完全優勝! フリーダイビング世界大会・金メダリスト“人魚ジャパン”インタビュー ~安全策ではなくベストを尽くす決意~
2016年9月17〜24日まで、ギリシアのカラマタで開催された、フリーダイビング世界選手権「AIDA TEAM World Team Championship 2016」
この大会で日本女子チーム“人魚ジャパン”が見事、優勝を果たし、金メダルを獲得しました!
3種目、1チーム3名での総合得点を競うこの大会にて、どのような軌跡で金メダルを獲得したのか、まずは振り返りましょう。
強さと勇気がないとできない作戦で
完全優勝!
初日の海洋競技は人魚ジャパンの最も得意とする海洋競技のコンスタント・ウェイト(垂直に潜る深さを競う海洋競技)。
ここで2位を大きく引き離しての暫定1位。
<コンスタント・ウェイト終了後の順位>
1.日本 242ポイント(83m、83m、81m)
2.チェコ 214ポイント(81m、71m、62m)
3.ロシア 189ポイント(70m,61m,58m)
続くプール種目のスタティックアプネア(息を止める長さを競うプール競技)では、プール競技を得意とする東欧勢チェコ・ロシアに追い上げられ、種目3位になるも総合1位をキープ。
<スタティックアプネア終了後の順位>
1. 日本 454ポイント(63,4pt,74pt,69.6pt)
2. チェコ 441.2ポイント(74.4pt,74pt,78.8pt
3. ロシア 388.4ポイント(71.4,64.2,63.8)
しかし、2位との点数さはわずか13点となり、予断を許さぬ状況となりました。
チーム戦は作戦が命。
上位チームはその種目で誰か一人でも減点や失格になってしまえば、一気に得点を失い、完全にメダル圏内から外れます。
ということで、「良い記録を出す」と同時に「絶対に失敗しない」という守りも必要なのです。
前回のイタリア大会では銀メダルを確保するために、ベストの距離まではあえて泳がす、絶対に失敗をしない安全ゾーン「全員が130m後半で上がる」という作戦をとりました。
ところが今回、彼女たちが金メダルに向けてとった作戦は……
「ともかくベストを尽くす!」
<ダイナミックアプネアの結果>
福田朋夏158m 自己ベスト
岡本美鈴167m
廣瀬花子197m 日本記録
結果は、福田選手は自己ベスト、廣瀬選手はなんと日本記録でのフィニッシュ!!
ライバルのことは気にせず、自分たちのベストを全力で尽くす、そのことに集中し、その結果、見事な金メダルを勝ち取りました。
<総合結果>
1.日本 715ポイント
2.チェコ 671.7ポイント
3.ロシア 650.4ポイント
2年前のイタリアでの銀メダルの悔しさを乗り越えて、今回、実力を出し切った見事な金メダルです。
2012年ニース大会では私も補欠兼コーチとして帯同し、初の金メダル獲得の場にて震えるような喜びを共有したことを思い出し、また彼女らのプレッシャーの中での努力が報われたことを思い、遠くの日本で思わず涙が出てくる程の感動をもらいました。
さて、大会中は現地からはポジティブな情報しか発信されていませんでしたが、実際はどんな苦労があったのでしょう?
3選手にインタビューをいたしました!
極度の緊張やハプニングを乗り越えて……
人魚ジャパン・インタビュー
岡本美鈴
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大会本当にお疲れさまでした!まずは、金メダルの感想をお願いします!
岡本
今はホッとしています。3人のベストからみれば金で当たり前という期待もいただいていたし、目の前に取れる金があるならば絶対取る! という強い思いがありました。今回は他国のミスによって金に近づいたのではなく、しっかりポイントを積み重ねて勝ち取った金メダル。私は団体では3回目の優勝ですが、今回が真の優勝のように思います。
福田朋夏
福田
今回は世界中から日本女子が金メダルを獲ると思われていたし、私たちも金メダルしか見ていませんでした。4年前に人魚JAPANはフランスで金メダルをとって、2年前にイタリアで銀メダルを取りました。同じメダルでも、銀メダルは悔しくてしょうがなかった。1位のロシアが圧倒的に凄すぎて日本は太刀打ちできませんでした。そして2年後の今回、こうしてあの悔しい気持ちを一緒に味わった仲間とまた世界に挑戦出来た事がとても幸せです。そしてみんなで金メダルをまた掴む事が出来て最高に嬉しいです。
廣瀬花子
廣瀬
同じ人魚メンバーでもらった3個目のメダルが、また金色で本当に嬉しい!
2年前のイタリア世界大会で叶わなかった3連覇の分も、今回は絶対に金メダルを取り返すという想いが3人とも強く、金しかあり得ない。と自分たちでも常にプレッシャーをかけて言い聞かせていたので、それがやっと現実になった達成感が、今までで最高です。
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この大会に向けて努力して来た事や、苦労したことは?
