ハシナガイルカの生息地を守るプロジェクト ~戦後70年。パプアニューギニア・ラバウルの海を潜る~

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ボートに向かってジャンプしてくるハシナガイルカたち

ボートに向かってジャンプしてくるハシナガイルカたち

ラバウルに、かなりのハシナガイルカ(Spinner Dolphin)が定住しているらしいという話は、取材に訪れる前からなんとなく情報をつかんでいた。

実際に、現地に入り、ダイビングをしてみると、海に出た4日間、探した日も探していない日も、どこかで毎日ハシナガイルカたちに遭遇した。

ラバウルを象徴するタブルブル山(左)や妹山(中央)、母山(右)をバックに、キリモミしながらジャンプする若いハシナガイルカ

ラバウルを象徴するタブルブル山(左)や妹山(中央)、母山(右)をバックに、キリモミしながらジャンプする若いハシナガイルカ

現地ガイドの話では、大きなポッド(群れ)が3グループあるとのこと。

今回は、そのうちの一つ、ココポからラバウル(トクア)空港へと南下する途中、プローンファームの手前の湾内に定住するポッドに着目した。

このポッドは、ほとんどの場合、同湾内を中心に、この近海に定住していると考えられている。
岸からでも泳いでいけるくらいの距離で数百頭のハシナガイルカたちがのんびりと泳いでいたり、若い個体が空中でキリモミするようにジャンプして遊んでいるのが見られる。

今回、この湾の名称をドルフィンベイと呼ぶことにした。

イルカたちのリサーチを開始した、ココポ・ビーチ・バンガローに新設されるダイビングサービスのロバート・パッドフィールド氏によると、「このポッドには、とても小さな生まれたばかりと思われるイルカの赤ちゃんを多く確認しているため、子育てを行っている可能性が高い。交尾しているシーンもよくみかける。もしかしたら、子育てだけではなく、出産もこの湾内で行っているかもしれない」とのこと。

他のポッドは広範囲に移動するが、このポッドは比較的同じ湾内から動くことはなく、ドルフィンウォッチを行う場合には、見つけやすい。それだけでなく、岸から近いこともあり、たとえ海が荒れたとしても、陸路でこの湾まで移動して観察することも可能だ。

岸から目とは鼻の先を泳ぐハシナガイルカたち

岸から目とは鼻の先を泳ぐハシナガイルカたち

ハシナガイルカは本来、移動するボートの船首の波に乗るのは好きだが、人がボートから海にエントリーすると、蜘蛛の子を散らすように泳ぎ去ってしまうのが、普通だ。

ボートの船首について泳ぐハシナガイルカの群れを海中で見るのは圧巻

ボートの船首について泳ぐハシナガイルカの群れを海中で見るのは圧巻

そのため、ロブ氏は、小型ボートの船首横にロープを垂らし、腕と足を固定させる輪っかを作って、そこにスノーケラーを固定し、ボートをゆっくりと走らせてハシナガイルカのポッドに接近するスタイルで海中でのアプローチを試みてみた。

分かりにくいが、左腕と両足をロープで作った輪っかに固定して、ボートの側面に張り付くスノーケラー

分かりにくいが、左腕と両足をロープで作った輪っかに固定して、ボートの側面に張り付くスノーケラー

このアプローチ方法は、氏がワリンディやキンベなど、他のダイビングディスティネーションでダイビングサービスをオペレートしていたときにも、大物海洋哺乳類を発見したときに行っていたスタイルなのだとか。

「スキンダイバーには、警戒心を抱く鯨類たちも、この方法なら、警戒心が薄れて、かなり近くで見ることができるんだよ。以前にも、ゴンドウの群れや、シャチが出現したときにも、このスタイルで海中での撮影を行った」と話す。

実際に、トライしてみると、ボートから離れてイルカと泳ごうとしたら、離れて行ってしまっていたイルカたちが、手で触れるくらいの近距離を、しかも50頭ほどの群れに囲まれながら一緒に泳ぐことができた。

自分の力で泳ぐことができないのは少し残念ではあるけど、ことこのハシナガイルカたちの海中ウォッチングに関しては、かなり有効だし、泳ぎの下手な人でも、相当に近くで一緒に泳げる可能性が高い。
もちろん、観察や撮影を行うにも有効なスタイルでもある。

「これでイルカたちにアプローチして、交尾シーンを目撃したり、生まれたばかりの赤ちゃんイルカを間近で見れたりしたんだ」とのこと。

この湾でドルフィンスイミングを行ってから、ダイビングに行くというスタイルも定着できそうだ。

しかし、ここで一つ問題点が浮上した。

1994年に起きた火山の噴火で、商業の中心地がラバウルからココポに移ったことは、前に何度か書いたが、商業船やタンカーなど、大型船が入れる港は、いまだにラバウル市街にしか無く、ココポの近くに大型船が着岸できる港を作ろうという計画がラバウル政府内で検討されている。

その候補地が、このハシナガイルカたちが生息する湾だというのだ。

ラバウルのイルカが生息する湾

「おそらくずっと昔からイルカたちは、ここで子育てや出産をしてきた。それが、巨大な桟橋を作ることで、海底の掘削作業が始まると、土砂などが流れて、イルカたちの生息環境に悪影響を与える可能性もある。それに、巨大な貨物船などが行き来するようになれば、当然そこの海の環境も悪化するわけだ。まだ、建設計画が確定したわけではないが、できれば、港建設予定地の変更を示唆していきたいと考えている」。

そのためには、ここのハシナガイルカの生息環境が、いかにレアであり、重要であるか訴えていくためのリサーチを行っていこうと考えており、その資金を得るために、海外のダイバーなどに、個体識別したイルカを養子縁組して、基金を募ることなども検討してみたいとのこと。

まだこのプロジェクトはスタート段階であり、名前も無いが、大型海洋生物をテーマに撮影を続ける自分としても、とても興味深く、今後の動向に注目していきたいと考えている。

ハシナガイルカ

■海底に眠る太平洋戦争の情景
https://oceana.ne.jp/column/58741

■ハードコーラルやソフトコーラルが美しい、リーフダイビング
https://oceana.ne.jp/from_ocean/58779

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PROFILE
慶応大学文学部人間関係学科卒業。
産経新聞写真報道局(同紙潜水取材班に所属)を経てフリーのフォトグラファー&ライターに。
以降、南の島や暖かい海などを中心に、自然環境をテーマに取材を続けている。
与那国島の海底遺跡、バハマ・ビミニ島の海に沈むアトランティス・ロード、核実験でビキニ環礁に沈められた戦艦長門、南オーストラリア でのホオジロザメ取材などの水中取材経験もある。
ダイビング経験本数5500本以上。
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