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新型コロナウイルス感染症とスキューバダイビング(第5回)

【新型コロナ】今こそ、ダイビングの緊急行動計画を考えよう〜新時代への対策を自分ごとに〜閲覧無制限

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徒然コラム
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コロナ新時代のダイビングを“自分ごと”に
改めてダイバーの危機管理を考える

夏の気配に、ダイビングへの期待が高まる季節を迎えました。
いつから、私たちダイバーは安心してダイビングを再開できるのでしょうか?
感染拡大防止を真剣に考えるダイバーこそ、この大きな問いを胸に抱えていると感じます。

現在、経済活動が戻るにつれ、各地で再度新規感染者が発生しています。
しばらくの間続くであろう新型コロナとの共存は、大きな課題です。

いずれのタイミングでダイビングを再開するにせよ、有効なワクチンや治療薬、集団免疫を獲得するまでは、全てのダイバーが「うつらない、うつさない」という意識を持ち、ダイバー的新しい行動様式を身につけることが大切です。

一般に推奨される感染予防対策の中で、地域の事情や規模により、ダイビング時に実施可能な対策は限られるかもしれません。
その中で、全てのダイバーの正しい知識と良識ある行動により、感染防止のための行動規範は形成されていきます。ダイビング事業の再開・継続は、単にダイビングサービス提供者のみが考えれば良い問題ではなく、ゲストであるダイバーの協力も不可欠です

新しいダイビングとの付き合い方を他者の問題ではなく、ダイバーが「自分ごと」と捉える意識が必要となるでしょう。

今回は、これまでの経緯を踏まえた上で、ウィズコロナ時代におけるダイバーの危機管理(緊急行動計画)について、新たに2020年5月28日付けで発表された日本高気圧環境・潜水医学会(高気圧学会)の声明『「with コロナ」下での潜水再開に向けての準備』から考えてみます。

高気圧学会の声明
流行開始から現在までの経緯

私たちダイバーは、単なる観光とは異なり、一定の確率で事故が発生する可能性のあるレジャーを楽しんでいます。このため、新型コロナとの共生を模索する状況においても、高気圧学会が代表する医学会からの声明には敏感になる必要があるでしょう。

それでは、まず今まで高気圧学会から発表されてきた声明の内容について簡単に振り返ります。

●3月20日「新型コロナウイルスを蔓延させない高気圧酸素治療方法について」

ダイバーの減圧障害を疑う際、医師の判断で再圧治療が行なわれます。患者は、この再圧治療を行う高気圧酸素治療装置(チャンバー)の閉鎖空間内に数時間滞在するため、新型コロナウイルス感染に関する配慮が重要となります。

しかし、閉鎖空間での感染予防は困難であり、さらに装置に影響を与えずに完全に消毒する方法が確立されていないため、「新型コロナウイルス感染症の疑いがある方のチャンバー入室は行わない」、「すでに新型コロナウイルス感染症が判明している方の治療は救命・集中治療目的以外行わない」とされました。つまり、感染者であると判明した場合、減圧症であっても軽症例では治療が見送られる可能性が出てきました。

その後、日本国内での感染拡大に伴い、新型コロナウイルス感染症への集中的なケア、感染対策などのため医療機関の対応能力が制限されている状況下において、全てのダイバーに向けてさらなる声明が発表されました。

▶︎高気圧学会HP「新型コロナウイルスを蔓延させない高気圧酸素治療方法について(2020年3月20日)」

●4月3日「潜水に関わる方々へのお願い」

【レジャー・ダイバーの方々へ】
流行収束に目途が立つまで、レジャー・ダイビングは極力控えるようご検討お願い致します

【職業ダイバー、事業者の方々へ】
潜水障害に対して適切な治療を行うことが困難となる地域もしくは時期がある可能性があります。医療資源の確保が可能か適宜情報収集の上注意深い潜水作業計画をお願いいたします。

高気圧学会HP「潜水に関わる方々へのお願い(2020年4月3日)」より抜粋

高気圧学会HP「潜水に関わる方々へのお願い(2020年4月3日)」
 
これら2つの声明は、ダイビング業界に大きな衝撃を与えました。
感染拡大防止を目的としている、政府の自粛要請、および移動制限とは異なる、ダイビング特有の医学的側面からの注意喚起です。詳しくは、下記、「新型コロナウイルス感染症とスキューバダイビング」連載第2回目を参照してください。

