要
新型コロナウイルスの感染状況は、現在刻々と変化しています。
私たちダイバーの関心事項はただひとつ、「いつ、以前のように、気兼ねなくダイビングを楽しむことが出来るのか?」ということでしょう。
残念ながら、この問いに対する回答はありません。
人々がウイルスに対する集団免疫を得る、効果のある治療薬が開発される、ワクチンが開発される等、なにが決定的に関与するかはわかりませんが、私たちは今後一定期間、「ウィズコロナ」(コロナと共に生きる)を念頭に置いて生活しなくてはなりません。
現在、日本では新規感染者数は減少傾向に入り、学校や経済活動も徐々に戻っていくことが期待されます。
しかし、今見えているのは2週間前の状況であり、今日の行動は1~2週間後に影響します。
再び大きな流行となれば、長期の自粛を行わなくてはならなくなり、経済はさらなるダメージを負う可能性があります。
5月4日の政府発表は、国内全ての地域に不要不急の県外移動自粛を求めています。
流行地域から、流行していない地域への移動などの不用意な行動により、流行の第2波、第3波がやってくる可能性があることは、常に意識したいものです。
大きな流行も、最初は1人から始まります。
このため、ダイビングの再開は、地域により時期は異なると思いますが、慎重になる必要があると考えます。
そして、国の方針に従いつつ再開できるような状況になったら、感染しない方法と感染させない方法を徹底して、徐々に通常の状態に戻していくことが重要です。
先日DANアメリカのWebセミナーにおいてFrauke Tillmans博士は、「DANガイドラインは、現状でのダイビング活動の再開を許可したり、積極的に後押ししたりするものではありません」と発言していました。
確かに、ガイドラインをただ紹介するだけだと、DANアメリカが潜水開始を許可した上での注意事項と誤って捉えられかねません。
ガイドラインを単に翻訳して紹介するだけでは、日本でも同様の誤解が生まれることが懸念されます。
そのため本原稿もTillmans博士同様に、未来の準備として、ダイバーに知っておいていただきたいことを取りまとめました。
爽やかで初夏を思わせる日々が続きますが、今しばらくはダイバーができることでダイバーを応援し、早期の終息を目指しましょう。
1日でも早く!
青い海で潜れる日に向けて、着々と準備しましょう!