「漁業者×行政」で瀬戸内海のごみを回収。全国初の香川県の海底堆積 ごみ回収・処理システムとは

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香川県内では、漁業者が漁で回収し、ボランティアで陸に持ち帰った海底堆積ごみを行政が運搬・処理の役割を担うという「香川県方式の海底堆積ごみ回収・処理システム」が行われている。沿岸地域だけでなく内陸部まで含めての取り組みは全国で初だという。

実際に自治体と連携しながら水中清掃活動をオーシャナとしても気になる内容だ。取り組み開始のきっかけや課題について香川県環境森林部 環境管理課に取り組みについてお話しを伺いながら紹介していきたい。

瀬戸内海の流域だからこそ、豊かな海を目指して

香川県では、行政と地域住民が一体となり“里海づくり”を行なっている。里海づくりとは、水産資源だけでなく、景観、憩いの場、食文化、観光など多くの恵みを享受できる「豊かな海」を目指して人の手を適度に加え、海域・陸域を一体的に管理する手法なのだという。里海づくりでは、地域住民や漁師、自治体といったさまざまな分野からの参画のもと、山・川・里(まち)・海の全体のつながりを考えながら、施策を行なっている。香川県は、全域が瀬戸内海の流域であることや、県域がコンパクトで人の暮らしと海が近いという特徴を生かして、県下全域を対象とした取り組みを進行中だ。

その活動の一環として、2013年から国、県、市町(内陸部を含む全市町)、民間団体で構成する「香川県海ごみ対策推進協議会」を中心に、海ごみの回収・処理や発生抑制対策など、総合的な海ごみ対策に連携・協働して取り組んでいる。そのひとつに「香川県方式の海底堆積ごみ回収・処理システム」という香川県独自のシステムがあるのだ。よく、陸や海岸におけるクリーンナップ活動のごみを行政が回収に協力する事例を聞くことはあるが、海底堆積ごみの回収・処理をするとは、どういった仕組みなのだろうか。

漁業者が回収したごみを行政が処理する前例のないシステムとは

「香川県方式の海底堆積ごみ回収・処理システム」とは、漁業者がボランティアで持ち帰った海底堆積ごみを、行政が運搬・処理の役割を担うという、「漁業者×行政」が力を合わせて香川県の海底堆積ごみ問題を解決しようとする、沿岸地域だけでなく内陸部まで含めた費用負担により始まった全国初の取り組み。海底堆積ごみは、陸で出たごみとは違い処理責任が明確でないことや処理費用の課題もあり、全国的に対策が遅れている。瀬戸内海の海底堆積ごみの多くが、沿岸に住む人々の生活ごみであることから、まず自分たちの地域の海ごみを地域のみんなで協力して回収・処理していこうと漁業者・市町(内陸部を含む全市町)・県が協働で、本格的な取り組みをスタートさせた。

全国でなかなか進まないという海底堆積ごみの処理。しかしそこを先駆けて実施に踏み切った香川県にとって、瀬戸内海がどれほど大切な存在であるかが感じ取れる。

「香川県方式の海底堆積ごみ回収・処理システム」が導入されるまで

もちろん、香川県でもそう簡単に取り組みがスタートしたわけではなかったそうだ。本取り組みが始まる以前、漁師の網にかかったごみは引き上げるのに手間がかかったり、処理方法がわからなかったりするため、回収せずに海に戻してしまうという現状だった。そんな中、本取り組みがスタートしたきっかけには「100 年先も漁師が安全でおいしい魚を獲って、それをみんなに食べてほしい」と願い、「漁師が天職や!」と言い切る、前向きな海を愛する漁師の気付きと行動があったのだという。

高松市瀬戸内漁業協同組合に所属する底びき網漁師のひとり、西谷明氏は漁で網を上げたときに、ナ イロンの袋の中に入った鯛やヒラメがバタバタと苦しんでいたのを見て、海底でも同じような状況が起こっていると思ったのだという。このきっかけから、漁で網に引っかかったごみを、ごみの日に分別して出していた。しかし、テレビなどの大きなごみの扱いには困ってしまう。困った西谷氏は市や県にごみ収集場所を作ってくれないかと相談したが、当初は逆に不法投棄が増えるとして反対された。以降も自分だけでできる範囲のごみ処理をしていたが、自分だけでは限界があり、再び市や県に相談したところ、県の海ごみ対策をしている部署に繋がった。海底堆積ごみは、長期間漁場に留まる傾向があるため、漁業操業に支障をきたすとともに、水産資源や海域の生態系に悪影響を与える。それらを踏まえた上で、行政内での議論を経て、ごみを集めるコンテナを置いたり、漁師にごみを持ち帰ってもらう袋を配布したりと、一気に話が進んだそう。
実際に進み出してからは、行政が漁業共同協組合を自分たちの足で周り、本取り組み内容や意義を丁寧に説明し、信頼関係を構築しながら、協力を仰いでいったのと同時に、市や町に対しても、“海ごみの多くは生活ごみであり、内陸も含めてみんなが当事者・原因者であることを理解してもらったという。

そして現在では香川県にある34の漁業協同組合のうち21にも及ぶ漁業協同組合の協力を受け、平成25年の開始から令和2年までに、約143トンもの海底堆積ごみを回収した。

もし仮に本システムが導入されていなかったとしたら、その約143トンのごみが海に眠ったままだったかもしれないのだ。そう考えると、もし全国で同じようなごみ回収・処理システムの導入が進めば、かなりの海洋ごみを減らすことに繋がることは間違いないだろう。

回収された海底堆積ごみ

回収された海底堆積ごみ (香川県提供)

香川県が目指すもの

香川県では、「人と自然が共生する持続可能な豊かな海」の実現を目指している。そのために、海底堆 積ごみ回収・処理システムに対して、さらに多くの漁業協同組合に協力を仰ぎ、海底堆積ごみの回収をさらに増やしていく努力を継続している。

さらには、海底堆積ごみや海に流れ着いたごみ等を回収することはもちろんだが、ごみの発生を抑制する取り組みにも力を入れているという。実際に、県民を対象とした、山・川・里(まち)・海での体験学習や、海ごみ問題に対する高い意識と知識を持ったリーダーの育成講座の開催など、人材育成に取り組んでおり、海ごみ問題の解決のための取り組みが広がっている。

海に囲まれた海洋大国・日本だからこそ、海は守らなければならない存在。「漁業者×行政」で、一丸となり今の瀬戸内海を未来に繋げていこうという想いで実現したこの取り組みを筆頭に、日本全国にも広がることを願っている。

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PROFILE
0歳~22歳まで水泳に没頭し、日本選手権入賞や国際大会出場。新卒で電子部品メーカー(広報室)に入社。同時にダイビングも始める。次第に海やダイビングに対しての想いが強くなりすぎたため、2021年にオーシャナに転職。ライターとして、全国各地の海へ取材に行く傍ら、フリーダイビングにゼロから挑戦。1年で日本代表となり世界選手権に出場。現在はスキンダイビングインストラクターとしてマリンアクティビティツアーやスキンダイビングレッスンを開催。
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