東京でイルカと泳ぐ。御蔵島でドルフィンスイムを楽しむ1泊2日の島旅

御蔵島のミナミハンドウイルカ

世界中の海に生息し、愛おしい顔と心地よい声で私たちの心を癒してくれるイルカ。日本の政治と経済の中心地である東京から船で御蔵島へ渡れば野生のイルカとドルフィンスイムができるとは、日本人はなんと贅沢なのだろうか。
イギリスのロンドン、フランスのパリからマスク・シュノーケル・フィンと水着を持って気軽に1泊2日の船旅でイルカと一緒に泳ぎにいくようなものだ。国外から東京観光に訪れる方にも、海のアクティビティに参加するという選択肢を与えたい。

たどり着くまでが困難な旅となる御蔵島

御蔵島の港と東海汽船の橘丸

防波堤のない御蔵島の港は船が着けないこともある

断崖絶壁で巨樹に覆われた御蔵島は、高いポテンシャルを持つ海がありながらも大型ホテルの建設や航空便の運行に伴うオーバーツーリズムとは無縁の地。限られた数の村営宿舎や民宿しかなく、夏季の宿泊予約は抽選をおこなうほどだ。インターネットで各宿の予約状況をチェックし、空きがないか探して回ることもある。

さらに、運良く宿の予約が取れても当日に風や波の影響を大きく受けて定期運行船が港に接岸できないことが多く、7時間半かけてたどり着いた船旅は泣く泣く別の島に行くはめになってしまったり、20時間かけて東京に帰ってくるだけの休日になってしまったりするのだ。

水底から見上げるミナミハンドウイルカ

天気が良くて海が穏やかな日の御蔵島は同じ東京とは思えない

運良く島に上陸してからも安心できない。1日に参加できるドルフィンスイムの航海は2回まで、1回の航海で海にエントリーできる回数は8回までとローカルルールで定められている。もし、イルカの機嫌がよくなくて近くで見れなかったら…もし午後から風が強くなって海が荒れてしまったら…水面を漂っているうちに波酔いしてしまったら…寝不足で耳抜きができなかったら…。
行く前から着いてまで、不安だらけの旅になる可能性を大いに秘めているのだ。

そんな旅のストレスは、イルカとの素晴らしい出会いがあればたった一瞬で消える。スキンダイビングが上手にできた自分を認めてくれるように、こちらを向いて近寄ってくるイルカたち。キューキューと海の中で鳴き声が聴こえるだけでも嬉しくなってしまうものだ。

人間観察をしたりカメラを覗き込んだり、個性的なイルカたち

レンズを覗くミナミハンドウイルカ

カメラのレンズを覗きに来るイルカたち

筆者が沖縄やハワイで一緒に泳いだことがあるハシナガイルカと違い、御蔵島のミナミハンドウイルカはまるで子どもたちが遊んでいるのを見ているようで、とても動きが個性的。過ぎ去っていくと思っていたら突然振り返って全員でカメラに目を向けてくれたり、近くのイルカを撮影していると別のイルカが目の前を通って邪魔してきたり、ウミガメやエイにちょっかいを出したりと、動きを見ているだけでとても楽しい。

御蔵島でドルフィンスイムをしているとミナミハンドウイルカの様々な行動を目にするのだが、事前にイルカについて少し学んでおくと体力を温存して長く楽しむことができるのでおすすめする。実は私自身も1日目を終えて「あの行動はなんだったんだろう?」と興味を持ち、宿で本を借りて調べたのだが、先に知っていればよかったということがいくつかあった。

シュノーケリングでイルカスイム

御蔵島ではシュノーケリングでも十分にイルカを観察できる

まず、泳いでくるイルカの群れに遭遇したら水深を気にしてほしい。水底を漂うようにゆっくりと移動しているイルカは休息している状態が多く、まるで人間がいないかのように見向きもせず通り過ぎていく。このような時は泳いで追いかけても無視されるので、水面や一定の場所で見届けたほうがいいだろう。動きがシンプルなので、写真や動画も撮りやすい。

ミナミハンドウイルカの親子

通り過ぎていくイルカを遠くから観察

イルカにストレスを与えないように

ドルフィンスイムに参加できる回数は1日に2回までと書いたが、基本的には午前と午後に1回ずつとなる。御蔵島のミナミハンドウイルカは朝と夕方に行動が活発になることが多いため、午前の便は早い時間帯、午後の便は遅い時間帯にアクティブな動きを観察するチャンスがある。とはいえ、すべてのイルカの生活リズムが決まっているわけではないので、群れによっては朝でも夕方でも休息状態で、船や人間を避けることもある。このような時もストレスを与えないよう水面から見るだけにしてもらいたい。

