1本目より、2本目、3本目の方が平均水深や最大水深が深い 「反復リバース潜水」は何故避けるべきなのか?

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以前、一本のダイビングの終盤に深い水深に潜る「リバース潜水」の危険性については、体内窒素圧バーグラフを使って分りやすくご説明しました。

今回は、1日のダイビングで1本目より2本目以降の平均水深や最大水深が深い「反復リバース潜水」が何故危険なのかを実際の罹患例を上げて解説いたします。

さて、私が今まで分析してきた減圧症罹患者のダイブプロファイルにおいて「反復リバース潜水」は時々見られます。それは「リバース潜水」よりも危険意識が低い事と、どうしてもダイビングポイントの状況からそういう流れになってしまう事が多いからだと思います。

ご紹介する例では3本目に減圧潜水をしているので、罹患理由に疑問はないと言えますが、
その一因ともなった「反復リバース潜水」を行っています。

一日で3本潜ったパターンですが、1本目、2本目は安全な潜水をしているのに、
最終3本目に無理な潜水をしたことによって減圧症に罹患しています。

ちなみに、3本目のダイビングを1本目にしていたら、残留窒素の関係で減圧潜水に変わる事はありませんでした。ダイビングは潜水計画も非常に重要です。やむを得ない状況以外の時は、体内窒素量の蓄積を考えた組み立てをすることが大切です。

「反復リバース潜水」が減圧症罹患の一因となった具体例、
3本目にヘビーな潜水を行ったことによって、減圧潜水に!

さて、今回分析した方のダイブプロファイルですが、ネット検索で見つけた例なので、不明点があります。

得られた情報は基本的なログデータのみです。

1本目
最大水深:17.2m、平均水深:9.1m、潜水時間:50分

2本目
最大水深:12.7m、平均水深:10.2m、潜水時間:53分

3本目
最大水深:21.7m、平均水深:15.5m、潜水時間:50分(減圧潜水)

水面休息時間は不明だったので、それぞれ90分間としました。

その情報を基に、比較的安全な潜水軌跡に置き換えて、いつものようにダイビングシミュレーションデータを作ってみました。

減圧症罹患者Kさん1本目の潜水軌跡

減圧症罹患者Kさん1本目の潜水軌跡

1本目潜水中の最大体内窒素圧

1本目潜水中の最大体内窒素圧

1本目浮上時点の体内窒素圧

1本目浮上時点の体内窒素圧

まず、1本目ですが、潜水中の最大窒素圧は、この潜水軌跡でハーフタイム20分組織と30分組織がM値(減圧潜水ライン)に対して54%ですから、全く問題はありません。仮にリバース潜水気味の軌跡だったとしても問題のない体内窒素圧レベルです。

潜水時間は50分ですが、平均水深が9.1mと浅く、初回の潜水でもあり、極めて安全な潜水だと言えます。

潜水終了時点での体内窒素圧は、ハーフタイム45分組織がM値に対して52%です。
1本目で罹患した可能性は浮上速度違反をしなければ、殆どないと思います。

そして、2本目になりますが、90分の水面休息時間をとったとすると、開始時点の体内窒素状態は以下のようになります。

2本目開始時点の残留窒素圧

2本目開始時点の残留窒素圧

まだ1本しか潜っていない状態なので、全く問題になるようなレベルではありません。

水面休息時間は90分以上取れば、大体のダイビングで左から4番目のハーフタイム30分までの組織は一桁まで下がります。この場合も3%以下になります。

そして、こちらが比較的安全な潜水軌跡に置き換えた2本目の潜水軌跡。

減圧症罹患者Kさん2本目の潜水軌跡

減圧症罹患者Kさん2本目の潜水軌跡

2本目潜水中の最大体内窒素圧

2本目潜水中の最大体内窒素圧

2本目浮上時点の体内窒素圧

2本目浮上時点の体内窒素圧

最大水深と平均水深の関係から箱型気味のダイビングであることが分ります。潜水中のM値に対する最大窒素圧はハーフタイム45分組織の62%です。体内窒素圧的には1本目同様に全く安全なダイビングだと言えます。

そして、潜水終了時点のM値に対する最大窒素圧は、やはりハーフタイム45分組織の60%です。潜水時間が53分と若干長めですが、平均水深が浅いので、体内窒素圧的には非常に安全なレベルです。

よって、この2本目で減圧症に罹患された可能性も、浮上速度違反をしない限りは、殆どないと思います。しかし、箱型パターンのダイビングでは、潜水中の最大窒素圧は浮上間際に到達するため、浮上時点の体内窒素圧があまり下がらないという傾向はこのグラフからも読み取れます。

