深海を目指す女性たち 〜フリーダイバーHANAKO✕テクニカルダイバーSUZUKI SISTERSが-50mでコラボ!〜
人はなぜ深海を目指すのか?それは、フリーダイバーの私自身、うまく言葉にすることは難しい。登山家の「そこに山があるから」と同じように、「そこに海があるから」としか言いようがない魅力。
今日はそんな深みに魅せられている女性たちの、あるチャレンジをレポートする。
日本初の深海での異種コラボ!
2020年11月25日、西伊豆の雲見。
複数のタンクを背負ったテクニカルダイバーと、一息で潜るフリーダイバーが、水深50mという一般的なダイビングの限界を超えた深度で一緒に潜るという企画が行われた。それぞれ全く異なるアプローチで、ほんの僅かなタイミングを合わせ、たったひとつの深海のポイントで出会うという挑戦だ。コロナ禍のこんな年だからこそ、身近なフィールドで、新しいことにチャレンジしてダイビング業界を明るく盛り上げたい!という女性たちの想いにより立ち上がった企画だ。
主役は3人娘
テクニカルダイバーは鈴木智子、鈴木雅子のSUZUKI SISTERS(STINGRAY JAPAN所属)。通常のレジャーダイビングで潜れる範囲は水深40m程度が限度だが、そこを遥かに超える深度を潜るための特別なスキルを持つダイバーだ。一つだけでも重たいタンクを複数携えて、厳密な潜水計画とリスクマネジメントに基づき潜る。彼女たちの最深記録は90m以上。メカに強い男性的なイメージのあるテクニカルダイビングの世界の第一線で活躍する女性テクニカルダイバー姉妹だ。
フリーダイバー・HANAKOは、世界記録に近い106mという記録を持つ。たった一息で100mを潜ってしまう彼女にとっても、“海底で誰かに出会う”という経験は初めてだ。コロナ禍でなければ、シーズンの大半は海外遠征に出ているはずの彼女、このような企画は実現しなかっただろう。
シリアスでハードに見える企画だが、主役の3人の共通点は金髪頭の若い女性たち。陸上ではあっけらかんと笑いが絶えず、ともかく明るい!
万全の体制を整えチャレンジスタート
彼女たちをサポートするために全国からこの場に集まったテクニカルダイバーとフリーダイバーは、全員がプロフェッショナル。けれど、今日は誰もが体験したことがない新しい試みに胸を躍らせながらも、少し緊張もしていた。
ミーティングの後はそれぞれが念入りにセッティングや準備。すると小雨も降るような寒い空模様だったことが嘘のように、出港する頃には青空が現れた。
いざ海へ。ここ雲見では港から出港してすぐの場所で50mの深度が取れる。沖に行けばもちろんもっと深くなる。
船上での準備を終え、いよいよこの後、海底で会おうね!と固い握手をするHANAKO と雅子、智子。富士山にも応援されているような光景だ。
そして、まずは、テクニカルダイバーが潜降。
一定の深度ごとに数名のダイバーを配置。ボトムの50m地点での滞在時間は数十分ほど。その後、厳密な減圧停止を経て少しずつ浮上する。この日は酸素濃度の異なる4つのタンクを背負って、深海へと消えていった。
無数の泡が真っ青な海から上がり、光を反射する。水面付近で見守るフリーダイバーの私たちにとっても見たことのない美しい光景だ。通常、フリーダイビングではたった一人で誰も居ない世界へと潜っていく。しかしこの泡は、多くのテクニカルダイバーが深い場所で待ってくれている、という特別な、心強いしるしでもあった。
彼らが水底で準備が整う時間に合わせて、フリーダイビングのカウントダウンが始まる。競技会のような緊張感。HANAKOは最後の一呼吸を終えた。
そして、潜降。
無数の泡の中に消えていく。海底で待機するSUZUKI SISTERSを目指して。
そして・・
ボトムプレートは水深50m地点。
-50M地点に到達。3人は無事に対面。ほんの数秒間の3名のランデブーが実現した。
HANAKOは先に浮上。
HANAKOが50Mから浮上に要する時間は1分ほど。かたやSUZUKI SISTERSが浮上するためには、各地点で正確に数十分ほど減圧停止を行う必要があるため、長い時間を要した。
潜水前にはフリーダイバーである私には見慣れない、浮上時の減圧停止計画を厳密に行なっていた。
ボトムでの3人のランデブーというミッション成功のあとの安堵感はありながら、浮上するまでは厳密な減圧停止が必要で気が抜けないテクニカルダイバーたち。その周りを鳥のように泳ぎ遊びまわるHANAKOをはじめとするフリーダイバーたち。なかなかお目にかかれない光景だ。
そして全ダイバーが無事浮上。これで本当のミッションコンプリート。
潜降前と全く異なる一体感に包まれた海上。テクニカルダイバーとフリーダイバーたちが混ざり合い、共に喜びを分かち合った。
午後には、全員で雲見のアーチポイントへ。水深25mほどのアーチを、テクニカルダイバーとモノフィンのフリーダイバーが共にくぐり抜けたり、と、ちょっと(だいぶ)深いFUNダイブを楽しんだ。
テクニカルダイビングとフリーダイバーの共通点とは?
