恩納村のサンゴ大規模白化 わたしたちに今できることは?

沖縄といえば青い海でたくさんの魚が泳ぎ、色とりどりのサンゴが海中を彩っている…というイメージを持っている人は少なくないはずだ。それは事実ではあるのだけれど、一方で今、サンゴが大規模な白化現象に見舞われており、色を失ってしまう事態になっている。なぜそんなことが起こってしまうのか、その状況に対して自分に何ができるのか。サンゴの苗の植え付けを始めとした、海の環境保全に村ぐるみで継続して取り組んでいる恩納村の人たちに話を聞いた。

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20年以上ぶりの大規模白化にどう向き合うか

「サンゴの養殖を4万本ほど行ったのですが、現状はその約90%がほぼ死滅してる状態です。実質4000本くらいしか生き残っていないことになります。白化はこれまでに何回も繰り返してきたことではあるんですが、90%までになるのは初めてのこと。ここまでの状況になるとは思いもしませんでした」

こう語るのは、サンゴ保全協会代表理事の山城正已さんだ。

2024年、恩納村のサンゴは大規模な白化現象に見舞われ、海の中の風景が一変した。水深の浅い箇所ではほぼ壊滅状態、白化も終え、死んだサンゴに藻が付着し始めている状態だという。その影響で恩納村漁協が継続して取り組んできた苗作りも出来ず、かろうじて残った高い水温に耐性のある個体を地道に増やしていくしかない。
状況は深刻だが、山城さんは「ここまでの状況になるとは思わなかったんですが、少しずつやっていけば4〜5年後には以前のように、4万本が死なないでいる環境を作れるはずです。再生するんですよ」と言葉を継いで、問いかけた。

ところどころ白くなっているサンゴが見られる(恩納村マリンレジャー協会提供)

ところどころ白くなっているサンゴが見られる(恩納村マリンレジャー協会提供)

「今、白化について大騒ぎしていますが、こうした現象が起こるであろうということは、実は数年前から我々は言ってきました。合わせて、こんな活動をしましょう、という呼びかけも繰り返してきました。こうなることは分かっていたのに、十分な対策はなされてきたでしょうか?」

この言葉に向き合うところからサンゴについて考え、今自分に何ができるのかということについて考えることを始めてみたい。

白化する前の養殖サンゴ(サンゴ保全協会提供)

白化する前の養殖サンゴ(サンゴ保全協会提供)

なぜサンゴは白化してしまうのか?

そもそもの話だが、サンゴは「動物」。一見すると岩や海中の樹木のようだが、刺胞動物という分類で、クラゲやイソギンチャクの仲間だ。サンゴが豊富にある箇所は多種多様な生き物たちの住処や産卵場所として重宝される。そのため、サンゴがある場所には多くの生き物が集まるので、「命のゆりかご」とも言われている。

そのサンゴがなぜ白化してしまうのか。

サンゴは「褐虫藻(かっちゅうそう)」という植物プランクトンと共生しており、このプランクトンが光合成によって作り出した酸素やタンパク質を栄養として供給することで“色”が保たれている。しかし海水温の上昇などでストレスを受けると褐虫藻がサンゴから離れてしまい、骨格が透けて白く見えるように。こうなると、サンゴが栄養を受け取れなくなってしまい、2〜3週間ほどで死んでしまう。

沖縄気象台の統計によると、2024年の沖縄地方の平均気温は1991〜2020年の平均よりも1度上昇し、統計を取り始めた1946年以降で過去最高を更新しており、同時に沖縄周辺の海面水温も歴代最高を記録。東シナ海南部の平均海面水温は24.80度、先島諸島周辺は27.23度で、統計開始の1901年からの123年間で最高値となっている。

この状況を反映するように、マリンレジャー協会が継続して行っているリーフチェック(サンゴ礁が健全かどうかを調べる調査)でも、24年の海水温について「6月末から急激に上昇し、7月から9月上旬まで30℃を超える高水温が続きました。過去5年の最高値や平年値と比べても、極めて高いことが公表されております。この状況の中、高水温が続いたことで徐々に白化したサンゴが死滅し秋頃から藻が付着し、黒っぽく見えるサンゴが多い状況でした」と指摘されている。

