メキシコ・セノーテ「オデッセイ」:水中探検家・伊左治のフツーではないダイビングガイド
ケーブダイビング、楽しんでいますか?
私は楽しみすぎて、自分用に持っているBCが11種類になりました。数えてみると、サイドマウント用のBCだけで6種類も持っているようです。「インストラクターは色んな器材のことが分かっていないとね!」と言い訳する毎日です。
セノーテ「オデッセイ」
さて、ご紹介する1個目のセノーテは「オデッセイ」。ご存じの方はいるだろうか? このセノーテ「オデッセイ」はいわゆる観光地化されていないセノーテで、既に内部の探索は行われているが現地にダイビング施設やトイレなどは存在しない。セノーテへエントリーする経路も草木は少し刈られているが、普段写真で見るようなセノーテのイメージではないだろう。
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上から見たセノーテ「オデッセイ」
セノーテの水面は、中に入る人が少ないために石灰の膜で覆われており、かすかに腐敗した硫化水素の匂い(卵が腐ったような匂い)がする。
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石灰の膜に覆われた水面
でも、これが本来のセノーテ!
この自然のままのセノーテが整備されたものが、今のメキシコの観光地のセノーテなのだ。
さて、このセノーテの見どころは
1. タンニンで染まった水の色と、光のコラボレ―ション
2. そこに漂う硫化水素の雲
3. 美しいハロックラインと、砂漠のような地形のコンビネーション
の3つ。
さあ見ていきましょう。
エントリーの準備とその心構え
まずは斜面をタンクや器材を運び、準備を。
個人的に私が大事にしているのが、この段階からケーブダイビング(や探検)だということ。準備をケーブダイビングの“付属物”だと考えると、思わぬケガの原因となるからだ。私は、ケーブダイビングはプロであるが、タンク運びや陸の悪路の踏破は慣れているというだけでプロではない。プロではない作業をしているのだから、より一層注意を払わなければならない。
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セノーテ「オデッセイ」の入り口
まぁ、とはいうもののここはエントリーにロープもいらず、タンクを運ぶ距離も短い、とても楽なセノーテだ。メキシコは大体において暑いので、楽なセノーテは大歓迎だ…。
さて準備を終えて水中に入り、水中から水面を見上げると…
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水底から水面を見上げた図
いかがだろうか!これも外光が入る「カバーン」のはずだが、普段見るカバーンとはまったく違う!
こんな光のカーテンもあるのだ…。この緑がかった黄色は、水底に溜まった落ち葉から染み出したタンニンによるもので、お茶を煎れたときの色と同じものである。美しい…。今度ちゃんと写真を撮りたい…。
さて、入り口から少し移動してケーブエリア(外光が入らないエリア)の方向に向かうと、硫化水素の層が雲のようになっている。これも水底に溜まった物によって生じた現象で、堆積物が腐敗して生じた硫化水素が、水との比重の関係で一定の深さに滞留したものである。セノーテでは、「アンヘリータ」の硫化水素の雲が有名ではないだろうか。
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硫化水素の層を抜けて進んでいく
オデッセイは水中も観光客向けに整備されていないので、サーベイ(調査)用のラインが縦横にひかれており、枝分かれが連続したルートになっている。誰かについていくことはできても、自分でルートを決めて予定通りに進んでいくのは熟練度がいるだろう。
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「T」と呼ばれる三叉路。ラインが三方向に延びている
自分が来た方向を示すマーカーをラインにつけ、ケーブの中に入って行く。
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ケーブの中を進む
しばらく進むと、ハロックラインの層が見えてくる。エントリー時の黄色のような緑のような水の色とは違い、真っ青な色へと変化する。
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ハロックラインの上を泳ぐダイバー
いやぁ…。良い…。
ハロックラインとは、淡水と海水の重さの違いから、淡水層を上側・海水層を下側として水が分離したラインのことをいう。ライトがそこに当たると屈折率の違いからハロックラインが浮かび上がり、まるで水中にもう一つ水面があるかのように見える。ハロックラインはほんのわずかな比重の差で水が分離しているため、人が多く入るセノーテの場合や、誰かの後ろについて泳ぐ場合では、ハロックラインがかき混ぜられて見えなくなってしまう。
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後ろについて泳ぐと、かき混ぜられて見えなくなる
ここからさらにケーブを奥に進むと、他のセノーテでは見たことの無いような地形が見えてくる。
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砂漠か山脈かのような地形
私はこのエリアがとても好きで、ハロックラインと石灰でできた構造が相まって、天空の山脈を眺めているような気分にさせてくれる。無限に広がっているような光景は砂漠のように見えるかもしれない。この地形のでき方は把握できていないが、完全に砂でできているわけではないようで、石灰岩が細かく砕かれたところを水路のように水流が通過してできたのかもしれない。ここに人間が手を触れると、その痕跡はずっと残ってしまうのだろう。
さらにオデッセイのケーブエリアを抜けていき、あるルートをたどると、水中を通って別のセノーテに移動することができる。そのセノーテから水面を見上げると…。この世なのか、あの世にいるのか、自分を疑うような幻想的な眺めが広がっている。
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太陽を眺めているかのような光景
この夕焼けか太陽そのものかのような色は、水の流れが滞留し、植物から染み出したタンニンが濃く残っていることによるものだ。そしてこの色は季節によって変化し、我々に様々な光景を見せてくれる。
さて、今回の旅はここまで。
セノーテというと鍾乳石のイメージがあるが、私はこのような風景もセノーテの魅力の一つだと思う。
色んな魅力を見つけに、皆さんトレーニングもファンダイビングも、やっていきましょう。
本連載ではインスタライブでみなさんの質問にもお答えしながら、記事で紹介したポイントのことや現地の様子を伊左治さんにお話しいただきます。
ぜひお楽しみに。
※インスタライブは終了しました。
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