岡本
苦労した事は、3人とも現地で長期トレーニングをしていましたが何かしらの種目で自己ベストにはなかなか届かない状態が続いたことです。それは誰にも言えない(団体戦では外には出せない情報なので)大きな不安でした。その分乗り越えた時の喜びは個人戦では絶対味わえないものでした。
他には、会場となるダイナミック用プールが閉鎖されたままで、大会直前までまったく練習できなかったこと! そのために長期滞在しているのに……。海洋競技は嵐と激しい雷雨に襲われ、沖から避難したのですが、生まれて初めて海上で死ぬかと思いました。大会はいつもいろいろな事があります。
福田
ギリシャの海に慣れるために大会の2カ月前から現地に入ってトレーニングを重ねてきました。カラマタのプールが夏の間、閉まっしまい、プール練習ができなかったので、急きょプールトレーニングのためにクロアチアまで飛んでゴラン(プール種目の世界記録保持者)と一緒にトレーニングしたり……。
海に潜る事に関しては、どこの国にも負けない自信はありましたが、プールの競技をもっと強くしなければという焦りがありました。大会の途中で私は熱を出してしまってスタティックとダイナミックの競技を体調がすぐれないままのぞみました。私の体調のせいで2人に迷惑はかけられないのでホワイトをとる事に集中しました。
廣瀬
私は、プール種目がすごく不安でした。ダイナミック練習もほとんどできずに現地に来てしまったので、すぐに調整したかったけど、来てみるとダイナミック用のプールが使えるようになったのも大会始まる直前になってから……。それまでは全然調整ができていない不安にかられました。
一番問題だったのはSTAで、練習はホテル内のプールで毎日できたにも関わらず、2分も3分も息が続かなくなってしまい、練習が嫌で嫌で仕方なくて不安な日が続きました。3人の目標としていたノルマ6分を成功させなくてはいけないのに5分もできず、メンバーにもずっとすごく心配をかけました。
STA本番前日は、すでに誰も練習してないプールで、福田選手と2人で、ごはんも食べずにヘトヘト状態で泣きながら練習したことは忘れられない。本番では絶対に大丈夫と思って寝るしかなかったけど、まるでできる気がしませんでした。
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この大会では、どんな作戦でのぞみましたか?
岡本、福田、廣瀬
トレーニングの仕上がりや体調、得意不得意種目がそれぞれ違うので、順番を変えるために申告を工夫しました。また、今回は監督がいなかったため、サポートを日本チーム全体でうまく補完しあい、競技について他国から抗議(プロテスト)されても良いようにすべて録画しました。
細かいところだと、冷えやすい場合のアップ時間や着用するウエットスーツや水着の工夫をしたり、エネルギーを保ちつつ胃を軽くした状態で望むために、前日から食事の時間や食べる内容を工夫していました。
食事、睡眠、練習を中心に、前半は調子を取り戻し、後半は疲労をためないようにしつつ、パフォーマンスを伸ばすトレーニングをしていました。
自分たちの今できる、最大限で確実のパフォーマンスをいつもどおり発揮できればどこの国にも負けないだろうと思っていました。
でも、実際には最初の種目コンスタントからやはり団体戦での確実なラインを考えると思うような申告も出せませんでした。暫定1位ではあったけど2位のチェコ、3位ロシアともに、いつ抜かれてもおかしくない状態。続くプール競技をひかえてのプレッシャーはとても大きなものになりました。
申告については、団体戦ならでの相手の動きをみて競技順を考慮することよりも、3人でお互いのサポートがしやすいための順番を考慮して申告しました。
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チームについて、一番心に残る思い出やエピソードは?
岡本
ダイナミック競技は前日の申告リストをチェックしたところ、見事2位のチェコにロックオンされていました。「絶対とってやるぞ」と3人で意志を固めていましたが、狙われているという緊張によって、前夜のジャパンチームの夕食はお通夜のようだったのを覚えています。山盛りご飯を食べる花子選手もさすがに食事を残していました。
ただ、この緊張を共にする最後の夜だと思うと、自然と3人の間で「ありがとう、最高のチームだったよ」という言葉が出てきて、大好きなフリーダイビングの団体戦が明日で終り、それはもう2度とない事を思うと切なくなりました。
翌日の競技本番では、実は福田選手が風邪体調を崩していたので、私と花子で確実に160m以上泳ぐ事を決めていたのですが、自分の競技の緊張よりも、先発の福田選手の競技を見る事が一番緊張しました。彼女がホワイトカードをとったときは涙が流れてしまいました。
人の競技を自分の競技のように緊張し、共に乗り越えて達成感や喜びを共有できるなんて団体戦でしか味わえないこと。多くのフリーダイバーに味わってもらいたいと思いました。
福田
モリモリ潜って、モリモリ食べて、休むという毎日でした。みんなで毎日一緒に食べた御飯がとっても美味しかったです^^
廣瀬
いろんなことがあったけど、狭い3人部屋で生活した毎日は本当に楽しかった。3人ともそれぞれマイペースだけど、気持ちのバロメーターは一緒になっていき、朝起きてなんとなく海練に行きたくない気分が3人一致した日があり、急きょ予定を変更し、お休みをとって街に出かけて満喫した日はすごく楽しかった。日に日に増していく寝る前の緊張感もずっと3人一緒だったから耐えられたと思います!