一方、白化現象が見られるのは主に浅瀬部分で、水深の深い箇所では多くのサンゴが生き延びている。恩納村マリンレジャー協会会長の内原靖夫さんは以下のように話す。

「深い水深のサンゴはまだ全然生きている状態なので、ファンダイビングというカテゴリーで言えば、そこでサンゴを見ることもできますので、特に今のところは白化だけを理由に観光的な面に関して大打撃というわけではありません」

恩納村マリンレジャー協会会長の内原さん

恩納村マリンレジャー協会会長の内原さん

サンゴ白化の原因については、上述の通り海水温の上昇が大きな要因の1つであることは間違いない。ただし、気候変動による海水温の上昇の明確な原因については未だ議論が尽くされているとは言い難く、地球規模での環境変化というスケールを考えると、明確な原因はおそらく人智を超えた領域に踏み入らなければ特定できないかもしれない。それゆえに、サンゴや海については目の前で起こっている現象に対峙して、一面的な見方に陥らず、地道な取り組みを続けていくしかない。

恩納村での大規模なサンゴの白化現象は1998年にも起こっており、インタビューしたほとんどの人がその時のことに言及していた。今回(2024年)の白化もかなりの規模ではあるが、これまで保全に尽力してきた人たちは前回のことを知っているからこそ、これから時間をかけてきちんと現状に向き合えば「再び復活する」ということを確信している。

養殖のサンゴが産卵している様子(サンゴ保全協会提供)

養殖のサンゴが産卵している様子(サンゴ保全協会提供)

サンゴ保全への取り組み、これまでとこれから

恩納村は2018年に「サンゴの村宣言」を発表し、村をあげてサンゴ保全はもちろんのこと自然環境への理解と保護を目的として排水規制や赤土の流出防止などを精力的に展開しているが、実はこの宣言に先んじて、約20年に渡ってこのような取り組みはずっと行われてきていた。先述した1998年の大規模なサンゴの白化現象によって漁業への影響が出たことで、恩納村漁業協同組合が保全活動に取り組んだことがその前段となっている。

「前回(1998年)の大きな白化現象があってから、漁業協同組合を中心にダイビング事業者の皆さんや村民の方々、そして応援してくれる企業の方たちも含めて、本当に恩納村を愛する人たちが一緒になってサンゴの再生事業に取り組んできました。それがもう何十年も続いているんです。この積み重ねが恩納村の良いところじゃないかと思いますね」

こう語るのは長浜善巳恩納村長。サンゴを含む自然環境は、村の大きな観光資源でもあるため、今回の白化現象については「これまでも守ってきた財産で、とても素晴らしいものだったのでずっと残しておきたかったんですが、それだけに非常に憂慮すべきことだと受け止めています。今後の対策をどう講じていくかをまさに今考えているんですよ」と危機感を露わにしている。

恩納村長の長浜さん

恩納村長の長浜さん

繰り返しになるが、サンゴの保全と復活には長い時間と地道な活動が不可欠だ。そんな中で恩納村が取り組んでいる「Green Fins」や学校教育での環境学習カリキュラム化も具体例として挙げておきたい。

Green Finsは国連環境計画(UNEP)とイギリスのReef-World財団によるサンゴ礁保全の取り組みのことで「サンゴの上を歩かない」「魚に餌付けをしない」といった、環境に配慮したダイビングやシュノーケリングのガイドライン作成やそれを遵守するダイビングショップの評価・認定を実施している。恩納村ではこの国際ガイドラインを日本で初めて導入し、事業者間でも環境保護に対する意識向上の機運を高めている。
「マリンレジャー協会加盟店を中心に、3年前から始めているんですが、これまでに19店舗を認定しています。まだまだこれからも普及啓発が必要だと考えています」(長浜村長)

