素潜りライフのススメ(第5回)

こんな時だから、お家で素潜りの深みにハマってみる〜海&フリーダイビング映画10選〜

この記事は約9分で読めます。

春の兆しがあちこちに見え始めてはいるが、水温は一年の中でも一番冷たい季節。そしてコロナ禍のもと続く外出自粛。冬の海をオススメされても、潜るにはそれなりの覚悟がいるし、かといって暖かい南の海に旅に出ることもままならないご時世。
こんな時こそ、お家でゆっくり、素潜りの魅力にはまってみるのもなかなか良いもの。そこで今回はフリーダイバー目線で、海と素潜りの魅力を感じられる作品を選んでみた

グラン・ブルー

トップバッターはやはりこちら。永遠に外せない王道作品だ。リュックベッソン監督のこの映画は、実在の伝説的フリーダイバー、故ジャック・マイヨールをモデルにした映画としてあまりにも有名。世界中のフリーダイバーにとってバイブル的作品で、数十回は見ているという人も少なくない。誰もが知る作品と思いきや、実はこの映画は1980年代の作品。最近では知らない若者も多く、時の流れを感じることも多い。

「映画『グラン・ブルー 完全版 -デジタル・レストア・バージョン-』予告編」
amazon prime 他で配信中。

ちなみに私自身がこの映画を見たのは学生時代で、まだ自分がフリーダイバーになろうとは夢にも想像もしていなかった頃。時が流れ一昨年、この映画のロケ地の一つであるギリシアのアモルゴス島に大会の選手として訪れた時は感無量で、頭の中がグラン・ブルーのテーマ曲でいっぱいになった。エリック・セラの音楽がまた素晴らしく、サントラを聴いているだけでも深海に誘われる。

グラン・ブルーのロケ地の一つ、ギリシアのアモルゴス島で開催されているフリーダイビング大会Authentic Big blueのプロモーション映像。

ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ

なお、グラン・ブルーは実在の人物を基にしたフィンクション作品だが、ジャック・マイヨールの実際の生涯はドキュメンタリー映画「ドルフィン・マン~ジャック・マイヨール、蒼く深い海へ」で観ることが出来る。こちらも必見作品だ。

My Octopus Teacher
オクトパスの神秘: 海の賢者は語る

南アフリカの豊かな海藻の森で、映像監督とマダコとの交流を描く、2020年公開のNetflixオリジナルのドキュメント・ムービー。タコの生態、そして主人公との絆が描かれており、よくこんな映像が撮れたなあ、と映像的にも驚愕するレベル。ケルプの森がともかく美しい。この作品では冷たい水の中で主人公が海パン一丁で、何故か頭だけはフードキャップを被り、ロングフィン、という独特のスタイルで毎日潜り続ける。「海への訪問者ではなく、自然の一部として海に入りたい」と作品中で主人公は語るが、まさにそのための最善で唯一の方法、それが素潜りなのだ、と改めて思った。

▶︎Netflix:https://www.netflix.com/jp/title/81045007
Netflixで配信中。

SONG OF THE SEA
ソング・オブ・ザ・シー 海のうた

アイルランドの長編アニメーション映画。アイルランドの伝説のアザラシの妖精セルキーを題材に、子供達の冒険を描く。陸上もだが海のシーンの美しさが印象的で、動く絵本をめくるよう。全体を通して物悲しく、古くから北の海と共に生きて来た民族の海への思いと幻想的な世界観を垣間見る気持ちだ。見終わった後、冷たい海から上がった後のような感覚を得る。このアニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」はポスト・ジブリとも称されるようで、これ以外の作品も素晴らしい。


amazon prime ほかで配信中。

ちなみにフリーダイバーがフード付きウエットスーツを着た姿は、まるでアザラシの妖精セルキーとよく言われるが、映画を見た後この写真を見ると納得いただけると思う。

2016年知床にて撮影された私 Photo by Ryuzo Shinomiya

2016年知床にて撮影された私 Photo by Ryuzo Shinomiya

プラスチックの海

年間800万トンものプラスチックが海に捨てられている・・。序盤に出てくるプラスチックで溢れた海の様子は衝撃的。しかし残念ながら最近では珍しい光景ではなく、ダイバーやフリーダイバーならば、リアルに一度は出会ったことがある光景ではないだろうか。フリーダイビングの草分け的存在で世界記録保持者、タニヤ・ストリーターがナビゲーター役の一人として登場する。

世界各地の目を背けたくなるような現実を次々と見せつけられ、時おり絶望的な気持ちになる。しかし、見終わったあとは、それでも未来に希望を持って、今日から行動を起こそう、と前向きな気持ちを後押しされた。海と陸は繋がっている、必見の映画。

現在ミニシアターを中心に全国で上映されているほか、Netflixでも視聴できる。

▶︎上映情報:https://unitedpeople.jp/plasticocean/theater

▶︎Netflix:https://www.netflix.com/jp/title/80164032

タイタニック

ご存知超大作。全編海の上、船の上でストーリー展開し、海に落ちるシーンはあるが、素潜りシーンはもちろん一切出てこない。しかし、「海への畏敬の念と果てなきロマン」を同時に掻き立てられる作品としては外せない。実際に起きた世紀の大惨事を基にしたパニック映画、人間ドラマ、珠玉のラブストーリー、イケメン全盛期のディカプリオ、様々な楽しみ方が出来る映画ではあるが、フリーダイバー目線で改めてこの映画を見ると、これは「海洋ロマン映画」なのだ。ジェームズ・キャメロン監督がどれほど強烈な海への憧れと情熱を抱いている人なのかを、随所に感じることができる。


amazon prime 他で配信中。

ちなみに同監督の作品は海洋をモチーフにしているものが多く、初期作品には深海ものの「アビス」がある。数年前には、フリーダイバー、ピピン・フェレーラスとオードリー夫妻の悲劇を題材にした映画「THE DIVE」を制作するという情報があったが、立ち消えになったのだろうか。
(原作「ダイブ 水深170メートルに逝った愛」)

