鳥取・田後(たじり)の海でダンゴウオがいっぱい見られる理由とは?
(撮影/中村卓哉)
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ダイバーに人気のダンゴウオが、1枚の海藻に20個体、1ダイブで60個体以上……。
そんな数々のダンゴウオ伝説を残す鳥取県・岩美町「田後(たじり)」の海だが、ふとした疑問。
なぜ、田後にはこんなにダンゴウオが多いのだろう?
また、生物相が豊富なのか。
これまでは、「この海はダンゴウオが好む生息環境なんだろう」くらいに思っていたが、あまりにもそこかしこにいるので、驚きが疑問に変わってしまった。
もちろん、生物たちが好む生息環境であるのであろうが、具体的にはどういうことか?
田後の海を開拓した「ブルーライン田後」ガイドのザキさん(山崎英治)にたずねてみると、謎かけのような答えが返ってきた。
「ジオパークだからですよ」
ジオパークといえば、ダイナミックに切り立った地形など、ワイドシーンが思い浮かぶが、ダンゴウオをはじめとする小さい魚たちとはすぐには結びつかない。
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるザキさんに、7年潜り続けてきて至った仮説を聞いてみた。
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ブルーライン田後の山崎英治さん
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ジオパークがダンゴウオの生息環境と関係するとしても、山陰海岸ジオパークエリアは東西120㎞にもおよび、田後が位置する岩美町はその中のほんの15㎞にしか過ぎません。
山崎
ここまで数が多いのでは、潮の流れと海底の地形が関係すると思います。
日本海を北上する対馬海流は、日本海側の海岸線に沿うように北上してきます。
鳥取県だけでいえば、西から東へ流れてくるわけですが、岩美の西側は、鳥取砂丘で知られるように、砂地の海岸線が続きます。
そんなツルッとした海岸線が続いた後、沖に突き出すような恰好で、岩美の海岸線が現れるのです。
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つまり、流れを受け止める格好になると?
山崎
そうです。
しかも、ジオパークで知られる岩美の海岸線は、ギザギザとした、流れをこしとるような地形。
ひげ剃りの逆刃のようなもので、それが2枚刃3枚刃どころか無数の刃があるわけです。
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田後のある“岩美”町は、読んで字のごとく、リアス式の海岸線の海岸線が美しい。中でも、高さ60m、周囲400mの険しい崖となってそそり立つ、菜種島は、遊覧船が走るなど景勝地として知られている。ダイビングポイントでもある
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フラットな砂地から、変化に富んだ地形となり、潮に乗ってやって来くる季節来遊魚など生物が豊富なんですね。ダンゴウオが多いのもそういうことでしょうか?
山崎
ダンゴウオに関しては、陰が多くなる地形で、ダンゴウオが好む海藻なども豊富なことから個体数が多いのかもしれませんね。
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田後の海はダンゴウオの個体数が多い。1枚の海藻に2~3個体は当たり前で、最大20個体なんてことも
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なるほど。ダンゴウオが多いこととジオパークがつながりました。岩美は日本初のジオダイビングとして知られていますが、陸上と水中の地形的なつながりやそこに住む生物たちとの関係も教えてもらえると面白いですね。
山崎
そうなんですよ。
ダンゴウオだけでなくワイドなジオの海も楽しんでほしいです。
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確かに、「田後といえばダンゴウオ」という認知のされ方をしてきましたね。不本意ですか?(笑)
山崎
いえいえいえ。
ダンゴウオは田後のアイドルで、やっぱりそれを目当てのゲストが多いです。
毎年、「ヤマサキ春のダンゴ祭り」とか開催していますし(笑)。
ただ、ジオパーク本来のワイドの世界も見てほしいのです。
世界的にも貴重で美しい地形の世界を360度、3Dの世界で楽しめるなんて、ダイバーだけですよ!
例えば、水中に、そこが海面だった痕跡があったり、花崗岩(かこうがん)でできた海岸線のほんの少し沖の島が年代の違う凝灰角礫岩(ぎょうかいかくれきがん)だったり、つまり、大規模でドラマチックな地殻変化が起きたのです。
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手前の黒島は凝灰角礫岩(ぎょうかいかくれきがん)で、奥の菜種島は花崗岩。この年代の違う島の間が地殻変動で起きた断層と推測される
山崎
ダイビング中も、地殻変動で沈んだ痕跡を見ながら、「昔、ここは陸上で、北京原人とかが歩いていたのかな~」なんて思いをはせてもらえればと。
今はマクロレンズでダンゴウオを撮りにいらっしゃるゲストがほとんどで、菜種島を貫く海中洞窟「青と碧(みどり)の洞窟」を案内しても「マクロ撮る」って言われるとちょっとだけ悲しい(笑)。
特に夏場の透明度が上がる時期は、ジオの地形を楽しんでもらえるようにしたいですね。
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「青と碧(みどり)の洞窟」。左右の穴口で色が青とみどりの二色に見える不思議な洞窟 (撮影/越智隆治)
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沖にも地殻変動でできた断層もあり、隠れ根もボコボコありますよね。そういう意味では、回遊魚の集まる漁礁ともなり得るのでダイバーとしては嬉しいかも。
山崎
これからの時期、イサキ(6月末〜7月)やハマチ(5月〜8月)などの回遊魚の群れや、根に群がるスズメダイは見ものですよ!
そんな、ワイドだけでなく、マクロも含めたジオダイブの魅力を探りに、取材班は田後へ向かった。
(続く)