さらに、次世代を担う子どもたちへの意識づけとして、これまでに学校教育の中でサンゴの植え付け体験やビーチクリーン、さらに赤土流出防止についても取り組んでいていたが、2024年度からは恩納村教育ビジョンに基づいてサンゴ保全についての講話が村内小中学校の全学でカリキュラム化されている。この講話に講師を派遣し、教育現場と連携して学習機会を提供しているのは前出のサンゴ保全協会だ。
「地域の子どもたちにこのサンゴについて、海の大切さについて教えていくことは非常に大事です。子どもたちに情操教育も含めて意識を持ってもらって、自分たちの未来をどうしていくか考えられるようになればいいなと思っています」(山城さん)

また、海や自然環境への向き合い方という点で言えば、恩納村がリゾート地としての歴史があるということも見逃せないことの1つだろう。

恩納村観光協会事務局長の名城一幸さんは「リゾート地としての経験値と、大型ホテルが横の連携がしっかりあるのが一番の強みですね。何をやるにも各団体の長とホテルのメンバーがパッと集まって一緒に話ができるんです」と話す。
恩納村や漁協、ダイビング事業者などの関連団体に加えて、海を目の前にした立地の村内リゾートホテルも横並びでサンゴの保全と環境保護について同じ方向を見てアクションを起こすことができるのは、名城さんが言うようにかなりのアドバンテージだ。綺麗な海があるからこそリゾート地として成り立つ、という一見すると当然のことを踏まえて、きちんと行動に反映している企業は意外と多くない。

これらの村ぐるみのサンゴに対する意識が具現化したような環境保全イベント「Save The Coralプロジェクト」が3月5日の「サンゴの日」に開かれ、自治体の関係者から漁業者、ダイビング事業者、OISTなどの研究機関、各種企業も含めて250以上の人たちが参加した。出発式では村長や漁協組合長、恩納村マリンレジャー協会会長などの各関係者があいさつを述べ、サンゴ白化の現状への危惧を示しつつ、イベントの一環として行われるビーチクリーンなどの地道な活動の重要性も強調した。関係企業からは、毎年「未来とサンゴプロジェクト」の一環として参加しているソフトバンク株式会社CSR本部の池田昌人本部長より、激励の言葉も述べられた。

2025年3月5日サンゴの日「Save The Coralプロジェクト」出発式にて

2025年3月5日サンゴの日「Save The Coralプロジェクト」出発式にて

その中で、恩納村漁業協同組合代表理事組合長の金城治樹さんは「漁協だけではなく、各方面の方々の協力があってこれまでの保全活動が成り立ってきました。ある程度のサンゴは死んでしまったのですが、生き残っているものもいます。それをしっかりと守りつつ、またいずれ起きるであろう白化現象に備えてさらに強いサンゴをしっかりと保護していくことも重要になってくると思います」と話し、「海はもちろん、陸上の環境全てを良くしていくためにも引き続き協力よろしくお願いします」と呼びかけた。

なにができる?
サンゴを守るために必要なこと

あらためて冒頭で示した「今自分に何ができるのか?」という問いに戻ってみると、ここまでに何度も出てきた「時間をかけて地道にやっていくこと」が唯一の答えだと言っていい。白化の1つの要因が海水温の上昇で、そこからたどって地球規模の気候変動までいくと、個人どころか人類にできることの範疇を超えてしまうので、なかなかピンとこない感覚に陥ってしまう。

サンゴ保全協会の山城さんの回答はシンプルだ。

「自分は何ができるんだろう、ということの答えが思いつかなければ、単刀直入に言えば寄付をすることです。寄付するお金がなければ、労力を提供してもいい。例えばビーチクリーンに参加してごみを拾うことから少しずつ始めていくことが大事です。観光協会が毎月第3金曜日にビーチクリーンをしているので、まずはそちらに行ってみてください」

