新型コロナウイルス感染症とスキューバダイビング(第6回)

【新型コロナ】未来のために本気で取り組もう!ダイバー的旅のエチケット

いよいよ夏がやってきます!
毎年わくわくする時期ですが、新型コロナウイルスの出現により、去年までとは「旅のエチケット」は一変してしまいました。そこで、夏の入口に差し掛かった今、ダイバーとして旅行中に気を付けたいポイントについて、あらためて考えてみたいと思います。

ダイバーひとり一人が高い意識を持ち、進んで協力することで感染症の拡大は防ぐことができるのです。ウィズコロナ時代における旅行のエチケットを身に着け、自由に旅を楽しむことができる未来へと、つなげましょう。

コロナ第2波の到来
得られた知恵をどう生かすか?

2020年4月6日に発令された緊急事態宣言。4月11日に700名以上だった1日あたりの全国新規感染者数は、一時は21名まで減少し、私たちは一旦胸をなでおろしました。
しかし、6月中旬に県外への移動自粛要請が完全に解除された後、首都圏や近畿圏を中心に感染者数は増加の傾向へと転じています。

医療従事者、研究者の献身的な努力のおかげもあり、この数か月で、私たちは未知のコロナウイルス感染症について多くの知見を得てきました。たった1つの感染症に対し、世界中でこれほどまでに多くの研究が短期間で行われたことは、人類にとって初めてのことではないでしょうか。
今後、1日でも早い有効な治療薬やワクチンの開発が期待されます。

同時に、感染症対策についても、流行開始当初に中国で行われた完全な隔離(都市ロックダウン)から徐々に変化を遂げています。私たちは今後しばらくの間、感染症拡大を防止しつつ社会経済活動を行う、ウィズコロナの生活を続ける、という難題を課せられることとなりました。
この局面を乗り切るためには、得られた知見により定められた最新のルールを守り、生活することが極めて大切になってくるのです。

「新しい生活様式」における
「新しい旅のエチケット」

2020年6月19日、観光庁は、県外への移動自粛要請を解除するにあたり、感染リスクを避けながら安全に旅行するポイントをまとめた「新しい旅のエチケット」を公開しました。

出典:国土交通省 観光庁ホームページ

出典:国土交通省 観光庁ホームページ

「新しい旅のエチケット」には、旅行時における感染防止のための基本的な留意事項に加え、旅行の各場面(移動、食事、宿泊、観光、ショッピング)ごとの留意事項がまとめられています。通常の観光旅行であれば、これらの事項を心がけることにより、感染症拡大を防ぐことはある程度可能であると思われます。

しかし、ダイビングにおいては、感染することで今後のダイビングが出来なくなるかもしれない可能性が指摘されています。そうならないためにも、より一層の「感染しない、感染させない」ための細心の注意が求められるのです。

コロナ対策は、事業者と旅行者の
協力がカギを握る

現在、多くの業界においてガイドラインが作成され、コロナ対策を実施しています。しかし、考えられる最善の対策をしたとしても、その施設を利用する人の協力がなければ、機能しません。
政府や地方自治体が、移動自粛や休業の要請を解除したから大丈夫、ではなく、コロナは消えたわけではないということを念頭におき、全ての旅行者が責任ある行動をする必要があるでしょう。

これをダイビングに当てはめた場合、ダイビング事業者(ショップやサービスなど)が定めたルールを、利用するダイバーが確認し、きちんと従うことが重要となってきます。なぜなら、もし不適切な行動によってダイビング関連で感染者が発生し・クラスター化した場合の影響は、ダイバー個人の問題では収まらないからです。
ダイビング事業者にとっても、長期にわたる営業停止、スタッフの健康が脅かされるなど、地域における負の影響は大きなものとなります。

また、ダイビング事業者は、全てのダイバーが望まれる行動を把握でき、気持ちよく、自主的に実行する環境を整えることが必要かつ重要です。
地域の流行状況に応じたルールを策定するだけではなく、それを店内の見やすい場所に掲示する、ホームページやFacebookなどのSNSを通じて、また直接的に参加ダイバーに事前に伝える、などの情報提供の工夫も大切です。

さらなる感染拡大防止のために
ダイバーはなにができる?

では、ダイビング旅行に出かける際、どこに気を付ければよいのでしょうか。重要なのは、過度になりすぎず、適切で効果的な対策を講じることです。
禁止事項ばかりでは、せっかくのダイビング旅行を楽しむことができませんし、何も対策をしていなければ後で後悔することになりかねません。いつもの対策に加え、いくつか注意する点を増やすことで、より一層の防止策となるでしょう

【旅行に出かける前の心得】

① 接触確認アプリCOCOAをインストール:ダイバー自身のみならず、訪れる地域や周囲への思いやりの意味も含まれます。利用者には感染者との接触の可能性が通知され、速やかな受診と検査などにつながるため、旅行者の利用は必須と言えるでしょう。自身が感染者になった場合も、接触者にその事実を伝えることが出来ます。

出典:COCOAアプリ

▶厚生労働省:接触確認アプリCOCOA ダウンロードページ

② 感染状況の見極め:居住地や旅行先が感染拡大地域となった、また行政組織からの自粛要請があった場合には、潔く旅行を取りやめることは選択肢のひとつです。流行が落ち着き、歓迎される雰囲気の中で楽しく旅行しましょう。
なお、旅行の「中止」ではなく「延期」とし、感染拡大が落ち着いた時期に再度計画することをお勧めします

③ 出発2週間前からは、3密になりやすいハイリスクな場所を避ける:現在、流行は「夜の街」以外に「昼の街」へと広がってきています。通常の会食でもクラスターが発生しており、2週間前からは会食やイベントなどへの参加を控える、もしくは十分な換気と距離を取れる場所を選択し参加するようにしましょう。