ダイビング事業者への新たな声明の発表
「潜水再開に向けての準備」

そして、5月26日に緊急事態宣言は全面的に解除され、高気圧学会は、ほぼ同時期となる5月28日に再度声明を発表しました。今後徐々に始まる事業再開に向け、ダイビング事業者が準備すべきと考えられる項目があげられています。

①新型コロナウイルス感染症罹患者が潜水を希望した場合の対応
②医療体制の確認
③感染予防対策

各項目は全ダイバーにおいても重要な内容となるため、まずは詳細を原文で確認してください。
▶︎高気圧学会HP「「with コロナ」下での潜水再開に向けての準備(2020年5月28日)」

なお、この声明はあくまで「準備」であり、高気圧学会として潜水再開を推奨するものではないことに注意が必要です。

今までに得られた知見による
新型コロナとの共存方法

では、各項目についてもう少し詳しく確認してみましょう。

「①新型コロナウイルス感染症罹患者が潜水を希望した場合の対応」
新型コロナウイルス感染者に、潜水適性に支障をきたす肺障害が長期間残存する可能性は、以前より指摘されていました。症例報告であり、長期的な影響は不明ながらも、ダイバーが長くダイビングを楽しむためには、感染しないことが重要であることは、以前にお伝えしました。

今回の声明では、加えて心筋障害合併の報告があること、無症状感染者も肺気腫やブラなどの不可逆的変化をきたしている可能性が言及されました。
そのため、通常のメディカルチェックの徹底に加え、新型コロナウイルス感染の有無を確認し、回復者がダイビング再開を希望する際には、ダイビング適性に関する各種検査を奨励しています。

「③感染予防対策」
最近になって報告された、発症2日前から他人への感染力があることに触れ、慎重な対応を求めています。「ダイバーの中に感染者がいるかもしれない」という前提のうえ、感染予防対策をすることが重要です。

さて、残る1つの項目である「②医療体制の確認」。これこそが、私たちダイバーが潜水復帰をする時期と大きく関わってくるファクターとなるでしょう。

地域医療との連携を要請
「医療体制の確認」はなぜ重要か

ここで「②医療体制の確認」について改めて確認してみましょう。

現在、新規感染者数は落ち着いているものの、COVID-19 の平均入院期間及び人工呼吸器装着期間は長く、現在でも一定数の患者が病院ベッドを占めており、通常の診療が滞っています。
状況は地域によって異なり、都市部より地方、また沖縄のように離島が多く、医療資源が少ない地域ではより深刻です。また、潜水特有の事故に減圧障害があり、治療には再圧治療が必要ですが、対応できる医療機関は限られます。そのため以下の対応を推奨します。

a. 潜水事業にあたっては、地域毎に事業組合的な組織が代表して、医療施設や医師会を通じて潜水事故時の患者受け入れ可否状況を確認する。
b. 離島等、患者の航空搬送が予想される地域では、潜水事故者が発熱していた場合の搬送手段を予め把握する。

高気圧学会HP「潜水に関わる方々へのお願い(2020年4月3日)」より抜粋

高気圧学会HP「潜水に関わる方々へのお願い(2020年4月3日)」

文書には、感染流行のフェーズが変わった場合には、地域ごとに事故時の患者受け入れ可否状況を確認すること、また、特に事故ダイバーが発熱している場合にはどのように搬送するべきかあらかじめ把握することが推奨されています。
つまり、ウィズコロナ時代には、既存の緊急行動計画のアップデートが必要と示唆されたのです。

高気圧学会では、学会のサイト内にアンケート調査による「HBO治療施設情報2019」(2020年5月11日更新)を掲載しています。治療対応欄には、緊急・非緊急の減圧障害への対応が記載されていますが、状況は刻々と変化しており、情報は必ずしも現状と同じとは限りません。

なお、個々の事業者が医療現場に問い合わせをすることは、情報の重複を生み、最新の状況を見えにくくします。また、ウィズコロナ時代では医療現場に余裕がない可能性もあるため、地域を代表する組織が取り纏めて確認をする配慮も必要であると考えます。

