水中探検家・伊左治のフツーではないダイビングガイド(第2回)

熱海沈船:水中探検家・伊左治のフツーではないダイビングガイド

この記事は約4分で読めます。

記念すべきダイビングガイドの1本目は、かの有名な熱海の沈船でございます。

はてさて、前置きで「尖ったダイビングガイドを」と聞いてきたのに、有名なポイントじゃないか! という声が聞こえてきそうですが……、よく考えてみてください。

あなたは、沈船の入り口を自分で見つけて、その中に先陣を切って入っていったことは?

沈船の外壁を自分で探して、内部に進入できそうな場所を見つけて、中に何があるのか妄想しながらおっかなびっくり中に入って行く…。
聞いただけでワクワク。

これはガイドに案内してもらう、普段の「レックダイビング」とは一線を画すものでは?

では熱海沈船のダイビングガイド、行ってみよう。

沈船に潜る前に…

熱海スキューバの施設

熱海スキューバの施設

まず現地に到着。
熱海にはいくつかダイビングサービスがあるが、今回は熱海スキューバさんという施設を利用させていただいた。

さて、(テクニカル)ダイビングで極めて重要な能力として、アウェアネス(awareness)というものがある。
日本語で言うと、視野の広さや予測能力ということになる。

ここで私は持ち前のアウェアネスを総動員して、午後から降ってくるという雨がかからない場所に誰よりも早く陣取った。

素晴らしい。

さて全員が器材を準備したら、今回のダイビングの情報についてゲストと話し合っていく。

そう、「話し合っていく」のだ。

すなわち、ガイドである私が一方的にダイブプランを決めて沈船を紹介するのではなく、最低限必要な情報を私が提供した上で私も含めた全体で話し合い、どんな計画でダイビングをするのか自分たちで決めていく。

熱海の沈船に連れて行ってくれる船はいくつかあるが、どの港から出てもポイントまで10分以内で到着する。
今回訪れた4月は春濁りの時期と呼ばれ、熱海の沈船周りの透明度は5m前後であることが多い。4月頭では水温はまだ上がり始めたばかりで、17度ほどであった。

沈船は全長約80mのものが中央で真っ二つに折れて、船首側と船尾側に分かれて沈んでいる。
水深は沈船の甲板の上でおよそ21m、一番下で35mほどである。

それを踏まえて、浮上を開始するまでの平均の水深は深めに見積もって30m程度と考え、30分ほどで浮上を開始する計画を立てた。

今回のパラメーター

・港からの移動時間:5~10分
・透明度: 5~8m
・水温: 17度
・深度:21~35m、平均水深30m
・浮上開始まで30分、総ダイブ時間40分
・ガス:エンリッチドエア28%×2本+減圧用純酸素
・ガスの使用予定:水底で80bar+浮上分

さて、計画も固まった。
さあ行きましょう…ご案内いたします…ではなく、今回はゲストに先頭を行ってもらうこととして、私は最後尾に
先頭を行くゲストは、10年前に一度だけ来たことがあるとのこと。

さあ未知の大冒険のはじまりだ!

沈船内部への入り口の探索

ポイントまで船で移動しながら、再度計画を確認し…エントリー!

沈没船や水中洞窟の中に入るときなどは、入ってきた場所が分からなくならないようにリールでガイドラインを張りながら進入していく。

テクニカルダイビング等で使用する、プライマリーリール

テクニカルダイビング等で使用する、プライマリーリール

普通は閉鎖環境(沈船内や洞窟内など、直浮上できないような環境)に入るときに、ガイドラインを張る。しかし、今回は透明度が悪く土地勘もないため、潜降した位置からどのように移動したかも分からなくなりそうと判断して、潜降した場所からすぐにラインを張り始めることにした。

潜降ロープにラインを結ぶ

潜降ロープにラインを結ぶ

このような、「状況判断」が必要とされるダイビングと言うのは普段は少ないかもしれないが、自分の力で状況を切り開くというのは非常に楽しい(と思っている)。
ラインを伸ばしながら、船の外壁から船内に入れる場所がないかを探しに行く…。

しかし、最初に進んだ方向からは進入できる箇所がなく引き返すことに。

“進入できずに引き返す!”普通のダイビングガイドなら怒られそうな文字面だが、これこそアドベンチャーの醍醐味ではないだろうか。

さて、一度潜降ロープまで戻り、船の甲板から出入口を探していると…内部に入れそうな場所を発見!

近くにラインを結び…

中に入っていく。

沈船の中で、自分でルートを決めて進んでいく

沈船の中に入ると、そこは薄暗い空間。
前情報のない船内は、どこにでも行けそうな気がしてくる。

どちらなら奥に進んで行けるか考えながら、慎重に内部を探索していく。

壁に開いた大きな穴を見つけるゲスト

壁に開いた大きな穴を見つけるゲスト

壁に開いた横穴から船外へと抜けていく。

元々は船の壁か甲板だったのであろう瓦礫が、折り重なったようになっている。
このような箇所は、自分の体やフィンが当たることで崩れてくるリスクがあるため、より一層慎重に進まなければならない。

瓦礫の隙間を縫って覗き込んで見るが…今回はこれで予定時間。タイムアップだ。

「引き返す」という意思を全員で確認し、引いたラインを回収しながら船外へと脱出する。

沈船でも洞窟でも、入り口からの光が見えると、「生還した!」という気持ちになるのは探検のし過ぎだろうか

沈船でも洞窟でも、入り口からの光が見えると、「生還した!」という気持ちになるのは探検のし過ぎだろうか

さてさて、ここまでで水底にいた時間が30分!
普段のダイビングとは一線を画する密度の濃さである。

体力的にもメンタル的にも疲弊するダイビングだが、チームで計画を考えたり発生した問題を解決したりしていくというのは、実際の探検でもやっていることだ。
こんなダイビングが好きな方もいらっしゃるのでは、と思いながら締めることにする。

そういえば、やっぱり魚の話は一度も出てきませんでした。
最近暗所にいる魚ということで、アカマツカサを覚えました。引き続き頑張っていきます。

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PROFILE
1988年に生まれ、12歳からダイビングをスタート。
冒険をライフワークとして求める中でテクニカルダイビングに出会い、水中探検に情熱を燃やすことに。
それ以来、水深80mを越える大深度から前人未踏の水中洞窟まで、多岐に渡る探検を実践。
現在では水中の未踏エリアの探検とともに、その現場経験を伝えることのできる唯一無二のテクニカルダイビングインストラクターとして指導にもあたっている。
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