素潜りライフのススメ(第7回)

目指せスタイリッシュな素潜り美人!“非映え”スキンダイバーにならないための5つの掟

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夏を目前に控えてお届けする今回の記事は「映え」。素潜りをやるからには美しく泳ぎたいと願う人は多いだろう。そしてできればその姿を美しく格好よく写真に残したい、SNSで発信したい…こう思うだろう。

「美しさ」の定義は様々だが、今回追求してみる「素潜りにおける美」、「映え」の条件として以下を挙げたい。

・水辺でのこなれた所作
・水中でのしなやかな動き

つまり、正しい器材の使い方、確実なスキル、効率の良いフォームが「映え」の基本となるのではないかと考える。こうしたことは付け焼き刃のポージングとは一線を画し、すべてが一枚の写真からでも滲み出てしまう。どんなにスタイル抜群で最新の器材を持っていても、キメ顔をしても、たった一つのNGポイントで逆にちょっと残念な写真になる。

せっかくの海の思い出を残念なものにしないために、美しく水中や水辺で映えるための秘訣…、 “非映え”スキンダイバーにならないための掟をいくつか紹介してみよう。

今回は神奈川県葉山の海で日々素潜りを楽しむフリーダイバーのトモコさんとリエさんに協力をいただき、お二人の素潜りの様子を撮影した。

●掟その1:器材装着左右を確認すべし

とある凪の素潜り日和、バディを組んで海へ向かう二人。まずはエントリー前に「いってきまーす♪」のショット。

仲良しバディのトモコさん(左)、リエさん(右)

仲良しバディのトモコさん(左)、リエさん(右)

二人とも楽しそうで、バッチリ決まっているように見えるが…おわかりだろうか? 一瞬で気づく人も多いかも知れないがもう少し拡大してみる。

シュノーケリング映え

そう、トモコさんのシュノーケルが「右側についている」。シュノーケルは「左型」につけることが一般的。もともとはスキューバダイビングではレギュレーターを右から加えるために左側にシュノーケルをつけるようになったことが理由だ。素潜りでは確かにどちらでも機能は同じだが、最近のシュノーケルは左につけることを前提にマウスピースが作られているものもあり「左側」が一般的となっている。

そのため、右側に堂々とつけていると、「あれ。もしかして初心者さんかな?」という疑惑を生むことになる。

筆者の意見としても「どちら側でも同じだが、海で身につけるものは常に左右を同じ側に定めておく方が良い」と考える。なぜなら、とっさの判断が必要となった際に迷いがなくなるからだ。

ついでにこの写真のトモコさんは「マスク内に髪の毛が入っている…あまりに入りすぎている…」。挟み込みがあると水が侵入してきてしまう。マスクには前髪やフードなどの挟み込みがないようにキッチリと装着したい。

これでスッキリ、正解だ。器材の装着については入水前にバディ同士でお互いにチェックすることも大切だ。

さて、気を取り直してもう一枚。

一見キマっているように見える。ところがまたも、残念ポイントが・・
拡大してみる。

ウエイトベルトも左右の決まりごとがあり、この写真では左右は正しく守られている。しかし、「なぜ左右が大事なのか」を考えてみるとひとつ、間違いを発見するはずだ。

ウエイトベルトは「いつでも右手でクイックリリース」出来ることがスキューバダイビングでもスキンダイビングでも安全管理の基本。こんな風にベルトの先を中に折り込んでしまうと、いざという時にワンアクションでのクイックリリースができない。しかしこのスタイルで泳いでいる人は意外と見かけるので注意したい。

ベルトの端が長すぎる時には、真ん中を折り込み、端っこ部分を引っ張るとすぐにリリースできる付け方が正しい。もちろん、程よい長さのマイベルトを持っていれば折り込む必要もないのでベターだ。

ウエイトベルト

●掟その2:曇りない視野を確保すべし

いざ入水してまたパチリ…!

