ヘリーハンセンはなぜ、ダイビング業界へ目を向けるのか
「海の環境に対する意識が一番高いのは、実はダイバーなんじゃないか?」。
ある海底清掃のイベントに初めて参加したヘリーハンセン(Helly Hansen)の古賀淳史さんは、そんな気づきを得たという。
そこから、水中写真家の鍵井靖章さんとオーシャナ代表の河本雄太と繋がった古賀さん。
フィールドは異なれど目指している方向をひとつにする3人にそれぞれの関係値、そして、海・環境・ファッションについて聞いた。
そもそもヘリーハンセンといえば、マリンウエアを中心としてワークウエアからフィールドウエアまで揃えるスポーツウエアブランドだ。なぜ今、ヘリーハンセンがダイビング業界へと目を向けるに至ったのか、そして、ダイバーにとってどんな存在になり得るのかを紐解いていく。
きっかけは海底清掃イベント
ヘリーハンセンとオーシャナは、日本財団が設立した海洋プラスチックごみ対策を推進するための連携組織「ALLIANCE FOR THE BLUE」に参画している。今回の鼎談は、ALLIANCE FOR THE BLUEの海底清掃のイベントに古賀さんが参加したことが契機となっている。古賀さんは、そのイベントで何を目にし、どんなことを感じたのだろうか。
古賀淳史さん(以下、古賀さん)
ダイビングを趣味にしているスタッフから、ダイビングの魅力を聞くことはありましたが、ダイビングをしたことはありませんでした。一方でヘリーハンセンは、海の上のスポーツ、特にヨットやサップなどという形でマリンアクティビティの提案をしてきましたが、実は僕らがうたっている海の環境の変化というのは、水中で起こっていることが多いんじゃないか?と思ってはいたんです。
しかし、実際に海底清掃のイベントで釣り人をはじめ陸上の人々が出しているごみをダイバーの方々が拾っている姿を目にした時、すごく衝撃を受けました。僕らは海の環境にアクションしようとしているけれども、それに対する意識が一番高いのは、潜っている人、つまりダイバーの皆さんなんじゃないかと肌で感じたんです。
鍵井靖章さん(以下、鍵井さん)
そんな風な見方でダイビングを見てもらえるのは、とても嬉しいな。ただ癒しを求めたり、ただ楽しかったりとかでダイビングをされている方も多いけれども、それだけじゃないなって感じるんです。
僕は、ダイビング終わった後にみんなでごみ拾いをすることがあります。その時に声をかけると、誰一人として嫌な顔をせずに「行きます」って。何なら、僕の声がけを待っていてくれています。みんな「自然の中で遊ばせてもらっているから、恩返しをしたい」という気持ちが心のどこかにあるんだなっていうことに気がつけて、すごく嬉しく思ったことを思い出しました。
河本雄太(以下、河本)
「ダイビングがなかなかカルチャーにならない」、「ダイビングをする人たちの価値を上げたい」ということをオーシャナでは言い続けてきましたが、サステナビリティを意識する潮流によって、世の中の目線が変わりだしましたよね。これまでフィールドごとに分かれていたものが、あれもこれも社会の中で繋がっている。全部同じだよね、と分かりやすくなってきました。海との親和性が高いブランドがアクションする姿勢が見やすくなってきたのは、とてもうれしい流れですよね。
ダイビング業界との繋がりを求めて
そして古賀さんはさっそくアクションを起こしていく。
ダイバーに親和性を感じたものの、どうアプローチしようかという時にALLIANCE FOR THE BLUEの方を通じて紹介されたのがオーシャナの河本だった。
河本
昔、ライフセービングをしていたんですが、その時に着用していたのがヘリーハンセンのジャケットだったんですよね。紹介いただいたとき、まず、ゆかりのあるブランドに再会したような喜びがありました。そして、古賀さんにヘリーハンセンのブランドヒストリーや今のビジョンを伺った時に、“海遊びの価値をひとりでも多くの人に伝えたい”という思いがオーシャナと共通していることに気づいたんです。フィールドは違っても目指しているところは同じ。これは何か一緒にできそうだな、と思いました。
古賀さん
以来、ヘリーハンセンが海やダイビングに対してアクションする時に、相談させていただいたり、色々繋いでいただいています。2023年7月からは河本さんに、ヘリーハンセンのアンバサダーという形で関わっていただいており、アイテムの提供という形で応援させていただいています。
