素潜りライフのススメ(第3回)

「素潜りのベストシーズンとは?」〜知られざる魅惑の世界、冬の海〜

マリンスポーツというと一般的に“夏のもの”というイメージがあるかと思う。ではいったい素潜りのベストシーズンはいつなのか?

場所や目的によって一概に「いつ」と決め付けることは難しいのだが、実は、これからの季節こそが素潜りの隠れベストシーズンと言えるのかもしれない。“ダウンジャケットやモコモコのブーツを履きたくなる”、“暖房の効いた室内で暖かいコーヒーを飲んでぬくぬくしていたい”、多くの人は海から遠ざかる時期が、なぜベストシーズンなのか?

ここでは私が拠点とする神奈川県の三浦半島や、相模湾を基準に冬の素潜りの魅力を解説する。

冬の素潜りの魅力とは?

1.海の透明度が上がる。

冬は濁りの原因となる水中のプランクトンなどの微生物が減り、また太平洋側は北風の日が増えるため、綺麗な水が上昇してくる。(詳細:https://oceana.ne.jp/column/54758)都心からほど近い葉山の海が、冬にはまるで南国リゾートのような美しさになることを知る人は、実はあまり多くはない。夏と冬とのギャップの激しさが相まって、この点が一番の魅力となっている。

こちらは1月の葉山の海。不純物が減り青く澄み、時には透視度20mオーバーということもある。(2020年1月)

冬の素潜り葉山

そしてこちらが8月の葉山の海。濁りは栄養分が豊富な証拠。基本的には緑色で、透視度は良くても10m以下、2-3m程度という日もある。(2020年8月)

2.気温に比べると水温のほうが暖かい。

水は熱しにくく冷めにくい。秋冬の海水温は穏やかに下がっていく。外気温が急激に下がる中、陸よりも水中のほうが温かく感じるということもあるくらいだ。年明けくらいまでは、比較的活動しやすい水温が保たれる。たとえば11月の水温は、6月下旬の初夏と同じくらいとなる。

*こちらは、54年ぶりに都心で11月の初雪が観測された際の葉山の海。外気温は氷点下だが、水温はまだ20℃以上あり、この気温差により、気嵐(けあらし)という湯けむりのような水蒸気が海に立ち込めていた。温泉のように温かいわけではないが、秋冬の気温と海水温の差により起こった一例。(2016年11月24日)

気嵐

3.冬にしか見られない景色、生物に出会える。

ここでは相模湾だけではなく、日本全国の海にも目を向けてみようと思う。まずは、冬の素潜りの真骨頂「ザトウクジラとのスイム」。冬の間だけ子育てと繁殖のために日本近海に南下してくるザトウクジラ。毎年1月から3月の時期を中心に、沖縄や奄美大島付近の海に生息し、素潜りで観察できる可能性がある。
(2020年2月、奄美大島)

ホエールスイム

また、夏には観光客で賑わう本栖湖も静かな環境となり、冠雪した富士山の麓での素潜りをすると、かなりレアな絵面が楽しめる。(2018年4月本栖湖、撮影:野口智弘)

本栖湖スキンダイビング

早春の海藻。海の中で巡る四季に思いを馳せることが出来る。(2019年3月、葉山)

葉山スキンダイビング 葉山スキンダイビング

そして、究極の素潜りとも言える、-3℃の世界「流氷フリーダイビング」。(2019年2月知床、写真: Sungsu Ian Kim)
(流氷スキンダイビングについての過去記事:https://oceana.ne.jp/skindiving/60330

流氷フリーダイビング

これ以外の魅力、メリットとしては
・海上がりの温泉など、冬だからこそ倍増する楽しみがある。
・オフシーズンをつくらず継続して素潜りを続けることで耳抜きやフィンワークのスキルを保つことが出来る。
・冬の間の重装備で練習することで体幹が鍛えられ、グッとスキルアップする。
などが挙げられる。

冬の素潜りのリスクと対策

良いことづくめに思える冬の素潜りが、なぜ万人受けしないのか。それはもちろん「寒いから」に他ならない。「冬の海が好き」というと、よく「寒くないんですか?」と驚かれる。もちろん寒い。寒さは大きなストレスの一つであり、リスクを誘発する要因ともなる。

特にスキューバダイビングと違って、素潜りの性質上ドライスーツでは行えない。どんなに寒くてもウエットスーツを着用する。真冬にウエットスーツで全身びしょ濡れ・・想像しただけで寒くなる方もいるかもしれない。

素潜りは、季節を問わず、そもそも沢山のリスクを前提とし、そこに対処できるような知識や技術を身につけて臨むもの。そして全てのリスクは「寒さ」によって増幅される。例えば、低体温症や、足つり、波酔いを誘発しやすくなる。また防寒のための重装備自体が様々なリスクを招く。慣れていないと、装備が苦痛になってしまったり、動作が緩慢になったりすることも。

夏山のハイキングと冬山登山が異なるように、夏の素潜りと冬の素潜りは別のアクティビティと思っても良い。初心者向けというよりは“ワンランク上の楽しみ方”ということになるのかもしれない。特有のリスクを知り、一つひとつ対策し、ノウハウを積んでいくことでより深い楽しみを得ることが出来るのだ。

もし冬の間に素潜りを新たに始めてみたいという方がいたら、まずはプール講習から始めることをオススメする。適切な指導者のもと、基礎的な知識や技術をしっかり身につけ、装備に慣れてから冬の海にトライすることが望ましい。

また、陸上や船上での防寒の工夫や、日常生活の冷えまでトータルで対策していくことで、年間を通し健康的に素潜りを楽しむことが可能となる。日本古来の素潜り漁を続ける海女さんたちから学べることも多い。彼女らは海女小屋で火を炊き、潜水漁の前後に十二分に体を温める。こうした工夫で冷たい海でも体を壊さずに歳を取っても潜り続けることができるという。

冬の海にも、関東圏の秋冬から極寒の極地でのアクティビティまで様々なレベルがある。ちなみに私は南極やノルウェー、アイスランドの氷河などにも興味があるが、それには到底修行が足りないと思っている。また、そういう場所に自由に旅することが出来る日がいつになるのかもわからない。

しかし遠くに旅をすることが難しいこのご時世でも、すぐ近くに素晴らしい世界がある。それが冬の海だ。それはまさに“もうひとつの海”といっても良い魅惑の世界なのだ。

スキンダイビング冬

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PROFILE
Apnea AcademyAsiaフリーダイビングインストラクター。 2015年フリーダイビング日本代表選手。CWT(フィンをつけて潜る競技)では水深-60mの公式記録を有する。オーシャナ主催のスキンダイビング講習会ではメイン・インストラクターをつとめる。また、自ら主催するフリーダイビング&スキンダイビングサークル「リトル・ブルー」や地元葉山での素潜りを通じ、素潜りや水の世界の素晴らしさを伝える活動をしている。