ヘリーハンセン・古賀さんインタビュー 〜海遊びをする人が増えれば地球を思う人が増えると思う〜
先日、ヘリーハンセンがなぜ、ダイビング業界に目を向けるのか、またその可能性について探掘りした鼎談をお届けした。
第2回となる今回は、オーシャナ代表の河本雄太が聞き手となり、ヘリーハンセン(Helly Hansen)の古賀淳史さんにインタビューを行う。ブランドビジョンをさらに掘り下げてお話を伺い、また、具体的な注目ウェアについても聞いた。
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海と真剣に向き合うブランドが語る、海遊びのその先とは?
ヘリーハンセンのブランドビジョン
河本雄太(以下、河本)
まずは、ヘリーハンセンの成り立ちや今のブランドビジョンについて教えてください。
古賀淳史さん(以下、古賀さん)
ヘリーハンセンは、1877年にノルウェーの港町で創業したブランドです。140年以上前ですね。今では、アウトドアブランドというイメージがありますが、もともとは漁師さんの身体を寒さや雨、波から守るための防水ギアからはじまりました。
海というフィールドを軸にしながら、そこで働く人の命を守ったり、そこで遊ぶ人の安全や快適性などをずっとウェアでサポートしています。特に防水にまつわる商品を徹底的に研究開発してきたブランドです。
スポーツ分野にも力を入れており、ヨットをコアなアクティビティとしながら、そこで培った機能を幅広い層に対してアプローチしています。
「BE WITH WATER」
これは、今、ヘリーハンセンが掲げているブランドメッセージです。海での安全や海の環境に対して徹底的にアクションをしていくことで、海遊びや水遊びをする人々をたくさん増やしていこうと動いています。最近ですとカヤックやスタンドアップパドル、あるいは水辺のキャンプといった提案をしました。
河本
インパクトのあるブランドメッセージですね。なぜ、海遊びや水遊びをする人を増やそうとしているのでしょうか?
古賀さん
今、海離れがとても進んでいます。
1980年代には3000万人を越える人々が海水浴を楽しんでいましたが、近年では800万人を切ってしまっている。
そのような現状だからこそ、自然環境を良くしたい、持続する社会を作っていきたいという思いは、僕は海に行った方が身につくんじゃないかと思っていて。海で遊べば生物の多様性の変化を目にしますし、汚れている海を見たら何とかしなきゃいけないなと思う方が増えてくるかもしれない。
だからこそヘリーハンセンは、海遊びとか水遊びをする人々を増やしていくことによって、結果的に持続する社会を意識するような人たちがたくさん生まれるんじゃないかなと思ってアクションを続けています。
ダイバーに親和性を感じる理由
河本
先日の鼎談で、「海の環境に対する意識が一番高いのは、実はダイバーなんじゃないか?」と古賀さんがおっしゃられていたことが、とても印象的でした。
古賀さん
僕らは海面より上で遊ぶアクティビティにアプローチしてきましたが、実は海面で遊んでいる人たちというのは、海面の上のことはすごい気にしているけど、海の中はあまり気にしてない人が多いように感じるんです。
海底清掃とかも含めて、実は海の環境変化を一番理解している人たちっていうのは、ダイバーの皆さんなんじゃないでしょうか。僕らが海に対して安全や環境っていうことを徹底的にアクションしていこうと思った時、ダイバーの皆さんにヘリーハンセンの思いを伝えたいと思いました。
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株式会社ゴールドウイン ヘリーハンセン事業部長 古賀淳史さん
河本
確かに、ダイバーは海の中で直接環境を見て、その変化に気づくことが多いですからね。具体的には、ダイバーのどんなシーンに取り入れてもらいたいですか?
古賀さん
ダイビングって旅が伴いますよね。ヘリーハンセンのウエアの機能性や快適性みたいなものを感じてもらいながら、自分が身につけているブランドが、どこよりも環境や安全への意識が高いブランドだって知ってもらえたらいいなと思います。
具体的な環境への取り組み
古賀さん
アウトドアブランドはやはり、アウトドアで遊ばせていただいている以上、その環境(フィールド)をより長く維持していきたいという思いがあります。それはヘリーハンセンに限ったことではなく、アウトドアブランドというものは環境のことは、どの分野よりも最優先かつ最先端で考えていると思うんです。
ヘリーハンセンでは、7割以上の商品をいわゆる環境配慮型の素材で作っています。リサイクルポリエステルは、中国をはじめとするアジアで回収したものを使うことが多いですが、それって日本国内に対するアクションではないじゃないですか。
もちろん、世界的に見たらごみになるものを新しい価値に変えていることは事実なんですけれども、我々としては国内に目を向けたい。なので、最近では国内の漂着ごみを使ってリサイクルしようという取り組みをしています。
河本
それは非常に興味深い取り組みですね。具体的に教えていただけますか?