④ 体調管理を心がける:毎日、健康をチェックし(体温測定、体調を気にするなど)、記録する。体調に不安がある場合には、感染している可能性を考え、外出を控えるようにしましょう。場合によっては、直前でも旅行を断念する配慮が必要です。

なお、最近では感染者をいち早く把握するため、各地でPCR検査体制の拡充が図られています。
ただし、PCR検査は、症状がある方や濃厚接触者などに実施されますが、検査の結果は100%正しいとは限らないことに留意が必要です。

【PCR検査の特徴】
・感度(感染者を正しく陽性と判断する割合):33~80%
 ※方法、検査時期、手技等に依存する
・特異度(健常者を正しく陰性と判断する割合):99%以上

これは、理論上では感染者100人に検査を実施した場合、20人~67人の感染者を陰性と判定する、すなわち見逃す可能性があるということを意味します(偽陰性)。そして、陰性と判断された感染者は、むしろ「陰性であった」という偽りの安心感から外出し、知らぬうちに感染を広めることとなります。

もし「陰性」の結果が出ても、検査を実施するということ=接触した可能性がある(自身がハイリスク者である)という事実を受け止め、慎重な行動をとることが大切です

また、最近新宿で発生したいわゆる「劇場クラスター」でも取り上げられましたが、抗体検査は過去に感染したかどうかを検査しています。このため、抗体検査で現在感染しているかどうかを判断することはできません。

さらに、もしも旅先で発症した場合を考え、出発2週間前からの立ち寄り先などの行動記録を取っておくと速やかな感染経路特定に役に立ちます。(旅行中も、同様の理由で行動の記録が推奨されます。)

【旅行中の心得】

ダイビングでは、仲間と共有する時間にも大きな楽しみや価値があります。
しかし皮肉なことに、新型コロナウイルス感染症においては、「人とのかかわり」が感染リスクを高めます。ウィズコロナ時代のダイビングにおいては、自身が感染している可能性/他の人が感染している可能性を常に考えるよう心掛けましょう

① 距離を取り、目鼻口にウイルスを付着させない行動:常にソーシャルディスタンスを心がけ、必要に応じてマスクを着用し、頻繁に手を洗う、洗えない場合にはアルコールや有効な成分を含むジェルなどを利用する(火災には注意)など、今や通常となりつつある行動を、一つひとつ確実に行うことが大切です。

ダイバーがダイビング中に注意したい点については、以前の記事を参照してください。

ダイビング中や共用部分での注意はもちろんのこと、打ち上げなどの会食は極めてハイリスクです。例えば、まず食事は換気のよい場所で距離を取って食べ、その後マスクを着用した上で会話を楽しむ、などの工夫で感染拡大リスクを軽減できます。
ゲストの方には医療従事者や会社員も少なくないと思われますが、現在、就業上のルールとして飲み会が禁止されている方も少なくないことにも、ダイビング事業者は思いを寄せる必要があります。

さらに、離島などのダイビングが盛んな地域は、医療体制が十分でない場合があります。旅行先の選択の際に留意する、行かれる場合は、通常の医療体制を維持するために、感染流行地からの旅行者は地域に新型コロナウイルスを持ち込まないよう、細心の注意が必要です。

② 器材からの感染に注意:器材の消毒については、各器材メーカーから指定の洗浄方法についてリリースされています。注意すべき点は、以下3つです。
・新型コロナウイルスに有効な濃度の薬剤の使用 
・指定されている時間を厳守 
・真水での薬剤の完全な除去と乾燥

流行当初と異なり、現在では家庭用中性洗剤などの有効性が確認され、より手軽に使用できるようになりました。
▶︎新型コロナウイルスに有効な界面活性剤が含まれている製品リスト

なお、呼気の通る部分には、ウイルスを含む体液が付着する可能性があるため、単にマウスピースのみ交換しても感染リスクは残ります。複数のダイバーで使用するレンタル器材よりも、自身の器材を使用し個別に洗浄するようにすると安心です。また、器材は使用後3日程度あけるとウイルスが失活し、リスクを軽減することができるとしているメーカーもあります。

また、器材を取り扱う際には、他のダイバーの器材と共有や取り違えをしない、器材にウイルスが付着しないように注意しましょう。

ダイバーによる感染拡大防止対策が
ダイビング産業を支える

7月22日には、東京都を除外した形でGo toトラベルキャンペーンがスタートします。
しかし、キャンペーンが実施されていても、されていなくても、私たちダイバーが気を付けるポイントは何も変わりません。旅行先にウイルスを持ち込まない、広げないという意識が大変重要です

現在、筆者が最も懸念しているのは、ダイビング関連でクラスターが発生し、ダイビングがリスクの高い遊びであるとされ、何らかの制限を受けてしまうことです。そのような事態になれば、ダイビング産業は再び大きな打撃をうけることになります。

全てのダイバーによる感染拡大防止対策が、ダイビング産業を支えることにつながります。ダイビングの未来はダイバー自身が作り出す、という意識を持ち、本気で取り組みましょう。きっとその先には、今まで以上に素晴らしい海がダイバーを待ち受けている、と信じています。

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PROFILE
2020年、ダイビングの安全性向上のために情報提供をするULTRAmarine Labを立ち上げ、多方面で執筆をしている。元DAN JAPAN事務局長。都市型ダイビングショップでの勤務、海外DANとの連携を基に、潜水医学関連の最新情報を中心にダイバーに提供している。PADIマスタースクーバダイバートレーナー(No.808589)。
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