ダイバーを増やすには「まずは眠っているインストラクターの環境を整えてあげること」
フリーのインストラクターを
応援する理由
寺山
白崎海洋公園のプロジェクトといえば、もうひとつ。
2016年の暮れから始めたフリー、個人のインストラクターを応援するプロジェクト。
これも、先述したように、都市型ダイビングショップとしては「マーケットを取られる」という理由で排除する傾向もあります。そんな背景があるので、“攻めている”と思うわけですが、このプロジェクトを始めた意図を教えてください。
中西
関西圏内だけで、活動せずに眠っているインストラクターが600人もいるというデータがあります。
ダイバーを増やしたいなら、眠っているインストラクターが活動できる環境を整えてあげようという、これも単純な話です。
寺山
これ、まったくバディダイビングと同じ構造ですよね。
インストラクター認定がただの商品に成り下がっている現状があるわけですが、インストラクターがダイバーを認定できるという原則に戻ろうよという。
それを排除しようっていうのは、囲い込みとまったく同じ理屈。
もっと気軽に、会社の先輩が後輩に、あるいは家族や恋人を認定できてもよいと思います。
そして、スクールにプライドを持っている中西さんならわかると思いますが、フリーとか個人を応援したからといって、スクールの価値や収益は下がることもなく、むしろ上がるんですよね。
価値が相対化できるわけですから。
中西
ほんま、その通りです。
問題は、インストラクターになるのと活動するのとでは違うので、もっと環境と情報を提供した方がいい。
イントラの資格を取ったところで、実際に活動しようと思うと、ショップでないとハードルが高い。
ですので、あったら便利なものを準備したわけです。
例えば、器材や教材の販売代行とか、レンタル器材とか。
さらに、講習で使う、AEDとか人形、ガイドをしたければ、フロート、指示棒、などなど。
寺山
今や一般的になりつつある、エコシェアってやつですね。
例えば器材であれば、イントラとしては在庫を抱えないでよいわけですし、メーカーとしても個人イントラに器材を卸す際のリスクもクリアできるわけですものね。
こちらも良いことだと思う一方、バディダイビングと同じく、インストラクター資格の質の低下が指摘される中で、講習の質がもっと下がるという懸念がありませんか?
中西
これも、バディダイビングと同じで、イントラ資格を持っているからって、すぐにやろうという人はいないと思います。
ステータスで満足している人はそれはそれでいいわけですが、「どうやったらいいかわからない」「実際に環境がない」という人も多く、こういうイントラが活動するために、白崎海洋公園の施設を使って欲しいし、ダイビングを広めていってほしいわけです。
寺山
排除ではなく、需要に応えるというマーケティングの方が、正しいかどうかというより、気持ちがいい。共感しやすい。
ショップ登録していないインストラクターは活動がNGという指導団体もあって、それはそれでひとつの正解だとは思いますが、ショップを辞めたら活動できないイントラ資格っていうのは個人的には共感できない。
個人イントラ、副業イントラのほうが、ある意味、よっぽどちゃんとしていると思うことも多いですよ。まあ、タンクの転売などグレーなところもちゃんとケアしなければいけませんけどね。
ただ、イントラ資格を簡単に与えちゃうから、ショップも防衛として排除せざるを得ないって理屈もわからなくはない。
この点、指導団体やCカード協議会の罪は大きいですが、貢献はそれ以上に大きいと思いますしね。それに、PADI JAPANの若手が40歳オーバーって事実を見ただけでも、まあ、いろいろしゃーないんでしょうけど……。
中西
バディダイビングやフリーのインストラクターを否定する人は、売り手思考ばかりで、買い手思考が無いんちゃうかって思いますよ。
とにかく、理念に従って、自分たちが正しいと思うことをやるだけです。
寺山
イントラ応援企画は始めたばかりですが、増えていますか?
中西
今、40人くらい登録されていますが、とりあえずまずは100人まで持っていきたいですね。
彼らが年間に10人でも認定すればダイバーが1000人増えるわけですよ。
寺山
イントラ応援企画の今後の成功のカギは何でしょうか?
中西
やっぱり情報ですよ。
そもそも、バディダイビングもフリーインストラクターもそういうことができることを知らない人も多い。
さらに、やり方を教えてあげる人もいない。
本来なら、バディダイビングはオープンウォーターダイバーコースで教えられるはずですし、インストラクターコースでは活動できることを前提として開催すべきですが、実際そうなっていない以上、そこを補うしかない。
ダイビングのメディアではあまりそういうことができない中、オーシャナさんは他でやらない発信をしていますので、もっとやって欲しいですね。
寺山
うちの会社の代表も元々はダイビングショップをやっていて、“超ダイビングショップ”な世界を生きてきたんですけど、囲い込んで、お店を増やしてってやり方では、社員の将来がない。だから、マーケットを増やしたり、セカンドキャリアを作らないという問題意識を持って飛び出したわけですが、同じことを言っていますよ。
面白いのは「自分がやっていたショップが困るようなことでも、業界の将来のためなら気にせずどんどん書いて。それでダメになるようなショップなら、そもそも大したサービスを提供できてないだけだし」とか言うわけです。
囲い込みというのは、良い言い方をすれば、人生を豊かにするサロン的な役割を果たせるわけで、それはそれで堂々とやるべきですが、ダイビング産業全体を見たらそれだけでもダメだってことですよね。
正しいことをやろうという人は、マーケットにおける相対化の価値が理解できています。
ただ、“わかること”と“できること”はまったくの別物。
うちの代表がやっていたショップもダイビング業界だと大きい方だし、同じ規模で同じマインドの仲間もいて、さらに、中西さんみたいな最大規模のショップがそういうマインドだと、面白いことになると思うけどな~。
指導団体もメーカーも、僕のいう事は聞かないけど(笑)、中西さんたちの言う事なら耳を貸すでしょうし、逆に、中西さんたちの声はエンドユーザーには届きづらいので、そこが僕らのやること。
目的は同じなので、役割分担して、ダイバーが楽しめる環境作りを盛り上げていきましょう。
中西
ほんま、ダイビングが儲からないとか言う人おるけど、意味がわかりません。
エンドユーザーが満足する正しいことをやれば儲かるし、社員も幸せになれる。
バディダイビングなんか、当たり前のことなので、当たり前に普及させなあかんでしょう。
寺山
日本最大の資本力あるダイビングショップ……ではなく、ダイビングスクールがそういうマインドなのは、嬉しい限りです。
他にもいろいろ聞きたいことがありますが、今回はこの辺で。また、違うテーマでお願いします。
(撮影/中村卓哉)
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