ここでもまた非映えポイントが。
そう、トモコさんのマスクが曇っている。

モクモクと曇ったマスクはせっかく透明度が良くても水中がはっきり見えない、そして見た目もちょっと恥ずかしい。入水前に曇り止めをしっかりつけてからマスクを装着し、適切な使い方をしていれば長時間のダイブでも終始一度も外す必要はなく、曇ることもない。

途中で曇ってしまう原因としては、シュノーケルの口呼吸に慣れておらず鼻呼吸をしてしまうことが考えられる。子供などでよく見られる。これから潜る前にワクワク興奮しつい呼吸が激しくなるかもしれないが、落ち着いて静かに口呼吸を行おう。

なお、潜る前にリエさんの方は浅瀬に漂っていたアカモクという海藻(※)をささっと少し塗って曇り止めにしていた。

海藻で曇り止め

唾をぺっとするでもなく、こんなちょっとしたエコな気配りはマスクを曇らせないだけでなく美人度もよりアップする。

※海藻を採取することは地域により密漁として禁止されているので注意。千切れて漂流しているものを使用しよう。

●掟その3:白鳥のごとく静かに泳ぐべし

いよいよ沖に泳ぎ出す二人。青空と森の新緑が海から見えるところが初夏の葉山らしい景色、一見爽やかな写真だ。

では「映え」の観点からはどうか。

静かに泳ぐトモコさん(手前の白いフィン)。 そして、その後ろのリエさん(奥の青いフィン)に注目。

静かに泳ぐトモコさん(手前の白いフィン)。
そして、その後ろのリエさん(奥の青いフィン)に注目。

後ろのリエさん

拡大してみると…

これは…!
バタンバタンと激しい音と共に水しぶきが上がっている。全力を振り絞って泳いでいるようだ。しかし、こうした水しぶきや、力強く跳ね上げたフィンはせっかくの爽やかな風景をも残念な写真に変えてしまう要素のひとつ。

素潜りはリラックスして脱力し、足の筋力ではなく体幹でフィンワークをすることが効率的。関節を曲げ筋肉を総動員した膝蹴りキックは効率が悪くすぐに疲れてしまうのでご法度だ。

足をスーッと伸ばしたまま、一粒の水滴も飛び散らないようなフィンワークは白鳥のようにエレガントで、なにより効率的、そして「映える」のだ。

この差は水中では更にはっきりしてくる。

●掟その4:人魚のごとく滑らかに泳ぐべし

そしていよいよ少し深場へ。バディで交互に潜り始める二人。

トモコさんが先に潜っていく。春濁りで少し透明度が落ちている葉山の海だが、白いフィンは水中でもよく映える。

まるで人魚!

お次はリエさん。

…残念ながら人魚とは程遠い。

リエさんは水面の力強い膝蹴りキックのまま、威勢良く潜り、その後も、全力で漕いで水中を泳いでいたが、数回潜るともうゼエゼエと息切れがしてすぐにギブアップしてしまった。一方、トモコさんの方は涼しい顔で倍の時間を長く潜っていた。

水中での膝蹴りは水面以上に差が出る。どちらが美しく映えるかは一目瞭然。
スーッと足を伸ばし、頭からフィン先までが流線型を描くようなフィンワークが断然美しい。見た目だけではない。抵抗のない姿勢で泳ぐことは、無駄な酸素消費を抑え、より長い潜水にもつながる

素潜りのフィンワークは力ずくで蹴ることではなく、いかに水に身を任せ、水に運んでもらうか、ということが大切。

こうしたフィンワークは、決して「映え」を狙ったポージングで成せるものではない。日頃の練習の賜物だ。たまたま撮られた水中での一瞬は、常に人魚でありたい。

●掟その5:天使のごとく浮上すべし

さて、潜った後の浮上シーン。

光に向かう天使のよう…!?
しかし、このシルエットにも実は、残念な気配が。

もう少しアップで見てみよう。

浮上中に鼻をつまんだままのリエさん。これも意外とよくある“非映え”写真だ。
耳抜きをするためには、水圧が増していく潜行時に鼻をつまんで潜るのだが、それに集中するあまり浮上時まで終始鼻をつまみっぱなし、というケースが初心者のうちはよくある。