古賀さん
江ノ島に集まって、ヘリーハンセンのメンバー22人に対して、今の海の現場について講習してもらったこともありました。ヘリーハンセンとしても少しずつですが海でイベントをやっていく方向性になったので、何か考え方が変わっていくといいなと。
河本
日本の海遊びの現状や日本の海の価値とは何か……といった話をさせていただきましたが、あまり部屋の中で考えているより、海に実際に出ていくと様々な発見がありますよ。クリエイティブな視点を持って海と接してもらえたらなといったお話をしました。けれど、蓋を開けてみたら、8割の方は海が好きで結構行っていると(笑)。
古賀さん
先日も、子どもに対する海の教育プログラムをやりたいんだけれども……とご相談させていただき、良きアドバイスをいただきました。
3人が繋がる時
ALLIANCE FOR THE BLUEを通じて河本と知り合い意気投合した古賀さん。では、鍵井さんとはどう出会ったのだろうか。
古賀さん
鍵井さんのことは、僕が一方的に知っていたんです。
僕が鍵井さんの写真に興味を持ったきっかけは、写真で環境のことを伝えようとされていることを知ったのがきっかけでした。三陸の海を潜り続けて海の変化を撮り続けられていることも含め、そういったスタンスがとても好きだったんですよ。ぜひお会いしたいと思って、2023年6月に開催されていた個展「海とゴミと鍵井靖章」に伺いました。
鍵井さん
「海とゴミと鍵井靖章」は、僕自身初めてのごみをテーマとするインスターレーションでした。水中写真だけでなく、日本各地の海で仲間のダイバーたちと拾ってきた海洋ごみを作品として展示しました。
古賀さん
その時にヘリーハンセンとしても、サステナブルなことや海ごみにフォーカスして色々なアクションをしていること、そして、「何かしらご一緒したいです」とお伝えさせていただきました。
鍵井さん
お声がけいただいて、大変ありがたいなと思いました。そして、コラボレーションカットソーを作るご提案をいただいたんです。8月には、僕の写真に18歳の息子、瑠詩が言葉を紡いだものを展示した「青を読む」を開催しましたが、その会場にも来てくださったんです。
ヘリーハンセンのスタッフの方が僕の写真と瑠詩の言葉を見てくださって、「息子さんの言葉すごい良いですよね」って言っていただいて。「今回作るカットソーには、息子さんの言葉をつけませんか?」と提案をいただきました。僕らとしては、こんな大きなブランドさんとコラボさせてもらえて、かつ息子と初共演で商品を作らせてもらえるなんて、正直めちゃくちゃありがたいし、息子にとっては過分すぎる(笑)。
古賀さん
H2O PROJECT®といって、環境のことを伝えたり、海の環境を少しでも良くしようといった活動をヘリーハンセンではしています。その中に環境のことを間接的にアートで伝えていくプロダクト「ショートスリーブ リトマスペイパープリントティー」というTシャツがあるのですが、今回の鍵井さんのカットソーも同様の文脈です。
直接環境のことを言ってはいないけれど、間接的に環境の変化みたいなものをうたった写真を僕らの2つのタイプのカットソーにプリントさせていただき、そこに英訳した瑠詩さんの言葉がメッセージとして入っているというものを企画させていただきました。
鍵井さん
すごい素敵です。美しい海の写真とかでの展開ではなく、ちょっと驚くような写真を使ってもらっています。今、この時代に着ることに意味があるカットソーなんじゃないかな。言い過ぎ?(笑)。
古賀さん
いや、そうだと思いますよ。
また、カットソーの販売と合わせて、HELLY HANSEN OCEAN HAYAMA MARINAで写真展を開催していただく予定です。カットソーの販売開始と写真展実施は2024年9月中頃を予定しています。
こうして古賀さんと繋がった鍵井さんと河本。
それぞれに関係を深めながらも交差することのなかった3人だが、2023年冬にダイバーの視点で日本の海・文化の魅力と価値を再発見するオーシャナ特別企画「ニッポンの海と文化」の取材で知床を訪れた際、思わぬ形で縁が繋がった。地元の漁師の方々と酒を酌み交わしていると、そこに古賀さんの名前が出てきてお互いが繋がっていることを知ったのだ。ならば3人で集まろうと企画されたのが今回の鼎談だ。
ダイビング業界の新しい風に
一堂に会するのは今回が初めての3人。
さて、ヘリーハンセンとダイバーは、今後どのような関係になり得るだろうか?