3本目開始時点の残留窒素圧

3本目開始時点の残留窒素圧

そして、3本目に入る前、水面休息時間を90分取った後の体内窒素圧はご覧の通りです。

1本目同様に、左から4番目までのハーフタイム30分までの組織は、水面休息時間を90分取ったことによって、8%以下の値を示しています。しかし、長めのダイビングを2本続けて行ったので、ハーフタイム45分以降の吸排出の遅い組織の体内窒素圧は次第に蓄積されて来ています。

そして、これが問題の3本目のシミュレーションデータです。

減圧症罹患者Kさん3本目の潜水軌跡

減圧症罹患者Kさん3本目の潜水軌跡

3本目潜水中の最大体内窒素圧

3本目潜水中の最大体内窒素圧

3本目潜水中の最大体内窒素圧

3本目潜水中の最大体内窒素圧

潜水中のM値に対する最大窒素圧は、ハーフタイム45分組織の100%で、減圧潜水(潜水軌跡の赤い部分)となっています。潜水中に体内窒素圧がM値を超えたり(減圧潜水)、M値に近付いたりすると減圧症に罹患する確率が高まって行くので、減圧潜水は絶対に避けるべきです。

また、最大水深が21.7mに対して、平均水深が15.5mと深いので、箱型パターンの潜水を行ったことも推測できます。

減圧潜水3分前警告が出る前に水深10mを切るあたりまで浮上し、そこからゆっくりと安全停止水深に移動すべきだったと言えます。

3本目終了時点の体内窒素圧は、窒素の吸排出スピードがやや遅いハーフタイム45分の組織がM値に対して96%もあります。箱型潜水の場合は終盤に減圧潜水に切り替わるので、どうしても体内窒素圧が高いまま浮上する傾向が生まれます。

結果的に減圧潜水をした上に、潜水終了時点の最大体内窒素圧が96%と高いままだったために減圧不足も起こってしまったと考えられます。(※減圧症罹患者は浮上時点で87~88%以上の体内窒素圧があるケースが多い。)

そもそも減圧潜水に切り替わってしまったことが良くないですが、このような状況になった場合には、水深5mで3分間行う安全停止時間をもう少し長く(このケースでは10分以上)行って、体内窒素圧を少なくとも90%未満に下げてから浮上した方が安全だったと言えます。

しかし、なかなかそこまで状況判断ができる方はいないかもしれません。

もしも、3本目の潜水を1本目に行っていたとしたら?
減圧症の予防に大切な「反復フォワード潜水」

いずれにせよ、「反復リバース潜水」をしたことによって、3本目の潜水に余裕がなくなってしまった事が罹患の一因だと言えます。もしも、3本目の潜水を1本目に行っていたとしたら、シミュレーター上では減圧潜水になることはありませんでした。

3本目の潜水を1本目に行った場合の潜水軌跡

3本目の潜水を1本目に行った場合の潜水軌跡

3本目の潜水を1本目に行った場合には(残留窒素が殆どない状態からスタートするため)体内窒素圧がM値を超えることはなく、上のように潜水軌跡上に赤い部分がない「無減圧潜水」となります。

その場合の潜水中最大窒素圧

その場合の潜水中最大窒素圧

その場合の潜水終了時点の体内窒素圧

その場合の潜水終了時点の体内窒素圧

また、その際の潜水終了時の最大体内尾窒素圧は45分組織の87%で、まだ少し高いですが、Kさんの3本目の96%と比べると、かなり低くなります。

以上の事から、「反復リバース潜水」は体内窒素圧の蓄積状況の観点から危険で、潜水計画は体内窒素圧を常に考えてしっかり立てる必要がある事が分ります。

皆さんも体内窒素の溜まり方には、是非お気をつけください。

★今村さんが書いたダイバー必読の減圧症予防法テキスト

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PROFILE
某電気系メーカーから、TUSAブランドでお馴染みの株式会社タバタに転職してからダイビングを始めた。友人や知人が相次いで減圧症に罹患して苦しむ様子を目の当たりにして、ダイブコンピュータと減圧症の相関関係を独自の方法で調査・研究し始める。TUSAホームページ上に著述した「減圧症の予防法を知ろう!」が評価され、日本高気圧環境・潜水医学会の「小田原セミナー」や日本水中科学協会の「マンスリーセミナー」など、講演を多数行う。12本のバーグラフで体内窒素量を表示するIQ-850ダイブコンピュータの基本機能や、ソーラー充電式ダイブコンピュータIQ1203. 1204のM値警告機能を考案する等、独自の安全機能を搭載した。現在は株式会社タバタを退職して講演活動などを行っている。夢はフルドットを活かしたより安全なダイブコンピュータを開発すること。
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