水辺の”知られざる影の立役者”の正体とは?(第3回)

砂浜のごみをバギーで回収!? 黒い作業着をまとい、砂浜を救う謎の集団

黒い作業着をまとい、黒いバギーに乗り、宮城県の砂浜を颯爽と駆け抜ける集団がいる。彼らはそのバギーを「特掃車」と名付け、砂浜清掃を行う。砂浜に突如として現れた、謎の黒い集団に実際にお話を伺い、その活動内容と特掃車の開発ストーリーに迫る。

予想外の企業が、海洋環境美化事業をスタート

砂浜清掃を行っているのは、宮城県にある「株式会社S・T・K工業」という大型トラックの架装や鈑金・塗装を行っている会社。2018年のある日、クライアントから宮城県にある海水浴場の清掃用機械の製作相談を受けた佐藤哲也社長(以下、佐藤社長)は、海岸に行って驚愕したという。目に飛び込んできたのは、衝撃的な量の漂着ごみ。海水浴場となる砂浜は清掃されていたものの、それ以外の砂浜のごみは処理しきれずに放置状態。そのとき、佐藤社長は、「ごみとの戦いは容易ではなく、多くの人の手が必要だ。この状態を放って置けない」と思ったそう。同時にものづくり屋として何かできないかという想いが込み上げ、それはすぐに行動へと移った。

現行の事業とはまったく縁もゆかりもない「海洋環境美化事業」を思い切って立ち上げ、砂浜の漂着ごみを効率よく回収する「特掃車」の開発をスタートしたのだ。特掃車は、日本初上陸のカナダ製の林業などにも用いられる全地形対応の6輪バギーをベース車両として使用し、少人数で作業でき、軽量で頑丈なものを目指した。もう一つ大切にしたのが、「楽しく、カッコよく清掃活動をすること。みんなが一緒にやりたいと思ってもらえるようなものにすること」、そんな想いを抱きながら開発を進めていった。

ベース車両となった日本初上陸のカナダ製の6輪バギー

ベース車両となった日本初上陸のカナダ製の6輪バギー

しかし、いざ開発を始めると、そう簡単にはうまくいかず、改良を続ける日々。開発のアイデアを得るためにYouTubeを見たり、使えそうな部品がないか自ら探し回ったり、頭を抱える佐藤社長。しかし、従業員からアイデアや協力もあり、無邪気に楽しく意見を出し合い、試走するのを心待ちにしながらつくっていったそうだ。

開発中の様子

開発中の様子

筆者が取材をしていたとき、佐藤社長と従業員の方々が楽しそうにいきいきしながら話す姿を見ていると、心から楽しみながら仲間と共に開発をしている様子が容易に目に浮かんだ。

そして、開発スタートから約1年。2019年12月に満を持して砂浜清掃デビュー。場所は、宮城県・菖蒲田浜(しょうぶたはま)ビーチ。漂着ごみや石を収集して欲しいというもので、軽トラック3〜4台分を収集することに成功した。

当時の写真

当時の写真

完全オリジナルで特許取得!特掃車のスペックとは

カナダから輸入してきた6輪バギーを加工し、その後方に完全オリジナルのけん引式清掃システムを装着することで、世界にたった一つの砂浜清掃専用車両「特掃車」(特許取得済み)へと進化させた。

バギーの前方に付けられたアームでは、人の手で収集することが難しい、流木や漁具などの大型のものを収集し、後方のけん引式清掃システムは昇降式で、砂浜表面にある1cmのプラスチック片といった小さなごみまで収集する。美しいビーチにとって大切な存在である砂は、極力収集しない。生態系への影響も与えない設計になっており、砂浜に生える植物や、砂の中にあるウミガメの卵、砂浜に住むカニなどには十分配慮しながら行っているのだという。