河本
海や山に行くときに使うプロフェッショナルなアイテムをタウンユースするようになってきていますよね。たとえばジャケットなんかでも、オシャレ感覚で着るために高いお金で買って着ている方が多いので、「濡らさないで、汚さないで」みたいになっているように思います。ファッショナブルなのはもちろんなのですが、機能性にも優れているので濡れないし、汚れにくいですよっていう実用的な部分を現場からアピールしていく必要があるかもしれない。
河本
ヘリーハンセンの白いジャケットといえば、ヨットマンの象徴とも言える一着です。白いから着用し続けることで黒ずんできちゃうけれども、決して汚い感じにはならない。味が出てきて、愛着が湧いてくるんですよね。長く着られるということで、サステナビリティにも繋がってくる。
古賀さん
もともとヘリーハンセンのウエアは、漁師のワークウエアから始まっています。人の命を守るために作っているのがスタートなので、防水性や撥水性の基準が一般的なアパレルメーカーよりは高いんです。それが結果的に、長持ちに繋がるんだと思います。
河本
また、海のブランドということから勝手に夏のイメージが強かったんですが、日本に観光で来た海外の方々を見ているとダウンをはじめとするアウターで見かけることが多いですね。
古賀さん
北欧発祥のブランドですからね。寒いところで着られてきました。
鍵井さん
まだ、ダイバー=ヘリーハンセンを着るという文化はないと思いますが、正直に言うと、2024年の秋冬コレクションで展開されるブルーを見た瞬間、「来たな」って思ったんです。ダウンジャケットにもなっていますが、すごくかっこいい青なんですよ。海を知っているブランドが作る色だよねって思いました。本当に素敵な青。みんなで着たいよなって思った!
古賀さん
そう言っていただけて嬉しいです。シーズナルカラーには毎年、青を絶対に入れています。2024年の秋冬は「アッシュブルー」です。
古賀さん
海と接すると言っても色々な関わり方がありますが、ダイバーは僕らと同じカルチャーだと思います。ワークウエアがスタートですし、ヨットですとか、海に対して真面目な人たちが着てきているブランドなんです。不真面目なかっこよさを持つスポーツもありますが、僕らはどちらかというと硬派なスポーツを対象にしています。お金がかかるという共通点以外にも、命と直結するアクティビティだからでしょうか、海に対しての考え方が真面目な方々が多いなと思うんです。ダイバーの方々がウエアを選ぶ際、その選択肢としてヘリーハンセンも持っていただけたら嬉しいですね。
河本
親和性はすごく感じますね。山発祥のブランドを着ているダイバーの方々も多いですが、ヘリーハンセンの海に対しての思いやアクションを知れば知るほど、海はこっちでしょ、と思います。
鍵井さん
ダイビング業界の新しい風になって欲しいですね。
おわりに
海に対して真面目なカルチャーであるという共通点を見出したヘリーハンセンの古賀さん。
デザイン、着心地、機能性……ウエアを選ぶ際の観点は多々あるが、これからはカルチャーという視点で選んでみてはいかがだろうか?
海にルーツを持ち、共通するカルチャーを持つヘリーハンセンのウエアを身に纏えば、その機能性に納得させられるだけでなく、きっと心も満足させてくれるはずだ。
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