御蔵島は周囲16km程度なので、海が荒れていなければ1回の航海で島を1周することができる。いくつかの群れに出会うことができるので、同じ時間帯でも行動が活発なイルカを探すことも可能だ。イルカとの出会いに豊富な経験を持つ船長さんを信じ、焦らず、興奮しすぎず、落ち着いてドルフィンスイムを楽しもう。

イルカとスキンダイビング

静かにスマートに水中へお邪魔しよう

同じイルカの群れでも、2〜3回観察を続けるうちに行動が変化することがある。泳いで追いかけ回すよりも、静かに観察したり撮影したりすることで気を許してくれるのだろうか。好奇心旺盛な若いイルカたちが水面まであがってきて、お腹を見せながら人間観察をする。その場でクルクル回りながら背中越しにジッと見てくるイルカもいた。どうやら「お腹を見せている」わけではなく、イルカの目の構造ではこういった角度が観察しやすいようだ。レンズに写る自分の姿が気になるのだろうか、私たちのカメラのレンズを覗き込みに来ることも。

イルカガイドとミナミハンドウイルカ

若いイルカがガイドさんとじゃれあっていた

イルカの祖先は陸上に住む哺乳類だったといわれているので、私たちを見て親近感を感じているのかもしれない。イルカの祖先が海に住み始めてから5500万年、彼らは自身が住む海の環境に合わせ、進化することで海と調和してきた。
対して私たち人間は、よりよい暮らしを得るためにたったの200年程度で「環境破壊」や「気候変動」とまでいわれる社会を作り、現在は海に住む生物に多大な負の影響を与えている。

長く海の生物と関わっていると、深く考えさせられるシーンに出会うことも少なくない。今回も、尾ヒレに巻き付くようにロープが引っかかってしまい「外して」と言わんばかりに私たちへ尾を振ってアピールしてくるイルカと出会った。どうにかして外してあげることはできないのだろうか。

ロープが絡まったミナミハンドウイルカ

尾ヒレにロープが絡まったミナミハンドウイルカ

何百年も前からサステナブルな暮らしの御蔵島

ハワイや東南アジア、沖縄などのリゾート地では、増え続ける観光客で経済を潤しながらも自然環境の保全に問題を抱えている。対して御蔵島には「百人超えたら油断するな」という観光客どころか島の人口をも制限してきた歴史がある。厳しい自然条件の島では食料自給に限りがあったからだ。

御蔵島では田んぼや畑、家畜を飼育する場所がほとんどなく、山の森が生活のための糧だったので、島の人たちは森の木を命の次に大切なものとして守り残してきた。木を切ったら代わりの木を植え、子どもや孫が生まれると山に1000本から2000本の木を植え、成長を楽しみにしていた。森と人が深く関わりあうことによって、御蔵島には現在も豊かな森が残されているのだ。

サステナブルという言葉が流行し、それに伴う商品開発やリゾート開発が進められている消費社会において、謙虚で自制的な暮らしを守ってきた御蔵島は、地球に対して最善の生き方なのかもしれない。

御蔵島の豊かな森の湧き水

御蔵島の豊かな森では湧き水を汲んで飲むことができる

オーシャナでは定期的に東京都内のプールで初心者向けのスキンダイビングレッスンを開催しています。海でイルカと泳ぐことは意外とハードなので、初めてのドルフィンスイム前に潜る練習をしておくと安心です!また、何度かスキンダイビングの経験がある方は「ステップアップコース」でドルフィンスイムのコツやフリーダイビングの息止めテクニックを学ぶことができます。
オーシャナスキンダイビング・レッスンの詳細はこちら

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PROFILE
福岡県出身。18歳からスキューバダイビングを始め、翌年にプロ資格を取得。
22歳でPADIマスターインストラクターとなり、宮古島・沖縄本島・東京都内と拠点を変えつつダイビングスクールで15年間働いた後に観光業専門の広告代理店として独立。

現在はWebサイトのディレクション、Web広告運用、SNSの運用サポートなどデジタルマーケティングを主な生業としている。

オーシャナでは、取材時の写真撮影を担当。
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