「特掃車が砂浜を救う」。その活動内容とは

これまで、宮城県の菖蒲田浜ビーチや閖上(ゆりあげ)ビーチの清掃活動を実施し、他団体と協働のビーチクリーンにも参加してきた。

清掃作業中の特掃車

清掃作業中の特掃車

清掃は、黒いバギーに黒いユニフォーム姿でクールに行う。なぜ黒にしたかというと、インパクトがあって、カッコいいから。ここにも遊び心がある。狙いどおり、清掃活動の場では注目の的だ。2021年の夏は、雰囲気を変えて水色のユニフォームで行ってみたそうだが、これはこれで目立ち過ぎてしまったそう。

特掃車で集めたごみを別のバギーやトラックに移して運ぶ

特掃車で集めたごみを別のバギーやトラックに移して運ぶ

漁具もたくさん収集

漁具もたくさん収集

半日の作業だけでも大量のごみを収集できる

半日の作業だけでも大量のごみを収集できる

収集したごみを手作業で分別

収集したごみを手作業で分別

数多くのボランティアと一緒に清掃することもあるという。砂浜を駆け抜けながらごみを収集していく特掃車の姿に、子どもだけでなく大人も釘付け。「『かっこいい!乗りたい!』という声が聞こえ、それが自信に繋がり、励みになる」、そう誇らしげにそして嬉しそうに専務の方は語る。大型トラックの架装や鈑金・塗装を行う会社の「砂浜をもっと簡単に、楽しくカッコよく綺麗にしたい!」という好奇心がきっかけで砂浜を走るバギーが誕生し、今では砂浜清掃の参加者も巻き込み、ワクワクしながら活動をしている。

大人から子どもまで、一緒に砂浜清掃を行う

大人から子どもまで、一緒に砂浜清掃を行う

砂浜清掃にかける想い

同社は「All For Ocean…」を合言葉に活動をしている。「生物、日本、世界、地球、そしてすべての人々が幸せでありますように。みんなで手を取り合い、日本や世界の海にキレイな砂浜を取り戻して行きましょう」、そんな想いが込められている。海から上がってきたごみを海に戻さないこと、これを目指して活動の場を世界中の海・砂浜に広げていきたいという。

特掃車の後方には「All For Ocean...」の合言葉が

特掃車の後方には「All For Ocean…」の合言葉が

砂浜の爽やかさと相まって、男たちの熱い姿が一際カッコよく見える

砂浜の爽やかさと相まって、男たちの熱い姿が一際カッコよく見える

漂着ごみで埋め尽くされた砂浜を見た瞬間、砂浜清掃とはまったく関係のない事業をしていた会社が一変、砂浜を綺麗にする“イカした乗り物”を乗りこなすヒーローへと変貌した。大の大人が心から楽しみながら行うこの清掃活動に今後も注目していきたい。

※写真提供:株式会社S・T・K工業

株式会社S・T・K工業について

代表者:代表取締役 佐藤 哲也
所在地:宮城県遠田郡美里町青生字柳原 100-4
連絡先:TEL 0229-25-4944 / FAX 0229-25-4945
事業内容:
・修理(鈑金全般、デントリペア、すり傷、線傷、ガラス、ホイール、フレーム修正、ボディ修理、ボディ架装、その他)
・塗装(塗装全般、パール、メタリック)
・保険事故関連(自動車保険取り扱い、レッカーサービス、ロードサービス)
・海洋環境美化事業
株式会社S・T・K工業ウェブサイト
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特掃車に関して

砂浜清掃に役立てていただくための販売またはレンタルを実施中。詳細はこちらからお問い合わせください。
※特掃車は完全受注生産

沖縄沿岸部の漂流軽石回収に関して

同社は、沖縄県の漂流軽石の視察を経て、除去が可能だとし、問い合わせを受け付けている。また、国土交通省が2021年12月に発表した「漂流軽石回収に関する技術・アイデア集漂流軽石回収に関する技術・アイデア集」の「陸上での集積に関する技術」に短時間で軽石を除去することが可能だとして、同社の特掃車が掲載された。(p143)

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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