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今後の抱負と、最後にひとこと
岡本
応援くださった皆様、サポートくださったスポンサー関係者の皆様、心から感謝申し上げます。これからも安全なフリーダイビングの普及にも尽力してゆきたいとも思います!
福田
今後は記録更新に集中して頑張りたいと思っています! 応援して下さったみなさま、本当にありがとうございました!
廣瀬
世界1位の国として、フリーダイビングをさらに盛り上げることに貢献していきたいと思います!
安全を狙わず、
日本記録を出した廣瀬選手
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廣瀬選手は、最終種目での日本記録を出しました。安全策をとることもできたのに、最後の最後のプレッシャーの中で、なぜここで日本記録を!?
廣瀬
絶対Maxまで泳ごうって決めていたから!練習で177mまで泳いで、うまく集中すればもうちょっといけるかなとイメージしていました。
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先の2人が泳いで、ここまで泳げば金は大丈夫だから上がろう、みたいな計算はなかった?
廣瀬
みんな計算どころじゃなかったんだ。2年前に(計算して)138mで上がったときの悔しさが一番嫌だった。だからMaxまで泳ぎ切れて本当に超気持ちよかった〜。
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最後のひとりというプレッシャー、失敗したらどうしよう、という不安は?
廣瀬
不安はなかったけど、確実に今までで一番緊張していた!計算はまったくなかった!前日はもうだめかとちょっと思ったし、皆がよく言う「緊張で吐きそう」の意味がわかった。
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え、、今さら・・?
廣瀬
そう、もうこれ以上緊張することないんじゃないかなー、というくらい。ともかちゃんのサポートしているときも緊張したなー。でも勝てて本当に良かった!!泳がせてくれたメンバーに感謝!ありがとう。ほんと、みんな最高だった!
5月のバハマ大会ではコンスタントでの日本記録99mを達成した花子選手。
これまで数えきれないほどの大舞台で記録更新をしてきた彼女ですが、彼女はいつでもマイペース。
そのとんでのない強さの一端が、なんとなく、垣間みられるインタビューでした。
健闘の6位!
オジサンJAPANインタビュー
ところで、今回男子チーム、オジサンジャパンはどうだったのか!? と思われる方も多いかと思います。
結果は12カ国中の6位! 好成績となりました。
今大会がチーム戦2回目、最年長となる、飯伏選手からのコメントです。
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今大会でのオジサンジャパンの作戦は?
飯伏
オジサンジャパンは、実力を発揮すれば高順位を狙える! というほどの実力は無かったので、作戦はしっかりホワイトカードを積み重ねて、無理しすぎた上位チームを食っていこうというものでした。
CWTでイエロー1枚、それもわずかな減点で乗り越えあと8枚はすべてホワイトでほぼ作戦通りの戦い方ができました。
その結果、参加12か国中6位という成績を収めることができました。
正直なところ、実力を出し切る戦い方を選べない悔しさも感じましたが、現時点では、一つでも上の順位を狙うためには最善の方法と判断しました。もっともっと実力つけなくちゃ、と思います!!
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人魚ジャパンについては、チームジャパンとして一緒に過ごしていかがでしたか?
飯伏
人魚ジャパンの金メダルは本当に素晴らしい結果です。
フリーダイビングはメンタルが重要な競技ですが、すぐ隣で彼女たちの戦いを見ていて思うことは、彼女たちも普通の人間で、特別強いメンタルを持っているわけではないという事です。
苦しんだり、時には弱音を吐き、プレッシャーに押し潰されそうになりながらも3人で支えあいながら乗り越えていく姿は、普通のメンタルを持った普通の人間が、特別に頑張っているんだと感じました。
本当に金メダルおめでとうございます。結果が何位でも人魚たちへの尊敬の念は全く変わらないけどね。
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最後に今後の抱負をひとこと!
飯伏
今回2年に1度のチーム戦でした。このチームとは競技をする3人ではなく、その国のフリーダイビング界全体を指しているのだと自分は考えています。
その意味では2年後に向けて、選手個々の取り組みも大事ですが、日本のフリーダイビング界全体としてどのような取り組みができるのかが大切になってくると思います。
みなさん、応援ありがとうございました。
ありがとうございました!
次回のチーム戦は2年後の2018年。そしてさらに2年後の2020年はちょうど東京オリンピックの年です。
フリーダイビングはオリンピック競技でこそありませんが、大きな魅力をもったスポーツのひとつ。沢山のひとに、この競技の魅力を知ってもらいたい、と思います。
チームJAPAN、本当にお疲れさまでした!
そしてたくさんの感動をありがとうございました!
(photo by Daan Verhoeven , Costas Constantinou,日本代表チーム他)