かたやタンクを背負い、かたや一息で潜る。それぞれアプローチは違いながらも、同じ一つの場所を目指すこの場を通じて、お互いの違いとともに共通点を感じることになった。
何故なら、方法は違えど、深海への憧れと情熱、その熱量は同じだから。どちらも海への畏怖とリスペクトを忘れることはない。
鈴木雅子「水深50mで待機し、妹である智子と息を合わせる。数分の待ち時間が数時間にも感じられドキドキワクワクしました。
HANAKOと水深50mで合流!潜り慣れている深度なのに…その不思議で神秘的な瞬間に何とも言えない高揚感がありました。
私たちはここから数十分かけて減圧停止。水面近くではフリーダイバーの皆さんも次々に水中へ。なんともいえない素敵な光景。フリーダイバーとテクニカルダイバー、一見正反対のように思われるが共通していたのは「水中世界を楽しむこと」。
気持ちを共有でき素直に楽しかったし、ボトムでHANAKOに出会ったときは涙が出そうになるくらい嬉しかったです。
今回のミッション成功は、素晴らしいサポートダイバーの助けがあってのこと。本当に本当に感謝です。ありがとうございます。次回も更なるワクワクするコラボ、楽しみです!」
鈴木智子「ボトムでHANAKOを待つのは不思議な感覚でした。-50mには何度も行っているのに、誰かを待つというのは1度も経験がないからです。加藤さんと野村が、雅子と私に「HANAKOが来るぞ!」と合図をした時の鳥肌が立つようなドキドキ感、HANAKOと-50mで再会した喜び。あの感覚は忘れません。
減圧停止中は、美しいフリーダイバーの方々が、楽しそうに泳いでいました。それぞれのスタイルで同じ水中を楽しむ、最高の時間でした。
フリーダイビングとテクニカルダイビングは、水陸共に対照的ですが、共通する事は多いと感じています。正しい知識を学び、トレーニングを継続した先にある、本当に楽しい世界。私達3人は女性ですから、是非女性の方に興味を持って頂けたら嬉しいです。
協力して下さった皆様、そして親愛なるHANAKO、素晴らしい時間をありがとうございました。次回も、更にディープな世界で楽しみましょう!」
HANAKO「ダイブ前は慣れないシチュエーションにとっても緊張していました。いつもの競技なら、水面に帰った時にみんなに会えるところですが、ボトムに降り立った時、そこで待っていてくれた人たちを見た瞬間は、初めての暖かい光景に、何だか凄く嬉しくて!既にゴールした気分になってしまいました。雅子&智子と握手をしたり、喜びを共有しながらボトムで長居してしまい、浮上しなきゃいけないことを忘れてしまったほど! 『おっと・・いかんいかん、帰るんだった。』と思い出してひとりで浮上する時はちょっと寂しかったけど、『雅子&智子、水面で待ってるよ〜!』と思いながら気持ちを集中し直しました。
二人が無事に上がってきて、また水面で再会出来た時は凄くほっとしました。 いつもは一人ぼっちで感じていた水深50mの世界を、また全く違う新鮮な場所に感じて、同じ海の深みを目指すダイバー達とその喜びの瞬間を共有できたなんて、本当に贅沢な挑戦だったと思います。 ご協力くださった皆さんのおかげです。本当にありがとうございました! 」
水中での緊張とリラックスがないまぜになった感覚、深海に挑み必ず安全に帰ってくる、という信念は、実は全く同じものなのかもしれない。
テクニカルダイビングとフリーダイビング。一見難しそうで、そして怖そうに思われる世界かもしれないが、こんな女性たちが生き生きとチャレンジする魅力的な世界であることを、垣間見ていただけただろうか?
深海の世界はどこまでも、青い。そこは、まるで宇宙空間のように、神秘的で、美しく、自由な世界。彼女たちの挑戦は、終わらない。
当日のショートムービーはこちら(STINGRAY・JAPAN scuba diving)
写真:StingrayJapan、加藤栄一、吉田高太郎、毛利佑、武藤由紀
協力:トゥルーノース
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