古賀さん
2023年6月は、石垣島に漂着したペットボトルを回収して、Tシャツを作りました。「豊島株式会社」)という繊維商社がスキームを組み立ててくださっているんですが、もう衝撃的なごみの量でしたね。
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石垣島の平野海岸で行われたイベントの様子
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Tシャツ2023年6月
古賀さん
200人が集まり、約1時間半で1万2500本ほどのペットボトルを回収しました。しかし、またこの1ヶ月後には同じ量のごみが漂着するんです。石垣島の特に北側は、黒潮の関係でアジアのごみが流れ着きやすいところなんですね。
同様に、北海道の知床でも取り組みを行なっています。知床と言えば、ご存知のとおり世界遺産です。手付かずの自然が広がっていて、そもそも人が立ち入らないのでごみも落ちていないんですけれども、海岸は違う。ごみが流れ着いてしまうんです。
そのため、斜里町と包括連携協定を組み、北海道帯広市に本社を置く「マテック」というリサイクル事業者に協力をしていただき、漂着ごみを回収しました。ほとんどがカゴやブイなどの漁具ですね。ここで集めたブイを破砕して樹脂にし、フリスビーを制作しました。
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斜里町の海岸で行われたイベントの様子
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作成されたフリスビー
古賀さん
人が入らないエリアの海岸には、たくさんのごみが標着していて、景観を荒らすだけでなく、周辺に住む野生動物が誤飲して死んでしまったり……。また、劣化してマイクロプラスチックになったりですとか、悪影響を及ぼしています。ヘリーハンセンでは、できればそういった何の価値にもなっていない国内のごみを新しい価値にしていこうと活動しています。
河本
我々の身近にも漂着ごみによるそういった現状があるんだ、という気づきにつながる、とても意味のある活動ですね。
古賀さん
実際に日本以外のごみが多い光景を見ると怒りを覚える方もいるかもしれませんが、逆を言うと日本のごみもハワイなどの海岸に漂着してしまっている現状があります。なので、決して他人事ではないんです。日本人ももしかしたら他国の海岸を汚しているかもしれないという可能性があることは認識する必要があると思います。
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他にも、海でごみを自動回収する装置「シービン」を設置したり、ヨットのセイルを回収してバックやビーチパラソルを作るアップサイクル・プロジェクト「VINDKRAFT(ヴィンドクラフト)」など、様々な取り組みをしています。
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シービン
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セイルを回収して作ったアイテム
これらは、ヘリーハンセンの水に対する環境アクションをまとめた「H2Oプロジェクト」としてHPでも公開しています。
ダイバーにおすすめのアイテム
河本
ダイバーにヘリーハンセンを知ってもらう中で、特におすすめしたいアイテムはなんでしょうか?そのアイテムの機能性についても教えてください。
古賀さん
実は、世界で初めて防水衣料工場を作ったのがヘリーハンセンなんです。防水ウェアを創り出したというルーツがあるので、防水ウェアには圧倒的な自信があります。その中でも象徴的なのが、オーシャンフレイジャケットです。いかにもヨットという感じですが、ブランドのコアですね。移動時の防寒着としても使えますし、完全防水なので突然の雨でも濡れません。
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ヨットは登山と異なり、光源がないことがあります。天候が荒れていたり、夜だったりすると、誰がどこにいるのか分からなくなってしまうんです。そのため、視認性を高めるためにフードが蛍光カラーだったり、袖口にリフレクターがあしらわれていたりします。落水したときに発見しやすくするため、という側面もあります。
見た目のためではなくて、必要な機能としてこういったデザインになっています。ダイビングの際にボートで移動される時にもぴったりだと思いますよ。また、視点を変えてみると、アイコニックで格好いいかもしれない。ぜひ、ダイバーの皆さんにも手にとっていただきたいですね。
河本
ダイバーが着るのにぴったりですね。ダイブトリップの際におすすめのアイテムも教えてください。
古賀さん
旅行中には、撥水で汚れが付きづらく、シワになりづらい軽量感のある素材のものがおすすめです。リゾートラインも人気ですね。セットアップもありますので、ぜひリゾート地へのダイブトリップやダイブクルーズの際にも使い勝手が良いと思います。
こちらのショートスリーブ マリンリゾートシャツとマリンリゾートショーツは、環境配慮型の素材を使用しています。
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古賀さん
また、2年前の「Climate Change Art Project」を復刻したTシャツ「マリンペーパープリントティー」も共感いただけるかもしれません。
世界中の海の水を集め、それをリトマス紙にかけることで可視化したデザインをプリントしたものです。海洋酸性化が進む今、それをアートで間接的に表現しました。
メッセージ性とデザイン性のバランスは大切にしています。デザインが良くないと興味をもっていただけないですし、メッセージが直球すぎると手に取りづらくなってしまう方もいらっしゃいますよね。
2024年9月中頃より販売する水中写真家の鍵井靖章さんとコラボレーションカットソーも同様の思いで制作しました。ぜひお手にとってみていただきたいです。
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「Climate Change Tee」
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Climate Change Crew
河本
ありがとうございました。
おわりに
自分たちの目で見て、知ることを大切にし、海と向き合うヘリーハンセン。
海へ行くことが、環境に目を向けたり、持続する社会へ意識を向けるきっかけになることは、ダイバーならば身に染みて分かる感覚だろう。
私たちダイバーに親和性を持ち、それを伝えてくれるブランドの登場をまずは喜びたいと思う。
プロフィール
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1985年生まれ、神奈川県出身。株式会社ゴールドウイン グローバルブランド事業本部 ヘリーハンセン事業部長。学生時代はウィンター業界に従事、ゴールドウイン入社後様々なブランド事業に従事し、現職に至る。海と自然をこよなく愛し、ブランドとして社会に貢献できるアクションを次々に展開。
聞き手
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1981年生まれ、埼玉県出身。オーシャナ代表。学生時代にライフセーバーを経験し、2003年からダイビングインストラクターに。1,000人以上の講習実績と5,000本以上のダイビング経験を持つ。2015年からオーシャナの運営に参加。「ダイビング(フィールドプレイヤー)の価値を証明する」という想いのもと活動を行う。
ロケーション
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営業時間:10:00~19:00
定休日:火曜
電話:046-876-2520
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