必要な時だけ耳抜きを行い、浮上時にはリラックスして手は楽に体側に。これが浮上時の理想だ。

さて、続いて人魚のフィンワークを終えたトモコさんが浮上してきた。片手は海面を目指し、もう片手は楽に体側に揃えている。
さあ天使の浮上なるか…

…これは残念すぎる。

下から煽って撮影してみると、天使とはほど遠いシルエットが現れた。浮上時、特に水面付近は、キックをしなくても自然な浮力で浮上できるゾーン。両足は膝を開かずピタリとつけたまま真っ直ぐに。大股開きは論外だ。

目指したいのはこの足。足を揃えた姿勢は「映える」だけでなく、水の抵抗が減り、浮上スピードも速い。

無駄な動作や姿勢を極力避けて水に体をゆだねる。浮上時まで気を抜かず、いつでも天使のシルエットを目指したい。

●おまけ:余韻に浸るのはほどほどにすべし

さて、二人で楽しい素潜りを終えて海から上がってきた。
海から上がると少し陸の重力が重く感じられ、日常では感じない、ふわふわした感覚を覚える。そんな感覚も海上がりの心地よさの一つでもある。

海上がりの余韻と共に満足そうな笑顔の二人だが

トモコさん、もうシュノーケルは咥える必要ないのでは…?

うっかり余韻に浸っているとやってしまいがちな「頭にマスク、口にシュノーケル」。これは大変に格好悪い。このスタイルは夏休みの海辺でよく見かける。主に小さな子供が入水を待ちきれない時や、泳ぎが楽しかった海上がりにいつまでもシュノーケルだけを口に咥えていることがあり、それはそれで可愛らしいものだが…大人がやるとスタイリッシュとはほど遠くなるのでご注意だ。

以上、代表的な掟を5つ、紹介した。

●掟その1:器材装着は左右を確認すべし
●掟その2:曇りない視野を確保すべし
●掟その3:白鳥のごとく静かに泳ぐべし
●掟その4:人魚のごとく滑らかに泳ぐべし
●掟その5:天使のごとく浮上すべし

他にもまだまだあるので、機会があればまた紹介したい。

冒頭にも記載したとおり、素潜りにおける美しさ、映えのポイントとして

・水辺でのこなれた所作
・水中でのしなやかな動き

がいかに大切かお分りいただけただろうか。

正しい器材の使い方、確実なスキル、効率の良いフォーム。こうしたことを身につけていけば、特にポーズなどとらなくても、おのずと美しく映えることができる。

ぜひ正しく練習をして、スタイリッシュで美しい水中写真を目指していただきたい。

MODEL:
Rie Yamashita
Tomoko Tsushima

場所:神奈川県 葉山三が下海岸

お二人ともフリーダイバーでPADIスノーケリングガイド。普段はスタイリッシュに潜る二人だが、今回はあえての“非映え”にチャレンジ頂いた。感想は「非映えでの素潜りは疲れる」「やっぱり基本は大事!」と痛感したとのことだ。

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PROFILE
Apnea AcademyAsiaフリーダイビングインストラクター。 2015年フリーダイビング日本代表選手。CWT(フィンをつけて潜る競技)では水深-60mの公式記録を有する。オーシャナ主催のスキンダイビング講習会ではメイン・インストラクターをつとめる。また、自ら主催するフリーダイビング&スキンダイビングサークル「リトル・ブルー」や地元葉山での素潜りを通じ、素潜りや水の世界の素晴らしさを伝える活動をしている。
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