“海を守る”と言われると、漠然としていてかなり大きなことのようだけれど、少し考えれば日々の生活での当たり前の中に貢献できることも多々ある。
「僕はいつも言ってるんですけど、海の中のごみって全て陸上のごみなんですよね。毎日のように使うコンビニのビニール袋とかペットボトルとか。それを適切に処理をするという心がけが大事」とマリンレジャー協会の内原さん。あまりにも当然のことのようだが、海辺を歩いていれば100%に近い確率でごみを見かける。それが「あまりにも当然のこと」が出来ていない証だ。

ビーチクリーンを5年間続けている観光協会の名城さんは「当たり前のことを地道にやっているだけなので」と言い切る。
「これまでやり続けてきているので、これからもやり続けるんですよ。白化についても、地元の人たちはもう過去にそういうのを経験してるので、自然の取り返しのつかないことに対しては、これからどうしていくかっていう話にしかならないですし。できることを積み重ねて、前を向くしかないでしょう」

まずは寄付をしてみよう

思い立った今すぐにでもできることの1つが、寄付だ。

海からサンゴが消えてしまう日を迎えることのないよう、ソフトバンク株式会社が恩納村や多数の企業とともに進行しているサンゴ保全の取り組み「未来とサンゴプロジェクト」では、スマホがあれば誰でもできる「つながる募金」を実施しており、寄付金はサンゴの保全活動に使用される。
プロジェクトでは寄付による応援のほかにも、サンゴの植え付けやビーチクリーン活動への参加なども行っている。

2025年3月5日のビーチクリーンには約280名が参加した

2025年3月5日のビーチクリーンには約280名が参加した

前年まで行われていたサンゴの植え付けの様子(恩納村マリンレジャー協会提供)

前年まで行われていたサンゴの植え付けの様子(恩納村マリンレジャー協会提供)

恩納村のサンゴ白化は恩納村や沖縄県だけの話でもなく、ましてや日本だけに限らない世界中の自然とつながることだ。そんな壮大な規模の話ではあるが、ここまで述べてきたような実情を一つひとつ考えてみて、ほんの少しだけでも“自分ごと”として引きつけるヒントをどこかで見つけてほしいし、感じてもらいたい。
そして、小さいけれども確かな力が束になれば、確実に大きなサポートにつながる。長期的な取り組みが必要なサンゴ保全には、その力が欠かせない。サンゴと自然環境の未来をサポートするための具体的なアクションとしての寄付を検討してもらえると幸いだ。

「つながる募金」のやり方

ソフトバンク株式会社が提供するプラットフォーム「つながる募金」への寄付はとても簡単。ソフトバンクを利用中の方は、携帯料金と一緒やポイントを利用して寄付することが可能。そうでない方もクレジットカードで、期間と金額を選んで100円から寄付ができる。

「つながる募金」トップページより

「つながる募金」トップページより

Sponsored by 「未来とサンゴプロジェクト」
近年、気候変動の影響による温暖化や海洋プラスチックごみの増加による環境破壊などさまざまな問題が生じ、海洋環境は日々悪化しています。その一つとしてサンゴの死滅があります。サンゴは海に住む生き物たちのすみかになるなど多くの恵みを与えており、サンゴ礁の消滅は生態系に悪影響を及ぼします。この現状に対して、温暖化対策や生態系維持などの環境保全に取り組むため、サンゴの植え付け面積世界一を誇る沖縄県・恩納村や、ソフトバンク株式会社をはじめ多数の企業・団体が共に、「未来とサンゴプロジェクト」を立ち上げ、美しい地球の未来を守り、次世代に受け継いでいくための活動に取り組んでいます。

取材協力(50音順):恩納村一般社団法人恩納村観光協会一般社団法人恩納村マリンレジャー協会一般社団法人サンゴ保全協会

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PROFILE
1985年生まれ、那覇市出身。元新聞記者、その前はバンドマン(ドラマー)。映画、音楽、文学、それらをひっくるめたアート、さらにそれらをひっくるめた文化を敬い畏れ、そして愛す。あらゆる分野のクリエイティブな人たちの活動や言葉を発信し、つながりを生み、沖縄の未来に貢献したい、と目論む。
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