新型コロナウイルス感染症とスキューバダイビング(第2回)

【新型コロナ】4月3日、日本高気圧環境・潜水医学会声明発表。なぜレジャーダイバーはダイビングを控えるよう要請されたのか?

4月に入り、都市部でじわじわと広がりを見せる新型コロナ感染症。

前回の記事で、私たちダイバーは感染拡大を防止することが重要であること、協力してダイビング産業を支える必要があること、そして時間があるこの時期にセルフメンテナンスすることをお伝えしました。

【新型コロナ】ダイバーにできること、ダイバーにしかできないこと

このような状況の中、2020年4月3日に新たな動きがありました。
私たちダイバーは、減圧障害(減圧症・動脈ガス塞栓症)が疑われる場合には再圧治療が強く推奨されます。
この再圧治療に関係する医療従事者が所属する「日本高気圧環境・潜水医学会(以下、高気圧学会)」から、新たな情報発信がありました。
この声明では、医療現場での状況等を勘案し、ダイバーにダイビングを極力控えるようお願いがありました。

本記事では、その内容についてお伝えすると同時に、潜らなくてもできるダイビング応援の新たな動きについて、いくつかお伝えします。

今までになかった新しい支援の輪、大きく広がることを願っています!
今こそ、ダイバーの知恵と底力が試される時ですよ。

高気圧学会からの声明
これまでの動き

なぜ、レジャーダイバーはダイビングを控えるよう要請されたのでしょうか?

日本における新型コロナウイルス対応について、高気圧学会からの最初の発信は連休初日の3月20日でした。
「新型コロナウイルスを蔓延させない高気圧酸素治療方法について」と題された文書では、「高気圧酸素治療装置は密閉空間で治療を行う性質上、感染に対する配慮が必要です」とされ、安全な治療のために治療方法の要点が取り纏められていました。

日本高気圧環境・潜水医学会HP

下記、一部抜粋にてご紹介致します。

【推奨する高気圧酸素治療装置の治療方法】
1.発熱(37.5度以上)や咳嗽、喀痰排出などの兆候があり新型コロウイルス感染症の疑いのある方の高気圧酸素治療装置内入室は行わないでください。
2.新型コロナウイルス感染症が判明している場合、治療の有益性が勝る場合を除き高気圧酸素治療は行わないでください(完全な消毒方法が確立されていません)。

日本高気圧学会HP「新型コロナウイルスを蔓延させない高気圧酸素治療方法について(3月20日発信・PDF)」より一部抜粋

▶︎日本高気圧学会HP「新型コロナウイルスを蔓延させない高気圧酸素治療方法について(3月20日発信・PDF)」

あわせて、以下の具体的な治療方法例が示されていました。

①問診と非接触型体温計などで患者スクリーニングを行い、体調不良者は治療を行わない。特に発熱(37.5度以上)や咳嗽、喀痰排出などの症状のある方の高気圧酸素治療装置内入室は行わない(治療前に掲示もしくは書面で患者通達を行う)。
②すでに新型コロナウイルス感染症が判明している方の高気圧酸素治療は救命・集中治療目的以外行わない。
日本高気圧学会HP「新型コロナウイルスを蔓延させない高気圧酸素治療方法について(3月20日発信・PDF)」より一部抜粋

▶︎日本高気圧学会HP「新型コロナウイルスを蔓延させない高気圧酸素治療方法について(3月20日発信・PDF)」

ここで重要なのは、「発熱、せき、たんが出ている」患者は高気圧酸素治療装置(以下チャンバー)への入室を行わない」、そして「新型コロナウイルス感染者は救命・集中治療目的以外は治療を行わない」と示されていることです。

つまり、たまたま熱があったり、せき・たんが出ていたりする患者は、チャンバー内への入室は推奨されておらず、命の危機がある場合以外は治療がされない可能性が出てきました。
これは、チャンバー内の完全は消毒方法が確立されていないことが大きな理由となります。