重要な役割を担うダイビング事業者
緊急行動計画とはなにか

現地サービスであれ、都市型ショップであれ、ダイビング事業者は、ゲストの命を預かる存在です。
水中での事故防止のみならず、ダイビング後の減圧障害などの対応にあたっても、そのスキルと経験・知識をフルに使い、ゲスト及びスタッフの安全を守る、大変重要な役割を担います。
このため、全てのダイビング事業者には、あらかじめ危機管理、つまり、「緊急行動計画」の策定が求められています

日本全国に一律に適用できる緊急行動計画はありません。日本には多くの離島や医療過疎地域があり、緊急時には自衛隊、海上保安庁に患者搬送を要請する必要のある地域も存在します。
このため、特に現地サービスにおいては、各地域の特性に合致した緊急行動計画をあらかじめ準備し、緊急時に混乱を回避する行動指針としています。また、連絡先とともに、応急手当の手順も緊急行動計画に含まれます

この緊急行動計画を施設内やボートに掲示することによりゲストと情報共有し、非常時に有志のダイバーが速やかに協力できるようにしているサービスもあります。
興味のある方は、使用している現地サービスや、利用しているショップに確認してみると良いでしょう。

一般ダイバーの「緊急行動計画」は?
危機マネージメントの方法を想定する

実は、一般ダイバーでも緊急行動計画の準備は推奨されます。
「緊急行動計画」というと大げさに感じるかもしれません。しかし、実際に状況を想定してまとめてみる、リストを作ってみると、いざという時に慌てずに最良の対応を選択しやすくなります
下記に、注意点をまとめました。

●緊急通報および応急手当の手順、医療機関の連絡先
浮上後すぐに症状が現れ、事故者を病院搬送する場合には、現地サービスやツアーを催行するショップが対応します。このため、ゲストとして搬送先の情報まで把握することは必須ではないかもしれません。しかし、ダイバー自身、バディやグループの予期せぬ緊急事態に対処するために、連絡先および応急手当手順を確認しておいたほうがよいでしょう。

●緊急時に連絡するべき家族や友人の連絡先、自身の既往症や服薬の状況、主治医の連絡先など

●ダイビング後しばらく経ってから調子が変だと感じた場合の対応(帰宅後の不調など)
ダイビング事故の際には、DAN Japanが運営するホットラインに相談することが可能です。しかし電話では、診断、治療といった診療行為は行えません。また、救急車や病院受診はダイバー自身で手配することが求められるため、治療可能な医療機関までどのような交通手段で移動するか、想定しておくと良いでしょう。都市型ショップのツアーであれば、帰宅後の不調時の対応についての緊急行動計画があるはずであり、あらかじめ確認することも良いでしょう。

なお、ウィズコロナ時代では、発熱やせき、たんなどの症状がたまたまあった場合には、移動手段が限定されるため、注意が必要です。その場合は、医療機関受診時には新型コロナ感染に関する検査が行われ、通常よりも時間がかかることも想定されます。

今後、ダイビングを再開するのであれば、一般ダイバーも感染拡大状況にあわせて緊急行動計画の見直しが求められます。ソロやバディ、ダイビング愛好会や大学などのクラブで潜るダイバーは、プロダイバーと同様の危機管理が求められる場面があり、より見直しの重要性は高まるでしょう。
  

ウィズコロナ時代の今こそ
正しい知識と入念な準備が求められる

冒頭でも記しましたが、安全な環境を作り出す役割は、ダイビング事業者だけが担うものではありません。全てのダイバーが正しい知識を持ち、様々な場面に対して入念な準備をすることが求められます

英語に「Prepare for the worst, and hope for the best」という言葉があり、直訳すると「最悪の状況に備えたうえで、最善の結果を望む」という意味になります(意訳すると、「備えあれば憂いなし」)。
細心の注意を払ったとしても一定の割合で事故発生の可能性がある、ダイビングという遊びを楽しむ全てのダイバーに求められる姿勢です。

また、感染予防は、地域の流行の各フェーズに適した、効果的なものであるべきでしょう
最近、炎天下でのマスク着用では、効果よりもリスクが高いことが指摘されています。次亜塩素酸水の空中噴霧といった、誤った知識の広がりも懸念されています。「正しく恐れる」ことは、本当に難しいものです。

ダイバーはダイビング旅行を計画・出発する前に、常に情報をアップデートする時代に入りました。

幸い、夏本番までにはまだ少し時間があります。
ぜひ、今のうちに準備を進めましょう!

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