わすれたくない海のこと 〜中村卓哉写真展〜
水中カメラマン・中村卓哉さんの写真展が今日から始まる。
中村卓哉写真展
わすれたくない海のこと
〜辺野古・大浦湾の山・川・海〜
10年にも渡り、この海を撮り続けてきたその理由、
そして、この写真展に込められた想いを中村さんに聞いた。
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Q.この写真展のテーマ「わすれたくない海のこと」には、
どのような意味が込められているのでしょうか?
今回の写真展の舞台となる、
辺野古・大浦湾の豊かな海を支えているのは山から流れてくる川の水です。
大浦湾は、ヤンバル(山原)と呼ばれる深い森に囲まれています。
うっそうと茂るこの森で、動物や昆虫の死がい、
落ち葉などが長い時間をかけて土の中で分解され、栄養として蓄えられます。
そして森が蓄えた栄養は川の水によって海まで運ばれるのです。
そう、この写真展の隠れた主役は栄養を運ぶ水の存在であり、
その水が栄養交換し、無色透明から色を七変化させながら成長し、
海を豊かにするまでを追った旅物語なのです。
大浦湾といえばジュゴンなどの希少性の高い生物に目を奪われがちですが、
実は一滴の雨粒に、一粒の砂に、一枚の落ち葉に、
そこにある全ての存在に役割があり
生物多様系の海・大浦湾を造り出す源になっているのです。
Q.辺野古・大浦湾と舞台に撮り始めたきっかけを教えてください。
私がこの海と出会ったのは約10年前に遡ります。
その頃私は沖縄に撮影活動の拠点をおいていました。
子供のころ初めてダイビングと出会ったのが沖縄の海であり、
深く心に刻まれた美しい沖縄のサンゴ礁を、腰を据えて撮影したかったのです。
ところが、沖縄で生活を初めて2年目あたりから、
アメリカ軍基地が沖縄北部に移転するというニュースが
頻繁にテレビで報道されるようになりました。
私の知らない沖縄北部の海に何があるのか、
そこで何が起ころうとしているのだろうか。
いてもたってもいられなくなり、小さな漁村へと車を走らせました。
そこは観光地でもなく、ダイビングスポットにも取り上げる事のない
山奥の小さな漁村でした。
漁師さんにお願いして辺野古漁港から船を出してもらい、
海へと潜ると、そこには驚きの光景が広がっていました。
遠浅の海岸に広がるリーフには、たくさんのスズメダイやチョウチョウウオが群れ、
豊かな海藻の森が太陽の光にてらされてキラキラと輝いていました。
もしかしたら、この海は美しい沖縄のサンゴ礁を築き上げる原点であり、
この場所を記録することで豊かな生態系のメカニズムを
伝える事ができるのではないかと思うようになったのです。
Q.最後に、ダイバーの皆さんへひと言お願いします。
あらかじめ伝えておきますがこの写真展にジュゴンの写真はありません。
イルカもいなければマンタも出てきません。
基地移転問題に対し熱いメッセージも載せておりません。
センセーショナルなニュースがここに暮らす生き物たちに届くわけでもありませんから。
そこで誰の目にもふれず命をはぐくんできた尊い命が存在し、
たった今も楽園と基地の波間の中をゆらゆらとゆられている。
ただそれだけなのです。
※
中村卓哉写真展
わすれたくない海のこと
〜辺野古・大浦湾の山・川・海〜
http://www.t-nakamura.com/
【会期】
2011年12月16日(金)〜12月28日(水) 午前10時〜午後6時
※日曜日・祝日は休館、最終日は午後2時まで
【場所】
富士フォトギャラリー
東京都新宿区新宿1-10-3 太田紙興新宿ビル1F