なお、近々公開が予定されているという同監督の「アバター2」は海を舞台にしているという。俳優たちがフリーダイビングのトレーニングを受けて臨んだという情報もあり、今から公開日が待ち遠しい。

アクアマン

アメコミが原作、水陸両用の水棲人「アクアマン」が活躍する、というド派手なヒーローもの海中アクション映画。アクアマンはすべての海の生物を操ることができる、という設定で、馬の代わりにサメにまたがって戦闘を繰り広げたり、水中世界や水中での動きの迫力が、あり得ないスケールで見ていて気持ち良い。フリーダイバーとしては、その水中での驚異的な能力に「アクアマン、いいなあ」と羨ましい気持ちにもなる。


amazon prime 他で配信中。

ちなみに私がかつて師事していたイギリス人のフリーダイビングコーチHarry Chamas
アクアマンそっくりのもじゃもじゃマッチョ。潜水能力も異常に高く、私は心の中でいつも「アクアマン」と呼んでいた。

この投稿をInstagramで見る

 

Harry Chamas(@freedivepassion)がシェアした投稿

One Breath | The Life of Natalia Molchanova |

数年前に海で行方不明になったフリーダイバー、ロシアのナタリア・モルチャノワの生涯を元にしたロシアの映画。当時彼女の訃報には世界中のフリーダイバーに衝撃が走った。彼女は圧倒的な強さで世界記録を独占し続けながらも優しく気さくな人柄で、ナタリア本人と馴染みが深いという日本の現役フリーダイバーは多い。

2020年の春、コロナ禍のロシア語圏でリリースされたと知り、その後英語翻訳版の予告は発見したが、ネット配信など日本で見る方法があるかは不明、現状では予告編の映像を楽しみつつ本編を観る日を気長に待ちたい。

海獣の子供 Children of the Sea

五十嵐大介の漫画を原作としたアニメーション映画。ジュゴンに育てられた少年と、それをめぐる不思議な物語。私ははじめて原作を読んだ時にその世界観に圧倒され、読後は放心状態に陥った。普段海に潜っているだけでは感じられない、けれどその先に確かにあるのではないか、と思わせる世界。海の怖さと美しさを言葉でも理屈でもなく感覚に訴えてくる。

海で起こるほとんどのことは、誰にも気づかれない
という一言が印象的。

原作者の五十嵐氏自身は、ダイビングや素潜りの経験はあまりなく、この作品はほぼイマジネーションによって生み出されたというから驚きだ。逆に、それだからこそ描けた作品かもしれない。人間には「内なる海」がある、とフリーダイビングの師匠に言われて来た、まさにそのことを感じられる。米津玄師による主題歌「海の幽霊」もまた良い。

しかし、この壮大な世界を味わうには、音や色がない原作の一気読みで脳内の海に浸ることを何といってもまずオススメする。各国語に翻訳されており、彼の作品にインスパイアされて水中映像を撮っているフリーダイバーもいるほどだ。

海獣の子供

出典:小学館eコミックストア

▶︎作品情報:https://csbs.shogakukan.co.jp/book?book_group_id=617

Glaucos
グロコス

最後は映画ではなく、漫画を紹介する。フリーダイビングを真正面に題材とした漫画で、当時はフリーダイバーの間では話題となった。作者は たなか 亜希夫氏。講談社の「モーニング」で2004年から1年ほど連載されていた。

海の申し子・シセが競技者として世界記録に挑むというストーリーと併せて、未だに全てが解明されていないフリーダイビングと人体の神秘が描かれる。
トレーニングや世界大会、機材に到るまでそのディテールがとにかくリアル。この作品が連載された当時は、国内外ともフリーダイビング黎明期で、今よりさらに競技人口も少なかった時代だが、どれほど綿密に取材が行われたかが伺える。

メジャーなコミック誌に人気漫画家が連載していた作品だけあり、マニアでも、フリーダイビングを知らない人でも、どちらが読んでも引き込まれる面白さだ。

出典:講談社コミックプラス

▶︎作品情報:https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000007792

漫画は全4巻。電子書籍でも販売中。

以上、10つの作品を紹介した。海に関する映画というと水中ドキュメンタリー作品や素敵なサーフムービーは数多く思い当たるのだが、フリーダイビングや素潜りを題材にしたものは数少ない。

実は水中シーンでフリーダイバーがスタントとして活躍したり、モーションキャプチャーに協力している、という作品は密かに多いようだがあまり表には出てこない。

そのため、今回は「フリーダイバー目線で、海と素潜りの魅力を感じられる作品」という観点で絞り込んで見た。ぜひ、お気に入り作品を見つけ、来るべきシーズンに向けて気持ちを高めていってほしい。

\素潜りを始めたい方はこちらもおすすめ/
▶︎シュノーケリング&スキンダイビングの始め方

\メルマガ会員募集中/

週に2回、今読んで欲しいオーシャナの記事をピックアップしてお届けします♪
メールアドレスを入力して簡単登録はこちらから↓↓

writer
PROFILE
Apnea AcademyAsiaフリーダイビングインストラクター。 2015年フリーダイビング日本代表選手。CWT(フィンをつけて潜る競技)では水深-60mの公式記録を有する。オーシャナ主催のスキンダイビング講習会ではメイン・インストラクターをつとめる。また、自ら主催するフリーダイビング&スキンダイビングサークル「リトル・ブルー」や地元葉山での素潜りを通じ、素潜りや水の世界の素晴らしさを伝える活動をしている。
FOLLOW