この当時は日本での感染者数はまだ少なく、治療を行う学会員に対する指針でしたが、感染者数の増加に伴い、4月3日にはダイバーに向けて新たな声明が発信されました

2020年4月3日
高気圧学会より新たな声明発表

【レジャー・ダイバーの方々へ】
流行収束にめどが立つまで、レジャー・ダイビングは極力控えるようご検討お願い致します

日本高気圧学会HP「潜水に関わる方々へのお願い(4月3日発信・PDF)」より一部抜粋

▶︎日本高気圧学会HP「潜水に関わる方々へのお願い(4月3日発信・PDF)」

この声明は3月26日にヨーロッパ地域の高気圧学会(EUBS)から発表された、ダイビング活動の自粛に関する声明に追随する形でした。

ヨーロッパでの要請では自粛の理由がいくつか挙げられ、日本でも同様の状況が発生することが予想されることから、流行収束にめどがつくまではレジャーであるダイビングを極力控えるよう、検討が要請されています。

3月26日時点でのヨーロッパでは、患者数、死者数が急激に増加し、医療崩壊も報道されていた時期でした。
ダイビングではいかに注意しても潜水障害が発生する可能性は排除できず、救急処置や救急搬送などの医療資源を使う可能性があることから、ダイビング自体の自粛が要請されました。

4月に入り、日本でも急速に患者数が増加し始めたことから、同様の状況となる懸念により声明が発信されたのです。

また、ダイビングにおいては新型コロナウイルス感染症対策で推奨される、人と人の1メートルの距離を保つことが困難であることや、エア切れ時にバディブリージングをするなどマウスピースの共有があること、レンタル器材からの感染の可能性があることも指摘されています

つまり、ダイビングは感染拡大の可能性を高める活動であるとされました。

いつからダイビングできるの?
再開までの注意点

現状、高気圧学会の声明からは明確な時期の提示はありません
恐らく、世界中のあらゆる人が同様に、「流行収束にめどがたつまで」の時期を心待ちにし、答えを追い求めているのではないかと思います。

現在、状況は日々変化しています。
今後、高気圧学会より新たな声明が出た際には、改めてお伝えしようと考えています。

新型コロナウイルスの感染状況については、日本全国で大きな差があります。
また、医療を取り巻く環境もダイビングスタイルも異なります。
このため、各地域のダイビング事業者は、それぞれの立場で慎重に判断することが求められます。

今は、事故発生時について医療機関の受け入れが難しい可能性があり、ダイビングは推奨されませんが、今後必ず流行は収束に向かいます。

その後ダイビングを再開する際には、前述の指摘に対し、
●人と人の距離を保つ
●マウスピースの共有をしないようシリンダーの残圧に注意し、万が一の際にはオクトパスを使用できるように準備(器材、およびスキル)する
●レンタル器材はウイルスが付着しないよう管理する
などの対応が必要でしょう。

今はダイビングに行かない
ダイバーにできること

以前の記事でもお伝えしたように、ダイバーがダイビングするためには、様々なサービスが必要です。

インストラクター(やダイビングショップのスタッフ)がいなければ、ダイバーを誕生させたり、スキルや知識を得たり、器材の相談をすることができません。
ガイドがいなければ、素晴らしい海の風景や生物を案内してくれたり、ダイビングポイントに連れて行ってもらったりできません。
ダイビングしたいと思っても、タンクを借りることができなくなるような状況は、どの立場のダイバーも望んではいないでしょう。

今、ダイビング産業の苦境を救うために、ダイバーの輪が広がっています。
また、Zoomなどのオンライン会議システムで講習を実施する、レンタル器材の消毒状況を動画で紹介する、クラウドファンディングで協力を要請する、など各ダイビング事業者の工夫もあちこちで目にするようになってきました。

以下でご紹介するのは、今までにない全く新しい形のサービスや、期間限定のサービスです。

困難な時期だけど、こんな形だけど、ダイバーにとって新たなダイビングの楽しみの扉が開くなんて、ダイバーの底力を感じてわくわくします!
皆さんも、何かアイデアがあったら、お世話になったあのショップ、以前訪れたあの現地サービスに提案してみてはいかがでしょうか?

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何度でも何度でも、声を大にしてお伝えします。

この状況は未来永劫続く訳ではありません。
ダイバーの知恵と絆がこの状況を打開する鍵です。

下を向かず、未来を見据えて乗り越えましょう!

【新型コロナ】ダイバーにできること、ダイバーにしかできないこと

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PROFILE
2020年、ダイビングの安全性向上のために情報提供をするULTRAmarine Labを立ち上げ、多方面で執筆をしている。元DAN JAPAN事務局長。都市型ダイビングショップでの勤務、海外DANとの連携を基に、潜水医学関連の最新情報を中心にダイバーに提供している。PADIマスタースクーバダイバートレーナー(No.808589)。
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